第2章 不動産の流動化(証券化・小口化)の意義と現状
1.不動産の証券化・小口化の意義
土地神話が消えて様々な投資リスクが明らかになった住宅・不動産市場では、流動性が高くリスク分散が容易な投資の仕組みが求められている。リスクを分散し小口で流動性の高い不動産投資を可能にする不動産の証券化(注4)手法(以下、「手法」を省略し単に「証券化」という)は、これらのニーズを満たすものである。不動産特定共同事業法による不動産の小口化手法(以下、「手法」を省略し単に「小口化」という)は、これまで譲渡制約があり証券化商品と比べて十分な流動性が備わっているとは言えなかったが、最近の制度改正によって投資単位が一口500万円まで小口化され譲渡制限がなくなったため、今後不動産の証券化商品に近い流動性を持つ可能性がある。
(注4)
基本的に不動産を担保とした融資債権(デット)を証券化する場合及び不動産の所有権(エクイティー)そのものを証券化する場合とがあるが、特に記載ない限り、この二つの場合を総じて「不動産の証券化」という。小口化の場合も同様である。
不動産の証券化・小口化によって、不動産投資の流動性、透明性、小口性が高まれば、個人投資家、機関投資家、海外投資家など多様かつ多数の投資家が不動産投資市場に参入するであろうし、法人部門は不動産を市場に放出しオフ・バランス(注5)化を進めやすくなるものと期待される。現に法人部門では不動産をオフ・バランス化することによって、不動産の所有に伴うリスク(キャピタル・ロス等)を外部化し、自己資産利益率(ROA)を高めようとするニーズが高まっている。
(注5)会社のバランスシートからはずすこと。
現下の低金利時代において、我が国の投資市場は大別するとローリスク・ローリターンの預貯金等とハイリスク・ハイリターンの不動産実物投資等に分けられる。昨今、外為・証券市場における自由化の流れの中で、外貨建て投資ファンド等が増加する兆しも見られるが、2001年に予定されているペイ・オフも勘案しつつ、我が国においてもミドルリスク・ミドルリターンの投資商品へのニーズが高まりつつあると考えられる。不動産の証券化商品や小口化商品は、このようなニーズにも対応していくものである。
しかしながら、証券化・小口化によって不動産の流動化を促進していくためには、前近代的な我が国の住宅・不動産市場の慣行を改めるとともに、国際標準への対応を意識しながら、関連法などの制度インフラを整備していく必要がある。
不動産の証券化・小口化によって、閉塞状況にある我が国の住宅・不動産市場に内外の資金を誘導し、21世紀の我が国の経済社会を支える良質な住宅・不動産ストックの形成を図り、もって我々国民の資金が生活の豊かさの実現のために還元されるシステムを確立していくべきである。
このように不動産投資市場の育成、特に住宅・不動産市場の中枢をなす住宅市場への不動産の証券化・小口化の適用は、今後の住宅市場のあり方を大きく変革する可能性を持っている(図表6)。
2.不動産証の証券化・小口化の形態
不動産の証券化・小口化の形態は様々であるが、導管体としての機能をもつ特定目的会社(SPC)や不動産特定共同事業法における匿名組合・任意組合、信託等を不動産事業の主体に置き、金融・不動産の専門家が投資家の立場から不動産事業を管理運営し、その収益を多数の投資家に分配する方法が一般的である(図表7)。
不動産の証券化は、不動産の所有者が不動産事業や金融の専門家などと協同することによって不動産所有による資産価額変動リスクと所有による負担などをSPC等にオフ・バランスし、譲渡を受けたSPCは購入資金等を社債券や株式の発行により調達する。
不動産の証券化や小口化は、開かれた経営を通じて、資金力をもたず直接大規模な不動産投資には参加できない国民の多くに新たな投資機会を与える仕組みでもある。
3.不動産の証券化・小口化の現状
我が国の不動産の証券化・小口化はまだ緒についたばかりであるが、大和生命ビル(賃貸ビル事業)、大京マンション(賃貸住宅事業)、三菱地所・東京海上火災保険(開発型分譲事業)、ジャパン・エナジー(本社ビルのオフバランス化)、イトーヨーカ堂(店舗不動産リスクの外部化)、三和銀行・富士銀行(住宅ローン債権の証券化)、東京建物(国内SPCあるいは匿名組合等による高級マンションなどの証券化・小口化)の事例が徐々に出てきている。
これらの不動産の証券化は私募で行われたものがほとんどであるが、今後はより有利で多様な証券化を実施するために公募事例が増えていくものと思われる。
投資単位が一口500万円まで小口化され、第三者への譲渡が可能となったため、不動産特定共同事業法による小口化事例が徐々に増えつつある。
4.不動産の証券化・小口化の今後の可能性
今後は、内外の投資家の多様なニーズに応えるため、様々なスキームを活用した多種多様な不動産の証券化商品・小口化商品の開発と供給が期待される(図表8)。
特に、国内SPC法に基づく特定目的会社を活用した商品、不動産特定共同事業法による小口化商品などが期待される。
将来的には、後述する米国のREIT(不動産投資信託)のような会社型投資信託スキームの創設も期待される。
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