ホーム >> 政策・仕事 >> 国土計画 >> 国会等の移転ホームページ >> 国会・行政の動き >> オンライン講演会 >> 「ネット世代が活躍できる新首都を」

国会等の移転ホームページ

「ネット世代が活躍できる新首都を」


石井 威望氏の写真石井 威望氏 東京大学 名誉教授

1930年生まれ。1954年東京大学医学部卒業後、1957年に東京大学工学部卒業。東京大学工学部教授、慶應義塾大学環境情報学部教授、慶應義塾大学院政策・メディア研究科教授を経て現在東京大学名誉教授、慶應義塾大学院政策・メディア研究科客員教授。専門はシステム工学、マルチメディア。国土審議会会長、国会等移転審議会委員、厚生科学審議会委員等。

主な著書に「モバイル革命」「日本人の技術はどこからきたか」など。



工業社会の首都機能移転ではなく情報社会の首都機能移転を

私の専門は情報ネットワークで、国土全体の情報化が研究対象になっています。工業社会から情報社会へという構造変化が進む中で、工業社会の首都をイメージして首都機能を移転すべきではないと思います。21世紀の新都市はインターネットやモバイル機器等の新たな情報ネットワークを自由に使いこなす世代が活躍する場になります。時代の変化に対応するためには、工業社会の機能をそのまま移転するのはではなく、情報社会における首都機能移転を考えなければなりません。

しかし、情報の技術革新はドックイヤーと言われたり、ウェッブイヤーと言われるように、非常に早いスピードで進んでいます。ウェッブというのはネットワークのことです。ネットスピードという表現も使われるようになっています。携帯電話がその代表です。今でこそ、携帯電話、つまり移動体通信を個人が持つということは当たり前のことになっていますが、5年前には考えられなかったことです。21世紀を予想することは、明治維新の前に明治維新後を予測するようなもので、非常に難しい作業です。だからといって、何もしないで手をこまぬいていると、情報化に出遅れた日本はますます米国との格差が開いてしまう可能性があります。

ページの先頭へ

情報化の影響を過小評価した日本

工作機械の生産額の推移をドイツ、米国と比較してみると、日本は1980年くらいから両国を抜いてトップに立つようになりました。工作機械は「工業のマザーマシン」と言われ、戦前は輸入に頼っていました。それが1980年代の前半には生産額で世界一になり、貿易摩擦を起こすほどに成長しました。そして80年代半ばになると、日本は生産技術に対して揺るぎない自信をもつようになりました。ところがどうしたことか90年代に入ってからあまり振るわなくなっています。逆に日本に抜かれた米国の経済が好調なわけです。このことは情報通信ネットワークが持っているインフォメーション・テクノロジーのパワーが重要になりだしたということを示しているのだと思います。逆に日本は工業社会での成功体験が新しい時代への対応を遅らせている面があるのではないでしょうか。

特にインターネットを活用する能力の不足が足を引っ張っている面が見られます。ある調査によると、カナダ、米国といった国では、インターネットを活用している経営者の割合が6割を超えているのに対し、日本では15%にとどまっています。だいたい4倍くらいの差があります。米国は人口が日本の2倍ですから、実数で言いますとインターネットを使いこなせる経営者の数は米国が日本の8倍になっているわけです。それに情報社会は非常にスピードが早いわけですから、そこで経済競争しようとしたときに、非常に深刻な状況になっているのではないかと思うのです。

ページの先頭へ

将来を担うネットジェネレーション

ただし、長期的には変わっていくと思います。情報化の観点から日本の世代を見ると、40歳以上を「プリントジェネレーション」、30歳代から高校生くらいまでを「テレビジェネレーション」、中学生以下を「ネットジェネレーション」というように分けることができます。ネットジェネレーションとは、幼児期よりファミコンやモバイル、インターネットといった情報ネットワークを体験している世代を指します。米国では現在、ネットジェネレーションが先頭に立って情報革命を引っ張っています。

私は先日小学校4年生の子どもから電子メールをもらったのですが、その子がメールのアドレスを教えてというので、教えたらすぐ来たわけです。学校でもまだ教えていないでしょうから、父親のパソコンを使ったのでしょうか。そういう意味では家庭の中でも変化が起きているのかも知れません。この世代が社会の中心になったときに、社会はどのように変わるのでしょうか。とてもおもしろい時代になっていると思いますし、首都機能移転の問題を考えるときも、ネットジェネレーションが活躍できるように立地やインフラ整備を考える視点が不可欠だと思います。中核都市からのアクセスが容易でありながらも、旧来のインフラやコンセプトの束縛を受けない距離が望ましいかも知れません。

ページの先頭へ

モバイル社会からウエアラブル社会へ

この前和歌山県が南紀熊野体験博という博覧会を開催して、大勢の人が熊野古道という参道を昔と同じように歩いたのです。けれども平安時代と違うのはみんなが携帯電話をもっていたことです。自然の中を歩くという昔ながらの行為にも情報化が起きているわけです。花火大会でも人がどっと集まってきたときに、携帯電話をもっていれば、そこがすぐ情報センターになるわけです。愛知万博の頃には携帯電話も7000万台くらいまで普及しているでしょうから、みんながモバイルで行動する初めての万博になると思います。その時の様子はネットジェネレーション時代のライフスタイルを考える際の参考になるのではないでしょうか。そしてこれがもっと進むと、衣服を身につけるように情報機器を身につけるウエアラブル社会に進んでいくと考えています。この様な変化の中で、首都機能における情報のあり方も大きく変化するはずです。

ページの先頭へ

変化に対応できる「新陳代謝」が重要

ネットジェネレーションを対象にいろいろな実験を行っていますが、それらを通していくつかの特徴が推察できます。例えば、ネットワークを活用する頻度が高い人ほど、対面によるコミュニケーションや情報収集を積極的に行っていることです。情報活動がアクティブになって、テレビを見る時間は減少し、現場にいくようになるわけです。また、仕事の場、くつろぎの場、遊びの場所を区分する意識も希薄になっていきます。複数の作業を同時並行的に進めるマルチタスク型になっていきます。ITS(高度情報通信システム)などの発展とウエアラブルコンピューティングがあいまって、移動さえも他の行動の時間に変わっていきます。メディアに対して能動的に働きかけながら、ネットワークを通して必要な情報を共有し、フットワークに結びつける行動をとるのです。私たちはこれをネフットワークと呼んでいます。

新都市はこのようなライフスタイルを支援するような情報インフラを整備することが必要になりますが、重要なことは情報ネットワークをどんどん新陳代謝できるようにしておくことです。米国はデスクトップのような有線のシステムにかなり投資し、重くなり過ぎているように思います。したがって次の変化に対応する場合、素早くできるかどうかわかりません。情報機器もどんどん進化するわけですから、それに対応できる柔軟性を備えておくことが新時代の都市を考える際の最も重要な点だと思います。

ページの先頭へ