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バス業界の立場からみた一極集中問題と首都機能移転

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齋藤 寛氏の写真齋藤 寛氏 神奈川中央交通株式会社 代表取締役会長

1934年埼玉県生まれ。同志社大学卒業後、1959年神奈川中央交通株式会社入社。

1985年常務取締役、1991年専務取締役、1993年代表取締役社長、2003年代表取締役会長に就任、現在に至る。

公職として(社)日本バス協会会長を務めている。


<要約>

  • 地方においてバス会社が次々と撤退しているが、足代わりのバスがなくなることで日常生活に支障をきたす人たちが都会へ出ていくため、ますます大都市への一極集中へとつながっている。
  • 過疎化の影響を直接受けるバス業界の立場からすると、大都市への一極集中は人間の心理のようにも思える。地方に人を定着させるには、それなりの設備や環境を整えておく必要があるのではないか。
  • 地方ではバスの運行が少ないことでますますの利用者離れを招いている一方で、東京、大阪、名古屋の3大都市圏ではバスの利用者が増加している。その理由として各社一丸となってサービス向上に努めてきた結果によるところも大きい。
  • 欧米をはじめとする先進諸国では、「バスは社会のインフラ」という考えが普及している。バスを「社会のインフラ」と捉えるならば、住むために本当に必要な足として確保しておくべきであり、電気やガスと同様にバスの必要性を十分に考える必要がある。
  • 国にできる力があるなら国会等の移転は結構なことであり、移転を契機にいい国づくりができればいいと思うが、国民の理解を得るためには知恵の出し方が大事。
  • 新たな都市を整備するなら、交通システムもこれからの社会にふさわしいものを導入することが望ましい。たとえば連節バスは大量輸送が可能で総コストも抑えることが可能であり、これからの交通システムのあり方の一つといえる。
  • 国会等の移転問題の広報手段として、インターネットのみで事足りるかというと疑問。地方の隅々にまで浸透させていく上で、バスの広告スペースの活用も考えられる。また、なるべく国民に分かりやすい言葉を使って伝えていくことが大事。

バス業界の立場からみた一極集中問題

年間のバス輸送人員数は、ピーク期には100億人を超えていましたが、今では半分以下の45億人程度にまで減少しています。特に地方は深刻で、バス会社が次々と撤退し、公的な支援を受けなければ立ち行かなくなっているところが随分とあります。地方のお年寄りや子ども達にとってバスは足代わりですから、誰かが引き継がないと日常生活に支障をきたします。その家族を含めてそうした人たちが都会へ出ていくことで、ますます大都市への一極集中につながっていく。この先少子高齢化が進むとその傾向は一層顕著になるでしょう。

過疎化の影響を直接受けるバス業界の立場からすると、大都市への一極集中は人間の心理のようにも思えます。中国がいい例ですが、農村と都会では大きな所得格差があるので、農村の人たちは上海や北京などの大都会へ出ていってしまいます。日本の団塊世代の中には、リタイア後の田舎暮らしを考えている人も少なくないようですが、体が元気なうちはよくても、地方には病院もそれほどないので病気になったときに困りますよね。都会では老後の生活に必要な施設も整っているので、田舎へ行った人たちの中には結局は都会に戻ってきてしまう人も少なくありません。まさにバスの状況と同じです。地方に人が定着するようにするためには、それなりの設備や環境も整えておく必要があるでしょう。

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都会と地方におけるバス利用状況の違い

当社がバスを運行している神奈川県では1人あたりの年間のバス利用回数は約80回ですが、同じ関東でも群馬県では4回程度です。地方では自家用車に代わる交通手段がないので、ガソリン価格が高騰しても自家用車を利用せざるをえません。バスが頻繁に運行されていれば別ですが、頻繁に運行できるだけの体力が地方のバス事業者にはないのです。バスが利用できないとなると、どうしても自家用車を選ぶ人が増えます。すると、ますますバスを利用する人が減っていく。まさにイタチごっこですね。

地方の人たちの足代わりとして、乗合いタクシーなどもありますが、タクシーの特色は小回りがきくことですから、やはりタクシーはタクシー本来の使い道をすべきだと思います。バスの運行が難しいならタクシーを運行すればいいという見方もあるかもしれませんが、タクシーの場合は乗り残しが出てしまいます。タクシーはその特色を活かし、お客様から感謝されるようなサービスを心がけ、お年寄りにも快適に乗ってもらえるように努力していくべきです。バスの場合、特にラッシュ時には運転手1人でなかなか行き届いたサービスはできません。バスとタクシーがその特色を活かしつつお互いがうまく棲み分けできれば共存共栄も可能だと思います。

一方、今年度に入ってから東京、大阪、名古屋の3大都市圏ではバスの輸送人員数が増加しています。燃料価格の高騰による自家用車離れも理由の一つに挙げられますが、低床車両の導入や鉄道と共通のICカードの採用など、各社一丸となってサービス向上に努めてきた結果によるところも大きい。ICカードの採用によって鉄道や地下鉄など他の輸送機関も利用できるようになりましたから、利用者にとっての利便性は随分と向上したと思います。燃料価格の高騰は、バス業界においても今やそのコストを吸収できなくなるところまできていますが、運賃の値上げをするとお客様が離れてしまいます。せっかくのいい流れを守るためにも、バス業界は一層の合理化に向けて頑張っているところです。

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「バスは社会のインフラ」という考えが普及している欧米諸国

民間主導で路線バスを運行している国は、実は先進国では日本だけです。欧米をはじめとする諸外国では「バスは社会のインフラ」という考え方が普及していて、日本と違い大都市においても国や自治体が公営企業等に運行を委託し赤字分を賄っています。以前、ポルトガルの交通相と話をしたとき、交通相が「人が住むところの最後の足はバスか鉄道だけど、鉄道は簡単に敷けないのでやはりバスということになる。だからこそ、損を出してもバス事業は国の負担で行う」と語っていたことが印象に残っています。

韓国のソウルでも非常に画期的な取り組みを行っています。ソウル市内にはバス事業者が60数社あったそうですが、全社で事業組合を作り、ソウル市の委託を受けて共同でバスを運行しています。バスの車体は統一され、赤、青、黄、緑など、系統ごとに色分けしています。ソウルでは高速道路だけでなく、バスを運行するための施設や専用道路などインフラも十分に整備されています。民間だけだと収支の面で運営は難しいでしょうが、市が費用を負担するのであれば、市民にとって非常にいい。ただ残念なことはサービス面です。お客様に「ありがとう」の一言もありませんし、スピードも速い。また、路線によって全く利用者がいなかったり、逆に満杯だったりと波があるのも課題ですね。

安全の面で言うと、最近は規制緩和が進み、簡単に観光バスの免許が取れるようになりました。規制緩和の中で事故などの問題が起こっていますが、やはり棲み分けをきちんとして、安全を守るような行政をしていただきたいと思います。バスは公的な乗物ですから、安心、安全に乗れることを第一に考えなければいけません。日本のバスは安全だと宣言できるように、それだけのサービスをしなくてはいけない。そのサービスの基本は、安心、安全だと思っています。

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電気やガスと同じく「社会のインフラ」としてバスの必要性を考えるべき

過疎地では、民間のバス事業者は収支が合わなければ撤退せざるをえません。バス事業の活動エリアを大都市と中都市と過疎地の三つに分けるとすると、大都市は民間主体、過疎地は行政主体、中都市ではその中間の運行形態を採っていくのが望ましいと思います。

同じ神奈川県内でも、横浜のような都会はいいですが、丹沢の奥の地域などは大変です。そうした地域では独立採算でやりなさいといわれてもできません。では収支が合わない路線はどうするか。バスが本当に必要かどうかを決めるのはその地域の住民や首長だと思いますが、皆さんで十分に議論してもらった上で、必要であれば補助金を出すなどしてバスの運行を維持していくべきでしょう。収支が合わない場合に、インセンティブ(奨励金)を与える要領で補助金を出せば民間事業者も一生懸命やるでしょう。武蔵野市で運行しているコミュニティバス「ムーバス」も最初は補助金を受けていましたが、最近は収支が合うようになって補助金が要らなくなりました。そのような形になれば理想的だと思いますね。ただ現実には、バス会社が倒産するまで放置されている実態が少なからずあります。日本の過疎地においてバス事業で採算を取ることは非常に困難です。しかし、バスを「社会のインフラ」と捉えるならば、住むために本当に必要な足は確保しておくべきです。電気やガスと同じようにバスの必要性についても十分に考えてもらいたいものです。

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首都機能移転の実現には知恵の出し方が大事

国にできる力があるならば、首都機能移転は結構なことだと思います。今の東京は環境面や地震も気がかりですから、気候や環境がいいところへ首都機能を移転するならこれほどいいことはないですね。

ただ、実際に移転するとなると、道路や空港からのアクセス、気候、そして財政面などいろいろな問題が出てくるでしょうから、国民の理解を得るには長い時間がかかるでしょう。それを乗り越えるためには知恵を出し合うことが大事です。たとえば財政面で問題があるのであれば、大きなイベントを開催するときに一緒に整備してはどうでしょうか。愛知万博では、せっかく整備した施設を閉会後に取り壊しましたが、そういったものを活用するようにしてもいいですね。むしろそれぐらいの工夫を示さなければ国民の理解は得られないのではないでしょうか。

首都機能の移転は、運輸業界にとっても活性化につながることが期待できます。移転後も経済の中心はあくまでも東京や大阪にあるわけですから、政治や行政が地方へ動くことで、人の動きも活発になります。東京と移転先の都市との間の往来が活発になることは運輸業界にとってもいいことだと思います。アメリカにおいて政治の中心であるワシントンと経済の中心であるニューヨークがあるように、日本でも移転を契機にいい国づくりができればいいですね。

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これからの社会にふさわしい交通システムの導入を

首都機能移転に伴って新たに都市を整備するなら、交通システムもこれからの社会にふさわしいものを導入することが望ましい。日本ではバスがスムーズに走行できる道路が少なく、バス事業者にとって大きな悩みの種です。特に都市部では高速道路も含めて渋滞が日常的に発生していますし、最近は取締りの効果によって随分と減少してきましたが不法駐車の問題もあります。その不法駐車の減少もあって最近ようやく定時運行が可能になってきましたが、定時運行ができないことはお客様のバス離れを招いた一因でもありました。

バス業界では、優れた公共交通システムの導入例として、ブラジル南部の都市クリチバに注目しています。そこではバス専用道路を整備して3連節のバスを運行しているので、バスが鉄道と同等の輸送力を持っています。日本でも新たに都市を整備するなら素晴らしい交通システムができるはずです。連節バスの専用道路を造る場合は鉄道ほど巨額な投資費用はかかりませんし、緊急時にはその専用道を利用することもできます。

当社でも、藤沢市にある湘南台駅から慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスの区間で連節バスを4両運行しています。その路線は、朝の通学の時間帯に学生の利用が集中するので、以前は駅前が人で溢れかえっていましたが、連節バスの運行によって大量輸送が可能になり、駅前の混雑が緩和されました。

しかし、日本の多くの道路は連節バスの運行に対応できていません。当社の連節バスの運行においても、きちんと道路を整備していては間に合わないので既存の道路を活用することにしましたが、交差点の隅切りや駅前のロータリー整備は行政にお願いしました。その運行区間の半分以上は片側1車線でしたから、連節バスを急行扱いにして片側1車線区間を通過区間とし、連節バスと通常のバスを組み合わせて運行することにしました。また、フィーダーバス(支線の小型バス)との乗り換えをスムーズにするため、GPS(Global Positioning System= 全地球測位システム)を使って運行状況を表示しています。平成20年2月からは、厚木市内でも片側一車線の道路で連節バスの運行を開始する予定です。連節バスを動脈として、支線のコミュニティバスとGPSで連絡し合う形で運行していけば、他の地域でも成功する可能性は十分にあると思います。連節バスは購入費用が非常に高くつくのがネックですが、人件費を含めたトータルでの運行コストは安くつきますし、これから需要は伸びてくるのではないでしょうか。

道路整備においても、たとえば圏央道なども単に通り過ぎるだけではなく、首都圏と地方との行き来にも利用できるようにし、連節バスの専用道も併せて整備すれば、鉄道より低コストで大量に輸送できる上、バス事業者にとっても採算が合う可能性も非常に高いと思います。

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国民の理解を得るための広報のあり方

国会等の移転問題は、財政面のこともあってなかなか国民の理解が得られにくい状況だと思います。広報手段として今はインターネットが非常に発達していますから、この問題を広報していく上でも活用できるでしょうが、インターネットで全てこと足りるかというと疑問ですね。何かを早く伝えるにはインターネットが適しているかもしれませんが、お年寄りをはじめ国民の半分近くの人たちはインターネットを使えませんから、インターネットオンリーでは困ります。

この問題を地方の隅々まで浸透させる上で、たとえばバスを活用することも考えられます。全国のバス会社では長年にわたって社会復帰する人たちを励ますためのポスターを長期間掲載してきましたが、先日その件で日本バス協会が法務大臣から表彰を受けました。地方ではバスの広告スペースが空いていますから、そのスペースを使って広報を行ってもいいと思います。

また、国民へ分かりやすく伝えることも大事です。役所の広報では難しい言葉を使う傾向がありますが、もう少し国民に分かりやすい言葉を使って広報していくことが必要ではないでしょうか。

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