(2) 四半期別にみた旅客輸送の動向
昭和53年度の実質個人消費支出(速報値)の伸びは,前年度比で5.5%増となり,国民総支出の伸びと同水準の堅調な動きを示した。これは,景気の拡大を反映して,消費意欲が高まったことによるが,いま,消費の動向を家計調査による53年中の全世帯(勤労者世帯と一般世帯との合計)浦賀支出(名目)でみると,前年比5.9%増となっている。消費支出の中では,サービス関係への支出が近年増加する傾向にあるが,そのうち交通通信費(名目)は,同8.9%増と消費支出全体の伸びを上回り,消費者物価指数でデフレートした実質値でも4.5%増となった。この結果,交通通信費は構成比で対前年0.1ポイント上昇して3.9%となった。これには,近年急激な増加を示している海外旅行に伴う支出の増加もあると思われるが,個人消費支出及び交通通信費の支出の堅調な伸びを反映して,53年度の国内旅客輸送量は,輸送人キロで前年度比5.1%増と石油危機後では最高の伸びとなった。
近年所得水準の上昇や円レートの上昇に伴う海外旅行の割安感から, 〔1−1−9図〕のとおり,日本人海外旅行者数は増加傾向にあり,一方で入国外客数は石油危機の影響を受けた落込みから回復を示した50年度以降,毎年度10%程度の伸びを示してきた。しかし,53年度には両者はともに円相場の激しい変動の影響を受け,日本人海外旅行者数は前年度比14.9%増と伸びを高める一方,入国外客数はほぼ横ばいにとどまった。
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53年度における円レートの変動をインターバンク中心相場で振り返ってみると,52年以降急騰を続けた円レートは,53年1月には1ドル=241円40銭であったが,以後も我が国の国際収支の黒字を反映して高騰を続け,7月には200円の大台を割り込み,10月には176円となり,いままでの最高値を記録した。それに対し,11月1日,アメリカのドル防衛策の強化措置が発表されたため,以後円相場は円安の方向に向かった。いま,日本人海外旅行者数と入国外客数の動向をみると, 〔1−1−10図〕のとおり,ほぼ円相場のすう勢と軌を一にした変動を示した。
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ここで,入国外客の我が国の物価に対する意識調査の結果をみると 〔1−1−11図〕のとおり,50年の調査時と比較して53年は「非常に高い」及び「高い」と感じる者の割合が高まり,53年中には,その中でも「非常に高い」とする者の割合が次第に増加した。こうした入国外客にとっての日本の価格印象は入国外客数の減少をもたらし,入国外客数はドルが200円割れを示した7〜9月期に,50年度以降ではじめて前年水準を下回り,続く10〜12月期には一層のドルの下落を反映し,前年同期比で4.0%の減少となった。その後,円安に向かった54年1〜3月期になってようやく前年水準にまで回復した。
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一方,出国日本人数はこれまでも順調な拡大を続けてきたが,4〜6月期からは増加率を加速させ,10〜12月期に至るまで前期比で4〜5%の伸びを続け'10〜12月期には前年同期を17.7%も上回る水準を記録した。54年に入っても依然高い水準の伸びを続けているが,その伸び率は53年度中に比べて鈍化している。
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