1 経営の現状と問題点


(1) 再建対策の経緯と経営の現状

  国鉄は,昭和39年度に赤字に転じて以来,その経営状況は年表悪化の度合を強めている 〔1−5−20図〕, 〔1−5−21図〕

  政府においては,44年度に最初の再建対策を策定して以来,48年度及び51年度(52年度に一部修正)と3度にわたって再建対策を策定し,種々の施策を講じてきたが,いずれの再建対策も目標を達成できない結果となった。
  このように過去における再建対策がいずれも失敗に終った原因は種々考えられるが,その中でも,収入の基本である運賃に関し,経営主体である国鉄の自主的判断により適時適切に運賃改定を行い得なかったことが 〔1−5−22図〕大きな要因であるとの認識の下に,52年2月,第80回国会に国鉄運賃の法定制緩和,国鉄の投資対象事業の拡大等を内容とする「国有鉄道運賃法及び日本国有鉄道法の一部を改正する法律案」を提出し,同年12月(第83回国会)にその成立をみた。

  しかしながら,このように国鉄の自主的な経営を行うための体制整備が図られたにもかかわらず,51年度においては,9,141億円の赤字を生じ,また52年度においても巨額の赤字が見込まれたため,政府は,国鉄をめぐる著しい環境の変化と運賃決定方式の弾力化という新しい条件を踏まえて,52年12月29日に旧本国有鉄道の再建の基本方針」を閣議了解し,今後の国鉄再建についての基本的な方向付けを行った。
  この閣議了解は,内容的には,今後の国鉄再建に当っての利用者と国鉄及び国の三者の役割と責任がより明確にされたものとなっている。すなわち,利用者負担である運賃改定については,適時適切に実施することとし,これにより少くとも国鉄の経費の増加分を吸収し収支の悪化を防止するとともに,赤字体質の解消は国鉄自身の徹底した経営改善とこれを補完する国の行財政上の支援によって達成していくこととなっており,これらの施策を柱として,50年代中に健全経営を回復することを目標としている。

(2) 国鉄経営の問題点

 ア 地方交通線

      国鉄の損益状況を,幹線系線区と地方交通線に分けてみると 〔1−5−23図〕のとおり,幹線系線区は国鉄全体の赤字額の約68%,6,067億円の赤字であり,地方交通線は同じく約28%,2,527億円(助成後)の赤字となっている。

      このような地方交通線は,その営業キロは国鉄の営業キロ全体(約2万2千キロ)の約40%を占めるにもかかわらず,その輸送量は国鉄全体の旅客で約5%,貨物で約2%にとどまり,上記のような大幅な赤字が生じている。
      この原因は,産業構造の変革,過疎現象やモータリゼーションの進展等により,その輸送量が著しく減少したことにあり,41年度の輸送量を100とした指数で地方交通線の輸送量を見ると,幹線系線区は,旅客は52年度117,53年度115,貨物は52年度,53年度とも76であるのに対し,地方交通線は,旅客は52年度71,53年度67,貨物は52年度,53年度とも32であり,その輸送量の減少が著しいことがわかる。

 イ 貨物

      国鉄の貨物輸送は,45年度の624億トンキロをピークとしてその後減少を続け,53年度には,404億トンキロまで落ち込んでいるが,このような輸送量の減少に対応した輸送力の調整が十分に進められなかったため,輸送量と輸送力との間に大幅な乖離を生ずるに至っている。
      52年度における貨物部門の赤字は,全体で,5,789億円であり,前年度に比較して281億円赤字額が増大した。国鉄全体の赤字に占めるその割合も約70%に及んでいる。
      このような事態を踏まえ,国鉄では,「経営改善計画」等に基づき,鉄道特性を発揮し得る大量定型輸送の分野を中心として輸送体系の再編成を行うことを目途に列車キロの削減,貨車・機関車の縮減,駅・ヤードの集約・統廃合を進めてきているが,53年10月には大幅なダイヤ改正を行い,貨物の1日当り列車キロを約6万5,000キロ減の47万キロに削減し,要員を約7,000人合理化するなどの措置がとられた。また,55年10月には,更に大幅なダイヤ改正を行い,貨物の1日当りの列車キロを8万キロ削減すること,48の貨物ヤードの再編を行うこと等の合理化を計画している。

 ウ 人件費の増大

      国鉄の人件費は毎年増大しているが,その状況を一般勘定の損益計算書についてみると,45年を100とした指数で,営業収入(助成金受入れを除く。)は53年が205であるのに対し,営業経費は267,そのうちの人件費は289と営業収入の伸びを大きく上回っていることがわかる。
      このように人件費が増大したのは 〔1−5−16図〕のとおり,国鉄の職員の年齢構成がキノコ型になっていることから,年功序列的な給与体系とあいまって1人当りの人件費が増大したこと及び近年における退職者の急増により退職金及び共済負担金が急増したことが主な理由である。ちなみに,45年を100とした指数でみると,53年は,賞与を含む給与額は253であるのに対し,退職手当を含む諸手当は483,共済組合負担金は440となっている。
      一方,このような年齢構成のため,今後10年間に約20万人もの大量の退職者が生ずるものと予想され,更に退職金の支払い及び共済組合負担金の負担が増大するものと見込まれることから,国鉄財政の健全化にとって大きな問題となっている。
      特に,国鉄共済年金は,現在既にその成熟度(年金受給者数×100/組合員数)が60を超えており 〔1−5−24図〕,近い将来において年金受給者数が組合員数を上回る事態も予想されている。このため,運輸省においても,国鉄共済年金の財政上及び制度上の諸問題について,他の公共企業体共済組合との関連を考慮しつつ国鉄共済年金財政の健全化を図るため,53年9月20日に,学識経験者等で構成する「国鉄共済年金問題懇談会」(運輸大臣の私的諮問機関)を設置して鋭意検討を進めている。

 エ 要員合理化

      国鉄は,これまでも作業方式の改善や設備の機械化・近代化など経営の合理化に努めてきているが,52年4月には運輸大臣の承認を受けて「経営改善計画」を策定し,55年度までに,15,000人の要員を縮減することを目標に合理化を進めている。
      このような中で,54年7月2日に国鉄は「国鉄再建の基本構想案」を運輸大臣に提出したが,その中において経営の重点化を進めるとともに,業務運営全般について,近代化,合理化,勤務体制の見直し,管理部門の簡素化等を徹底し,退職者の後補充を極力抑制して,60年度において,職員35万人体制を実現することを明らかにしている。

 オ 運賃

      52年12月に「国有鉄道運賃法」の一部改正がなされ,国鉄再建期間中当分の間,経費増加分の範囲内で国鉄の自主的経営判断に基づき,運輸大臣の認可を受けて,適時適切に運賃改定が実施できることとなった。
      この国有鉄道運賃法の考え方に基づき,53年度,54年度と2度の運賃改定が実施されたが,その後の経過をみると若干の利用減はあるものの,概ね所期の増収は確保されるものと見込まれ,国鉄の収支悪化の防止に寄与しているものと思われる。
      今後とも国鉄の再建を図るため,国鉄自身の徹底した経営合理化及び国の行財政上の支援と並んで適時適切に運賃改定を行う必要がある。この場合,輸送需要の動向,航空,民鉄等他の交通機関との厳しい競争関係にあることから一律の運賃改定が困難であることを勘案し,消費者物価の動向にも配意しつつ,従来にも増してよりきめ細かな工夫を凝らす必要がある。
      このため,旅客運賃については,輸送原価に比べて運賃水準が著しく低いローカル線において,利用者負担の適正化,資源の最適配分を図る観点から特別運賃を実施し,併せて国鉄収支の改善に資すること,また,利用回数,金利,原価等からみて高率の割引となっている通学定期運賃をはじめとする定期運賃の割引率を普通旅客との負担の公平を図るため,逐次,是正することを検討する必要がある。
      貨物運賃については,現行の貨物の運賃負担力に基づく等級制度は,その基盤である国鉄貨物輸送の独占性の喪失,他競争交通機関がかかる運賃制度を採っていないこと等により,国鉄貨物営業発展の障害となっている。このため,今後の貨物運賃については,収入の確保に寄与するとともに荷主の国鉄利用をより効率的な運送形態に誘導することにより,経費の削減を図り,併せて国鉄貨物収支の改善に資するよう,例えばフレートライナー,物資別輸送,一般車扱いといった運送形態の相違により生じている個別運送原価の相違を反映した運賃の導入を考慮することが望ましい。

 カ 設備投資

      国鉄の設備投資額は, 〔1−5−25表〕のとおり,毎年増大し,54年度は1兆600億円(予算額)となっているが,近年,保安及び公害対策投資,近代化・合理化投資等の取換え投資等が増大していることがわかる。

      設備投資額の売上高に対する比率をみると, 〔1−5−26表〕のとおり,53年度において,国鉄は47.3%と大手民鉄の28.5%を大きく上回っており,48年度に逆転して以来この傾向にある。また,設備投資額の固定資産額に対する比率をみると,52年度において,国鉄と大手民鉄は逆転し,53年度は,国鉄は21.2%と大手民鉄の14.0%を上回っている。このように,大手民鉄と比較して,国鉄の設備投資は,かなり大きなものとなっている。また,固定資産回転率をみると,53年度において,大手民鉄の52.5%に対し国鉄は46.6%と下回っており,近年改善されつつあるものの,この傾向に変わりはない。

      このように,国鉄の設備投資が大きなものとなっていること,その増加が必ずしも売上高の増加につながっていないこととともに,これらの設備投資を借入金により行っているため,金利負担が膨大な額(54年度約4,000億円と見込まれる。)となっていることが,国鉄経営上の一つの問題点となっている。


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