講演の一部を音声でお聞きいただけます
赤星 たみこ氏 漫画家
1957年宮崎県生まれ。1979年に漫画家デビュー、「エクレア気分」など代表作多数。また20年近く実践しているエコロジカルな生活をもとにした「エコロなココロ」(大和書房)、「ゴミを出さない暮らしのコツ」(同)などを出版するなど、エコロジーに関する著書も多数。現在、"楽しくおしゃれにエコロジー"をモットーに、エコロジストとして各地で講演を行っている。
私が考える住みやすい都市とは、人口が20万人までとあまり大きくなく、一言で言えば住民の仲がよくて、文化の香りがするまちです。文化の香りがするまちというのは、住民がその場所に住んでいることに誇りを持たないとできません。京都のように歴史のあるまちであれば、誇りを持つ文化が具体的にあるわけですが、新しく都市をつくるとなると、そこで誇れるものがまだありません。本来は誇れるものが自発的に出てくるのが一番いいのですが、それが全くない新都市から何かをということになれば、「自分のまちは環境がすばらしい、環境的に優れている」ということが一番手っ取り早く、またこれからの時代にも合う誇りの持ち方になるように思います。
それは、わかりやすいところで言えば、ごみの分別がきちんとしやすいまちです。分別がしやすいまちというのは、家庭の中ももちろん大切ですが、ごみ処理のしやすい商品しか売らない都市であるということも考えられます。しかも、その土地独自のリサイクルシステムや、リサイクル業者がきちんと生活できるシステムが構築されていると、ごみの問題で世界から視察に来るようなまちになります。そうすると、うちのまちは世界から視察が来るような、そんなすばらしいまちなのだという郷土愛、愛着も出てくるわけです。郷土愛が出てくるとしめたもので、みんなもいろいろなことに取り組みやすくなり、まちのために頑張ろうという気が起きてきます。
ごみが落ちておらず、美しい自然があって水や川がきれいとなると、これは誇れることです。自然がたっぷりで、例えば大きな桜並木があるとか、アジサイロードがあるとか、きれいだからということになると、観光客が来るようにもなります。そして、観光客が落としてくれたお金が財政にも役立ちます。
観光客を呼ぶためには、景観条例がきちんと整備されていることが大切です。環境にいいからといって、いろいろな形の家をガンガンつくるのではなく、色や形をそろえることも必要です。日本は今までずっと、都市にしても田舎にしても、景観に統一感を持たせるということがなされていません。ごちゃごちゃした雑多なところがアジアの文化だという意見もありますが、雑多なまちづくりというのでは、なかなか郷土愛が芽生えない。美しい町並みをつくることがまず郷土愛を育む一つの手段だと思います。
景観をきちんと守る、統一感を持たせる。これはもうデザインです。素材はいろいろ皆さんが考えてもいいと思いますが、外壁の色や屋根の形などは統一したほうがいいと私は思います。その上で、それぞれの土地でとれた材木を使うとか、竹がとれるところであれば竹を床材にするということでも良いですし、その土地でとれた土を塗り壁にするとか、その土地なりの建物をつくるとよいのではないでしょうか。
それがうまくいっているのが北海道の美瑛町です。美瑛町では、近くでとれる石があるのでその石を必ず外壁や壁に使うこと、雪が多いので屋根の傾斜角が何度にすること、というだけの緩い条例が決まっています。外壁の一部にその石を使い、とんがり屋根にするだけで町並みがそろって、「すごい、きれい」といって観光客が見に来ています。そうすると、住んでいる人はうれしくて、ますます自分のまちが好きになるのです。
自分の都市を好きになるきっかけの一つとして、お祭りがあると思います。新しくできた都市だと最初はお祭りなんてありませんが、昔からある日本の元旦や成人の日、おひな祭りや節分などというときに、少なくとも官公庁の人が浴衣でいいから日本の着物を必ず着るようにすることからはじめるとよいのではないでしょうか。それぐらいのことをしないと、日本人は日本をどんどん忘れてしまいますから。首都機能を移転する新都市は、日本を思い起こさせるような都市であってほしいと思います。こうしたことは、自らの心の中から自然とわいてくるのが一番いいのですけども、それが今はなかなか難しい。企業だけではなくて、官公庁や自治体が、和風というのをもっとしかけてもよいのではないでしょうか。
また、首都機能を移転すると、お役人さんも移ってくることになります。そうすると、大体3年ぐらいで異動してしまいます。それでは郷土愛なんか芽生えようがないわけです。だから、首都機能を移転したところには、お役人と地元の人を一緒に住まわせることも考えるべきです。お役人や議員さんの家族が町じゅうのいろいろなところに散らばっている。そして、お役人さんが決まった日に着物を着て通勤する。そうすれば、周りの人は通勤途中にそれを見るわけです。お祭りなども毎月第1土曜日に「着物を着る」と決めて、まずは自治体の人が着物を着る。そうしたら他の人も着物を着るようになります。すると、観光客が来るようになります。私は、この都市が観光と環境で売ることができると面白いと思います。
ただ、観光立国のためということでテーマパークなどをつくっても、1〜2年でだめになることが多いのも現実です。だから、そこに住んでいる人たちを見に来る、そこにある家を見に来るようにしないといけません。例えば、毎月第1土曜日になると町じゅうの人が全員着物を着ていて、「わあ、すごい」となるようなことが求められるのです。そこは、まるで囲いのない日光江戸村になっているわけです。
テーマパークで成功しているところとしては、ディズニーランドがあります。ディズニーランドがなぜ成功したかというと、メンテナンスが物すごくきっちりしているからともいえます。ペンキがはげているところがあっても、翌年に行くともう直っています。そういうところでメンテナンスにお金をかけると、またお金をかけてもいいぐらい人が来る。人が来るからますますメンテナンスに力を入れるということで、ディズニーランドの中はずっときれいなままに保たれるわけです。
では、それを一般の都市でするとなると、住民がやらなくてはいけないわけです。ギリシャでは毎年壁を白く塗るといいます。だから、あそこの町並みは白くてきれいなのです。日本も、住民が自分の家のペンキ塗りを毎年すれば、このまちはいつ来てもきれいということになります。それは自治体がやるのではなく、住民みずからやるのです。もちろん最初は条例をつくったほうがいいと思いますが、そうすることで町を愛する心が芽生えるだけでなく、観光客を呼び込むことができるようになるのではないでしょうか。
迎賓館のように、日本にもヨーロッパ調を模したものがあります。あれが全部悪いとは思っていませんが、新しい都市を作るのであれば、町並みはぜひ和風にしていただきたいと思っています。茅葺きまでいくとかなり大変ですから、白い漆喰の壁に黒い瓦の屋根、そういう和風のデザインの家があるといいですね。障子は日本の気候風土と本当に合っていますから、家も壁紙を和紙にして障子を入れると部屋の湿度がグッと下がります。また、天然木をたくさん使った家は、木が湿度を吸ったり吐いたりしますので、日本の湿気の多い気候と本当に合っています。だから、天然木をたくさん使った家づくり、まちづくりをしてほしい。ガードレールなども木にしてほしいと思います。
木を使うとなると毎年補修をしなくてはいけませんが、そうすると補修をする人たちには毎年仕事があるわけです。何十億も何兆円もかけてダムをつくったり、道路をつくったりして、そこで「はい、終わり」ではなくて、何千万とか何億円の仕事をやったら、その後にずっと何百万とか一千万クラスの仕事が毎年ずっとあるわけです。何兆円のお金をいっぺんに使うのではなくて、何十年、何百年にわたって使っていけばいいのです。そうすると、その材木を使った仕事をする人たちの家族が住み、その人たちに対する商業が成り立ちます。エコロジーというのは、経済的に成り立っていかないと全く意味がないのです。
戦後植えた木は、輸入材のほうが安いからとそのままになって、その後は細い木がみっしり生えているだけになっています。これではもう意味がありません。きちんと植えて、20年後、30年後に使わないとだめなのです。日本は、森林が国土の7〜8割を占める森林資源の豊富な国ですから、すべての天然林を伐採して使うとかいうのではなく、植林した森をきちんと使ってまた植林をする。そういう使い方が一番のリサイクルだと思います。
日本の最大の資源は水と森だと私は思います。水があるということは、森があるということです。雨水を受けても、そのままでは飲料水や工業用水に使えるような水にはならないわけです。森があるからこそ、それをいったん地下水として蓄え、地下水として湧き出てくるわけですから、まず森を育てなくてはいけません。
その森を育てるためにも木を使わないとだめです。環境の人たちは何でもかんでも木を切るなといいます。きれいな天然林は切らなくていいですけれども、植林したものは切って、きちんとリサイクルする必要があります。
また、例えばまちの中でも、合併処理浄化槽を使ってほしいと思います。合併処理浄化槽というのは、1軒だけ使う分には非常にいいし、下水道をつくるよりも効率がいい。例えば、10階建てぐらいのビルの中での合併処理浄化槽というのは非常に効率がいいのです。マンションでも、家庭の排水をそのマンション内部で処理をして中水として使えば、そのマンションやビルが都市の中の小さなダムになるわけです。ですから、ある程度の密度のところにはきちんと大型の合併処理浄化槽を入れて、小さなダムとして使ってほしい。万が一の場合は、火災のときの放水としても使えますし、合併処理浄化槽できれいにした水はその場で地面にかえせます。当然、道路なども浸透性のアスファルトにして、地面にとにかく水をかえすことが必要なのではないでしょうか。
首都機能を移転するのに、新たに道路をつくって下水道を引いてとなるとすごく大変ですが、合併処理浄化槽にしたら10分の1のお金で済みます。もちろん幹線道路は1本つくったほうがいいと思いますけれども、お金をかけないやり方というのはいくらでもあります。
何でも一遍に大きくということになると物すごいお金がかかりますが、首都機能、国会にしても、ある程度の大きさでつくるとしたら、最初から増築することを見越したデザインでつくればいいのです。最初から「これで完成です」といって、何年かたって「やはり足りなかった」と増やすのではなくて、増築することをまず念頭に置いたデザインでつくるのです。まちがどんどん成長していくことを、少しずつ考えていけばいいと思います。一遍に大きい「大人」をつくるのではなく、子供だと思って、赤ちゃんを育てるつもりで、今年はこれをつくって、来年はこれをつくってと、少しずつふやしていけばいいのです。
日本人は、道路をつくってくれる、橋をつくってくれるからといって地元の国会議員を選びます。それは県会議員の仕事で、国会議員は天下国家を憂えるべきです。地元の利益だけを考えてはいけないと思います。地元に利益を考えるような、県会議員が考えるようなことを考えている国会議員は要りません。そうやって減らしていくと、国会議員はもっと減らせるのではないでしょうか。
そして、国会こそIT化をどんどん進めていただいて、それこそ国会議員はすべてブラインドタッチでチャットができるぐらいにします。チャットであれば、アメリカにいようが日本にいようがオンラインでできるようになります。そうすれば、別に大きな国会機能は要りません。
その上で、国会議事堂にしても、日本らしさを考えた和風のものにするとよいのではないでしょうか。皇室の方たちの写真とかを見ると、後ろに障子があったりします。障子というのは光がやわらかくなるし、吸湿効果、断熱効果が高い。障子の合うような、すっきりした直線のデザインというのは、日本独自のものだと思います。基本的に日本の美というのは「すっきり感」が信条ですから、直線ですっきりしたデザインを取り入れると日本らしさが出てくるのではないでしょうか。障子のような垂直線と平行、水平線が交わるような日本独特のデザイン感覚というのを、国会議事堂のデザインにも取り入れる。そういうすっきりしたデザインの書院づくりのような議事堂にしてもらいたいと思います。
製紙工場の人に聞いた話ですが、20万人ぐらいの都市だと、その都市から出てくる古紙だけで再生紙の原料が十分賄えるそうです。それは再生紙をつくる上で、つまり循環型の都市をつくるのに非常にいい。交通も、100万人都市になってくると車がないといけないですし、道が狭いと渋滞を起こします。そういう意味で20万人ぐらいが、広く、薄く、まちの中に散らばっているとよいと思うのです。20万人都市であれば、低層のマンションや一戸建ての家が広がることになるでしょう。そうすれば、日本の気候や生活にあった木の家に住むことのできるまちづくりができるのではないでしょうか。その中を、できれば無料の巡回バスや自転車で動くようにすると、環境にもやさしい都市になるように思います。
首都機能の移転をするのであれば、とにかく分散、分散で、20万人ぐらいまでの都市が点在するようにあるというのがいいでしょう。その中で、首都機能の一部を東京に残しておくことがあってもいいですし、東京はもうこれだけ人が集まる要素がたくさんあるのですから、首都機能を移転したからといって客が激減するわけでもありません。人口というのは広く、薄く散らばっているのが一番よく、首都機能を移転するのであれば、一極集中をなるべくさせないことが重要なのではないでしょうか。環境的に優れた文化の香りがする人口20万人程度の都市をつくって欲しいと思います。