１．類似した市場変化

• 米国の不動産市場の歴史をみると、80年代後半におけるS&L等の破綻、RTCによる不良債権処理の過程で不動産の証券化手法が多用され様々な技術が育成されたこと、90年代に入っても銀行等による建設・開発資金の貸し渋りが続いたため、これらの間接金融から証券化による直接金融への需要が急速に高まった経緯があり、現在の我が国の不動産市場と極めて類似した状況が見られる。

２．REIT及びCMBSの成長

• このような不動産の証券化の中心となったのは、大規模な不動産投資に対する一般投資家、個人投資家の参入機会を拡大することを目的に、米国議会が1960年に内国歳入法を改正し導入したReal Estate Investment Trust（REIT(注6)）、あるいは、RTCによる不動産証券化に端を発し開発されていったCommercial Mortgaged Backed Security（CMBS(注7)）である。いずれも90年代後半から急速に成長し、不動産投資市場と経済の活性化に寄与している。1997年時点におけるREITの時価発行総額は1400億ドルに達し、CMBSの年間発行額は400億ドルを大きく超えている（図表9､10）。

• REITが成長した大きな理由として、土地所有者が現物出資を行うことによって、REITに対する譲渡益を繰り延べできるUPREIT(注8)という仕組みの存在があげられる。

３．賃貸住宅等を対象とした投資の条件

• REIT市場の特徴として気付くのは、賃貸住宅を対象としたREITがオフィスや商業不動産REIT等に匹敵するシェアを維持している点である。これは、近年賃貸住宅REITがその他のREITと比べて株価変動が少なく収益が安定しているという評価を受けるようになっただけではなく、実物不動産そのものの投資収益性がリスクに見合った水準にあるという事情に基づく。これは民間に大規模な賃貸住宅事業者がいない我が国では考えにくい。
• その理由として、第１に十分に管理された賃貸住宅は長期にわたり市場における資産価値を維持している事実がある。米国では地価が一定であっても、建物の適正な増改築・修繕は家賃収入の成長を通じてキャピタル・ゲインを生む。これは、経年によって建物価値が減少し地価上昇だけがキャピタル・ゲインを生んできた我が国の税制や会計制度、評価システム、市場慣行とは大きく異なる点である。我が国において賃貸住宅経営を活性化させるとともに、中古住宅流通市場を育成していくひとつの条件はここにあると考えられる。
• 第２に減価償却制度が根本的に異なる。米国では建物は27.5年、大修繕等は５年で100%償却できる。このため市場価値を当初水準程度に維持しながら我が国よりも短期間で償却し、売却後は大きなキャピタル・ゲインを得ることができる。しかもこのゲインの多くは経営努力から得られるものである。一定の収益を前提にした場合、加速的な減価償却の実現は、潤沢なキャッシュ・フローを生み再投資の原資ともなる。このキャッシュ・フローの存在は、一般に法人課税前の余剰金を配当として支払う不動産の証券化や小口化などのスキームとの適合性が良く、投資家からみて期待利回りを高める重要な要因である。
• 第3に米国の賃貸住宅経営者によると、家賃規制と正当事由による解約制限のない自由な賃貸住宅経営が、投資家が安心して投資するためのポイントである。一般的に、家賃規制住戸を経営した場合には、�@家賃が市場家賃以下に抑えられるだけでなく将来の見通しがたたないこと、�A正当事由に守られた契約関係は常に借家人に有利になっており、借家人側の契約違反があっても合理的に解決できない場合が多いためである。我が国の借地借家法ではすべての賃貸借契約が米国の家賃規制住戸よりもさらに厳しい正当事由制度の適用対象となっており、相続税のメリットなどのない法人が賃貸住宅を投資の対象にしていないのは至極当然なことである。

４．街づくり支援策と金融手法

• 税制の中立化を推進してきた米国においても、投資減税控除や免税債の特例などが、低所得者用住宅供給事業や地域再生事業に用いられている。
• 米国HUDは既に公共住宅供給をやめているが、低所得者用住宅税額控除（Low Income Housing Tax Credit: LIHTC）や州政府による免税債による有利な資金調達を認める制度があり、REITを含めた多くの事業者がこの制度を活用している。
• Empowerment Zone (EZ(注9))などの地域再生事業ではやはり一種の投資税額控除、免税債、投資補助制度が設けられている（図表11）。

• これらの措置は我が国ではあまり事例がないが、我が国の住宅政策、街づくり政策にも証券化・小口化事業の効率を高める上でも適用可能な制度と考えられる。