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「首都機能移転と日本の新しい政策づくり」


竹内 佐和子氏の写真竹内 佐和子氏 東京大学大学院工学系研究科 助教授

1952年生まれ。1975年早稲田大学法学部卒業。パリ大学大学院客員教授、フランスグラン・ゼコール、ポンゼショセ校国際経営大学院副所長、長銀総合研究所主席研究員等を経て、1998年から現職。東京大学工学博士。

近著に「21世紀型社会資本の選択 ヨーロッパの挑戦」。



国会等の首都機能移転の意義

国会等首都機能移転の意義はどこにあるのか。それを改めて問い直してみようという声が多くなっている。東京一極集中の是正という目標の意義は薄れたという声もあれば、大規模な政府支出は望ましくないという声もある。事実、霞が関周辺地域のオフィス不足はかなり解消されている。移転先候補となった3つの地域では、国会等の誘致に熱心なところもあるが、首都機能誘致熱もひところに比べれば冷めている。確かに、地元が熱心になったとしても国会移転というテーマを、地域の活性化問題の延長としてだけ扱うわけにはいかないだろう。

そこでもう一度原点にかえって、国会等移転の意義を考えてみたい。その目標は何だったのか。その目標に照らしたときに首都機能移転が十分な政策効果を生み出すのか。移転コストは一体どんな政策効果との見合いで判断すべきなのか。それらの点を考えてみたい。

首都機能移転の意義は3つある。私なりの表現に置き換えて見ると、一つ目は日本の多様な文化力を全面に押し出すこと、2つ目は中央集権体制からの脱却、3つ目は東京における大地震対策など防災上の観点である。

一つ目は日本の文化政策として位置づけられるもので、歴史的な文化形成の流れを重視し、集落や昔の城下町など文化共同体を中心に日本の新たな顔を作り出そうというものである。2つ目は主に産業の中心が農業から製造業へと移行することに伴って生じた「富」の首都圏への集中の是正、そして東京の経済力と結びついて発展した中央省庁中心の制度の改革を目指したものと解釈できる。

この2つの目標に対して首都機能移転はどういう成果をもたらすだろうか。

まず首都機能の意味を考え直してみたい。首都というのは、国の中心といった象徴的意味もあるが、具体的にいえば中央政府機能が置かれた場所だから、首都機能とは中央政府の機能と解釈できる。

こう考えると、中央政府は今後どういう機能を果たすのかを明らかにしなければならない。国会等移転というのは中央政府をどこに移転するかといった地理的な問題ではなく、日本を形作る行政制度全体のあり方に関わる問題提起だと考えるべきである。この点を踏まえずに候補地の選定を先行させたために、首都機能移転だけが行政改革など他の政策から遊離し、十分な連携を図ることができなくなってしまった。

先にあげた3つの目標のうち、多元的な文化政策と中央集権からの脱却という視点は、より分散的な地域開発戦略を目指すべきだという主張に置き換えられる。この点からみると、首都機能移転は残念ながらきわめて限定的な意味しかもっていない。日本の多元的な文化の再生に、首都機能移転は直接には寄与しない。地域文化を育成するためには伝統文化や職人技術の伝承など、地域性を重視した文化政策の作成を優先すべきだろう。

中央集権システムの是正としては、中央政府と地方政府の役割を十分整理した上で、中央政府の役割を限定する必要がある。そうなると、地方分権や行政改革など、他の中央省庁改革政策と連携をとらなければ十分な政策効果を発揮しないことになる。

唯一例外的に重要なのは防災上の観点である。この観点は、他の2つとは性格が異なり緊急度はかなり高い。いうまでもなく、富が一極に集中しているのと分散しているのでは、何か大規模なショックが加わったときには過度に集中している場所のリスクが高くなることはいうまでもない。交通・金融などインフラのシステムが一つのシステムに依存していると、そこが破壊されたときの損害はきわめて大きい。この点でも、システムは分散型が望ましい。

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新しい文化の受容力の格差

次に、都市圏への人口集中の背景にある都市文化と地方文化の違いを考えてみたい。

経済成長力という観点から見れば、経済力が地理的に必要以上に分散していると地域の集積効果が働かず、投資の波及効果が少なくなってしまう。その意味では、首都圏への経済力の集中は、消費の波及効果を高め、製造業やサービス産業の国際競争力を急速に拡大させる意味で重要だったといえるだろう。

もうひとつ、東京の発展の裏には、地方文化の限界が隠れている。つまり、地方文化は伝統の維持という点では十分であっても新しい経済の価値観を受け入れ、若者の行動力を活用する意欲が弱かったという点を指摘したい。いいかえれば、地方では経営者の高齢化とともに過去の成功者を中心とした長老中心の支配体制が強まり、新しい価値観を受け入れる力を失っている。東京に若者をとられたという声をよく聞くことがある。しかし、スケールの大きい仕事をしたい、慣習にとらわれないでのびのびと仕事をしたい、国際的な活躍をしたいと考える若者の意欲を、地方の財界が十分生かしきれてないという社会的課題があることに気がつくべきである。

このことは地方都市で講演をするとよくわかる。新しいサービス産業の話をすればそれは無理だといい、女性の社会参加の重要性を説けば、男女共同参画は家族の崩壊につながる、公共事業がなければやっていけない、女性は子供を3人は産めなどという内容が飛び出す。たとえ中央政府が環境対策や中小企業ビジネスなど、新規の政策メニューを掲げても、政策効果が浸透しにくい政策空洞化地域が日本全体で急激に増大している。このため、政策の流れが中央から地方へという一方通行に終わり、現場からのフィードバックを生かしにくくなっている。

都市と地方の格差是正問題は、経済問題よりもさらに根が深い社会的文化的課題である。それは首都機能移転といった問題よりもはるかに複雑である。その格差問題に対して、今日まで大規模な国土ネットワークや公共事業を通じて必死に地方活性化を図ろうとしてきた。しかし、地方公共事業の増大によって、地域格差を是正できる時代ではもはやなくなっている。そうではなくて、現場に近いところで新時代に合わせて政策を練り直し、新しい社会インフラを提案するという行政機能の分散化こそが大事なのである。それによって、新規ビジネスに挑戦しようという意欲あふれる若者の地域定着率をあげるべきである。

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国土インフラ・ネットワークと首都機能移転との関係

そこで、中央集権的国土インフラ整備からより分散型の政策体系へ転換するために、一つの提案をしたいと思う。その上で首都機能移転の意義を述べたい。

首都機能移転の政策効果を高めるには次のようないくつかの条件が必要である。2001年にスタートする行政改革など他政策との整合性を図る。公共投資の乗数効果が薄れつつある都市地域など、政策空洞化地域に向けた特別の地域政策を強化する、省庁間の調整機能に注目する、情報化時代のシステムダウンに備える、社会インフラの横断調整機能を実現するといったものが考えられる。

こう考えると、首都機能移転の目標にあがっている中央集権体制からの脱却は、第一に中央省庁の地域分散によって実現すべきと考える。首都という機能をどこにもっていこうと、全国の政策空洞化地域の問題は解消できない。政策形成と実施体制、評価機能をもっと現場に引き寄せることが優先である。

具体的方策としては、まず国が行ってきた大規模社会インフラの計画体系を地域別体系に置きかえる。国土交通省が行う社会インフラ計画は、国土分散構想に照らして、現行の電力、JR、政策投資銀行の管轄範囲と合わせて、全国に約10ヶ所程度のオフィスに分散する。

産業政策は、対外的調整を要する部分を中央政府が行い、中小企業育成、雇用創出などの産業政策の立案は地方主体で行う。その場合の地方オフィスの数は、地方金融市場が成立するくらいの規模と考えれば、3から4つであろう。これらの政策によって、中央集権的な政策編成からの脱却が図れるだろう。

中央政府の仕事の多くをこのように現場に近寄せると、中央政府の機能の中で残るものは、省庁間の横断型調整、広域社会資本計画の相互調整、外交、防衛、国際基準の設定など対外的側面にしぼられる。具体的には、内閣府と首相官邸、政策の議決機関である国会、霞ヶ関に残っている省庁となる。これらが首都機能移転の対象となる。

そう考えると、新首都は既存の首都との連絡が容易で、地震など防災上の観点から選択されるべきだろう。その場合、新幹線および高速道路の便利さを考えて、既存の社会インフラをそのまま活用できる範囲を想定する。オフィスの規模は最小限とし、大規模な造成は考えない。都市開発手法としては、上下分離方式を用い、独立の開発公社を設けて、土地等の収用、インフラの整備は公的資金、建物部分は民間企業の開発によるリース方式とする案が考えられる。建築デザインは環境に配慮した自然調和型の設計とする。

21世紀に向かって、既存の中央省庁体制を前提とした首都機能移転では意味がない。急速に高齢化が進行する日本の現状を踏まえて、より透明で情報発信的な政策形成づくりに寄与できるよう新首都機能を活用すべきだろう。

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