平成9年4月3日(木曜日)14時0分〜16時15分
虎ノ門パストラル藤の間
平岩会長、有馬会長代理、新井、石井(進)、石井(威)、石井(幹)、石原、宇野、堺屋、下河辺、寺田、中村(英)、野崎、牧野、宮島各委員(15名)
植野副知事、佐々木政策報道室長(途中退席)
伊藤国土庁長官、井奥国土政務次官、田波内閣内政審議室長、竹内国土事務次官、近藤国土庁長官官房長、五十嵐大都市圏整備局長(事務局次長)他
第1回調査部会の報告、東京都ヒアリング、資料説明、意見交換等
今回は、まず、前日に行われた第1回調査部会について有馬会長代理(調査部会長)から部会長代理の指名、フリーディスカッションが行われたことの報告を受けた。次に、事務局からの首都機能移転に関する論調の説明の後、東京都からヒアリングが行われた。また、事務局から「移転費用のモデル的試算」について説明が行われた。その概要は以下のとおり。
事務局から、首都機能移転について、積極、消極のこれまでの論調を整理した資料の説明が行われた。各委員からの意見は無かった。
東京都の植野副知事、佐々木政策報道室長から、首都機能移転に対する東京都の意見が開陳された。東京都からの説明の概要は以下のとおり。
本審議会は、移転先候補地の選定という具体的な作業を行うための会であることは、十分に承知しているので、東京都が移転に慎重な立場で見解を述べさせていただくことは本会の趣旨にそぐわないのではないかといささか危惧している。しかしせっかく機会をいただいたので、国民に首都機能移転について、その問題点も含めて十分に知っていただき、議論を深めていただくことの一助になればという観点から、率直に意見を述べさせていただきたい。
東京都はかねてから、首都機能の移転よりも地方分権、規制緩和を優先するべきであると主張してきた。政府においても、財政構造改革に関し、総額630兆円の公共投資基本計画につき、実質的な減額を行っている。このような状況において、我が国は膨大な経費と時間をかけて首都機能移転を行うことが本当に必要なのか、また今、限られた経費を投入すべき重要施策はほかにあるのではないかと考えている。首都機能移転は私達の子々孫々にまで影響を及ぼす重大な問題と思うので、国民各層の広範な論議を踏まえて慎重に対応すべきである。
次に詳細について、御説明したい。
まず、「移転の意義と効果は疑問」として、4つの観点から御説明したい。
第1に、東京一極集中の是正についてであるが、平成2年の「国会等の移転に関する決議」が行われたのは平成2年であり、いわゆるバブル経済が最盛期の頃であるので、東京一極集中の状況も当時とはかなり様相を異にしており、高度成長期以降一貫して続いてきた東京圏への人口流入が、1994年には初めて1万7000人の転出超過に転じている。これに対し、今後の傾向について、転出傾向は一時的であり東京圏への人口集中がまた始まるという指摘もあるが、東京圏の人口移動は入学や就職などによる若年層の移動によるものが大きく、この若年層は全国的に減少傾向にありそのような意味で緩和の要因になっていると考えている。また、経済の低成長基調が定着し、バブル期に見られるような、爆発的な集中は起きないと考えている。
第2に、東京圏における諸機能の集積状況についてであるが、諸機能の東京圏への集積指標を対全国比で見ると、東京圏への集中がますます進んでいる状況とは言えず、諸機能の東京圏への集中状況も鈍化していることを示している。また、諸機能のうち情報面での東京集中が特に指摘されているが、地域で利用できる情報量として、都道府県別の一人当たりの選択可能情報量については、伸び率で見ると東京は全国よりも小さくなっている。また、情報発信という点でも、各地における地域情報化の取組みやインターネットを利用した地域からの情報発信が進んでおり、今後は全国における情報基盤整備などにより、各地方の情報発信もなお一層活性化してくると考えられる。
第3に、移転による過密軽減の直接的寄与はほとんど無いという点である。例えば、道路混雑の度合いでは、仮に60万人が全部東京から移転しても渋滞を起こす状況に変化は無いという結果が出ている。また、鉄道の混雑率についても、194%が192%になる程度だということで相変わらず新聞も読めない状況に変わりはないだろうと考えられる。
第4に、過密緩和の中長期的な効果として期待されているいわゆる集中が集中を呼ぶメカニズムの打破という点であるが、これは「集中の2階建て論」と理解している。集中メカニズムの1つは、現在の中央集権構造がもたらす集中である。業界団体や地方自治体などが東京に事務所をおいて、中央省庁が持つ予算や規制に関連する情報を得ようとする集中のメカニズムである。これを仮に集中の2階部分ということにする。もう1つは、経済合理性に基づき、集中のメリットを求めて企業が集まってくる集中のメカニズムである。これを集中の1階部分ということにすると、2階部分の集中問題は、地方分権や規制緩和を徹底すればいずれ解消されると考えている。1階部分については、資本主義経済における自由な企業活動の結果であり、逆に外部不経済が大きくなれば、コスト高を嫌い、エリアの外に企業が出ていくなど、集中におのずとブレーキがかかる性格のものであり、したがって、市場経済のメカニズムの中で集中の問題も自主的な解決に任されるべきものと思っている。
以上で、一極集中の是正問題に関する説明を終わり、次に「移転は国政全般の改革の契機となるか」について御説明したい。
21世紀の我が国の在り方を考えると、首都機能移転の有無にかかわらず、地方分権、規制緩和等の諸改革を推進することは是非とも必要不可欠である。昨年の8月にある新聞社が、中央省庁の課長を対象に首都機能移転に関してアンケートを行っているが、圧倒的に多かったのが、首都機能移転と地方分権、規制緩和など国政全般の構造改革は本質的に異なる次元の問題であるという意見であった。アンケートの総括として、制度を変えずに場所だけ変えても問題解決にはつながらない傾向が伺えると分析している。まず、これらの改革を全力で成し遂げて、しかる後に移転が必要との声が大きければ、その時点で改めて検討しても遅くないのではないか。
次に、「移転は災害対応力の強化につながるのか」という点について御説明したい。
阪神・淡路大震災を契機として、東京だけが震災の危機に直面しているかのごとき議論に基づいて、首都機能だけが安全な場所に移るというのは、残された1200万都民を切り捨てるのかという議論につながりかねないと思っている。
そもそも地震国、火山国である我が国の現状を考えると、絶対に安全と言い切れる地域は無いのであり、新都市建設に使う14兆円を、例えば、全国各地の防災拠点の整備にこそ投資されてしかるべきではないかとさえ思う。
続いて、「移転によって全国各地の経済発展が可能となるか」という点についてであるが、首都機能移転が一定の経済波及効果をもたらすことは事実だと思う。問題はその効果が移転先地を中心とした一部の地域に限られており、全国各地の活性化につながらないという点が問題である。
更に「移転に伴う東京経済への影響」であるが、まず、東京経済自体の地盤沈下については、バブル経済崩壊以降、東京の産業を巡る環境は大きく変化してきている。東京の産業の空洞化の懸念は予想以上に深刻であり、既にアジアの諸都市の成長著しい状況の中で、首都機能移転は東京経済の地盤沈下に更に追い打ちをかけるおそれがあると言わざるを得ない。一方、長期的に見た影響としては、仮に地方分権、規制緩和が徹底して行われない中で国の強い関与が維持されるなど、中央集権的な仕組みが残ったまま移転が行われたとすると、新都市で新たな集中が生じ、東京が経済首都でもなくなるという事態が、歴史の教訓として想定される。
以上が、移転の意義と効果への疑問についての東京都の見解である。
次に、これからの東京の都市づくりについて御説明したい。
東京都では、今年の2月に都の基本構想として、「生活都市東京構想」を策定した。その「生活都市東京構想」に基づき説明する。
そこでは、「生活都市東京とは」ということで、都民の生活を守り、支え、豊かにする活力に満ちた生活都市東京の創造を進めることを述べている。また「何をめざすのか」ということでは、過密解消、混雑緩和、職住近接の都市づくりを進めるということを述べている。このような都市政策を展開し、人々が暮らしやすい東京を実現していけば、首都機能移転の発端となった一極集中問題は解決していくと考えている。
本日は、この首都機能移転と関係の深いこれらの都市施策について簡単に紹介させていただきたい。
まず、「ゆとりと豊かさを支える都市づくり」という課題に対し、「身近な生活圏のまちづくり」と「都市構造の再編」という2つの大きな施策を述べている。
また、「都市生活を支える基盤」ということで、「道路網の整備」、「港湾・空港機能の充実」、「公共交通のネットワーク」など5つの施策をあげている。
次に、地震など災害に強い防災都市づくりのための施策についてであるが、これまで東京都は震災対策を都政の重要かつ緊急の課題に位置づけており、建築物の不燃化や市街地の再開発、延焼遮断、あるいは避難空間となる公園、緑地の確保、道路、橋梁の整備など、防災都市づくりを進め、更に災害時の救援、救護体制や消防力の強化、防災市民組織の育成指導の充実など、ハード、ソフトの両面から東京の安全性向上につとめてきた。今後、これらの施策を更に充実・強化し、災害がおきても被害が最小限にとめられるような安全な都市を目指してまいりたい。あらゆる施策の基本に防災の視点を組み込んで、安全で安心できる生活都市東京の実現を目指していきたいと考えている。
以上で、過密解消などのための施策と防災対策について御説明したが、今回の基本構想の考え方を紹介したい。
「人口と経済の想定」ということで、この構想においては、人口、経済、財政のいずれをとっても今や右肩上がりの時代が終わり、いわゆる成熟社会を迎えようとしているという認識にたっている。このため、これからの都市づくりでは、量的な拡大よりも質的な充実を大切にし、新たに多額の費用をかけて施設をつくることよりも、今、現にある都市施設を有効に活用することが重要であると考えている。
羽田空港の沖合展開により国際便の運行を検討することで世界に開かれた利用しやすい空港やほぼ100%普及した下水道施設を活用した光ファイバケーブルの整備、また東京全体を循環型都市に転換していくなど、このような東京の都市づくりを進めていき、過密、混雑、渋滞、遠距離通勤などの問題を解消し、東京の都市構造におけるいわゆる高コスト構造を是正していくことが、東京の産業はもとより日本経済全体の活性化にも貢献することになると考えている。このような意味でも、新たな国民の負担を伴う首都機能の移転ということを行う必要は無いのではないかというのが、都の考えである。
最後に、これからの移転議論に関し、現在、さまざまな機関によって、この問題に関する世論調査結果が発表されているが、一般的に移転に賛成か反対かという数字だけが、取り上げられがちである。しかし移転の賛否の数だけに着目し、賛成が多いので国民の支持を得ていると単純にとらえることはこの問題の判断を誤ることになる。例えば、世論調査で首都機能移転賛成が60%を超えていたとしても、そのうち他県であれば賛成、つまり自分の県には来てほしくないという方が半数以上も含まれていることもある。また、一昨年末に出された国会等移転調査会報告や昨年6月の国会等の移転に関する法律の改正について約半数の方が全く知らないと答えた調査結果もある。
これらの結果から見ると、移転の意義や効果、更にはその問題点を含めて、十分に移転の内容を理解している人はまだまだ少ないと言えるのではないかと思っている。今後は首都機能移転問題について、賛成、反対論の両方を示した上で、国民の意向を把握する姿勢が大切ではないかと思う。
更にこの問題の論議を進めるにあたり、最初に移転ありきという発想ではなく、21世紀、22世紀の日本の社会はどう変化していくのか、その変化に対応して私達はどのような政治・社会・経済システムを選択しなければならないのかといった、いわばこれからの日本の将来像を示す必要があるのではないかと考える。日本の将来像を明確にした上で、新しい日本にとって必要な首都機能とはどうあるべきか、移転以外に取るべき方法はあるのか、無いのかという検討を進めていくことが議論の手順ではないかと思っている。
首都機能移転を行うとなると、これは国家百年の計とも言うべき大事業であり、この問題については、時間的な制約にとらわれることなく、あくまで国民各層の十分な議論を経て、慎重に対応していくべきであることを、繰り返し申し上げて、首都機能移転問題に関する東京都の見解の説明を終わらせていただきたいと思う。
東京都の説明に対し、各委員から以下のような意見が述べられた。
事務局から、首都機能移転について、費用の官民分担や段階ごとの費用など移転費用のモデル的試算の観点等について資料説明を行った後、各委員から意見が述べられた。
以上の審議の後、審議会として、移転費用のモデル的試算の検討を調査部会に依頼することを決定した。
審議会の進め方や審議事項について、各委員から以下のような発言があった。
今後の審議会の開催予定は、以下のとおりとなった。
なお、次回は、地震・都市防災について専門家ヒアリング、災害対応力の強化、世論調査結果報告及び調査対象地域の抽出方法とその問題点について審議することになった。
(審議会開催予定)
第5回審議会平成9年5月21日(水曜日)
第6回審議会平成9年6月20日(金曜日)
第7回審議会平成9年7月22日(火曜日)