平成11年4月16日(金曜日)14時0分〜16時0分
中央合同庁舎5号館別館共用第23会議室
森会長、石原会長代理、野崎部会長代理、新井、石井(進)、石井(威望)、石井(幹子)、宇野、下河辺、中村(英夫)、中村(桂子)、堀江、牧野、溝上、各委員(14名)
池淵、井田、井手、黒川、鈴木、戸所、森地各専門委員(7名)
谷川政務次官、古川内閣官房副長官(事務局長)、近藤国土事務次官、久保田国土庁長官官房長、村上国土庁長官官房審議官(事務局参事官)他
火山災害に係る検討、自然的環境に係る検討について等
火山災害に係る検討結果、自然的環境に係る検討について、説明が行われた後、質疑応答が行われた。
火山災害に係る検討結果について、井田専門委員から以下の説明が行われた。
火山災害つまり火山現象には多くの種類がある。火山噴火は、地下にマグマ(岩石がどろどろに溶けた液体)が出来て、それが上がってくることによって引き起こされる。その上がり方には非常に単純化すると二通りある。1つはマグマが液体のまま溶岩として出てくるのが、溶岩流である。もう一つは、もともと液体であるマグマが、揮発性成分の膨張により山体の外に出るときに粉々に飛び散って、さらに爆発が起こると、マグマの破片が空気と交じり合ったものとして出てくるのが火砕物である。火砕物が浮力を持って上に上がって、非常に広範囲に落ちてくるものを降下火砕物と言い、その典型的なものが火山灰である。浮力を余り得ないで上がり損なってしまい、砕かれたマグマが山を駆け下るものが火砕流である。火砕流は、非常に熱く、また速度も速く危険な現象である。それから、二次的に山が崩れる現象もある。
これらが主な火山現象であり、本検討においては、主に降下火砕物、火山灰、溶岩流、火砕流及び火山泥流、土石流について検討した。
20世紀に発生した、都市を破壊しつくすような災害には、1902年のプレー火山(西インド諸島)の噴火による火砕流と、1985年のネバド・デル・ルイス火山(コロンビア)の融雪泥流の2例がある。融雪泥流とは、噴火によって雪が解けてそれが泥流を誘発することである。
日本における例としては、1991年の雲仙普賢岳で発生した火砕流、十勝岳の火山泥流等がある。
検討対象火山の選定に当たっては、調査対象地域から多少離れていても火山灰などの降下火砕物が影響を与えることも考慮し、この結果、蔵王山、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、高原山、日光白根山、御嶽山、富士山の9火山を対象にした。
火山災害は、種類及び噴火規模が多岐にわたる。大きい噴火は大災害をもたらすが、発生頻度は低いことは一般に知られている。本検討においては、頻度に着目して整理を試みた。
噴火の規模と噴火の発生間隔の間には、大きい噴火ほど間隔は長いという傾向がある。対象の9火山のうち、データが比較的揃っている安達太良山、那須岳、富士山の3火山についてもその傾向があるが、富士山は活動密度が高いことから、分けて考えることとする。いずれにしろ、大体数百年に1回程度の頻度で起こる噴火が起きたときにどんなことが起こるか、数千年に1回程度起きたらどうなるか、数万年に1回程度はどうなるかという視点で問題を整理することした。
これらの発生頻度のうち、候補地の選定にあたってどれを選んだらいいのかということは、この審議会全体の考え方によることであり、我々はそういう検討に資するための情報を提供するという考え方を取った。
なお、数万年に1回程度の噴火というのは、確率的な問題であり、数万年経たないと絶対起こらないということではない。
まず降下火砕物の実績については、例えば、那須岳の1410年の噴火、安達太良山の約12万年前の噴火、富士山の1707年の噴火、御嶽の9〜11万年前の噴火のデータがある。
実績だけでは不十分なので、推測をする必要がある。火山灰がもたらす被害としては、火砕物が1cmを超えて積もると影響が出始め、10cmになると建物が壊れ始め、1mに達すると建物がつぶれて、人が死んだりする。したがって、1cm、10cm、1mの範囲がどこまで及ぶかということを検討することとした。それぞれがどのくらいの範囲に及ぶかについては、噴火の規模と降下火砕物の堆積厚の関係を過去の実績から求め、これを用いて検討した。
その結果、東海地域、三重・畿央地域は、数百年の規模を考えると、影響は北東地域に比べて小さい。数万年規模では、北東地域では1mの降下火砕物の範囲が、調査対象地域の一部に存在する。中央地域では、活動的で噴火の頻度が高い富士山でも1mの降下火砕物の範囲からは逃れている。
溶岩流については、新都市を山から離れたところにつくるという観点から見ると、ほとんど影響がない。
火砕流については、実績は那須岳と安達太良山にあるが、他の火山については予測が必要になる。エネルギー円錐モデルを用いて見積もりを試みた。那須岳では数万年に1回程度の規模になると、場合によっては対象地域内に影響を及ぼす可能性がある。蔵王山、吾妻山も多少影響がある可能性がある。
泥流については、色々な種類があるが、一番重要なものは融雪泥流で、これは、冬に雪が積もっているときに噴火が起き、火砕流が発生し、雪が溶けて発生する泥流である。これはマグマの問題ではなく、雪の量の問題である。数百年に1度の規模の噴火でも積雪はほとんど全部溶けて、泥流として予想される最大規模のものが発生する可能性がある。
検討した結果を要約すると、北東地域の宮城、福島、栃木県は数百年に1回程度の噴火で全域が降下火砕物、火山灰などの影響を受ける可能性がある。また、この頻度の噴火で蔵王山、吾妻山、安達太良山、那須岳に源流域を持つ河川に沿った地域で融雪泥流に襲われる可能性がある。更に、数万年に1回程度の噴火でこれらの火山から約15キロメートルの範囲が火砕流と降下火砕物によって被害を受ける可能性がある。茨城県は高原山の降下火砕物によって数百年に1回程度の噴火で北西端が、また、数万年に1回程度の噴火で全域が影響を受ける可能性がある。
東海地域は、御嶽山、富士山の降下火砕物によって数百年に1回程度の噴火では北端部と東端部が、また、数万年に1回程度の噴火で全域が影響を受ける可能性がある。
三重・畿央地域は数万年に1回程度の噴火よりも頻度の高い噴火(数百年に一回程度、数千年に一回程度)では影響がなく、数万年に1回程度の噴火で降下火砕物の影響を若干受ける可能性がある。
火山の分布から、北東地域の3県と、北東地域の茨城、東海、三重・畿央との間で火山災害において想定される被害に差が出てくる。
この後、以下の質疑応答が行われた。
自然的環境に係る検討結果について、井手専門委員から以下の説明が行われた。
今回の検討においては、生物的な自然を中心とする自然との共生に関わる点、例えば、自然的環境の保全や自然とのふれあい、あるいは自然的環境の形成の難易といった内容を主に検討した。環境に関する検討には、通常物質エネルギー循環等の循環系に関する検討も含まれるが、これは都市活動による環境への負荷という点から別途検討することとしている。
自然環境は、ある程度現地を見ておかないとなかなか感じがつかめないということもあるので、審議会の現地調査の際に行けなかった府県についても、対象地域の主要部は全部見て回っており、その結果も含めて取りまとめた。
国会等移転調査会報告では自然環境等への影響は、移転先候補地の選定段階と新都市の建設段階において配慮されるべき事項と位置づけられている。このことを念頭に置き、次の2つを検討の主要な目的とした
1つは、自然環境を中心とする環境の保全という面から、開発にふさわしくない地域を明らかにするということであり、具体的には、特に保全が優先されるような地域であって、候補地としては不適当な地域や、あるいは自然環境の面から見て配慮すべき事項が大変多いような地域を明らかにした。もう1つは、良好な自然環境を創出あるいは形成していく上での、地域ごとの特性を明らかにすることであり、具体的には、緑を早く回復できる潜在能力や住民たちがふれあうことのできる自然資源の存在等を明らかにした。
一般に自然環境が都市、地域づくりに関わるときには、2つの大きなアプローチの仕方がある。
1つは、ある程度具体的な都市のプランや施設の計画が出来ていて、それらがどういう地域に実現されるのが好ましいか、あるいは特定の場所に計画を実現するときに、どういう自然環境への影響が出てくるかというような立場で検討するものである。従来は、大体この立場で検討されており、この場合、自然条件は立地のための条件と見なされ、立地の適不適のある程度の順位づけや優劣の評価ができるし、また、計画が自然環境に強く影響を与え過ぎないかどうかのチェックがなされることとなる。
これに対して、もう一つ別のアプローチがある。それは、自然的環境や土地条件を出来るだけ生かすための都市のプランはどのようなものかを検討するアプローチである。「環境共生型都市づくり」というのは、この立場に立ったものの考え方ではないかと思う。
この場合は、立地条件に優劣をつけるのではなく、それぞれの地域にどのような自然的条件の特性があるかということを示すことが重要で、新都市の具体的な内容が必ずしも明確に示されていない今の段階においては、このような立場をとるのが妥当であると判断して取りまとめを行った。
次に、検討の項目についてである。現存植生・土地利用を基礎的な資料とし、貴重な動植物あるいは自然性の高い地域がどの程度存在するかというようなことを検討した。また、保全が優先される地域としては、法的な保護地域や貴重な動植物の分布や自然度の高いところ等を把握した。
さらに、昨今の環境影響評価法等の動きをはじめとし、環境調査の流れはもっと幅広い観点から自然環境を捉えるということが求められてきており、今回の検討においてもいくつかの試みを行った。その1つは、現況の価値だけはなく、地域が持っているポテンシャルを捉えようとするもので、例えば、土壌の能力からみて、現在の植生が失われた際、将来大変立派な植生が回復できるといったことについても評価した。これは環境形成の上でも大変重要と考えており、作業としては土壌分類を元にして、土壌の肥沃度と傾斜度等を組み合わせて評価した。ちなみにこのことは、緑の回復の能力ということから見れば植生回復力という言い方になるが、農業生産ということから見ると、土壌生産力という言い方ができる。
2つ目は、最近二次的な自然というものが再認識されてきており、里山をはじめとする身近な自然の価値に対する関心が大変強くなってきている。このため、適度な人為が加わった自然(二次的な自然)は生物多様性がかえって高まるという事実があるため、生物多様性という観点を検討に加えた。さらに、二次的な自然等を中心とする大規模な緑の地域等を、アメニティ形成やふれあいということに関わる、いわばふれあい資源として捉えた。
さらに、点と面の保護だけでなく、生態的なネットワークづくりという観点が重要である。具体的には緩衝帯の機能というものを調査項目に加えたが、これは、大型哺乳類等野生生物の生息を見ても、生息域だけを守るのでは十分ではなく、人間からのインパクトを避けるために、バッファーゾーンというものを設けないと、完全な保護はできないことによる。
また、生息域がある程度狭まったりすると孤立化という問題が起こるが、たとえ生息域が少し小さくなっても動いて生き延びられるよう幾つかの緑地、樹林を連続させることにより、孤立化を避けることができることから、生息地の連続性を調査項目として選んだ。
潜在力、二次的自然、連続性の3つの観点については、現在ほとんど調査手法や評価手法が確立しておらず、今回試みたことは試論であり、今後、調査方法が改善される余地が十分あることをお断りしたい。
また、今回の検討においては、全国の情報を客観的かつ同精度で拾えること、地形等の他の情報との重ね合わせが可能であること、大変広い範囲を大まかに把握するのに適していることから、標準メッシュを使った。
まず、調査対象地域全体にわたって概略を見ると、大部分が潜在的に常緑広葉樹林とモミ、ツガの針葉樹並びにイヌブナという落葉樹の林が成立する地域である。北東の一部だけにブナ林の成立する冷温帯がある。
優占する植生のタイプは、クヌギ、コナラ等のいわゆる普通の雑木林に植林、農耕地が加わったパターンが大変多い。
植生回復力・土壌生産力は、傾斜がきついため、山地でやや低い傾向がある。平地では土壌の肥沃度により高いところと低いところがあり、高いところは大体水田になっている。
森林性の動物にとっての好適地性や森林の連続性という観点からは、山地が保全上かなり重要な位置を占める。里山型の動物(キツネ、リス、タヌキ)にとっての好適性の維持や、山地性の動物(比較的大型の動物等)にとっての緩衝機能の確保のためには、山麓地や丘陵地が重要になるという一般的な大きな流れがつかめた。
次に、個々の地域について、全体的な傾向を話したい。
宮城地域は、調査対象地域の西側の方に自然植生の樹林がかなりまとまっている地域が見られ、これは、特に優先的に保全が必要とされる地域とほぼ対応している。表明地域等では、二次林や植林、農耕地等が混在している。福島県に近い南部は地形分類から見て山地が多く傾斜がきつくなるという理由から、南にいくほど土壌生産力が低くなる傾向にある。山地、丘陵地では森林性の動物にとっての好適性が高い。
福島地域は、調査対象地域の西側は自然公園地域など、優先的に保全する地域が多くなる。表明地域の中では、東側は二次林を中心として植林地がその中に混ざり、森林性動物や里山型動物の生息好適地が広く分布する傾向がある。西側の方は郡山盆地の一部で、農耕地が主体になり、土壌生産力の比較的高い地域が多くなる。アカマツやコナラのような二次林が分布する丘陵地は、森林性の動物や里山性の動物にとって好適で生物多様性が高い。
栃木地域では、北部はまとまった自然林が存在し、優先的に保全する地域が集中する。中部の地域は丘陵地と台地からなり、比較的土壌生産力の高い地域が分布する。東部では植林地が広がり、森林の連続性がかなり強く見られる。那須野ヶ原台地には明治以降の開拓によって形成された大区画の農耕地と、それを取り囲むようなアカマツ林等があるが、残されている写真等からみると、これらの樹林はおおよそ100年近くかかって現在のような林になってきており、その辺をどう捉えるかは、一つの考え方になろうかと思う。
茨城地域の調査対象地域の北部は植林地の多い八溝山地があるが、ここは森林性動物の生息好適地等が広がっている。表明地域で見ても、北部及び中部はこれらの森林性動物、里山性動物の好適地が多く含まれる。南部の方は平坦な台地からなり、畑地が主で、生物多様性は低い。この辺りは生物多様性にかなりはっきりした差が出てくる。
岐阜地域は、調査対象地域全体に二次林、植林地と農耕地が混在するが、長い間の窯業の影響もあり土壌生産力・植生回復力の低い地域が全般に広がる。特に、表明地域の中では丘陵地や山地が多いが、植生的には二次林や松の植林地が大部分である。この地域は過去森林伐採が激しく行われており、そのために土壌形成が不十分で全体的に植生回復力や土壌生産力が低いという一つの特性が見られる。ゴルフ場を除き、里山性動物や森林性動物にとって、生息地の条件としては適しているところがかなり見られる。
愛知地域のうち、調査対象地域の東部は国定公園等の自然公園が大変多いことが特徴としてあげられる。北部、中部は山地と丘陵地からなり、二次林が主体で特に里山型動物や森林性動物の生息好適地が広がっている。南部の一部を除き、地域全体の土壌生産力は低い。これは、北部の瀬戸を中心とする窯業の歴史の影響が強く出ているためと考えられる。表明地域を見ると、西三河北部では、岐阜と同じようにかつて伐採が激しく行われたことから、土壌形成が不十分で、土砂流出防止を目的とした保安林指定を受けている二次林が多く、土壌生産力の低い地域が分布している。東三河南部の方は、畑地、水田等の農耕地を中心とする平坦な場所で、肥沃度から土壌生産力のやや低い地域が分布する。ただ、海岸沿いに森林性動物等の生息好適地が線状に入り込んでいる。
静岡地域では貴重な植生等を優先的に保護すべき地域が全体的に点在している。特に、表明地域の中で小笠山等の丘陵地や山麓には森林性、里山性の動物の好適地が広く分布する一方で、土壌生産力は低い。また、小笠山には重要な植物群落、ウバメガシ林が分布する。
三重(鈴鹿山麓地域)は、山地寄りには茶畑が、台地にはアカマツ林の二次林と水田が混在している。特に、東側は水田と市街地が中心になっており、水田は比較的土壌生産力が高い。西側の鈴鹿山脈付近では傾斜のために植生回復力等が低いことが特徴としてあげられる。
畿央地域は範囲が広くそれぞれ特徴に違いがある。
伊賀地域から甲賀地域にかけての丘陵山地というのは、やせ地の上のアカマツ林が中心で土壌生産力は低いが、一方では、森林性動物の生息好適地になっている。
京都から奈良にかけては、同様にアカマツ林と茶畑が混在しているが、一般的に土壌生産力が低い。また、奈良県側は森林性動物や里山性動物の好適地となっている。
滋賀県の甲賀地域、東近江地域の台地や低地では、アカマツを主体とした二次林に水田が混在しており、ここは土壌生産力が高いところと低湿地とがモザイク状に混ざっている地域である。
西側の笠置山地や東側の鈴鹿山脈、布引山地は、保全上重要な植物群落や自然公園が広く分布する一方で、土壌生産力が低い。
本検討のまとめであるが、今回の検討ではこの調査のレベルで見る限り、自然環境の面から見て全域が候補地として適当でないという地域は見出せなかった。また、自然環境を生かした都市形成に対して有利な点等、個々の地域の特徴の詳細を示すことができた。なお、本検討は、地形の良好性や土地取得の容易さ、災害等他の分野と密接に関わるので、調査結果を総合的に検討するに当たっては、再整理する必要があるとも考えている。
例えば、植生自然度は、一面的な評価で見るものではないが、もし、自然度が高いものほど大事であると考えるのなら、自然度の8、9、10をAランク、それから、6、7をBランクというようにして、総合評価を行う等の操作が必要になると思われる。今回の検討がそのための一つのデータを提供できるものになればと考えている。
なお、細かな点については、今後更に地域を限って検討する必要が出てくることも考えられ、また、特性把握についても、手法がまだ未確立な部分は今後更なる検討を要すると思っている。
この後、以下の質疑応答が行われた。
次回、第18回審議会・第15回調査部会合同会議については5月20日(木曜日)16時30分から、第19回審議会・第16回調査部会合同会議については6月17日(木曜日)14時0分から行われることが事務局より提示された。
以上
(文責 国会等移転審議会事務局)