新首都にあるべき機能のうち、首都機能は現在の組織のまま移転するのではなく、移転の過程を通じて見直されていき、新しい政治・行政システムとして新首都に形成されるものと考えるべきである。
移転の対象となる首都機能の範囲の検討に当たっては、新首都への移転が新時代の到来を象徴する公正・透明な政治・行政システムの確立と同時に行われるよう、現在進められている地方分権・規制緩和をはじめとする国政全般の改革と密接に連携しつつ、今後の政官民の新たな関係を視野に入れて検討を進める必要がある。
また、今日におけるいわゆる「小さな政府論」は、わが国が発展途上にある段階において、産業の保護育成の手段として有効に働いた諸規制や諸制度が、わが国経済が十分に成長した現在において、かえって民間の創意や活力を低下させるようになりがちとなってきたため、経済的規制の緩和、地方への権限委譲等を行うことによって、企業や国民の自由な経済活動を活発化しようとするものであり、首都機能移転も、このような観点から「簡素で効率的な政府」の実現を目指して進められるべきである。
したがって、新首都に移転する首都機能の範囲は、政経分離により新たな政官民の関係が構築され、新首都に新たな集中を生じさせない配慮に立った必要最小限の機能であるべきであり、基本的に以下のように考えられる。
わが国の国会は衆議院及び参議院の二院制をとっており、原則として両院の議決等の一致によって国会の意思が決定されるほか、両院の議決等が異なる場合の両院協議会や衆議院解散時における参議院の緊急集会の開催など、両院は相互に密接な関係を有しており、一体として機能するものであると考えられる。
また、裁判官弾劾裁判所等は独立して職権を行う機関であるが、すべて国会議員で構成されており、両院と不可分なものであると考えられる。
さらに、国立国会図書館は、図書資料を蒐集して、国会議員の職務の遂行に資するとともに、行政・司法の各部門等に対する図書サービスを提供する機能であり、国会並びに行政及び司法の中枢と密接な関係を有している。
以上により、国会の機能としては、立法等に直接かかわる機能として、衆議院、参議院及び裁判官弾劾裁判所等並びにそれらを支える両院事務局及び法制局、国会議員公設秘書、国立国会図書館等の機能が移転対象として考えられる。
第一に、国の行政は、行政権の最高機関である内閣が、閣議で決定した方針に基づいて、内閣が統轄する行政組織により行われている。国の行政の中枢機能は、内閣及びそれを支える中央省庁等の機能と考えられるが、わが国行政組織においては、内閣が国会と密接な関係にあることに加えて、内閣を支える中央省庁等の機能も内閣総理大臣及び国務大臣を補佐するだけでなく、法律案審議、予算承認等を通じて国会との直接に密接な関係のもとに国政を円滑に運営していることから、中央省庁の機能のうち国会及び内閣との関係で中枢性の高い政策立案等に係る機能が新首都に立地すべきである。
第二に、国の行政機能は、危機管理の中枢としての重要な機能を果たすものであるが、危機管理を支える中枢機能は、国の最高の意思決定機能と一体として機能するものであり、国会及び内閣と共に新首都に立地すべきである。
第三に、内閣を支える中央省庁等の機能であっても、中枢機能の円滑な発揮にとって比較的必要度が低く、業務の独立性の高い機能や東京に立地する民間機能との関係が中枢機能の発揮よりは重視される機能については、国会との関係、行政の一体性を確保する必要や組織の改編可能性に留意しつつ、新首都に移転すべきかどうか決めるべきである。
司法の中枢機能としては、終審裁判所の地位を有し、また、司法行政上の最高の機能を有する最高裁判所の機能が、基本的に国会及び行政の中枢機能と共に新首都に立地することが望ましい。