2 運輸事業の経営動向


  近年における四半期ごとの売上高の対前年同期増加率の推移を法人企業統計によりみると,運輸・通信業は,従来,製造業,全産業に比べて6〜9か月遅行してピークを迎えていたが,53年度にはいってからは,そのタイムラグがなくなり,ほぼ同時期にピークを迎えている 〔1−5−2図〕

  次に収益率をみるため売上高に占める営業利益の割合(売上高営業利益率)の四半期ごとの推移を法人企業統計によりみてみる 〔1−5−3図〕。全産業及び製造業では,特に季節的な動きを示していないが,運輸業では季節的な動きを示すものがある。陸運では,第2四半期の営業利益率が高くなっており,水運及び旅館業では第3四半期の利益率が低下する特徴がある。また,船舶製造業では利益率が53年第2・3・4四半期とマイナスに落ち込んだ。

  運輸事業の業種別の経常収支率の推移 〔1−5−4図〕を石油危機後についてみると,概ね上方にシフトしており,経常収支率も改善の方向にあるといえるが,依然として経常収支率100%を割る業種も少なくない。

  53年度の運輸事業事業別損益状況は 〔1−5−5表〕のとおりである。まず国鉄は,53年7月,10月,54年1月に実施された運賃・料金改定による増収があったものの,額においてこれを上回る営業費用の増加分があり,前年度に比べてその赤字幅を増大させた(52年度は51年度に比べ赤字幅を減少させた)。しかし,収入及び経費の増加率は 〔1−5−22図〕にあるとおり,3年連続して収入の方が上回っており,45年度以来50年度まで一貫して経費増加率が収入増加率を上回っていたことと対照的である。

  大手民鉄14社は,52年度に営業損益段階で13社が黒字を計上し,経常損益段階では4社のみが黒字を計上できるにとどまっていた。53年度営業利益では,ほぼ横ばいに推移したもののこのままでは54年度には,多額の収入不足が生ずるものと予想されるに至り,54年1月(13社)及び3月(1社)に運賃が改定された。
  大都市周辺の中小民鉄では,運賃改定が寄与して営業収入が前年度比11.2%増加し,経常損益においては,前年度の赤字額を上回る利益があった。公営鉄道は,運賃改定により営業収入の増加率が営業費用の増加率を大きく上回ったため,営業損益は赤字とはいうものの,その幅を縮小させた。交通営団は,営業費が前年度比25.1%増であったのに対し,営業収入も52年度の運賃改定の平年度化により前年度比20.6%増となり,経常損益を2年連続して黒字にした。
  乗合バスについては,公営,民営とも赤字基調には変わりはないものの,公営バスでは営業費用が1.6%増であるのに対して営業収入が6.5%増と大きく上回った。ハイヤー・タクシーは経常損益で前年を若干上回る黒字を出した。路線トラックは,営業損益では黒字幅の拡大,営業外損益では赤字幅の縮小となり,経常損益では黒字に転じた。区域トラックは営業損益経常損益とも前年度よりその黒字幅を拡大した。通運はその幅を縮小させたものの依然として赤字である。
  外航海運は,営業収入,営業費用とも対前年度14〜15%減となり営業規模を縮小させた。また,前年度に比べ営業損益は黒字幅を拡大,経常損益は,赤字幅を減少させ,経営改善の方向に推移したといえる。内航海運は営業収入,営業費用とも4%台で増加しており,損益も横ばいに推移した。
  長距離フェリーは,営業費用が減少し営業収入が増加するという極めて良好なパーフォーマンスであったため,営業損益の黒字を約3倍に増加させるとともに,経常損益も黒字に転じた。
  造船業は,営業費用の減少率より営業収入の減少率のほうが大きく,営業損益では前年度の黒字から赤字へと転じた。また,経常損益においても黒字から赤字に転じている。
  倉庫業は概ね横ばいに推移しており,前年度に比べあまり大きな変化はなかった。
  航空運送は,営業収入,営業費用とも10%を上回る増加率を示し,その率もほぼ同程度であったため,営業損益もその黒字幅はほぼ前年度なみであった。
  次に53年度の運輸事業の事業別の営業費用の構成内容をみてみる 〔1−5−6図〕。運輸事業は,一般的に労働集約性が強く経費に占める人件費の割合が高い。なかでも乗合バス,ハイヤー・タクシー事業が高い。動力・燃料費の割合も近年高くなりつつあり,なかでも航空運送事業,長距離フェリー業が高い。その他,交通営団,公営鉄道といった鉄道業における減価償却費の高いことが特徴である。


表紙へ戻る 次へ進む