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東京一極集中の是正につながる地場産業の活性化

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堀場 雅夫氏の写真堀場 雅夫氏 株式会社 堀場製作所 最高顧問

1924年生まれ。1946年京都帝国大学(現在の京都大学)理学部物理学専攻卒業、1961年医学博士号取得。1945年堀場無線研究所創業、1953年株式会社堀場製作所設立、代表取締役社長に就任。1978年同社代表取締役会長に就任。1995年同社取締役会長に就任、2005年同社最高顧問に就任、現在に至る。

公職として、(財)京都高度技術研究所最高顧問、京都科学機器協会理事長、日本新事業支援機関協議会(JANBO)会長、京都ナノテク事業創成クラスター本部本部長、(独法)科学技術振興機構JSTイノベーションプラザ京都総館長を務めている。

2006年ピッツコン・ヘリテージ・アワード受賞。

著書に、『イヤならやめろ!』(日本経済新聞社)、『仕事ができる人できない人』(三笠書房)、『問題は経営者だ!』(日経BP社)、『「好き」にまかせろ!』(PHP研究所)、『人の話なんか聞くな!』(ダイヤモンド社)、『今すぐやる人が成功する!』(三笠書房)、『やるだけやってみろ!』(日本経済新聞出版社) 他


<要約>

  • 地方分権を進めることは、地方の活力を生み出し、トータルで日本の実力を高める大きな試みだが、その中の非常に重要な選択肢の一つが首都機能移転である。
  • リスクマネジメントの観点からも東京への一極集中の是正は必要。地方分権の本質的なあり方を踏まえつつ、改めて首都機能移転の意義を考えていくべき。
  • 道州制を進める上で最も大事なことは、制度自体をつくることではなく、地方が経済的に独立できるようにすることであり、そのためには地場産業の育成が必須。お金をかけなくても国の予算配分を変えることでそれが可能になる。
  • 京都で頑張っている企業の多くは海外を主なマーケットにしているため、東京へ移転する必要性がない。東京にいないと情報が集まらないということはなく、世界に目を向けることで収集できる情報量もずっと多くなる。
  • 情報が集まる今日では、国自体も集中と選択が必要であり、政治もその一つ。日本も真の先進国になるためには、各地域がその特徴を活かした経済力と文化を持つことが必要。
  • ローカルであることは決してネガティブなことではなく、むしろある地域に多様な業種が集まってクラスターをつくることで、世界に通用する力を持つことの方が重要。
  • 国や経済界等がベンチャー企業や中小企業支援に力を入れている割に、それほど成果は出ていない。日本は国民性もあって、アクティブな考え方が受け入れられにくい風潮があり、ベンチャーに対する理解度も低い。
  • いい環境を与えるだけではベンチャー企業は育たない。必要な時期に必要な手当てをすることが必要。
  • これからは、団塊の世代による起業に期待。ベンチャー企業でも限られた分野で集中すれば利用価値を生み出すことも可能。 

首都機能移転は地方分権の中の重要な選択肢

東京一極集中問題は、単なる政治の一極集中ではなく、経済、教育、文化など、あらゆるものが東京へ集中し過ぎていることに起因する問題です。地方分権を進めることは、地方の活力を生み出し、トータルで日本の実力を高めるための大きな試みですが、その中の非常に重要な選択肢の一つが首都機能移転だと捉えています。

しかし議論にあたっては、「首都機能移転ありき」ではなく、あくまでも道州制や一極集中問題と一緒に考えていく必要があります。まずは、本質の議論と並行しながら進めていくべきだと思います。道州制の議論が進まない中で、突発的に首都機能を移転することになるとは思えませんし、仮に移転するとすれば、それが果たして日本にとっていいのかというと非常に疑問ですね。

「首都機能」と一概にいっても、国会をはじめ政府機関も数多くあります。各府省を分散して移転しても全く意味がなく、政治機能は一つの都市に集約しておくべきだと思います。

お金をかけなくて済むという点では、首都機能を東京に置いたまま、むしろ経済や文化の機能を分散することも選択肢としてあるかもしれませんね。

リスクマネジメントの観点からも東京への一極集中の是正は必要ですから、地方分権の本質的な意味を踏まえつつ、改めて首都機能移転の意義を考えていくべきだと思います。

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国の予算配分を変えることで企業の分散は可能

道州制を進める上で最も大事なことは、制度自体をつくることではなく、地方が経済的に独立できるようにすることです。経済的独立なくしては、道州制を進める意味がありません。子が親に小遣いをあげられるようになって初めて独立したといえるわけですが、そのためには地場産業を育成することが必須です。

地方の格差をなくすため、明治時代に9つの帝国大学を分散立地しましたが、同様に現在、研究開発に関連する国の予算は、地方の大学や研究機関に対して平等に配分するか、各機関に一定の比率で配分しています。これまでは、そのように日本各地に「平等にばらまく」ことで、全国各地で東京と同じようなものをつくってきました。

これからは、例えばバイオ分野であれば、国のバイオ関連の予算を全て北海道へ配分する。つまり、バイオ関連の予算は、北海道にある大学や研究機関にしか配分しないようにします。もちろん、九州でバイオに取り組む企業がいても構いません。それはあくまで個人や企業の自由ですが、国としては取り組まない。一方、エレクトロニクス分野の予算は全て九州に配分するといった具合です。

その結果何が起きるかというと、もし企業がバイオ関連の事業をしたければ、北海道に研究所や試作工場をつくるでしょうし、エレクトロニクス関連の事業をしたければ九州に行く。

東大や京大の先生もバイオ分野の研究をしたければ北海道へ行けばいいし、エレクトロニクス分野の研究をしたければ九州へ行けばいい。そこに関連した研究者や企業も集まりますし、その家族もついてくるでしょう。

私のアイデアは極端かもしれませんが、企業を地方へ分散させる政策はそれしかないと思っています。地方交付金をいくら分配しても、それが道路整備や庁舎や施設の建設に使われるだけでは、産業振興には何の効果もありません。この方法だと、お金をかけずに今の予算配分を変えるだけで実行可能です。

また、国の規制も、東京への一極集中に大きな影響を及ぼしています。関連省庁から呼び出しを受けると、京都からだと新幹線を利用しても2時間余りかかります。東京にいれば、例えば丸の内周辺だと30分くらいで行けますよね。そうしたことも、東京にいた方が商売は便利ということにつながっています。しかし、これからは東京に本社を置く必要がない企業を日本各地につくらなければいけないと思います。

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地方の経済的独立に向けて税制の見直しも必要

地方を経済的に独立させるためには税制の見直しも必要です。国が徴収している法人税を地方自治体が徴収できるようにすれば、企業の税負担は変えずに税源自体が国から地方自治体へと移ります。

その際、本社の所在地がある地方自治体が一括して徴収するのではなく、企業の事業拠点ごとに生み出される付加価値の割合に応じて、その事業拠点が置かれている地方自治体が徴収できる方法にする。この方法だと、ある企業の工場が生み出した付加価値分については、その工場が置かれている地方自治体の税収となります。

単純に考えても、工場などの移転に伴って人も移り住むことになりますから、地方自治体は住民税や固定資産税の税収も増えます。思い切って法人税の制度を見直すことで、地方が経済的に独立することは十分に可能でしょう。

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東京へ移る必要性がない京都の企業

小売業にとって、多くの人口を抱える東京はマーケットとして魅力的でしょうが、製造業の場合は、必ずしも東京に本社を置く必要はありません。実際、京都に拠点を置く上場企業で東京へ本社を移した企業は1社もありません。それは、京都の企業にとって東京へ移る必要性がないからです。

京都で頑張っている企業の多くは、売上全体に占める国内売上は3分の1程度にすぎません。売上の多くは海外売上で占めていて、従業員の外国人比率も高まっています。当社も、日本人の従業員は40%程度に過ぎず、アジア全体でかろうじて50%、残りのほとんどはアングロサクソン系です。最も売上が高い地域へ本社を移すとなると、アメリカや欧州がいいのか、あるいは中国がいいのか悩むことになるでしょう。東京の場合、通勤も大変ですし、コストもかかりますから、それに見合うだけの利益が出るかというと疑問ですね。

京都では東京へ行くことを「都落ち」と呼び、「食えなくなったから東京へ行く」というイメージがあります。「食えなくなったらその国で一番大きな街へ行け」ということは世界中どこでも共通の考え方です。大きな街には必ず何かがありますからね。

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世界中どこにいても情報は集まる

「東京には情報が集まるから」という理屈で本社を東京に置く考え方もおかしい。国内企業だけではなく、世界中と競争している企業にとっては、東京にいなければ何も情報が集まらないということはありません。今は世界中どこにいても情報は集まりますよ。

今はインターネットを使って多くの情報を収集できます。インターネット上の情報は、誰でも知ることができる、いわばアウトサイド(外部)の情報ですから、情報の重みづけをし、膨大な情報の中から有効な情報を識別することは必要です。

企業にとってより重要なのは、インサイド、つまりどこにも発表されていない情報です。最近は「インサイダー」というと悪者のように言われますが、私達が世界中を飛び回っているのは、他人が知らない情報を得るためです。

東京は人口も多く研究機関も集積しているので、大きな情報発信地であることは間違いありませんが、情報発信地は世界中にありますよ。例えばバイオ関係だとアメリカ、機械関係だとドイツ、光関係だとフランスといったように。

GNP(国民総生産)でみると日本が世界に占める割合は10%程度ですから、日本のトータルの情報量も世界全体のおよそ10%程度と考えられます。収集できる情報量は全体の1割だとすれば、日本だけで情報を収集する場合、収集できる情報量は世界の情報量の1%になりますが、世界中で収集すれば10%も収集できます。国内にいるからこそ東京が魅力的に映るのであって、世界に目を向けることで、収集できる情報量もずっと多くなります。

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情報の集中と選択によって地域の特徴を活かした経済力と文化を持て

最近はインターネットの情報量があまりにも膨大になり、新聞も、あらゆる新聞を読むとなると朝から晩までかかってしまいますから、私も今は関連記事だけを抜き出して1ページ程度にまとめてもらったものを読んでいます。

情報が溢れる今日では、やはり国自体も情報の選択と集中が必要だと思いますし、政治もその一つです。例えば道州制でいうと、ある州を「政治州」として政治に特化させ、国会を置き、行政機関も集めます。また、海外の政治や法律に関する情報も全てそこに集める。そうすると、そこへ国内外の政治家や法律家などが集まります。また、政治や司法の大学、行政の専門家を養成する教育機関なども併せて設置すれば、関連産業もたくさん生まれるでしょう。

首都はその国で一番偉い存在ではありません。米国のワシントンは確かに美しい都市ですが、一般の人が訪れることはあまりありませんし、ドイツ人にとってのボンの存在も同様でした。ロンドンやパリはどちらかというと東京に近い存在だと思われがちですが、イギリス、フランス両国とも工業などではトップは両都市にはいません。

そうした意味でも、日本はやはり先進国ではないと思いますね。韓国はソウル・アンド・アザーズですし、フィリピンも、マニラ・アンド・アザーズです。タイの場合もバンコク・アンド・アザーズですよ。それらの国では全ての機能が首都へ集中しています。日本も真の先進国になるためには、北海道から沖縄までの各地域が、その特徴を活かした経済力と文化を持つようにならなければいけません。

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地方でも集積効果を活かして世界に通用する力を持つことが重要

ローカルであることは、決してネガティブ(否定的)なことではありません。むしろ、ある地域に多様な業種が集まってクラスター(ぶどうの房の様な塊状の集積)をつくることで、世界に通用する力を持つことの方がはるかに重要でしょう。

同業者が多く集まる京都がうまくいっている理由は、一つのクラスターを形成する中で、お互いの役割分担ができていることにあります。当社と島津製作所の場合も、外から見れば同業ですが、主力製品は全く異なります。京セラと村田製作所も同じセラミック分野ですが、やっていることは本質的に全く異なります。同業異種ゆえに、お互いに効果的な情報交換ができているわけです。

「クラスター」という言葉は紛らわしい響きをもっていて、その名が表すとおり、一見ブドウの房ように同種のものが集まっている印象を受けます。そうではなく、ブドウの房に、バナナやリンゴなど様々な果実がなっていて、そうした甘いものや酸っぱいものを混ぜ合わせると、甘酸っぱくておいしいジュースになるということです。企業の場合も、同業異種のものが集まってその集積効果を活かしていくことが重要です。

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ベンチャーに対する理解が低い日本

ベンチャー企業や中小企業は地域経済の担い手として期待されていますが、国や経済界、金融機関なども支援に力を入れている割には、成果があまり出ていません。私も30年以上にわたって、ベンチャー企業や中小企業支援に取り組んできましたが、「笛吹けど踊らず」という状況です。

国民性もあり、日本では「新しいことを始める」「方向性を大きく転換する」といったアクティブな考え方が受け入れられにくい風潮があります。周囲もバックアップするというより、「あの人はあんなことをして大丈夫か」「せっかくいい大学に入っていい企業に入れるのに、どうしてあんなことをするのか」といった批判が先にくることが多い。

ベンチャー企業に対する理解度も非常に低いですね。ベンチャー企業が大企業に売り込みにいっても、なかなか相手にされません。当社も例外ではなくて、ベンチャー企業からの調達は慎重になってしまいます。その製品を導入して万一生産が止まってしまうことを考えると、見本品としては使えても、正式採用まではなかなかできないのが現状です。

アメリカの場合は、国や自治体の調達のうち何%か地場産業やベンチャー企業の枠がありますが、日本の大学や自治体ではそうした制度をほとんど設けていませんし、大企業でもベンチャー支援の取り組みはそれほど進んでいないのではないでしょうか。

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高いリスクはベンチャー企業の宿命

100発打っても何発当たるか分からないというリスクの高さは、どんな時代においてもベンチャー企業の宿命といえます。しかし、企業というのは一発花火でもいけません。まずは一発打ち上げる必要がありますが、観客としては次の花火を待つわけですよ。少なくとも30秒おきぐらいにはドーン、ドーンと打ち上げないといけない。「もうタマがない」では事業になりません。

事業を継続するためには投資も必要ですから、最初の花火である程度の儲けを出さないといけません。儲けが出れば次の投資を行い、また儲けを出し、そしてまた投資する。事業の継続には運転資金も必要ですし、設備投資も必要になります。企業が成長するにつれて人も増えますから人事管理も必要です。そのように、事業を継続していくことは決して簡単なことではありません。

一方で、創業予定者や創業間もない企業をインキュベーター(孵卵器、保育器)の中で人工呼吸を施し、自力で呼吸できるようになってから外へ出すという支援方法もあります。京都にも随分と前からインキュベーション(ベンチャー企業支援事業)がありますが、実際のところなかなか「おしめ」も外せないし、それこそ小学校に上がるまで保育器の中に入っているようなケースも多い。

人工心肺をつけて生きているような、自立できないベンチャー企業をどこまで援助するのかということは大きな課題です。ライオンの子どものように、崖から突き落として這い上がらせるというやり方が今はなかなか難しいですね。

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いい環境を与えるだけではベンチャー企業は育たない

しかし、たとえツンドラでも花は咲きます。我々が創業した頃は、銀行も相手にしてくれませんし、お客さんも相手にしてくれませんでしたが、それこそ這いずり回ってでも仕事をしてきました。「お金が欲しいならあげる」「施設が必要なら提供する」といったやり方では、ベンチャー企業は育ちません。ベンチャー政策の担当者は、あまりにもベンチャー企業の本質を知らずして、何でも与えれば育つと勘違いしているように思いますね。いい環境を与えれば多くのベンチャー企業を生み出せるという考え方自体が甘い。

「これだけ頑張ったけどあと1,000万円足りない」とか、「注文はとれたけど入金がずっと先なので、その間の運転資金を融資してほしい」という申し出があったとき、それがリーズナブルなら助けてあげることは大事です。しかし、肥料さえ与えればどの木も育つというわけでもありません。必要な時期に種をまいて、必要な時期に肥料を与え、必要な時期に太陽の光にさらし、どうしようもないときにはビニールハウスに入れるという、必要な時期に必要な手当てをすることが必要です。「なんでも大事、大事」で、温室の中に入れたままで花が咲くかといったら咲きませんよ。

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地場産業の担い手になる可能性を持つ、団塊世代による起業

日本ではベンチャー企業というと、「若い人が挑戦するもの」というイメージがあるかもしれませんが、これからは団塊の世代による起業にも期待しています。実際、成功の可能性が最も高いのは、所属先の企業からの支援を受けて独立する「スピンオフ」(注)のケース。最近では大企業も集中と選択によって、赤字部門の切り離しや撤退をしています。しかし、その仕事に一生かけてきた人にとって、今さら他の仕事はできないとなると、スピンオフにつながることもあります。場合によっては、会社側が退職金に加えて事業のスタート資金程度は出すとか、勤めていた会社のルートで製品を売ってあげようとするケースもある。そうなると相当友好的なスピンオフといえます。こういったケースでは成功率も非常に高くなります。

けんか別れによる「スピンアウト」(注)もあります。自分がやりたい仕事があっても上が承諾してくれないということで、それなら外に出て自分でやってみるというケースです。友好的ではありませんが、それまでに顔も売っていて応援してくれる人がいる場合、成功率もある程度高まります。

ベンチャー企業の場合、ゼロからの出発ですから苦しいこともありますが、既存の企業と比べて思い切ったことができるというメリットもあるはずです。限られた分野で集中すれば付加価値を生み出すことも可能ですし、付加価値がある企業の周辺には関連の中小企業も多く集まりますから、そこに集積効果が生まれるでしょう。

そのことによって地場産業が活性化され、それは地方分権を促すことにつながると思います。

(注)個人又はグループで、既存の組織を飛び出し独立組織をつくること:元の組織や会社の支配下にはないが関係を持ち続けているものをスピンオフ、元の組織や会社との関係が切れるものをスピンアウト

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