4 トラック輸送と鉄道輸送


  40年代における輸送機関別輸送トンキロの分担率の推移をみると,国鉄の分担率が半分以下に減少し,自動車と内航海運の分担率が拡大している 〔1−3−19図〕。50年度における自動車のトンキロ分担率は36.0%(営業用19.2%,自家用16.8%),トン数分担率は87.3%(営業用24.9%,自家用62.4%)であり,国内貨物輸送に重要な役割を果していることがわかる。このように40年代において,トラックは我が国の国内輸送体系において重要度を高めたが,他方,鉄道は50年度の国内総貨物輸送量が40年度の倍になっているにもかかわらず,その50年度の輸送量は対40年度比トン数73.0%,トンキロ82.6%と減少し,その分担率は激減した。国鉄は40年度にはトンキロで30.3%の分担率を占めていたが,50年度は12.9%を占めているにすぎない。
  距離帯別輸送機関別輸送トン数の分担率の推移をみると,トラック輸送は次第に長距離に進出し,40年度と50年度を比較すると全輸送機関中でトラックの分担率が50%を占める分岐点は150キロメートルから250キロメートルへと移動している 〔2−3−38図〕。なお,国鉄とトラックに限っての距離帯別輸送トン数分担率をみると 〔2−3−39表〕のとおりであり,あらゆる距離帯で営業用トラックは国鉄を上回っており,また,自家用トラックは100キロメートル以下の距離帯では大きなシェアを占めている。また,主要品目について国鉄とトラックの輸送トンキロの推移を比較したのが〔2-3-40表〕である。この10年間にトラックは石炭を除いていずれも輸送量が大幅に増加している。一方,国鉄は石炭,木材及び水産品が7〜8割減少しているのを始めとして大部分の品目が減少しており,増加しているのは,石油製品等の3品目だけであり,その伸び率も相対的に低い。

  内航海運の伸長と鉄道の衰退については,第1部第3章でふれたところであるので,ことでは主としてトラック輸送の成長に焦点をあて,あわせて鉄道輸送の今後の方向について考察してみる。なお,自家用トラックについては,前にみたとおり,その用途をみても輸送以外の特殊な要因があり,また,輸送上の使われ方も建設業,鉱業等特殊な産業分野にかたよっているので,以下主として営業用トラックについてみていくこととする。
  トラックは,当初鉄道等の末端輸送と地域内の面的輸送に使用されていたが,逐次中長距離輸送の分野に進出し,30年代の経済の高度成長期の輸送需要の急速な増大に対応して輸送量を伸長し,国内貨物輸送の有力な輸送機関に成長した。40年代においても他の輸送機関との競争の激化,道路混雑の激化による運行効率の低下,労働者不足の深刻化による人件費の上昇,自家用トラックの普及等の厳しい条件に見舞われたが,これを克服して国内輸送体系上一層重要な位置を占めるようになっている。このようなトラック輸送の成長の背景及び要因についてみると次のとおりである。
  まず,輸送需要の質的高度化,多様化があげられる。我が国経済の高度成長は,産業構造の変化をもたらし,運賃負担力の比較的大きく,ロットの小さい金属機械工業品,軽・雑工業品等の二次産品の輸送需要が増大したが,トラック輸送はその機動性,迅速性,正確性等の特性を買われて,これらの輸送分野で急速に輸送量を伸長した。一方,産業界は,30年代の高度成長期の激しい競争の過程で生産コストの合理化を押し進めた結果コスト引き下げの隘路となってきた流通コストの低減に30年代末頃から関心を向けるようになったが,物流面では,運賃だけでなく荷役包装等のコストを含めた総輸送コストを把握し,その合理化に努める過程でトラックのドア・ツウ・ドアの輸送による中間荷役の省略,軽包装等の特性が評価され,また,生産過程や流通過程における原材料や製品の在庫の極小化を追求する過程でトラック輸送の迅速性,正確性等のもたらす効果が認識された。さらに市場を通じて取引きされる青果物等の出荷,ファッション性の強い衣料品等の輸送にもこのようなトラック輸送の特性が威力を発揮している。
  次は,道路等の整備である。前述したように我が国の道路は急速に整備されてきたが,特に40年7月,我が国で初めての高速自動車道路として名神高速道路が開通し,本格的な高速道路時代が始まった。50年12月末現在,供用されている高速自動車国道の総延長は1,856キロメートルに達している。また,43年8月小倉・神戸間に「海上バイパス」として長距離フェリーが就航して以来,我が国では急速に長距離フェリー航路(航路距離300キロメートル以上のバイパス的フェリー航路をいう。)が発達し,現在では休止中の2航路を除き24航路が全国的ネットワークを形成している。長距離フェリーによる自動車航送量の推移は 〔2−3−41図〕のとおりである。なかでも運転手を乗せない無人車航送が急速に普及している。長距離フェリー輸送の国内総貨物輸送量に占める分担率はそう大きいとはいえないが,京浜-北海道,阪神-北九州のような特定の地域間の雑貨輸送においては大きな分担率を有している。このような高速道路等の整備と長距離フェリー航路の発達は,トラック輸送の長距離化と合理化に貢献するとともに,トラック輸送に車両の大型化,荷傷みの減少等の有利な条件を付加している。

  さらに,30年代後半から幹線長距離輸送と末端集配輸送の結節点としてトラックの総合発着施設であるトラックターミナルの建設が始まり,41年の「流通業務市街地の整備に関する法律」施行と相まって,急速にトラックターミナルの整備が進められた。50年12月末現在,全国で1,901のトラックターミナルが整備され,トラック輸送網の基地群を形成している 〔2−3−42表〕

  第三には,様々な大きさのロットの輸送需要に幅広く適合することを可能にした,小は0.2トンから大は12トン積みの各種積載量の貨物車及び各種専用車,特殊車を開発した自動車生産技術の対応も自動車輸送の発展の大きな要因の一つとして見逃せない。
  第四は,トラック事業者の意欲的な対応である。最近においても石油危機以降,企業は低成長経済への移行に対応して,不採算部門の切捨て,人員削減,借入金の圧縮等かなり徹底した企業内総点検を行い,その物流システムについても交錯輸送の廃止,情報オンラインによる出荷の合理化等を図っているほか,その物流工程についても一層の合理化を志向している。これに対して,トラック事業者サイドにおいても,交通環境悪化等による輸送コストの上昇で低下した収益をカバーするためもあって,包装,流通加工,保管,在庫管理や納品業務の代行等を一貫して行う「総合物流事業者」を志向する動きをますます強めており,企業側の動きに対応しつつある。このように物流全般にわたって荷主の意向を組み入れ,場合によってはこれと有機的に結合して,きめ細かいサービスの提供を行うのもトラック事業者の特徴である。
  最後は,協同一貫輸送の進展である。自動車は鉄道等と競争するだけでなく,これと結合し,鉄道及び船舶の大量輸送性と自動車のもつ機動性を組み合せ,輸送におけるエネルギーと労働力を節約し,道路交通の持つ交通渋滞等のマイナス面を回避してドア・ツウ・ドアの効率的な輸送を行うことにも積極的に参加している。現在,我が国で行われているこの方式の主なものとしては,国鉄コンテナ輸送と既に述べた長距離フェリー輸送がある。
  国鉄コンテナ輸送は44年のフレートライナーの運行開始,46年の私有10トンコンテナ制度の開始等により,48年度まで急速に伸びてきたが,49及び50の両年度は不況による貨物量の減少とストの影響等により減少している 〔2−3−43図〕

  30年代後半から40年代中期にかけて全国的な路線網を確立した路線トラックは,44年のフレートライナーの運行開始とともに国鉄コンテナ輸送の利用を開始し,労働力の節減とコストの引下げを図ってきた。その結果,路線事業者のフレートライナーによる輸送量は,48年度まで急速に増加してきたが,49年度は微増,50年度は減少に転じている。50年度における路線事業者の利用輸送量は244万トンでフレートライナー輸送量の37.3%を占めている。
  次に,鉄道貨物輸送の衰退の原因についてみてみると,前にも述べたように,石炭から石油へのエネルギーの転換,資源の海外依存度の増大等により大宗貨物だった石炭等の鉱産品,木材等の一次産品の減少,コンビナートを中心とする産業立地の変化による輸送距離の短距離化,我が国の産業構造の変化による二次産品の輸送需要の増大等そもそも鉄道にとってその特性を発揮しにくい方向に経済構造が変化したことが大きく影響している。また,国鉄貨物輸送が,輸送構造の変化に対して輸送体制近代化の立ち遅れ,設備改善の整合性の欠如等によりこれに十分対応し得なかった点及び相次ぐ争議行為が輸送の安定かつ効率的な提供を妨げ,荷主の信頼を低下させた点などが指摘される。しかし第1部第3章でみたように太平洋ベルト地帯への産業と人口の集中により,これら地域を中心とする貨物輸送量が全地域間輸送量の8割近くを占めている現実と前述したようなトラック輸送の成長の背景及び要因を考え合せると,いずれにせよ鉄道のシェアの低下は必然的な方向であったと考える。
  鉄道の地盤沈下は,西欧諸国においても等しく起っている現象であり,これに対しては鉄道の特性を発揮させる方向で特化を図る施策がとられる一方,国によっては鉄道貨物輸送をトラック輸送との競争から保護するためにトラック輸送を直接間接に規制する政策がとられたこともあるが,こうした施策は結局必ずしも成功したとはいえない状況にある。
  しかしながら,鉄道は,本来的にはたしかに中長距離・大量輸送の分野では省力性の面ですぐれた経済性を有している。また,鉄道輸送は通常末端輸送を伴うのでこれを含めて考えるべきではあろうが,オンレール部分のみについてみてみると 〔2−3−44図〕のとおりそのエネルギー効率は他の輸送機関に比較してすぐれている。現に輸送量は減少しているとはいえ 〔2−3−40表〕にみたとおり,50年度においても鉄道は穀物,化学肥料,紙パルプ,化学薬品,セメント等のように定型的大量輸送の分野では陸上貨物輸送においてトラックを上回っているものもあり,石油製品も同様に陸上貨物輸送量の半分近くを占めている。また,臨海鉄道及び物資別ターミナルの取扱量は全体の14.4%であるが,第1部第3章でみたとおり最近の不況下にあっても横ばいである。したがって,国鉄は今後とも物資別輸送,フレートライナー輸送等主として直行型輸送システムで対応できる分野について特化,近代化することにより,鉄道の諸特性を十分発揮できる方向で対応していくべきであろう。なお,この場合,鉄道貨物輸送は物流システムの一部を形成するもので,それ自体で完結するものではないから,他の物流諸機関,諸機能と有機的に結合し,物流システム全体の効率化に資するものであることが必要である。


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