(2) 四半期別にみた旅客輸送の動向


ア 国内旅客輸送

  昭和53年度の実質個人消費支出(速報値)の伸びは,前年度比で5.5%増となり,国民総支出の伸びと同水準の堅調な動きを示した。これは,景気の拡大を反映して,消費意欲が高まったことによるが,いま,消費の動向を家計調査による53年中の全世帯(勤労者世帯と一般世帯との合計)浦賀支出(名目)でみると,前年比5.9%増となっている。消費支出の中では,サービス関係への支出が近年増加する傾向にあるが,そのうち交通通信費(名目)は,同8.9%増と消費支出全体の伸びを上回り,消費者物価指数でデフレートした実質値でも4.5%増となった。この結果,交通通信費は構成比で対前年0.1ポイント上昇して3.9%となった。これには,近年急激な増加を示している海外旅行に伴う支出の増加もあると思われるが,個人消費支出及び交通通信費の支出の堅調な伸びを反映して,53年度の国内旅客輸送量は,輸送人キロで前年度比5.1%増と石油危機後では最高の伸びとなった。
  国内旅客輸送量の季節的動向は,一般に7〜9月期にピークとなり,1〜3月期にボトムとなるが,こうした季節的変動を除去した季節調整後の数値(人キロ)で各輸送機関の四半期別の動向をみていくことにする 〔1−1−6表〕, 〔1−1−9図〕
  まず,53年4〜6月期には,国鉄が,定期旅客,定期外旅客ともに微減となったため前年同期比で0.4%減となった。また,乗合バスが前年同期比で微減となり,その他の輸送機関では輸送量が増加し,なかでも,乗用車及び航空がことに好調であった。7〜9月期には,全輸送機関が前年水準を上回ったが,国鉄も,定期旅客の増加が定期外旅客の減少を埋め合わせ,7月の運賃改定にもかかわらず全体では前年同期に比し微増に転じた。10月には国鉄の料金改定が実施され,10〜12月期の国鉄定期外旅客は前年同期比9.1%減,前期比でみても6.2%減となった。このため,定期旅客が前年同期に比し微増となったにもかかわらず,国鉄全体では前年同期比5.3%減,前期比でも3.1%減となった。一方,その他の輸送機関は横ばいに推移したため,国内旅客輸送量の伸びは,前期比で減少になった。54年1〜3月期には,国鉄の旅客輸送量の減少が引き続き,前年同期比で2.6%減となった。国鉄以外では自家用バスも,前年同期比で減少を示したが,これは前年同期が特に好調であったためと考えられ,その他の輸送機関は,前年同期比,前期比とも増加を示し順調な伸びをみせた。
  ところで,53年度の国内旅客輸送量の対前年同期増加率に対する寄与度の最も大きいのは乗用車であり,その伸びの95%以上は自家用乗用車によるものであるが,53年度後半になり,景気の拡大が着実なものになってくるとともに自家用乗用車の輸送量の伸びが,国内旅客輸送量全体の拡大をリードしたといえよう。また,航空は年々輸送量を伸長させてきているが,増便や新路線の開設があり53年度も順調な拡大を続け,前年同期比では年度後半になるほどその伸びを高めたことが顕著な動きであった。

イ 国際旅客輸送

  近年所得水準の上昇や円レートの上昇に伴う海外旅行の割安感から, 〔1−1−9図〕のとおり,日本人海外旅行者数は増加傾向にあり,一方で入国外客数は石油危機の影響を受けた落込みから回復を示した50年度以降,毎年度10%程度の伸びを示してきた。しかし,53年度には両者はともに円相場の激しい変動の影響を受け,日本人海外旅行者数は前年度比14.9%増と伸びを高める一方,入国外客数はほぼ横ばいにとどまった。

  53年度における円レートの変動をインターバンク中心相場で振り返ってみると,52年以降急騰を続けた円レートは,53年1月には1ドル=241円40銭であったが,以後も我が国の国際収支の黒字を反映して高騰を続け,7月には200円の大台を割り込み,10月には176円となり,いままでの最高値を記録した。それに対し,11月1日,アメリカのドル防衛策の強化措置が発表されたため,以後円相場は円安の方向に向かった。いま,日本人海外旅行者数と入国外客数の動向をみると, 〔1−1−10図〕のとおり,ほぼ円相場のすう勢と軌を一にした変動を示した。

  ここで,入国外客の我が国の物価に対する意識調査の結果をみると 〔1−1−11図〕のとおり,50年の調査時と比較して53年は「非常に高い」及び「高い」と感じる者の割合が高まり,53年中には,その中でも「非常に高い」とする者の割合が次第に増加した。こうした入国外客にとっての日本の価格印象は入国外客数の減少をもたらし,入国外客数はドルが200円割れを示した7〜9月期に,50年度以降ではじめて前年水準を下回り,続く10〜12月期には一層のドルの下落を反映し,前年同期比で4.0%の減少となった。その後,円安に向かった54年1〜3月期になってようやく前年水準にまで回復した。

  一方,出国日本人数はこれまでも順調な拡大を続けてきたが,4〜6月期からは増加率を加速させ,10〜12月期に至るまで前期比で4〜5%の伸びを続け'10〜12月期には前年同期を17.7%も上回る水準を記録した。54年に入っても依然高い水準の伸びを続けているが,その伸び率は53年度中に比べて鈍化している。


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