2 消費構造の変化と旅客輸送需要の動向
国民総支出における最終需要項目別にみた誘発国内旅客輸送量の推移は, 〔2−1−29図〕のとおりであるが,いずれの年度においても実質個人消費により誘発された輸送量が全体の8割近くを占めており,旅客輸送活動は,実質個人消費の動きと深い関係を持つことを示している。
既に述べたとおり,我が国経済の高度成長期には,国民所得の増大による負担力の増加を背景に,国内旅客輸送量は 〔2−1−23図〕のとおり,人員においても,人キロにおいても実質個人消費支出の伸びと緊密な相関関係を保ちながらその量的な拡大を遂げてきた。
しかしながら,こうした動きも46年度頃より変化がみられるようになった。
すなわち,所得増加と行動様式の変化が自家用乗用車保有量の増大となってあらわれ,自家用乗用車による輸送量の国内旅客輸送量に占める割合も,既に45年度において人キロで27.6%を占め,旅客輸送量の動きに大きく影響を与えるに至っているが,方では,保有台数の増加につれて自家用乗用車の使用の個人化が進み,個々の車の使われ方が少なくなり, 〔2−1−25図〕のとおり,46年度頃から自家用乗用車による輸送量の伸びが大きく鈍化している。主としてこの影響を受けて,国内旅客輸送量は,45年度において万国博覧会の開催による旅客増により輸送量が大きく伸びたあと,46年度頃よりその伸びが鈍化する傾向がみえてきた。
さらに,48年秋の石油ショックの後遺症と安定成長時代への移行は,家計にも大きな影響を及ぼしている。すなわち,高度成長下でめざましい向上を示していた実質個人消費支出(家計調査ベース)も 〔2−1−30表〕のとおり,41年から48年までは,年平均4.8%の伸び率で順調に伸びてきたのに対し,ここ3年間にわたる景気後退による実質所得の伸び悩みを反映して,48年から51年までは,年平均伸び率0.8%と著しく伸び悩み,消費行動にも変化が表われ節約ムードが衣食住ほとんどの分野で定着した。こうした状況の下で,交通通信,自動車等関係費の分野でも,41年度から48年度までの年平均伸び率は7.8%,20.3%であったが,ここ3年間についてはそれぞれ3.2%,2.9%に低下している。
このような国民の消費構造の変化に加え,49年度から51年度にかけて各輸送分野において実施された運賃改定による新価格水準への移行による旅行の手びかえ等の影響もあって,国内旅客輸送量は人員で41年度から48年度までの年平均伸び率4.8%から,48年度から51年度までの1.6%へ,人キロでみても 〔2−1−24表〕のとおり,それぞれ7.6%から1.7%へとその伸び率を鈍化させ,特に,51年度においては人キロで戦後,統計が整備されて以来はじめて対前年度比で減少(マイナス0.2%)をみている。
しかしながら,個人消費における節約ムードの定着といっても最近の節約ムードは高度成長期を通じて蓄積されてきだ"ものの豊かさ"を背景としたものである。すでに,我が国1人当たり国民所得は4,000ドルを越える水準に達し(51年度実績見込み),ものの面,特に,前節でみたとおり,耐久消費財の普及率は高水準にある。このため節約の中心はもの,なかでも耐久消費財支出に向けられ, 〔2−1−30表〕のとおり,交通通信,教養娯楽などのサービス支出は,個人消費が全体的に停滞する中で,その伸びを鈍化させつつも,いまだ実質実収入の伸びを上回っている。
さらに,こうした豊かさを背景に,一般的な節約ムードの中でも個性的な消費財への需要は相対的に堅調であり,個性化,ファッション化,本物志向,手づくり志向,食生活における洋風化の進展や便利さを買うなど,生活の高度化をめざした多様な動きがみられ,消費全体が伸び悩んだ中にあって対照的な動きを示している。
このような動きは,過去において高い経済成長をもたらし,これを支えた第二次産業を中心とした社会構造が,近時,脱工業化,情報化あるいは,サービス経済化社会といったものに質的に変化してきたこと,及び所得水準の上昇,労働時間の減少による余暇の増大等を背景として,国民の生活に対する欲求や選好も,より高度なものを志向する方向に変化していることを示している。こうした傾向は,経済が安定成長に移行しても前述のとおり国民所得が既に高い水準に達しており,物質的には一応の豊かさを得た段階においては,今後引き続き高まっていくものと思われる。
国民生活の高度化志向とは,@単純さから多様さへ,A量の重視から質の重視へ,B物質面の充実から精神面の充実へ,C必需的消費から選択的消費へ,D実用から高級化へ,等の志向をその内容とするものと考えられるが,このような国民意識の変化を背景に,輸送の分野においても,輸送機関に対する質の観点からのより高い輸送サービスヘの要請を強めてくるものと考えられる。
ちなみに,ここ3か年間の景気後退期においても, 〔2−1−24表〕のとおり,国内旅客輸送量の伸びが鈍化する中で,高速性,機動性,快適性の面で優れた自家用乗用車及び航空は,人キロで年平均伸び率それぞれ6.4%,7.9%と相対的に高い伸びを示し,新幹線も51年度において長期にわたった雪害や運賃改定による他の輸送機関との競争激化等により,対前年度比で減少をみたものの,この間の年平均伸び率は7.3%と比較的高い水準を維持している。
ここで,国内旅客輸送量の伸び率に対する各輸送機関の輸送量の伸び率の割合の推移をみると, 〔2−1−31図〕のとおり,41〜48年度の間は最も高い航空が3.66,最も低い営業用バスが0.07となっている。これに対し,48〜51年度の間は,最高で航空の4.54,低い方ではマイナスとなるものが出,最も低い自家用バスでマイナス3.92となっており,41〜48年度の間に比し,各輸送機関の振幅の幅が著しく拡大してきている。
今後,経済の安定成長下,個人の消費構造の変化等により,トータルとしての国内旅客輸送需要の伸びが鈍化し,その量的な拡大に多くを見込めない中で,49年度以降の一連の運賃改定による新価格水準への移行の過程においてみられたごとく,各輸送機関間の流動性が一層高まり,交通市場は一段と競争的なものとなると思われる。
こうした状況下で,今後の輸送側の課題は,輸送容量の拡充の面もさることながら,生活の質的向上を重視する国民意識の変化を踏まえ,輸送構造の変化にきめ細かに対応し,鉄道の大量性,自動車の機動性,航空の高速性等各輸送機関の本来的特性を十分に発揮させる質の面での向上に重点を置くとともに,安全性,低公害性,省エネルギー性等の社会的要請を配慮して,こうした面からの技術面での改良を図り,各輸送機関の有機的な連携を図ることにより,効率的な交通体系を形成することにあると考える。
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