5 今後の輸送動向


  今後の国内貨物総輸送需要の伸びは,安定成長下の経済の伸びとほぼ同程度にとどまることとなろう。しかも単調に伸びていくのではなく,55年度に見られたように,石油危機の発生など産業活動や国民生活をめぐる諸情勢の急変によって,ジグザグの成長となることも予想される。これを輸送機関別にみると,相変らず自動車,内航海運は伸長していくが,鉄道は横ばいないし減少へ向かうこととなるだろう 〔2−2−52表〕

  その背景としては次のようなことが指摘できる。まず第1に,実質GNPの拡大テンポは年率5.0%程度と見込まれているが,その中で第二次産業のウエイトは更に低下し,生産額1単位当たりの発生輸送量が比較的小さいサービス経済化,第三次産業化の進展が続いていく。第2に,第二次産業のうちでも,大量の輸送需要を生み出す鉄鋼金属,石油等の素材型産業よりも,情報化,システム化社会が進むにつれてエレクトロニクス化,コンピューター化等が一層進展し,比較的輸送単位が小さく高い付加価値を生み,生産額1単位当たりの発生輸送量の小さい高度な加工型産業,より知識集約型の産業が大きく伸び,そのウエイトを高めていく。第3に,財政上の制約もあり今後の公共投資の伸びも期待できない。しかも,公共投資の内容も比較的大量の貨物を誘発させる産業基盤中心の投資から,比較的誘発輸送量が小さい生活基盤整備に重点を移しつつある。また,民間設備投資も,高度経済成長期に比べその伸びが鈍化しており,その重点も能力増強投資から省エネ投資等に移りつつあり,こうした傾向は今後も続くと予想される。
  一方,荷主企業サイドにおいては,総コストの削減のために,在庫コストを含めたトータルな輸送コストの削減に努めており,省輸送,効率的輸送が重視されよう。なお,エネルギーの高価格化が進めば,各輸送機関の輸送コストは上昇する。このため,運賃負担力の低い鉱産品や素材型産業の生産物においては,既に石油やセメント輸送の一部でみられるが,できるだけ交錯輸送を圧縮させようとする傾向が強まり,これも省輸送につながる。
  こうした輸送需要の動向を背景として,荷主サイドは輸送の高度化,小口化,多頻度化,取扱サービスの高度化など輸送サービスの高度化,多様化の要請を強める。輸送機関サイドでは,こうした荷主のニーズに対応して,いかに輸送コストを縮減しつつ,輸送サービスの質的改善を図っていくかがポイントとなる。
  また,輸送需要の伸び悩みに対応できるように経営体質を強化し,事業基盤の充実を図るためには,各輸送機関,企業においては,その経営戦略,市場目標を明確化して,輸送・事業の一層の合理化,効率化に努めることが重要となろう。


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