ホーム >> 政策・仕事 >> 国土計画 >> 国会等の移転ホームページ >> 国会・行政の動き >> オンライン講演会 >> 「防災第一に小規模で素早い移転を」

国会等の移転ホームページ

「防災第一に小規模で素早い移転を」


諸井 虔氏の写真諸井 虔氏 太平洋セメント(株) 取締役相談役

1928年生まれ。1953年東京大学経済学部卒。(株)日本興業銀行入行。1967年秩父セメント(株)入社。1976年秩父セメント(株)代表取締役社長就任。1994年秩父小野田(株)代表取締役会長を経て、平成10年10月より太平洋セメント(株)取締役相談役。

経済同友会・幹事、産業構造審議会・委員、経済審議会・委員、税制調査会・委員、地方分権推進委員会・委員長。



防災が首都機能移転のポイント

私は以前からそう言い続けているのですが、首都機能移転の最も重要なポイントは防災だと考えています。その視点に立つと首都機能の移転はなるべく早く実行したほうがいいというのが私の考えです。そして防災という視点で考えれば、移転の規模は必要最小限にすべきだと思います。日本では完全に安全な場所というのはないと思うのです。ですから比較的安全と思われる場所に、相当な災害があっても持ちこたえることができるような構造のものをつくる必要があります。そのためには、あまり高層化しないとか、分散してつくるというような形になっていかざるを得ません。そうなればやはりあまり大きなものを考えるのは無理になってくると思います。

ページの先頭へ

移転は統治機構を中心として最小限に

それではいったい、何と何を安全な場所に置いておかなければいけないのか、ということになりますが、それは日本の統治機構だと思います。これが一瞬にして壊滅したら、たて直すのは容易なことではありません。小松左京氏の「首都消失」という小説がありましたが、そのような状態になったら、意思決定のあり方をどうするのか、一から政府を構成し直さなければならなくなり、大変なことになります。統治機構とは国会であり、行政すなわち中央省庁の中の主要な部分であろうと思います。天皇陛下は国会関係をはじめ国事行為もいろいろありますので、新都市に来ていただく必要があると思います。ただし、常時そこにいていただく必要は必ずしもなくて、来ていただく場所をきちんと作っておけばいいと思います。

外国の大使館なども果たして新都市に移す必要があるのでしょうか。東京にあってもいいのかも知れませんし、その場合には外務省の一部の機能は東京に残す必要があるのかも知れません。

ですからなるべく必要最小限に絞って、統治機構及びそれに付随するいろいろなものを移すというのが基本だと思います。統治機構が一瞬にして壊滅するという事態だけは絶対に避けなければなりません。

ページの先頭へ

一極集中から多極分散へ

もう一つの発想は、一極集中の弊害を解消することです。日本は高度成長の時期には一極集中のメリットをおおいに享受してきました。しかしその後はデメリットもたくさん出てきています。これからは一極集中の方向だけでなく、多極分散するような方向も合わせて、双方向で考えていく必要があると思います。集中する方は放っておいてもどんどん集中が進んでいきます。したがって、一方で多極分散をすることを考えなければなりません。そのように考えますと首都機能を全て新都市に移すのではなく、分都というのでしょうか、首都機能のうち中枢としてどうしても必要な部分だけを新都市に移して、他の機能は別の場所に移すことも可能なのではないかと思っています。

最高裁判所が法律的に、あるいは行政的に新都市にあるべきなのかどうかよくわかりませんが、例えば仙台にあってもいいのではないでしょうか。最高裁判所が仙台に移ったとすれば仙台を日本の法律の中枢にすることも可能になります。同様に例えば特許庁を名古屋に持っていってもいいのかも知れません。そうすれば名古屋をハイテクのメッカ、ハイテクセンターのような位置づけにすることができるかも知れません。このようにすれば一極ではなく、多極になっていきます。そのように分都した場合は、新都市が災害を受けたときに被害を受けない部分が政府の中に残っていくことになります。人材も機能も残るわけです。これは災害に対するもう一つの備え方にもなるのではないでしょうか。

ページの先頭へ

財政負担もできるだけ少なく

首都機能移転に対する反対論の中に、お金がかかり過ぎるという意見があります。景気対策だという意見もあるかも知れませんが、日本のこれからの財政というのは、国も地方も非常にひっ迫した状態になっていくだろうと思います。そういう中で首都機能移転を行うのならば、やはり財政負担はなるべく少ない方がいい。そういう意味でもあまり規模を広げない方がいいし、分都のようなことをあわせて考えるのも一つの方法だと思います。ですから分都であれば、東京に残る機能も当然あっていいわけです。

今想定されている60万人という規模は、時間もお金もかかります。できあがるまでに災害が起きたら元も子もなくなってしまいます。将来結果として大きくなることは構わないのですが、はじめから60万人という規模は大き過ぎると思います。10万人くらいの規模が最終的なイメージで、最初はもっと小規模なほうがいいと思います。

ページの先頭へ

首都機能移転と同時に様々な仕掛けを考える

せっかく首都機能を移転するわけですから、同時に仕掛け作りをすることを考えるべきだと思います。例えば行政の情報化です。これから情報通信革命の時代になっていきますから、ネットワークというものをどのようにうまく使っていくかを考えた時、行政を徹底的に情報化するいい機会といえます。行政情報をすべてマザーコンピュータに入れて誰でも引き出せるようにすれば、地方分権も進むでしょうし、規制緩和も進んでいくのではないでしょうか。対外的にもオープンで開かれた国になったという印象を与えることができると思います。情報化することで何から何まで移さなくて良くなるという面も出てくると思います。

それから現在の縦割り行政を解消していく仕掛けもできるのではないかと考えています。行政が縦割りであるために、規制の緩和、分権、民営化といったことが進んでいかない面がかなりあると思っています。そういう弊害をなくすために、例えば新都市では各省庁を定年になった人に補佐官のような形で内閣に来てもらうのです。各省庁から集まってくるわけですから、その人たちが協力してチームをつくれば、すばらしい政策がどんどん出てくるのではないかと思います。

ページの先頭へ

世界に開かれた新都市に

日本も世界の国々の中で生きていて、各国ともいろいろな利害があるわけですが、結局人類社会全体が良くなっていくことと日本が良くなっていくことが、方向として一致するようにしていかなければいけないと思うのです。日本は得をして他の国が損をするとか、あるいは日本だけが損をして他の国が得をするというような国際関係ではなくて、日本が利益を得ていくことが同時に人類社会全体の利益になっていくような関係が望まれます。例えば日本が環境問題などで新しい技術を開発したり、新しい事業を生み出していくことは、必ず世界のプラスになります。そのような前提に立つと国際的に非常に開かれたイメージを持つことが新都市にとって大事なことになると思います。交通や通信の便というのもとても大事なことだと思います。

ページの先頭へ

行政依存からの脱却を

かつて司馬遼太郎さんが存命のころ、遷都を歴史的に見ると必ずそこには意味があるということをいわれて、感銘を受けた記憶があります。その言葉は、果たして今回の遷都はどういう意味なのか、という問いかけをされたのだと思います。今の時代でいうならば、基本的には今の中央集権行政主導・行政依存という体制から、政治は政治の、行政は行政のそれぞれがそれぞれの本来の役割を果たすという形にもどしていくことだと思います。そして経済の問題は企業が自己責任で行い、地方の問題は地方がそれぞれの責任で行っていくというように、それぞれが自分の責任をきちんと果たしていくように国の体制を切り替えて行くことが一番大きなポイントだと思います。そのためにも首都機能移転は小規模であることが望ましいと考えています。

ページの先頭へ