1.魅力的な証券化・小口化商品の条件
- 投資のリスクに応じたリターンの設定
- リスクとリターンについて、合理的な判断ができる投資情報の開示(情報の透明性)
- 市場売買の容易性と換金性の維持(流動性)
- 投資単位の小口性
- デッド型やエクイティ型など異なるリスク・リターンをポートフォリオに組み入れる商品の多様性
−が魅力的な商品の条件である。
2.不動産の証券化・小口化に向けた住宅・不動産市場の制度インフラ整備
- 契約自由の原則に基づく合理的な賃貸借関係に基づく中長期的なキャッシュ・フローの確定(賃貸借契約の透明性)、収益還元による時価評価方式の企業会計原則の確立とその情報開示(企業会計の透明性)、不動産を担保としたノン・リコース・ローンによるプロジェクト・ファイナンス(不動産担保融資の透明性)、キャッシュ・フローの確定と時価評価に基づく不動産価格インデックスの整備(不動産価格の透明性)、証券市場への上場など新たな証券売買市場の育成(不動産証券売買市場の透明性)−などの住宅・不動産市場の制度インフラ整備が必要である。いずれも住宅・不動産市場の透明性の確保、情報開示に結びつく。
- 米国の事例からも明らかであるが、現行の借地借家法をめぐる諸制度・慣行(正当事由制度による解約制限、予測不可能な立退き料支払いの可能性、継続家賃抑制主義、借家人側の自由な中途解約等)が賃借人に有利なものとなっており、長期間の安定的な賃料収入を確定できず、不動産証券化のインカム・ゲインの見通しが不確定なものとなりやすい。これを予測可能なものとして改善していくためには「定期借家権」の創設が必要不可欠であり、その早期導入は不動産証券化のための第1歩として極めて重要である。
- 投資家が投資判断を行なうためには、裏付けとなる不動産や発行者、証券等に関する必要な情報開示(ディスクロージャー)は非常に重要であり、その開示基準の確立が急務である。また、ディスクロージャーは、後述する「格付け」と密接に関係することに留意することが必要である。
- 不動産投資インデックスは、不動産投資の平均的な収益性を示す指標で、インカム・ゲインとキャピタル・ゲインの両面からの収益性を過去の実績、地域性から指標化するものである。今後の不動産投資においては収益の分析が一層重要になるため、投資家の立場にたった不動産インデックスが整備され、投資家が自ら判断できる市場環境が整備されることが期待される。
- 投資家が投資商品のリスクとリターンを他の商品と比較し、短期間で投資判断をすることを可能とするためには、不動産証券化商品の格付けが必要である。なお、対象不動産のディスクロージャーが不十分であると、その証券化商品の格付けは一般的に下がる。
- 住宅・不動産投資市場が活性化すると、証券化に不可欠なデュー・デリジェンス(注10)、プロパティー・マネジメント、不動産投資顧問業等高度な金融・証券知識と不動産知識を兼ね備えた専門サービス業が必要とされ、それらのニュー・ビジネスの育成によって、機関投資家、個人投資家等からの幅広い投資が可能になるものと期待される(図表12)。
(注10) |
証券化の対象となる不動産等、証券発行条件・仕組みなどをを法的、物理的、経済的に精査する。米国ではこれを
専業とする会社が、不動産会社、不動産投資顧問会社、建築設計事務所や不動産鑑定士、会計士、弁護士などの
専門家をコーディネートして行なう場合もある。 |

3.不動産の証券化・小口化に向けた金融・証券市場の制度インフラ整備
- 国内SPC法の制定により、我が国の不動産証券化の制度インフラは、一歩前進したが、現在の仕組みは基本的に金銭債権(不良債権)の処理を目的としてつくられたため、今後、本格的な不動産証券化を進めるためには、対象不動産の入れ替え、中途借入れの自由化、ファンド的運用を可能にするなど、優良物件を含む証券化・小口化のための導管体に改良するか、新たな制度・仕組みを導入する必要がある。
- この際、SPCなどの導管体が不動産を取得する際の取引税(不動産取得税、登録免許税)については、非課税措置も含めて一層の軽減を図るとともに、時限措置ではなく恒久的な措置とする必要がある。
- 米国REITの成功事例から、オリジネーター(注11)がSPCに不動産を譲渡する際に生じるキャピタル・ゲインについては、併せて課税の繰り延べ措置(SPCに譲渡する際には課税せずエクイティを処分した時点で課税する、あるいは現物出資と引き替えに株式を取得しその処分益が出た時点で課税する等)の検討が望まれる。
(注11)原資産所有者
- また、不動産の証券化・小口化にあたっては最終的には当該不動産のエクイティを引き受ける投資家の存在が重要であり、これを担う機関投資家等へのインセンティブを与えていく方法を検討する必要がある。また、不動産等(実物不動産、不動産特定共同事業商品、SPCが発行する優先出資証券など)の会社型投資信託(注12)への組み込みや年金基金等による運用を可能にする(例えば、日本版401k(注13))など、集団投資スキームの整備を進め、多用な商品開発の可能性を拡大していくと同時に、これらを新たな投資の担い手として位置づけてくべきである。ただし、特に個人投資家を対象とする集団投資スキームの場合、個人投資家への的確なディスクロージャー、投資インデックスなどの整備、投資顧問の育成などを政策的に推進・支援していく必要があろう。
(注12) |
証券投資を目的とする株式会社を設立し、当該会社は受益証券の代わりに株式を発行し、それを投資家が購入する形で出資する投資信託のこと。 |
(注13) |
401kとは米国で導入されている確定拠出型の企業年金の一種で、従業員の拠出金には課税の繰延べができる優遇制度が取られている。日本でも金融ビッグバンの一環として導入が検討されている。 |
- なお、不動産証券化商品の流通性を高める観点から、SPC証券の証券市場への上場についても検討が望まれる。
- 将来的には、金融サービス法(注14)の早期制定など、投資家保護や情報開示のための統一的なルールの確立が求められている。
(注14) |
規制の業態にとらわれない自由な市場参入、多種多様な金融商品・サービスの提供に関して、投資家保護のため市場参加者に横断的な規制を行なう法的枠組みが検討されている。 |
4.新たな住宅政策の展開
- 金融改革が進む中で住宅市場の活性化を図るためには、従来、間接金融であった住宅ローンの分野においても、米国の住宅モーゲージ(注15)等に見られる証券化の仕組みを拡充すべく検討していく必要があろう。住宅金融公庫融資については平成12年の財投改革を見据えながら証券化などの適用可能性を検討する機会でもある。我が国においても今後住宅モーゲージ市場の育成を働きかけ、住宅・不動産の証券化市場形成に向けた誘導を行うことが考えられる。
(注15)貸付債権とそれを担保とする不動産の抵当権を一体とした有価証券。抵当証券
- 賃貸住宅あるいは中古住宅市場を活性化し質的な向上を図るためには、まず、中古住宅評価システムの導入、建物の価値が自ずと維持されていくように、大修繕や増改築などへの税制上あるいはローンなどのインセンティブを検討していく必要がある。これはストックを流動化し活用していく、これからの住宅政策の方向と一致する。
- さらに、賃貸住宅経営を通じて適正な投資利回りが確保できるように減価償却制度における加速度償却のオプションを設けたり、米国のREITに類似した譲渡益課税の繰り延べ制度などの導入を検討し個々の優良な賃貸住宅物件が証券化事業にインセンティブをもって円滑に投じられプールされていく仕組みを構築していくことが重要である。これらによって機関投資家などが賃貸住宅を投資の対象として積極的に取組み、プロパティー・マネジメントなどの専門企業による適正な管理・経営への道筋ができあがる。
- 我が国においてはあまり例は多くないが、投資減税控除の特例、加速度減価償却制度などによる税制緩和措置は、最近では米国の地域再生や低所得者等用住宅供給に対して積極的に適用されており、街づくり政策の一環として大きな効果を上げつつある。我が国においても、住宅を「社会的資産」として位置付け、住宅ストック等の建て替えや有効活用を促し豊かで災害に強い街づくりを進めていくために、これまでにはない試みとして税制面での緩和措置等のインセンティブを検討することも重要であり、更にその効果を最大限に活用するために証券化・小口化市場の整備を進め、国民に広く優良な投資機会を与えるとともに、民間投資資金を都市の再生や街づくりに投入し21世紀の豊かな住生活を実現していく新たな仕組みを考えていく必要がある。

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