1 国内輸送


(1) 輸送需要の動向

  1960年代に年平均伸び率10%以上の高度成長を達成した日本経済は,昭和48年の第1次石油危機を契機に戦後最大の長期不況に突入し,49年度には戦後初のマイナス成長を記録した。しかしながら,輸出等の好調な伸びに支えられ,実質GNPは50年度3.2%,51年度5.9%伸び,経済は徐々に回復し安定成長への調整軌道に移行した。52年度からは,公共投資や個人消費の回復等による内需主導型の景気回復を迎え,在庫調整が進むとともに第1次石油危機後低迷していた民間設備投資も活発化し,54年度には日本経済は自律的拡大基調となり,比較的順調に発展した。
  このような1970年代の日本経済の動向に対して,国内貨物輸送の動向をみると,まず54年度の国内貨物総輸送量は, 〔2−1−22図〕, 〔2−1−23表〕のとおり,5,957百万トン,4,420億トンキロであり,この10年間で各々約1.3倍(年平均伸び率2.3%),約1.4倍(同3.4%)に増大した。しかし,高度成長期の60年代には,国内貨物総輸送量はトン数で約3.4倍(同13.0%),トンキロで約2.6倍(同10.2%)に成長したことに比べると,ここ10年間の輸送量の伸びが著しく鈍化したことが注目される。

  次いで,国内貨物総輸送量の伸びのすう勢をみると, 〔2−1−24図〕のとおり,トン数では昭和47年度を,トンキロでは48年度をピークに急速に落ちこみ,各々51年度,50年度を底にU字形又はV字形のカーブを描いて回復し,各々54年度,53年度に至りようやくピーク時の輸送量を上まわることとなった。
  このように,トンキロベースで50年度以降国内貨物総輸送量が回復してきた背景なり要因を検討しよう。

  まず,産業連関表の最終需要項目別生産誘発額及び輸入誘発額を用いて,輸送品目ごとに算定された「輸送原単位」,「最終需要構成」,「実質GNP規模」の各要因が,輸送トンキロの増加にどの程度寄与したかをみてみると, 〔2−1−25図〕のとおり,50年度から53年度までの輸送量の増加は主に「実質GNPの規模」の要因によっており,また,品目別には金属,セメント等を中心に若干「輸送原単位」の伸びも寄与している。更に,45〜50年度の輸送量の低迷に大いに寄与していた「最終需要構成」の要因が,50〜53年度には国内総固定資本形成等を中心にマイナス幅を小さくしていることが指摘できる。

  第2に,実質国民総支出の構成要素のうち,公的固定資本形成(公共投資),民間固定資本形成(民間設備投資及び住宅投資)と輸送との関係をみてみる。元来,公共投資及び民間設備投資の動向は,輸送需要の動向に大きな影響を与える。特に,公共投資は土木工事が主体であるため骨材,セメント等の輸送量を大きく左右するが,近年,建設・土木関連貨物の全輸送貨物量に占めるウエイトは年々高まっており,54年度トン数で67.7%,トンキロで45.9%となっており,この点からも公共投資の動向は輸送量の増減にますます大きく影響する。
  そこで,公共投資についてみると, 〔2−1−26図〕のとおり,48,49年度は総需要抑制策のため前年度比伸び率はマイナスであったが,50,51年度は回復し,52,53年度においては公共事業を中心とする内需喚起による景気浮揚策がとられたこともあって,公共投資が活発に行われ,前年度比20%程度伸びている。このため,実質GNPに占めるウエイトも9〜10%程度と上昇している。このような公共投資の活発化が輸送量回復の要因の一つとして指摘される。
  また,民間設備投資は, 〔2−1−26図〕のとおり,48年度をピークに,49年度急速に落ち込み,50,51年度は景気のゆるやかな回復にもかかわらず低迷したが,52年度後半から回復し,53年度には金額ベースで48年度を上まわり,54年度には力強い伸びとなった。こうした民間設備投資の回復は,建設・土木関連貨物のみならず広く貨物輸送需要を誘発するものであり,輸送量回復の要因の一つと解される。
  第3に,輸送品目別の輸送実績では, 〔2−1−27図〕のとおり,49,50年度の輸送量の落ち込みが工業用非金属鉱物(石灰石,原油等)及び石油製品の増加で歯止めがかけられ,51年度からはこれらに加え金属(鉄鋼),セメント,機械等の主要品目で増加となっており,これらにかかる産業の景気回復も輸送量の回復に寄与したものと思われる。

  なお,輸送機関別に貨物輸送量の増加寄与度をみると 〔2−1−28図〕のとおり,50〜54年度においては,石油製品,セメント,金属(鉄鋼),石灰石等産業の基礎資材を大宗貨物とし,輸送距離が長い内航海運,及び機械等工業二次製品を大宗貨物とし,比較的長距離輸送を分担する営業用自動車の輸送量の増加寄与度が高く,鉄道の減少幅が縮小していることが,特徴的である。

  このように,ここ数年の国内貨物総輸送量の回復にはかなりのものがあるが,それでも高度成長期に比べるとその伸びは鈍化しており,今後とも我が国経済は安定成長下において,実質GNPの伸びも大きくは見こめないことから,産業活動等から発生する輸送需要の誘発が小さくなろう。また, 〔2−1−29図〕のとおり,中・長期的には,第1に,産業構造は単価付加価値当たりの発生輸送需要の比較的小さい第三次産業化(サービス経済化),高付加価値化が進み,第2に,第二次産業も大量の輸送需要をもたらす基礎資材型産業よりも,比較的高付加価値,低重量の加工組立型産業のウエイトの増大が,今後とも見込まれる。第3に,国内輸送量増加の寄与度の少ない輸出等の実質GNPに占めるウエイトは,48年の第1次石油危機後15〜18%程度に上昇しており,今後は横ばいに推移していくものと考えられる。こうしたことを考え合わせると,輸送量の量的拡大は鈍化していくと思われる。
  反面,安定成長下,輸送の質的サービス面からの荷主,利用者の選択が厳しくなろう。貨物の種類等に応じますます輸送の確実性,機動性,低廉性等への荷主の選好が高まろう。今後,エネルギー高価格時代下のコスト増もあり,各輸送機関,各企業においては,輸送コストの縮減,サービスの質的改善の要請が一層高まると思われる。

(2) 輸送構造の変化

  ここ10年間の輸送構造の変化をみると,産業構造,立地構造の変化,都市化とモータリゼーションの進展等により,輸送機関のそれぞれの特性に応じた輸送分担が進み,その中で鉄道輸送の分担率低下と自動車・内航海運輸送が発展し,安定するという傾向が定着したことが特色である。
  まず,鉄道輸送量(トンキロ)は, 〔2−1−23表〕, 〔2−1−24図〕のとおり45年度をピークとして53年度まで年平均5.2%程度で一貫して減少し,54年度は微増となっている。

  なかでも国鉄は,45年度624億トンキロから53年度404億トンキロ,54年度423億トンキロと,ピーク時のおよそ3分の2に減少している。このため,国鉄の国内貨物総輸送量に占める分担率は,44年度19.1%から54年度9.6%に低下した。品目別には全品目にわたり減少しているものの,野菜・果物・鮮魚等の農畜水産品,木材,石炭等の一次産品での落ち込みが大きく, 〔2−1−30図〕のとおり,紙・パルプ,セメント,石油製品等二次産品のウエイトが相対的に増加している。
  このように鉄道貨物輸送量の減少の背景,要因としては,第1に,我が国の産業構造,立地構造の変化が指摘できる。すなわち,石炭から石油へのエネルギーの転換,一次産品の海外依存度の増大等により大宗貨物たる石炭,木材等の輸送が減少したこと,また,大都市周辺の消費地近接型の立地や臨海コンビナートの建設,内陸工業団地等道路志向型の立地といった立地構造の変化等が輸送距離の短距離化と相まって,鉄道に不利に働いたことがあげられる。第2に,鉄道輸送が荷主のニーズヘの即応を欠いたことである。荷主たる各企業等は,安定成長下の競争激化に対応して流通コストの縮減のため,機動性,確実性,低廉性,安全性,戸口性,速達性等に優れた輸送サービスを強く求めてきたが,鉄道輸送は従来から荷主のニーズを積極的に把握するという姿勢が必ずしも十分でなく,貨物運賃の弾力性がないことや,また,輸送近代化の立ち遅れ等もあり,輸送に長時間を要し,戸口から戸口への円滑さを欠くといった状態からの脱却が遅れ,荷主のニーズに応えられなかった。第3に,鉄道輸送の競争力の低下があげられよう。本来,鉄道は発着コスト(ターミナルコスト)が高いため長距離になるほどコストが低減し,距離比例的にコストが増大するトラックに比べ中・長距離ほど有利であるはずであるが, 〔2−1−31図〕のとおり,中・長距離においてもトラックの方が運賃が相対的に低廉になってきている。また,例えば「東京-大阪」等の主要区間についてみても, 〔2−1−32表〕のとおり,トラック運賃は国鉄運賃に比べ相対的に安くなってきている。一方,所要時間については,国鉄はトラックの倍近くの時間がかかっている。このように,国鉄は価格・非価格両面の競争力を失ってきている。このため,国鉄は,荷主サイドにおける輸送時間短縮・確実性の重視,道路志向立地の進展等を背景とした,トラックが鉄道よりも一層費用効果的とする評価と相まって,従来比較的優位にあった中・長距離帯を含め全距離帯において, 〔2−1−33図〕のとおり,輸送分担率を減少させている。

  第4に,国鉄貨物輸送においては,争議行為による荷主の信頼の喪失も一因であろう。
  こうした状況に対応し,特に国鉄においては,所要時間の短縮等をねらいとして,拠点間直行方式の拡大,専用貨車による物資別適合輸送,貨物ターミナルの整備,トラックとの協同一貫輸送等により,効率的な輸送システムの形成に努めてきている。
  次に,自動車輸送は 〔2−1−23表〕, 〔2−1−24図〕のとおり,44年度1,199億トンキロであったが,47年度1,536億トンキロとピークになり,48〜50年度と急減したものの,53年度には47年度水準を回復し,54年度1,729億トンキロとなった。このため,この10年間で輸送量は約1.4倍となり,年平均伸び率は3.7%であった。ちなみに,1960年代は輸送量が約6.5倍,年平均伸び率20.7%であった。このように自動車輸送の伸びの鈍化が特徴的である。また,国内貨物総輸送量に占める分担率は,昭和44年度38.0%から54年度39.1%と微増である。内訳をみると,46年度以降営業用自動車の輸送量(トンキロ)が自家用のそれを上まわり,次第にその差が拡大する傾向にあることも特記される。また, 〔2−1−30図〕のとおり,自動車輸送は,機械,砂利・砂・石材,食料工業品,廃棄物を大宗貨物とするようになってきており,更に 〔2−1−33図〕のとおり,近距離はもちろんのこと中・長距離においても進出がめざましい。
  輸送量の伸びは鈍化したものの,このように成長した自動車輸送の発展と安定は何に起因するのか。第1に,産業構造の高度化等により金属機械工業品等小ロット,高付加価値で運賃負担力に富む需要が増加したが,自動車輸送はその特性−戸口性,機動性,速達性,小単位性,確実性等−を評価されて輸送量を伸ばした。第2に,太平洋ベルト地帯への人口,産業の集中や内陸工業団地等道路志向立地等による輸送の短距離化により,中・近距離輸送に特性を発揮できる自動車輸送が利用された。第3に,都市化の進展につれ,砂利・砂・石材,セメント等の建設・土木関連貨物や廃棄物等が増加したが,面的輸送機関であり末端輸送をもあわせ行う自動車輸送が活用された。第4に,高速道路等整備の急速な進展,トラックターミナルの整備,12トン積車両の出現等トラックの大型化,保有台数の急増等により供給力の増大が行われた。これにより,トラックの競争力は 〔2−1−31図〕 〔2−1−32表〕のとおり強化された。こうした諸々の要因により,輸送サービスの高度化等を要請する荷主のニーズに,機動的にかつきめ細かく柔軟に対応することができた。

  次に内航海運は, 〔2−1−23表〕, 〔2−1−24図〕のとおり,44年度1,340億トンキロであったが,48年度2,076億トンキロとピークに達した後,急減し,50年度を底にようやく53年度に48年度水準を回復し,54年度2,258億トンキロとなった。この10年間で輸送量は約1.7倍になり,年平均伸び率は5.4%であった。これにより,国内貨物総輸送量に占める分担率は,44年度42.5%であったが,48年度51.0%と50%を超え,54年度51.1%と相対的に拡大傾向にある。このため,国内貨物輸送量増加寄与度をみると,1960年代は自動車が大きかったが,70年代は内航海運が牽引することとなった。品目別にみると, 〔2−1−30図〕のとおり,石油製品,鉄鋼,セメント,工業用非金属鉱物(石灰石,原油等)等長距離・大量輸送を要する産業の基礎資材物資が主要輸送品目となっている。大量性,低廉性等に特性を有する内航海運の発展は,第1に,我が国の地理的条件が内航輸送を効率的に行うのに適しており,第2に,石炭から石油へのエネルギー転換,臨海部における重化学工業の立地,資源の海外依存度の増大等に対処して,物資別適合輸送のための専用船化,大型化,鋼船化が行われ,第3に,専用岸壁等港湾施設の整備や,荷役の機械化等が進められ,輸送サービスの合理化等を通じて,荷主のニーズに内航海運サイドが良く対応できたためと考えられる。ちなみに,内航船舶の専用船化は 〔2−1−35図〕のとおりであり,全鋼船に占める割合は昭和54年度末59.7%と,10年前に比べ12.8ポイント改善されている。また,10年前は全船腹量の16%もあった木船は54年度末4%で鋼船化が著しく,更に,内航船舶一隻当たり平均トン数は54年度末350総トンと,10年前の220総トンに比べ約1.6倍になり,大型化も進んでいる。

  次に,国内航空は 〔2−1−36表〕のとおり,この10年でトン数で約3.4倍,トンキロで約4.7倍に順調に増大して来ており,生鮮混載貨物等を中心とし,高価値または緊急性の高い貨物等の利用が進んでいる。これは,第1に,高価値の商品等を中心とした流通市場の全国的拡大に伴う輸送の迅速性の必要,第2に,航空貨物輸送の経済性に対する認識の高まり,第3に,機材の大型化に伴う貨物輸送のための供給力の増大等のためと思われる。今後も,運賃負担力の高い貨物を中心に輸送量の増大が期待される。

  ここで,地域の輸送構造の変化をみると,産業の地方分散化が進み,太平洋ベルト地帯の貨物発着量のウエイトの減少とそれ以外の地帯の上昇が指摘できる。すなわち,製造品出荷額等のベースでみると,京浜葉,阪神ブロックの合計の対全国比では,40年が45%であったのに対し52年は37%に低下しており,これの反映もあり,23ブロック別発着貨物量の分担率の推移では, 〔2−1−37図〕のとおり,京浜葉,阪神ブロックは発着とも40年度以降減少している。反面,北海道,東北,九州地方のウエイトは上昇している。次に,三大都市圏とそれ以外に分けて地域間及び地域内輸送量をみると, 〔2−1−38表〕, 〔2−1−39表〕のとおり,三大都市圏のウエイトの低下と,それ以外の地域の輸送量の伸び及びそのウエイトの増大が目立つ。また,これを輸送機関別にみると, 〔2−1−40図〕, 〔2−1−41図〕のとおり地域間では内航海運,自動車のウエイトの増大と鉄道の低下が,地域内では自動車のウエイトの増大と鉄道の低下が特色である。

  更に,品目別の輸送構造の変化をみると産業構造の高度化,石油多消費型経済社会構造の進展,都市化につれ,化学工業品や土木・建設関連貨物,廃棄物等の輸送のウエイトが高まった。 〔2−1−42表〕のとおり,まず二次産品は,44年度から54年度にかけて45.4%増加している。なかでも,石油製品,セメントを中心とした化学工業品の伸びが目立つ。一方,一次産品は,工業用非金属鉱物(石灰石,原油等)が倍増している以外は木材等林産品は減少,農畜水産品は微減であり,石炭の大幅な落ちこみが目立つ。また,廃棄物を主体とする特種品の倍増も注目される。

  また,輸送機関別品日別輸送量の推移をみると 〔2−1−43図〕のとおりである。これによれば・野菜・果物,木材,機械,その他の窯業品(ガラス製品等),食料工業品,砂利・砂・石材,特種品(廃棄物等)では自動車の分担率が高くなっており,セメント,石油製品,金属(鉄鋼等),工業用非金属鉱物(石灰石,原油等)では内航海運のウエイトが大きく,砂利・砂・石材輸送もふえている。

(3) 我が国の輸送構造の特色

   〔2−1−17図〕のとおり,貨物輸送量(トンキロ)は1978年で,我が国は西ドイツ,フランス,イギリスの2倍以上,アメリカの約10分の1となっている。また,65年から78年までの間,我が国を含め各国とも実質GNP(又はGDP)の伸びほどには,貨物輸送量は伸びていないが,我が国は2倍程度に伸びたのに対し欧米諸国は約1.3〜1.5倍程度である。
  次に,トラック保有台数は,78年で我が国は1,261万台,アメリカ3,141万台で,65年以降我が国は約3.1倍,アメリカは約2.2倍と実質GNPの伸び以上の保有台数の伸びとなっている。欧州諸国のトラック保有台数は我が国の5分の1から10分の1と少ない上に,保有増加率の伸びも小さい。
  更に,輸送機関別貨物輸送量分担率(トンキロ)の推移をみると,各国の地理,地形上の条件や産業立地,都市の配置等の違いにより一律的な比較は困難であるが, 〔2−1−44図〕のとおり,欧米諸国では,第1に,パイプライン輸送,内水輸送のウエイトが高く,第2に,鉄道輸送の分担率は次第に低下しつつあるが,なおかなりのウエイトを占め,第3に,自動車輸送が次第に伸長しつつあることが指摘できる。これに反し,我が国では,第1に,内航海運のウエイトが大きく,反面,地理的条件から内水輸送がほとんどなく,第2に,欧米諸国ではかなりのウエイトを占めるパイプライン輸送が行われておらず,第3に,欧米諸国に比べ鉄道の役割が比較的小さく,第4に,次第に自動車輸送の分担率が高くなりつつあることが特色であろう。


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