平成11年9月28日(木曜日)9時30分〜11時40分
中央合同庁舎5号館別館共用第23会議室
森会長、石原会長代理、野崎部会長代理、新井、石井(進)、石井(威望)、海老沢、中村(桂子)、中村(英夫)、濱中、堀江、牧野、宮島、溝上、鷲尾各委員(15名)
井田、井手、金本、鈴木、戸所各専門委員(5名)
中村京都大学教授
谷川政務次官、久保田国土事務次官、木下国土庁長官官房長、板倉国土庁大都市圏整備局長(事務局次長)、他
評価項目に係る地域ごとの評価方法、首都機能移転にかかる主要論点の整理、関連事項の検討について等
各評価項目に係る地域ごとの評価方法について、各委員から説明があった後、質疑応答が行われた。続いて首都機能移転に係る主要論点の整理、関連項目の検討について事務局から説明があった。
各評価項目のうち、10項目についてそれぞれの検討会の座長から評価方法の説明と質疑応答がされた。
最初に金本専門委員から東京の過密の緩和について説明があった。
首都機能移転が東京の過密緩和について、どの程度効果があるか、移転先地ごとに評価していくことが課題であり、企業アンケートの調査結果に基づいて報告させていただきたい。
評価を行う場合、2つの評価指標を考えており、一つは企業立地ポテンシャルという企業立地での地域の魅力度であり、移転することにより東京圏の魅力度の低下を評価している。もう一つは東京圏に本社を置く企業が本社・支社を東京圏から移転するかどうかを整理しているので、それを指標とする。
評点はA〜Eとなっており、Eは過密緩和効果が極めて少なく、Aは過密緩和効果が極めて大きい。
昨年、アンケート結果を報告したが、東京の立地ポテンシャルは大きく変わらないという結果であった。また畿央地域での効果が他の地域より若干高いという結果であった。企業アンケートの結果ではそのように見られており、そういった方向で評価していく。
次に石井威望委員から新しい情報ネットワークへの対応容易性について説明があった。
情報分野では新しい世代(ネットジェネレーション)が生まれており、できるだけ新しいネットワークを使いこなすであろう人たちに対応容易な立地という観点から評価を考えている。
評価指標については、アメリカのシリコンバレー等、先進的な情報ネットワークが根づいているところで何らかのデータを活用出来ればよいのだが、日本でどうなるのかということを考えた場合、残念ながら直接あてはめることも難しい。また、情報通信分野の技術革新やその普及サイクルはますます進んできており、将来を見こして、どういった新技術が出現し、普及していくのかを予測することも極めて難しい。そこで、評価する時点として新都市のまち開き段階までを視野に入れつつ、評価指標としては、現状において新都市周辺で実際に発信された情報量及び受け取って利用した情報量の地域的な大まかな傾向が当面の間は続くであろうと考え、これを採用することとした。
評価の段階は、地域の平均と比較して50%未満をE、50〜80%ぐらいをD、80%以上120%未満をC、120%以上150%未満をB、150%以上がAという区分で行いたいと思う。
次に井田専門委員から火山災害に対する安全性について説明があった。
我々は火山災害に関しては火山灰等の降下火砕物、あるいは溶岩流、火砕流、火山泥流などについて検討を行ってきた。災害の規模というのは、どの位の頻度で起こるということと関係してくるが、それに関しては、数百年に1回程度で発生する災害に着目して分類することにした。
問題になるのは、火山灰等の降下火砕物と、比較的小規模な噴火でも冬場に火砕流などで雪が溶けて融雪泥流が起こる可能性である。数百年に1回程度発生する災害に関して、その2つを基準にしてA〜Eの5ランクに分けた。
Aというのは、火山災害がほとんど考えられない場所で、調査対象地域の多くがこれにあたる。Bは降下火砕物が1cm程度の影響が考えられ、Cは10cm程度である。DとEは融雪泥流の影響が考えられるところである。ごく一部、又は周辺の地域が融雪泥流で影響を受けるかもしれないところをDとし、地域の中央も影響を受ける可能性があるところをEとした。
留意点としては、A〜Eで、あえて分けたというのと違い、本当に大きな差がある。しかし、D、Eとなった場合でも、施設配置等により、ある程度の対策は考えられる。
今回の検討において、B〜Eと評価された地域が移転候補地となった場合には、火山災害の予測範囲に関して精査を行い、その結果を都市施設配置等の検討に反映させることが望ましい。
次に地震災害に対する安全性について溝上委員から説明があった。
地震災害に対する安全性の評価の方針は、数百年程度の間隔で発生する地震による揺れを、過去の実績及び、震度のシミュレーションに基づいて評価する。
ピックアップした6地震は巨大地震と言われるもので、台湾の地震の数倍ないしはそれ以上のスケールを持つ、つまり列島全体を揺るがすような、海溝型の4つの巨大地震と、海溝型の地震が内陸につながっている2活断層に伴う地震の合計6つである。そのほかに21活断層をピックアップしており、6地震による評価と重ね合せて考えていく。津波についてもその可能性について検討を行って、補正事項としている。
評価の方法は、6地震については震度予測によるシミュレーションによって、震度6以上が出現する可能性が低い、部分的に震度6から7が出現する、広く震度7が出るという区分をしている。これを基本として、21の活断層の密度によるを評価を行う。津波の評価は補正項として考慮している。
その結果、6地震による評価でa1、b1、c1の3つに区分し、その中から更にa2、b2に分かれるので、全体としてA〜Eという評価のランクづけができる。この中には、海溝型の巨大地震が数百年内に必ず起きて、更に活断層もそこに加わり、津波もあるという条件のそろったものと、いずれの条件もほとんど心配する必要のないところで相当開きが出てくる。
留意点としては、東京との同時被災ということでは、東京から半径60キロ範囲、関東地震で震度6以上の範囲というものをあらかじめ除いて検討しており、これは現在の評価の対象外になっていると考えていただきたい。
最後に、これらの知見は現在まだ研究中のものが多数あり、特に活断層の調査などは日進月歩であり、その結果によって、この評価も将来ある程度の見方の変化が生じるかもしれないことを付け加えておく。
続いて大規模災害に対する対応力について溝上委員から説明があった。
評価の方針として、大規模災害時の新都市の司令塔機能の発揮と首都機能に関する各地との間の諸活動の維持等の観点から評価を行った。首都機能に関する各地との間の諸活動の維持とは、行政等の活動が損なわれないことと、もう一つ重要なことは、評価の対象となるのは、新都市と各地の間のリンケージである。
評価の方法は、衛星系の通信が将来大幅に導入されることが考えられるが、航空手段のように地域差の非常に少ないものと、鉄道・道路のように線でつながれており施設がダメージを受けるとすぐに影響が表れるものと2つの観点があると考えている。大規模な鉄道・道路の場合には、震度6以上の地震と火山災害を考えている。火山災害については降下火砕物の堆積の厚さ10cm以上というものと地震の震度6というものを同じレベルとして取り上げる。これによって2つをまとめている。このような方法で区分していく。
基本項目と補正項目というものがあるが、基本項目は、地震災害で検討した6地震、及び9火山の数百年に1回程度発生する規模の噴火による影響であり、補正項目は、21の活断層に伴う地震、及び9火山の数千年に1回程度発生する規模の噴火による影響である。総合評価として、評価Aというのは新都市と主要都市との情報・交通はほぼ安全が確保される可能性が高い。評価Eは新都市と主要都市間の情報・交通は大きな影響を受ける。代替の手段がほとんどないというような両極端と、それから実際に現実的に考え得るB〜Dというものとが分けられるということになる。
留意点として、大規模な地震及び火山災害が発生した場合、主要都市と新都市との間の情報交換が確保できるかという点について評価したものであって、大規模災害への対応力という言葉が付いているが、対応力そのものを正面から受けとめた評価ではない。
評価の方法は、第2タームの調査で「造成工事の容易性」、「地形条件等に起因する災害に対する安全性」、「地形の持つ快適環境性」を評価軸として、国土数値情報から種々の起伏量、地盤等のデータを抽出して作成した500m×500mのメッシュについて多くの指標を組み合わせてA〜Eの5段階評価を行った。
即地的評価項目に係る地域が設定されたので、その地域についてA、B、C、D、Eという評価のメッシュを数えることは簡単である。そこで、2つのやり方を考えた。1つは、良好なメッシュであるAとBの全体に占める割合を調べる。それだけであるとC、D、Eが評価できないので、A〜Eを加重平均する。そうすると、地域の平均的な良好差が出てくる。非常に優秀なところと平均的なところ、それを組み合わせてグラフににプロットすると相関がある。その2つの軸をキーにして、最終的にその組み合わせから5段階に評価する。こうすることによって客観的に即地的評価項目に係る地域を5段階に分けることが可能である。
その上で、まとまった地域の必要性や周囲との関係では即地的な地形条件に加えて若干補正しなければならないことがあると思う。その地域を囲む土地に広大な広い軟弱地盤地帯がある、あるいは、その地域のすぐそば、もしくは地域内に深い渓谷がある場合、地域ごとのA〜Eのランクを下げるという操作が必要であろう。
次に景観の魅力について中村良夫京都大学教授から説明があった。
景観の魅力というのは都市建設中の配慮事項ないしは都市の化粧の仕方の列記をするものではなく、魅力的な景勝地を発見することである。我々は山水のすぐれた場所が優れた景勝地であり、山と水のつくり出すすぐれた景勝地の選定を基本方針とした。このような方針を選ぶ理由は2つあり、1つは、我が国の都城ないしは封建都市は平安京など景観のすぐれた場所を選んでいた(景観占地)。もう1つは、地球全体の文明ということを視野に置く時代になり、大地、生命の象徴として山水というものが新しい普遍的な価値を持つであろうという考え方である。
評価の方法であるが、たくさんの地域を現地調査し、6つぐらいの類型に分けることを考えた。(1)秀峰明水型は例えば岩手山と北上川が見える盛岡の町、(2)望潮山水型は江戸の古典的な形、あるいは鹿児島、(3)天空海闊型は大地の上で海の見晴らしがいい大阪、那覇など、(4)囲繞山水とは伝統的な日本の都の形、(5)里山谷戸は鎌倉など、(6)八尾八谷型とは、南北朝時代の吉野一乗谷といったところが考えられる。
この6つの類型が評価する物差しの目盛りの位置になると考えいただければよろしいと思う。
6つの類型というのは一般的に、それぞれに魅力があり、優劣はつけがたい。しかし、首都機能都市にどれがふさわしいかであるという問題を設定すれば、それは可能であろう。
首都機能移転の評価には、4つの評価の視点がある。
1つは多くの人が訪れるハレの舞台として相応しいという「類型の象徴性」であり、もう1つは一目見て簡潔で印象に残りやすいという「類型の明晰性」である。この2つを合わせて象徴的明晰性という。この2つの観点から6つの類型を評価する。これが目盛りであり、各地域はその上ないしはその中間点に分布することになる。
この評価に、ある条件が満たされればもう少し評価がよくなるという補正条件として、「大局的景観演出の可能性」「局所景観設計の可能性」の2つの評価の視点が加わる。これは実際に都市づくりに入った場合に、都市全体の景観的なイメージを決める演出ないしはリテールの設計によってでき上がった山水都市としての仕上がりが非常に変わってくる。そのため、ランドマーク、水、土地の高低、既成市街地といったものを付帯条件として評価している。大変すぐれているが水の印象がやや低いとか、既成市街地に相当厳しい景観をコントロールしていただくというものもある。丘陵地の利用に対して細かい指摘をしたものもある。いずれも附帯条件として守っていただくことを条件にした評価をしている。
最後に申し上げたいのは、景観で都市を選ぶというのは、一目見て分かるように国の理想を掲げるということであり、国の旗印を決めるものと考えている。
次に自然環境との共生の可能性と環境負荷の低減の可能性について井手専門委員から説明があった。
まず、自然環境との共生の可能性についてであるが、評価の方法として、いかに現在の自然環境を保全する必要があるか、そのファクターは何かということと、もう1つは、良好な自然環境をつくり出していくときにどのような有利な条件があるか、という2つの点から評価を考えている。
実際には自然環境の回復、特に植生形成等の有利さが大きく効いてくる。また、新都市の住民が豊かな自然とのふれあいが可能になるかどうか。更には、生物多様性などの自然環境への悪影響がないかというように、幾つかの場合に分けて5段階評価を行う。
評価の結果は大体植生の回復力ということに大きく影響される。したがって、土壌の形成が余り十分でない地域は比較的低い評価になってくる。これは即地的評価項目に係る地域の中での相対比較であるので、日本全土で見ると土壌形成がいいところは、農林業との間の競合が当然起こってくる。しかし、今回は農林業との競合はある程度クリアされているという前提で植生形成、自然回復ということをかなり重視した評価になっている。
今回の評価では貴重な動植物といった国土数値情報のレベルではのってこない細かいレベルのものはは入っていない。しかし、これは現実にはかなり問題になる。これについては、今後の都市づくりの段階での現地調査が重要になってくる。
里山などの二次的な自然は、管理体制が大きな意味を持っている。管理がずさんな場合には生物多様性も下がることもあるので、地域の自然環境に対する取り組み方、姿勢というものが今後の自然環境の管理に関して大変重要な役割を持ってくる。
続いて環境負荷の低減の可能性であるが、これは3つの観点から評価を行っている。環境負荷発生量の地域差、立地条件の違いによる発生した環境負荷の影響の地域差、環境負荷の削減方策を導入する場合の適性の地域差の3つの評価を考えた。
具体的には、気温等の違いによる冷暖房のエネルギー等の使用量の変化、排水による水系への水量、水質への影響、地形等の条件の違いによる環境負荷の影響の変化、あるいは、環境負荷削減の方策として太陽光発電を導入しようとする場合の地域による有利さ、あるいは自転車交通を導入する場合の地形上の問題点といったことから、4段階に分け、最終的にそれを取りまとめて5段階評価を行う。
地域ごとの差を見ると、負荷の低減の可能性は全体的には余り大きな差とはならない。したがって、評価が低い地域は短絡的にこれは新都市に不適だということには必ずしもならない。むしろ、各種の先端技術の導入によって、大幅に今後環境負荷の削減の可能性が出てくる。環境負荷対策という技術的、施策的な側面の影響が大変今後大きくなってくるだろうということが今後の留意点として考えられる。
次に文化形成の方向について戸所専門委員から説明があった。
文化というのは一見とらえどころがなく、これを評価するというのは非常に難しい。しかし、時代を大きく左右する力を持つものも文化であり、そこから国の形、人々の具体的な行動を生じさせるもの、その基となるのが文化であるかと思う。
そこで文化に関する検討会においては、過去2回にわたって文化的側面と首都機能都市との関係について報告させていただいた。それらを基に3つの評価軸と各評価軸ごとに5つの評価項目を設定し、合計15の評価項目を立てた。この評価軸の一つとしては、「新都市の個性・イメージ」があり、5つの評価項目ごとに実現するにはどこがよいのかということを審議会に評価していただきたいと思う。評価項目として例えば「軽やかで小さな政治行政都市」というものがあり、これをある地域に実現する場合に、非常に「大」、「十分大」、「大」、「やや小」、「小」という5段階で各委員の先生方に評価していただくと考えている。「国内外へ向けた我が国の新たな姿」という評価軸では、海外から見てよい印象を持って迎えられるのか、どんな形の国になるのか、どのように見えるかということが評価項目となる。これも精神的・文化的豊かさへの転換と日本文化の創造から、それぞれの地域ごとに評価していただくということである。もう1つの評価軸は「新都市と国民・全国各地との係わり」であり「東京を中心とする意識構造の変革」あるいは「新都市の位置と全国民からの親しみやすさ」といった5項目を評価していただく。
文化形成の方向は視点によって、同じ項目もかなり評価が変わる。検討会としては、直接審議会委員の先生方に1次評価をしていただいて、総合評価に持っていきたい。各委員の先生方の御見識と良識であるべき姿というものを評価していただきたい。
続いて全体を通じての意見交換・質疑応答が行われた。
新しい情報ネットワークへの対応容易性については、今、情報は場所に関係ないと思う。今度の国会等の移転がどこに移ろうと情報の問題は解決できる問題ではないか。大規模災害への対応力というのは連携確保性ということであり、これも対応は可能である。この3つの項目が一番苦労した。
もう一点は、コストの検討をどこでするのか。重みづけをする前に絞られた地域があるわけであるから、各地域ごとの特性を踏まえたコスト、あるいはそこに置いた場合のランニングコストを含めて評価すべきではないか。もう一つは官民の負担区分は出ているが、地方自治体の負担が表には全然出てきていない。そのような負担区分も明らかにした上で。重みづけの判断することが必要になるではないか。重みづけの作業方法についても、いろいろと疑問がある。
重要であると思われる項目であっても、実際に首都機能移転しても実効性はない項目も中にはあるようである。重要性と実効性の両方が問題になるのではないかと考えている。
次回、第23回審議会について、10月7日14時0分分から調査部会と合同で行われることが、事務局から提示された。
以上
(文責 国会等移転審議会事務局)