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移転をきっかけに共同型による政治・行政の実現を

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美馬 のゆり氏の写真美馬 のゆり氏 公立はこだて未来大学 システム情報科学部 教授

電気通信大学計算機科学科卒業。外資系コンピュータメーカ勤務を経て、ハーバード大学大学院教育学研究科インタラクティブ・テクノロジ専攻(修士)。東京大学大学院教育学研究科(修士・博士)。川村学園女子大学教育学部講師・助教授、スタンフォード国際研究所教育工学センター国際研究員、埼玉大学教養学部助教授。公立はこだて未来大学の開学計画策定に携わり、開学と同時に教授として赴任。その後、マサチューセッツ工科大学メディアラボラトリ客員研究員、日本科学未来館副館長を経て再び未来大学の現職。

主たる著書に『不思議缶ネットワークの子どもたち』(ジャストシステム)、『未来の学びをデザインする』(東京大学出版会)がある。

趣味は料理、仲間を集めて自宅で宴会。


<要約>

  • 東京における通勤形態は、体力的にもエネルギー的にも無駄が多い。人間的な暮らしをすることで仕事もはかどることを実体験を通じて実感した。
  • 温暖化問題等、移転の議論が始まった頃にはさほど問題になっていなかったものの、年々問題が深刻化しているものもある。移転の議論の際にはそうした視点も必要。
  • 候補先の選定にあたっては東京からの距離だけでなく、空港へのアクセスの面のよさ等も考慮に入れるべきである。
  • 移転にあたっては、行政機能等だけでなく、そこで暮らす人達の生活環境を考えることが重要。まちづくりにあたっては地元の人と転入してくる人達が協力して進めていくのがよい。
  • 新都市には、国の科学技術政策を示すショーケースや対話の場を設置するとともに、産官学が連携して政治・行政に取り組む仕組みが必要である。
  • 情報系の技術の進展が新都市づくりに与える影響よりも、そうした技術が人間の思考やプロセスに与える影響のほうが大きい。どのような影響が及ぶのかは予想が難しいが注意深く見守っていく必要がある。
  • ナレッジやイノベーションは一人の人間から生まれるというより、共同的に作り上げられていくものであり、政治・行政の分野にもあてはまる。
  • 首都機能移転についての国民の理解を深めていくには、生活者の視点を含めた理想的な絵を示すことが必要。新都市づくりにおいても技術ベースによるボトムアップだけでなく、まずは理想像を示すことが重要。

時代や環境変化にあわせた議論の見直しが必要

基本的に私は首都機能移転には賛成です。私は現在函館で暮らしているのですが、もともと東京生まれ東京育ちで、これまで函館とは縁もゆかりもありませんでした。たまたま公立はこだて未来大学(以下「未来大学」)の設置の計画から関わって開学に至り、家族と引っ越してきましたが、これだけ豊かな生活ができる場所があったことは驚きでした。大学の教員約70名のうち函館出身は1人しかいませんが、みんなここが気に入っています。

東京で暮らしていたときは、通勤に1時間半もかかり、混雑の中での自宅と職場の往復でヘトヘトになり、個人の体力としても、エネルギーコストとしても、とても無駄が多かったと思います。新幹線ができたことによってかえって遠距離通勤も増えています。私は函館で暮らす中で、人間的な暮らしというのはこういうことかと思いましたし、その分すごく仕事もはかどるというのが実感です。そうしたことをトータルで考えると、首都機能が東京にある意味はあまりないのではないでしょうか。

首都機能移転の議論がはじまった頃は、環境問題は今ほど大きくなかったと思いますが、その後、地球規模の温暖化もますますひどくなっています。こうした問題が今後すぐによくなるとは思えません。また環境問題のみならず、エネルギー問題や食糧の自給率のような問題も出てきています。首都機能移転についても、そのような観点からの議論も必要ではないかと思います。

地震や有事の問題もあります。有事の際には首都は当然ながらすぐに狙われるでしょうし、有事や地震にも対応できるようなバックアップ体制にはすごくお金がかかります。それでもさらに東京のインフラを整えるというのは疑問です。それに、最初にこの話が始まった昭和52年頃から比べると、情報技術はすごく進んで、ネットミーティングや電子会議、電子政府も進展していますので、それほど場所にこだわらなくてもいいのではないかというのが私の基本的な考えです。

首都機能移転先の新都市については、候補地を決めた時とは時代が変わっていますから、これらの候補地でいいかどうかはさらなる議論が必要だと思います。候補地を見直したほうがいいのではないかという考えは、私の専門の研究分野というよりも私の実体験を通じて実感したことです。移転において重要な点として交通機関の問題が挙げられ、候補地の選定にあたっても東京からの距離が重視されました。確かに、どこへ移転するとしても、経済等の中心は東京と大阪に今のまま残るでしょうから、新都市から容易にそれらの都市へアクセスできるかどうかは重要なポイントです。しかし私は、距離だけではなく、最寄の空港へのアクセス面も重要だと考えます。

函館の私の自宅から空港までは車で15分位で着きますが、空港で降りてすぐに飛行機に乗れるので、自宅を出るのは飛行機が出る30分前でも間に合うくらいです。バスや電車の感覚でパッと乗れて、1時間位で羽田に着きます。むしろ、羽田空港から都内への移動の方が時間がかかるということが起こります。あるとき、母と「じゃあ」と羽田空港で別れたら、三鷹に住んでいる母が家にたどり着くより、私が函館の家に着く方が早かったことがあります。空港が近いということはそれほど便利です。このように、東京に限らず、直接顔を合わせてミーティングする場合には、距離の問題だけでなく、空港にどれぐらいアクセスがいいかということがとても重要だと思います。

移転にあたっては、私は首都機能を分散したほうがいいと思っています。インフラを一極集中させないで分散させるとすると、それぞれのインフラ整備にお金がかかります。しかし、高度に集中化することによって大きな規模で何かをやろうとすると、指数関数的に費用が急に大きくなることもあります。そうしたことは専門家の方を交えて計算すれば試算できることだと思います。

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生活の視点を重視した移転のあり方

私は、東京お台場にある日本科学未来館(以下「未来館」)で副館長をしていたときに単身赴任を経験しました。週1回は大学の授業の関係で家族がいる函館に帰っていました。仕事がすごく大変なときに、一緒に暮らす家族が支えてくれるというのはとても重要です。

地方の大学では、教員を招く際に、東京にすぐに帰れるようにと新幹線の駅のそばに単身赴任用宿舎を用意しているところもあるようですが、未来大学では単身赴任ではなく、函館に来て、函館に根づいて、ここで家族と暮らしてほしいという思いがありました。家族で移住する際、子どもの教育の問題はとても大きな比重を占めます。そこで、教員の募集の際に市役所に頼んで、大学に関する説明書の他に、函館にどのような教育機関があるかを幼稚園や保育園から高校まで作ってもらいました。それから、ご夫婦で働いている方には、一緒に大学で働いてもらったり、大学関係以外の職業も提供したりするような形でお願いしました。

移転にあたっては、行政の機能も大切ですが、実際にそこで仕事をするのは人間です。職場の環境さえよければということではなくて、家族のプライベートな生活の環境とセットでないと、いろいろな意味でバランスが崩れてきて、結局はうまくいかなくなるのではないかと思います。だからこそ、移転するなら家族も一緒に住めることが重要です。

新都市の教育機関についても、学校の先生達も含めて移転を考えるべきです。みんながそこに住み、一緒に新しい都市や地域をつくっていこうという気持ちがあれば、地域としても学校としても、新しいコミュニティができてくるのではないでしょうか。

また、新都市をつくるときには、きちんとした都市計画のもと、ワシントンD.C.のようにすべての建物を低層にするという方法もあります。住宅にしても、せっかく土地があるところに移るのであれば、ある程度一戸建てにするとか、そういうまちづくりも考えられます。地元の方々も巻き込んでそこに転入してくる人達が最初の段階からまちをつくっていく、学校も学校づくりから始めるといったことが大切でしょう。

規模は違いますが、筑波研究学園都市も今では都市としてある程度のものが整備されていますので、新しい都市ゆえに起った問題をどのように解決してきたかといったことを総括することで、移転を考える際に学べるところがあると思います。

この大学をつくるとき、私が策定委員会の議長として心がけ、市役所の人たちにお願いしてきたことは、単にこれが市役所の仕事で、配属されたからやるというのではなく、市民の税金を使うわけだから、やはり市民のためにやりましょう、ということです。自分が入りたいとか、自分の子どもを入れたいと思えるような大学にしない限り、器だけつくって有名教授を集めてもうまくいかないということも言ってきました。

函館の人達はこれまで本当に大学が欲しいと思い続けてきて、私達もやはり地域のためにということが一番にありましたから、大学開学に向けて、市役所だけでなく、どんどん関わってくる人が増えてきたのです。首都機能の移転先のまちづくりにおいても、地元の人達だけではなくて、外から入ってきた人たちには違う面も見えてくるでしょう。だから、地元の人や外から入ってきた人達が「一緒にやりましょう」と協力してその地域あるいは町、学校をつくっていくことができればいいのではないでしょうか。

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科学技術政策のショーケースの設置と産官学の連携

未来館は、首都ゆえに東京に設置されていると思いますが、来館者には海外からの要人も多く、教育関係者だけでなく、科学技術政策に関わる人達もいます。また、科学技術政策に関わる行政機関の人は、海外からのお客様が来たときは、ある程度時間に余裕があると必ず未来館に連れてきます。日本は科学技術立国として力を注いでいて、世界もそういうふうに見ているので、日本に来たら、日本が今後どういう研究や技術開発をしていくのかを知りたいでしょう。その日本の科学技術政策のショーケースが未来館なのです。

未来館が普通の科学館と違うのは、国の科学技術の重点4分野を実際に見せていることです。このような科学館は、実は世界にはありませんでした。一般に科学館は、科学の基本的な概念や原理をわかりやすく説明するために、例えばどうして物が落ちるのか、電気が点くのか、電話が通じるのかなどを展示していますが、未来館は政策に合わせた最先端の科学技術の4分野だけを扱っているので、政策担当者も説明しやすいわけです。

また、子どもたちにそれを見せることで、それらの分野の人材育成にもつながります。それに内容を常にリニューアルしていかないと、最先端を見せることにはならないので、研究者たちも関わってきます。未来館はそうした幾つもの機能を持っているわけです。新都市においても世界から訪れる人達に対して、日本の方向性や位置を示せるショーケース的なものは必要ではないでしょうか。

アメリカでは、日本の学術会議に当たるようなNational Academy of Science(NAS)の本部がワシントンD.C.にあり、その建物の一部に最先端技術を展示して一般向けに開放しています。未来館の運営費は間接的に国から入っていますが、ワシントンD.C.のものは、政府とは完全に独立して運営されています。ですから、政府がこういう政策を進めていくと温暖化や生殖医療のリスクはこうなる、というような展示もしています。また、いろいろな提言をまとめて、国の政策に対して訴えることも昔からかなり熱心に取り組んでいます。首都にあることもあって、議員や政治家を呼んで討論会を開いたり、中高校生に政策について考えさせるといったこともしています。

新都市には、首都機能とあわせて何が必要かというと、単に科学館をつくるとか、産官学の学のところが政策に対して物を言うとか、チェックをするだけではなくて、それぞれが異なる方向の提言をしてもうまく対話ができるような仕組みだと思います。官だけが動くのではなくて、産官学の連携がとれるといいですね。首都というと政治と行政だけのように考えがちですが、それだけではなくて、それに対して同等の立場で、何か物が言えるような機関もそこにあるといいのではないでしょうか。

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科学技術の進展は人間の思考・プロセスを変える

移転に役立つ科学技術といえば、やはり情報系の技術が一番だと思います。もっとも、その活用にあたっては、移転に限らず、医療分野においても進んでいる電子化等もそうですが、国全体の情報インフラをどうしていくのかということとセットで考えるべきです。

影響という面では、情報系の技術が新都市づくりに与える影響よりも、それによって人間の思考、そのプロセスとか感情などが変わっていくことの影響の方がとても大きいと思います。例えば、コンピュータや携帯電話が入ったことによって何が変わったかというと、私たちの話の仕方とか文章の書き方、文章の質です。ワープロやアウトラインプロセッサー、パワーポイントなどが出てきて、アウトラインから書けるようになりました。それで、とりあえず書いてみて、気に入らなければ組みかえることもできます。日本語が乱れているという人もいますが、携帯メールでは、要件だけをすごくコンパクトに伝えるように変わってきています。ですから、インフラが整備されて電子会議などができるようになると、私たちの考え方とか意思決定のあり方は大きく変わってくると思います。

例えば、「同じ時間」で「同じ場所」にいて電子会議システムを使うと、議事録をあとで時間をかけて作り直す必要はありませんし、誰かがしゃべっている間にコメントをつけることもできます。現在では、「違う時間」で「同じ場所」、「同じ時間」で「違う場所」、「違う時間」で「違う場所」で行うことができる会議のシステムを研究している人達もいます。

情報系の技術によって私たちの考え方がどのように変わるのかというのは、あまり予想できないことだと思いますし、なるようにしかならないのですが、そのときにそれをいけないと押さえ込むのではなくて、何が起こっているのかを注意深く見守っていく必要があります。

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「コラボレーション」(共同)から「ナレッジ」(知識)が生まれ政治・行政も変わる

今の時代は1人のリーダーや天才が出てきて何かをガラッと変えることは起こらないのではないかと思います。そもそも日本のイノベーションの芽はどこにあるかというと、学際的な分野と分野のすき間にこそあって、そこにしか起こらないでしょう。例えばナレッジ(以下「知識」)がいかにつくり上げられていくかは1人の頭の中だけではなくて、人との協調や議論する中、あるいは一緒に何かをやっていくことの中から生まれてくると私は考えています。私はその活動をCollaborative Meta-Cognition(共同的メタ認知)と呼んでいます。

Meta-Cognition(メタ認知)とは、個別の認知、態度、行動を制御するより高次の認知能力のことで、例えば私たちが何かの知識を学ぼうとするときに、それより一つ上の階層、背後にあるものの共通性を見出す能力のことをいいます。あることがすごくできる人は、違う分野に行ってもすごく飲み込みが早かったりしますね。ものごとを覚えたり学んだりする上で、「LEARNING HOW TO LEARN」みたいな学習方法を身につけている人といない人とでは、新しいものに向かうときにだいぶ違うようです。

しかし、認知科学でいわれている「メタ認知」はあくまでも個人の活動に注目しています。私がいま強調したいのは、学習とは個人の頭の中だけで起こるものではないということです。だれか知識を持っている人が、持っていない人に一方的に与えるだけでなく、実は私たちには一緒に活動することによってそこから生まれてくる、一緒につくり上げていく知識があります。新たなナレッジは1人の頭の中にあるものではなく、そもそも共同的につくり上げられていくものである、ということが基本です。メタナレッジという「知識についての知識」も、そこにコラボラティブ(共同的)という概念を入れることによって、共同的に生み出されてくるものがあると考えており、イノベーション(技術革新)も同じことだと思いますし、政治・行政の分野にもあてはまると思います。

未来大学では、共同的に活動することを教育理念としてやってきました。私は大学をつくるときにここをlearning organizationにすると言ったのですが、ではコラボラティブに学ぶのは誰かというと、それは学生だけでなく、教員も職員も地域の人も一緒に学ぶということです。学生には1人であれこれ覚えろ、というやり方はもう限界に来ていますので、ここでは共同でプロジェクト型の学習方法を授業で多用しています。その中で、学生自ら地域からテーマを拾ってきては、それを共同的に解決していくような授業を1年生から取り入れています。

教員がすべてを知っている神様で、学生に教えるということではなく、教員も新しいものを日々学んでいく必要があり、教員もチームで教えることを基本にしています。その中に地域の人や職員が入ってくることで、コラボラティブなメタ認知活動を意識化し、それを実践していくという仕組みを埋め込んでいます。

日本がこれからどういう方向に向かっていくかといったときに、こういう人間の共同性によって、新しい方向性が生まれてくるようなコミュニティをつくることが重要だと思います。そして、その実践をいかに豊かなものにしていくかが、新たな社会の鍵になるでしょう。

そうした活動を前提にすると、情報インフラの整備も変わってくるはずです。例えば、現在のワープロや表計算のソフトウェアは、あくまでも個人の利用です。けれども、協調的に活動することが基本的にあって、これだけネットワークが張りめぐらされて、家庭の中でもインフラが整備されると、いろいろな形でのネットワーキングが起こってきます。今後はそのような環境に合わせたソフトウェアが開発されてくるでしょうし、そうなると、いわゆる縦割行政みたいな組織の形態も変わっていくと思います。

組織の形態でいうと、日本の科学技術の研究費は7割ぐらいが文科省系列ですが、その他に各省庁が持っている予算もあります。研究費も縦割で、それぞれの省庁の所轄の研究同士での横のつながりがあまりないため、実は目指しているものが同じでも分野が違うと対話がまったく起こらず、無駄も多くなる。イノベーションというのはそこをつなげて共同的に取り組んでいくことで生まれてくると思います。

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国民の理解を深めるためには理想の絵を示すことが重要

首都機能移転についての国民の理解を深めていくには、新都市に行政の機能が移るとどうなるということだけでなく、そこに付随する生活者の視点も含めて、理想の世界の絵をまずは見せる必要があります。その絵がないと、みんな自分が思いつくまま、これはよくないとか、あれはよくないとかと、個々の問題について言うだけになってしまいます。そうならないように、移転すればこのような社会になるという、それも移転先の地域だけでなく、日本として、あるいは世界の中の日本としてどのようによくなるのかを示します。また、世界の中という意味では、新しい首都機能移転のモデルとして、環境、エネルギー、食糧、教育などさまざまな問題を解決するモデルを世界に向けて示すことも必要です。日本のテクノロジーを活かすということでも、それこそ環境に配慮した技術立国日本というモデルを新都市を示す、そしてそれをショーケースとして世界に見せるということができるはずです。

そのショーケースの絵の中で、新都市で働く人や住む人、あるいはサービスを受ける人といった生活者も含めて日本のあり方を示すことが大切です。そして、人びとがそれぞれの立場において何がどのようによくなるのか分かるようにすれば、移転を批判する人とも同じ土俵で議論できます。単に移転はだめだというのではなくて、その問題はどうすれば解決できて、どうすればもっとよくなる、といった前向きな議論ができるでしょう。そうすれば、日本の未来を一からデザインすることができるのではないでしょうか。

日本はこれまでにいろいろやってみて失敗したこともあれば成功したこともあります。しかし、一からできるとすればどのようないい点があるのか、そこに向かうために何が必要か、自分がどの立場にいるのか、どの視点なのかというような絵を見せることが、議論を活発にするための広報として効果があると思います。

首都機能移転について国民の理解を求めていく上で、特に子どもたちにわかってほしいと思います。例えばいま高校生ぐらいの子が見て自分たちの未来としていいと思えるかどうか。高校生ぐらいだったら自分たちの将来としてとらえられるでしょう。

理想図を見せる効果のひとつの例として、ロボットの開発プロジェクトの話があります。通常ロボットの開発では、機能から組み上げていくとおのずと形は決まってくるわけですが、あるプロジェクトでははじめからデザイナーをチームに入れ、ロボットの形から始めました。現場では、現存の部品ではそんなことはできないとか、デザイナーは技術がわかっていないとか、実際にデザイナーのイメージした形に持っていくにはすごく苦労したわけです。でもある目標が定まって、それに沿って開発を進めたら、それはロボットの概念を変えるようなものになり、新たな技術も開発されました。そしてそのロボットは、ロボットとして初めてニューヨーク近代美術館で展示されるまでに至りました。

新都市の絵を描くときも、技術ベースによるボトムアップだけでなく、こういうのがカッコいい、クールな未来だという絵が描ける人と一緒になって考えると、もっと前向きな議論ができるのではないでしょうか。

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