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新都市づくりにあたってはハードとソフトの両面の充実を

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大島 博氏の写真大島 博氏 株式会社千疋屋総本店 代表取締役社長

1957年東京都生まれ。1981年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同年米国コロンビア大学留学、1984年株式会社ドップス・インターナショナル入社、1985年株式会社千疋屋総本店入社、1998年同社代表取締役社長就任、現在に至る。

公職として、国土交通省「国土審議会」専門委員、社団法人東京青年会議所理事長、社団法人日本青年会議所副会頭、東京商工会議所「中央支部小売分科会」副分科会長、NPO法人東京中央ネット副理事長などを歴任。


<要約>

  • 老舗の経営にも共通する考え方だが、街も古いものを残したり、よみがえらせるだけでなく、新たにつくっていくことが大事。
  • まちづくりには、「歴史」や「フィクション」など7つのポイントがあるが、「歴史」や「フィクション」などは人がつくり上げていくもの。たとえ新しい街でもそこに暮らす人が最初から文化をつくっていかないと街の魅力は出てこない。 
  • 国会等の移転そのものに反対ではないが、国会で決議された当時と現在とでは大きく時代が変化したため、この問題も当初の論点だけではなく、別の観点から議論し直すことも必要。
  • 交通機関の発達により、国会はどこででも開催できる。地方の各都市が持ち回りで開催することも考えられる。そうすれば地方も活性化して、東京都と地方との格差是正にもつながるのではないか。
  • 新しく都市をつくるのであれば、その都市独自の特徴を持つことが大事。グローバル化すればするほど、その都市が持つ独自の特徴を発信していくことが必要となる。
  • 新都市づくりにおいては、ハードを整えるだけではなくソフト面の充実が大事。実際に住む人にとってアメニティ的な要素をある程度充実させなければ、魅力ある都市にはならない。
  • 魅力ある都市のイメージをつくることで、世論もその方向に動いていくのではないか。国会等の移転は国の計画だから、国民1人1人が議論に参加してつくり上げていくものであり、そうしてこそ移転実現につながる。

「老舗」の経営にも時代に応じたバランス感覚が大事

当社は1834年の創業以来、日本橋を拠点に営業を行っています。今年で創業174年を迎える、いわゆる「老舗」といえるのでしょうが、私は時代に応じたバランス感覚を常に持つように心がけています。古いものにこだわることも大事だと思いますが、やはり進化していかなければいけません。私も会社を任された最初の頃は、先代である父の見よう見まねでやっていましたが、しだいに時代とのギャップを感じるようになりました。当社は一般の人達から見ると少し敷居が高く、あまり身近な存在ではなくなっていましたから、ロゴや包装紙のデザインを一新し、商品構成も単価の高い果物だけでなく、ケーキなどの加工品を充実させました。また、将来的にお客様になっていただければと、「果物食べ放題」のバイキングなどを企画しました。2005年には、日本橋三井タワーに新本店をオープンし、果物販売の他、フルーツパーラーやレストランを併設しました。そのように時代に応じたバランス感覚を持ってきたことが、ここまで長続きしてきた理由だと思っています。

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日本橋の活性化を考えるきっかけとなったある百貨店の閉店

ご存じのように、日本橋は江戸時代から商業、金融の中心地として非常ににぎわってきた街です。特に金融では、江戸時代に金貨の鋳造・発行を行う「金座」が置かれるなど、まさに核となっていた地域でした。その金座の跡地に建てられたのが日本銀行で、他にも東京証券取引所や多くの金融機関が集積するなど、今でも日本を代表する金融街となっています。

その日本橋も、10年ほど前にある百貨店が閉店し、大きな転換期を迎えました。日本橋の表通りには多くの銀行、オフィスが並んでいますが、銀行は土日は休みですし、平日も午後3時にはシャッターを下ろしてしまいます。他のオフィスの大半も土日は営業していませんから、土日の日本橋はまさに「シャッター街」の状態でした。しかも来街者は、三越や高島屋といった大規模百貨店に集中し、私どものような小規模店にはなかなか足を運んでもらえませんでした。逆に言うと、日本橋はそういった特定の商業施設でもっていた面もありますが、それでは商業地全体の活気が低下してしまいます。百貨店の閉店もそうした要因によるところが大きかったのでしょう。

百貨店の閉店は、関係者にとって日本橋全体の活性化を考えるきっかけとなりました。大規模店や大企業、そして日本橋で昔から営業している老舗など、この地域の関係者の意識が一つにまとまった感があります。そして、特区制度(注1)などの法律も活用して日本橋のまちづくりは激変していきました。実際に今、閉店した百貨店の跡地には、商業施設とオフィスビルの複合施設ができています。

(注1)特定の地域にだけ全国一律の規制とは違う制度を認める仕組み

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地域の歴史や特徴をいかした日本橋における新たな取り組み

最近は各地で大型商業施設が次々と誕生していますが、だいぶ飽きてきたというか、どこへ行っても同じという印象を受けます。オープン後しばらくは、話題性で地域が活気づきますが、その期間も極端に短くなってきていますね。最近は半年ももてばましな方ではないでしょうか。

日本橋は、江戸時代から100年以上続く老舗が数多く残っている、都内でも有数の地域ですので、地域の歴史や文化などの特徴をいかしたまちづくりをしていく予定です。また、日本橋には一つ一つに物語があるような、古くからある通りも数多く存在します。そうした特徴をいかし、訪れた人に楽しんでもらえるように、ハード面だけではなくソフト面にも力を入れて様々な企画を立てています。

地域で昔から活動している「名橋『日本橋』保存会」は、発足当初は文字どおり名橋「日本橋」の保存を目的としていましたが、最近では地域全体のことも視野に入れ、橋の下を通る川辺に公園をつくるなど、水辺の立地をいかしたまちづくりに取り組んでいます。

中央区の名所・旧跡やお店などを紹介する地域情報サイトを運営する「NPO法人東京中央ネット」では、「日本橋OLクラブ」を立ち上げました。これは、日本橋にあるオフィスに勤めるOLが、女性の視点から日本橋のまちづくりの企画を提案していて、会のメンバーが百貨店でファッションモデルを務めたり、最近では老舗を巡る「老舗ツアー」や、日本橋川の遊覧船運航などの企画も立てています。

また、地元企業が中心となって、東京駅と京橋、日本橋地区を結ぶ無料巡回バス「メトロリンク日本橋」を運行しています。このバスは低公害、低騒音で低床式なので高齢者や車椅子の方にも気軽に利用してもらっています。

日本橋には、新旧様々な地元の組織が存在していますが、そこで議論されたことが地域の企業や住民にも理解していただきながら、着々とまちづくりに反映されています。まさに地域全体が目標に向かって一つにまとまっている感がありますね。

老舗企業の経営にも共通する考え方ですが、街も古いものを残したり、よみがえらせるだけではなく、新たにつくっていくことが大事だと思います。

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魅力あるまちづくりに向けた7つのポイント

私は、まちづくりには7つのポイントがあると考えています。1番目はその街の「歴史」、2番目はその街にある「フィクション」、3番目はその街の「歌」。4番目はその街の「味」です。5番目は、「景色、風景」があること。日本橋の中央通り沿いは、建物の高さが31メートルで揃った整然とした街並みとなっています。新しい高層ビルも31メートル以上の建物部分のデザインを変えることで、既存のビルとの調和が保たれています。6番目は「買い物の楽しさ」です。これは街を歩き回る上で非常に大事な点です。7番目は「わい雑さ」です。再開発によって街が洗練されても、それだけでは一瞬の目新しさで終わってしまいます。いい意味でのわい雑さがなければ街としての魅力に欠けて長続きしないと思いますよ。

この7つの点が魅力ある街になるために必要だと思いますが、歴史やフィクションなどは人間がつくり上げていくもの。たとえ新しい街でも、そこに暮らす人が最初から文化をつくっていかなければ街の魅力は出てこないでしょうね。

私が会長を務めている東京販売士協会では毎年街のコンテストを実施しています。販売士という、いわば「販売のプロ」の目から見て、魅力を発信している商店街を選ぶこのコンテストで、昨年は「人形町商店街」がグランプリに輝きました。この商店街では「人形市」を開催しています。町名が人形町ですから人形市は当たり前だと思われるでしょうが、始めたのは2年前からです。期間中は大勢の人が訪れ、参加する人形屋も募集を上回る程になりました。このケースは、街の特徴をソフト的に取り入れることで、「にぎわい」が生まれた好例といえましょう。

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国会等の移転の議論にも時代に応じた新しい観点が必要

国会等の移転が国会で決議されてから20年近く経ちますが、あまりにも時代の流れが速すぎて、当時想定していたことと現実が大きく乖離しているように思います。特に情報技術の進歩は目ざましい。例えば、インターネットがこれほど普及するとは、20年前はもちろん、10年前でも思いもよらなかったですよね。

東京一極集中の是正は、国会等の移転の目的の一つですが、幹線道路をはじめ道路の整備も進みましたから、今ではそれほど渋滞することもありませんし、電車にしても、朝のラッシュ時は混雑していますが、昔のように押し込まれて乗るようなことは少なくなったと思います。それに、想定されている新都市の人口は56万人ですよね。東京の人口は現在約1,280万人ですから、そこから56万人が新都市へ移ったとしても、一極集中の緩和にどれだけ効果があるのでしょうか。

世の中はますますグローバル化に向かっていますから、これからは東京に拠点を置くことにこだわらない企業も増えてくるのではないでしょうか。例えばトヨタ自動車が本社を地方に置いているように、情報化が進んだ今では、距離が物理的に離れていてもコミュニケーションをとることは十分に可能となりました。コストの面を考えても、東京に置くより地方に置いた方がいい。

国会にしても、交通機関も非常に進歩しましたから、どこででも開催できると思います。地方の各都市が持ち回りで国会を開催することも考えられますよね。そうすれば、地方も活性化して、東京と地方との格差是正にもつながるのではないでしょうか。

国の財政状態を考えても、プライマリーバランス(注2)等の問題もありますから、今のままでは、国会等の移転は「必要だけどできない」ということになる。この20年近くの間に世の中は大きく変化しましたし、これから先20年も更に大きく変化するでしょう。国会等移転問題も当初の論点だけでは語れなくなっていますから、別の観点から議論し直すことも必要だと思います。今は、国会等の移転を行う時期ではないと思いますね。

(注2)公債金収入意外の租税等収入と公債費を除く歳出との財政収支 基礎的財政収支

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新都市に求められる世界に向けた独自の特徴の発信

私は、国会等の移転そのものには反対の立場ではありません。学生時代に2年半ほどニューヨークに留学したことがありますが、アメリカもワシントンとニューヨークに政治と経済の機能が分離していますよね。商業的な観点からも、国会等の首都機能が移転しても東京にはそれほど影響がないと思いますし、逆に、その跡地をうまく活用すれば都市の活性化にもつながるのではないでしょうか。ニューヨークにはセントラルパークをはじめとする公園が多く存在し、市民の憩いの場となっています。移転の跡地の活用の仕方によってはプラスになることもあるでしょう。東京は、江戸時代から引き継がれてきた文化とともに最新のものも揃っている、世界でも類を見ない都市です。日本は観光立国を目指して、各地域で観光振興に取り組んでいますが、東京はその中心的な存在として、その特徴を活かした都市づくりが求められています。

先ほど、まちづくりには7つのポイントが必要だと話しましたが、それは移転先の新都市でも同じだと思います。新しく都市をつくるのであれば、そこには生活する人々がいるわけですから、やはりその都市の味というか独自の特徴がなければいけません。世の中がグローバル化すればするほど、その都市が持つ独自の特徴を発信していくことが必要です。昔、「文化や歴史があるところに人は集まる」と言った文化人類学者がいましたが、まさにその通りだと思いますね。

新都市が、例えば高度な危機管理機能を持っているとすれば、それを単なる機能の一つにとどめず、50年先、100年先を見据えた「危機管理機能都市」という独自の特徴を広く世界に発信していくことが必要だと思います。

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新都市づくりにおいてもハード面だけでなくソフト面の充実が大事

国会等移転のパンフレットを見ると、新都市のイメージとして、「緑につつまれた都市」「高度な危機管理機能」「バリアフリー構造の中央ターミナル」といったことが挙げられています。もちろんそうしたハード的な部分も都市の根本条件として必要なことだと思います。例えば、災害対応にしても、今は情報を紙の形で残すことが少なく、多くの場合はパソコンにデータの形で保存していますから、そのバックアップ機能として何らかの方法を考えておくことは必要です。

しかし、実際に新しい都市で生活する人のことも忘れてはいけません。どれほど立派なハードを整えても、ソフト面が充実していなければ、実際にそこに住む人にとって快適な生活にはならないでしょう。住環境はもちろん、週末のレクリエーションなども含めて、いわゆるアメニティ的な要素を充実させることが大事です。そうした要素をある程度盛り込まなければ、魅力ある都市にはなり得ないと思いますね。

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魅力のある都市のイメージをつくることで国民の関心も高まる

国会等の移転に関する議論は、あまりにもハード面に偏り過ぎてしまっているように感じます。ハードを移すことが前提条件でしたから、そう感じてしまうのも当然だと思いますが、時代も変わっていますから、やはりもっと色をつけるというか、ソフト面の議論を詰めていった方がいいのではないでしょうか。単に国会を移転するとか、災害時のバックアップ機能といったハード面だけを掲げても国民の関心は呼ぶことはできませんし、理解も得られないでしょう。都市の魅力を充実させ、誰もが「この都市はいい」と思って、逆に多くの人が移り住みたくなるような勢いのあるイメージが欲しいですね。

新しい都市をつくるということは、我々の世代は経験がないことですが、その道の専門家を集めて議論していけば、いろいろなアイデアが出てくると思います。そして魅力のある都市のイメージをつくれば、自ずと世論もその方向に動いていくのではないでしょうか。これは国の計画ですから、やはり国民1人1人が議論に参加してつくり上げていくべきだと思いますし、そうしてこそ移転の実現にもつながるでしょう。

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