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「環境と情報の時代の首都:現行議論の時代錯誤」


原科 幸彦氏の写真原科 幸彦氏 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 環境理工学創造専攻 教授

1946年生まれ。1975年東京工業大学大学院博士課程修了(理工学研究科建築学専攻)。環境庁国立公害研究所主任研究員、米国マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京工業大学工学部社会工学科教授等を経て、1998年から現職。著書に「戦略的環境アセスメント」(監訳)、「環境アセスメント」、「都市と環境―現状と対策―」(分担執筆)など。



道州制で首都機能のあり方も変わる

首都機能移転の目的に一極集中の排除が唱われていますが、ただ今の東京が移動するだけであれば、あるいは現在のシステムの中での首都機能が移転するだけであれば、一極集中の排除にはあまり効果がないと思います。一極集中を排除するためには、まず、首都機能そのものを見直す必要があります。私は、分権化を本当の意味で進めた上で、純化した首都機能を移転させるべきだと考えています。直接的に申し上げると、道州制で社会のシステムを変えていくことが必要だと思います。道州制に変えていって、連邦政府に相当するような機能を首都機能とするのであれば、機能が随分シンプルになり軽くなるはずです。そうなれば立地条件も、都市の作り方も変わってきます。今考えているような規模ではなく、ずっと小さな規模の立地選定をすればいいわけです。そうすると、立地選定のフレームワークは全く変わってきます。

ですから、まず首都機能のあり方そのものをきちんと議論しておく必要があります。それをしないと、多分うまくいかないのではないかと思います。どんどん情報を提供してもらって、果たしてこれでいいのだろうかと、みんなが考える材料にするといいと思うのです。本当に今、東京の持っている機能がそのまま動いてしまっていいのだろうか、という問題意識も生まれてきます。また事実、東京都は反対しているわけです。そうすると、私が提案する道州制という議論が、だんだん浮かび上がってくるのではないかと思います。

道州制導入の契機となるのが、省庁再編で国土交通省が誕生することです。国土交通省はあまりにも大きいので、基本的には今までのブロック単位、すなわち、これからは地方整備局単位での活動を重視する方針であると聞いています。そのときに権限や財源を道州制のような形で分けていくように分権化を進めていけば、新しい省庁再編に対応した新しいシステムとして、道州制の方向へ進めることができると考えています。

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道州制のメリット

道州制に移行すると首都機能は随分変わってきますから、首都機能の移転はかなりやりやすくなるのではないでしょうか。1つには、抵抗が随分減ると思いますので、社会的合意形成がしやすくなります。例えば、東京だけで東京州としますと、今東京都が行っている仕事の大多数、9割ぐらいは東京都に残ります。その程度の規模であれば、東京もそれほど反対しないと思うのです。今のシステムで地方になるのは損だということを、東京都はよくわかっているわけです。自己責任で自己決定ができるような仕組みにすることが、東京の納得を得られる方法だと思います。

道州制の導入は、環境政策の面でも有効です。環境政策において先進的な国は、大体人口規模が1千万人前後の国が多くなっています。例えばスウェーデンが850万人ぐらいです。オランダは1,500万人です。ドイツは連邦制で分権化が進んでいます。州で一番大きいところで1,700万人で、平均は500万人程度です。それからノルウェー、これも500万人ぐらいです。デンマークも500万人です。ですから、500万人から1,500万人という範囲かその境界値前後あたりのところに、環境政策の先進国は、例外なくみんな入っているのです。

日本は1億2,500万人でやっているから、かじ取りがうまくいかないのです。環境政策というのは、思い切った社会実験が必要です。1億2,500万人で実験して失敗したら大変なことになりますから、日本全体ではやりにくいと思います。もし日本を10ぐらいの単位に分けることができれば、平均1,200万人程度になります。将来、人口が減ったとしても800万人ぐらいの規模でしょう。そうしますと、社会規模において今環境政策において積極的な取り組みをしている国と同じ規模になるわけです。しかも1人当たりのGNPはアメリカをもしのいでいますから、総額で見るとヨーロッパの国と差がないのです。経済力があり、人口がそろっているところには人材もいます。そういう意味では、日本はいい条件を備えているのです。しかも、北は北海道、南は九州、沖縄まで多様な気候帯で、多様な生態系があります。生態系のまとまりがある単位で環境政策を講ずれば、かなりうまくいくと思います。

道州制の3つ目のメリットは、人材育成上の問題です。東京が中心だと東京に行かなければうまくいかないという発想がバックにあります。だから地域になかなか誇りを持てないのです。10ぐらいの道州に分ければ、その社会のセンターで非常に高度な活動ができます。道州のセンターに行けば、もう十分人生を全うできるということになります。そうすると10の道州がみな競争を始めます。すると地域地域がよくなってくるのです。今は東京に行かなければだめだという発想なので、うまくいかないのだと思います。

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合意形成に投資をする

パリとロンドンをつなぐユーロスターでは、海峡トンネルからイギリス側では在来線を使っているのでスピードが極端に落ちます。そこでこのイギリス側の区間に新しく新幹線をつくる工事が始まりました。その計画をつくる際に、2段階のアセスメントを行っています。1段階目は大きなルートを4つ考えて、計画段階でアセスメントをやりました。大まかな4つの中からまず1つのルートを選びました。次にこの大まかなルートを5つの区間に分けて詳細なルートを検討しました。最もたくさん検討した区間では、なんと1つの区間で18本もルートを考えたのです。そうやって選んでいったものですから、選んでいく段階で、何と公聴会を650回も開きました。鉄道をつくるだけで650回です。首都機能移転ならば、1,000回、2,000回やっても多すぎないと思います。そのぐらいの意気込みでやれば、絶対うまくいきます。

私は、ある自治体でごみの中間処理施設の建設に携わったときには、1年間で20回以上の議論に参加しました。市民はもっと熱心で、50回以上会議をやっているわけです。そのぐらい時間をかけて議論した結果、最後にはどうなったかというと、市が当初提案したところでいいということになったわけです。ただしその1年間の議論で施設の内容は住民側の要望を受け入れて大きく変わっています。やはりお互いの考え方、情報を交換しあうことが大切だと思います。

そういうソフトの部分に時間をかけるのは、お金がかかってばからしいという意見があるかも知れませんが、それはとんでもないことです。ソフトにお金をかけることこそが、日本の将来にとって重要なことだと思います。環境調査やプランニングにどんどんお金をかけることでソフトの分野が強くなり、人材も育ち、仕事が増えて雇用創出にもつながります。アメリカはそれで成功しているのです。アメリカは計画に対してものすごいお金をかけています。だからアメリカは情報産業が強いのです。アセスメントの件数でいえば、日本は年間200件程度ですが、アメリカは連邦政府だけで簡易アセスは3万件から5万件に達しています。それだけ仕事が多いわけですから、産業が育つのです。その仕事でアメリカではソフトが伸びている。それがコンピューターをはじめ連鎖していき、危機管理などのソフトの強さにつながっているのです。

そういう方向に切りかえていくと、ハードウエアをたくさんつくればいいという考えは変わってきて、建設するハードウェアを厳選するプロセスでコストをかけるようになります。コストをかけるということは産業が育つことです。ソフトの育成につながります。プランニングにどんどん資源投入するような仕組みに変えていくと、日本の社会、将来はこれから雇用創出ができて、新しい産業構造に転換できます。また、コストがかかるとやるべき公共事業は厳選されます。そうすると質の高いものができるのです。それは持続可能性が高いわけです。その点でもいいことになりますし、プラス面が相当あると思います。これは極めて重要なことです。

しかも、これは世界に対する貢献にもつながります。途上国がこれから国をよくしていくために、そういう要素が絶対必要だからです。そのときに、日本がアジアの中でアメリカやヨーロッパからの直輸入ではないアジア型のモデルを開発していければ、そのシステムを輸出できると思います。ですから首都機能移転を国民的な議論につなげていく中で、どんどん新しいソフトを開発し、雇用も創出していくということが、私は非常に重要だと思います。欠点は若干時間がかかることですけれども、みんなが国土のことを考えるようになれば、そのいい面を評価すべきだと思います。

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情報公開を進め国民的な議論を

幸い首都機能移転に関する議論は、これまでも情報公開がされてきました。これは非常にいいことだと思います。さらにいろいろな情報を提供して、これでいいのだろうかと、みんなに考えてもらったらいいと思います。そういう大討論会を各地で巻き起こしてはどうでしょうか。首都機能の側面とは何か。道州制というようなことも考えながら議論していく。そうやっていくことが、ほんとうに建設的なことだと思います。ただし、これは10年も20年もかける話ではなく、もう数年の間に決着をつける話だと思います。この数年で、そういう方向にかじ取りを変えていけるかどうかに、日本の将来はかかっていると思います。

資源投入からいっても、今のような大規模な首都をつくる話はこれから先、可能性が非常に低いと思います。国民はインターネット等の様々なメディアによって、しっかりした情報を得て、これを基に判断しているわけです。だから無駄な大規模公共事業を許さない時代になってきていると思います。そうすると、首都機能に関して12兆円をかけるだけの効果があるかという話にも、きちんとした合理的な説明ができなければ、反対の声が出てくると思います。そうならないためには、例えば1兆円規模の移転で済むようにする必要があります。分権化を進めて道州制にすれば、1兆円も必要ないかもしれません。そのぐらいの規模の首都機能であれば、東京から移ったとしても、東京都も反対しないのではないでしょうか。

首都機能移転に対して国民がなかなか関心を示さないのは、おそらくみんな、まずこんなことはできないだろうと思っているからだと思います。ですから、首都機能そのものを見直すということをまずやらないと、実現は難しいと思います。我が国の社会システムを変えていくということとあわせて進めていくことです。国民がこれはいいというイメージを持てば、国民のサポートも得られます。そのためにも、目に見えるような形でイメージを提供することが大切です。ちょうど今、候補地が絞り込まれて具体的に見えてきましたから、そうすると、逆にこれでいいのだろうかとみんなが疑問に思うところがスタートです。疑問に思えばみんな考え出します。そうすると、いろいろ考えだして、いろいろな声が出てきますから、その声を吸収して議論していくような場を、これから積極的につくっていくべきだと思います。

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