Q.移転先としてバルパライソが選ばれたのはなぜでしょうか。
A.バルパライソは、サンティアゴに次ぐチリ第二の都市であり、チリの主要港でもあります。同地はチリ国内のみならず、ラテンアメリカ諸国にとって重要な都市です。また、バルパライソは急斜面に沿ってたくさんの家々が建ち並ぶ歴史のある美しい港湾都市でもあります。パナマ運河が開通するまでは、船は南米最南端のホーン岬を通過していたため、寄港地として栄えました。街は繁栄の時代を享受し、数多くの外国人が居住していました。しかしパナマ運河が開通したことにより、バルパライソに立ち寄る船は減っていき、寄港都市としての重要性を失ってしまいました。ですから、国会を移転することにより、街を再び活性化しようという意図もあったと思います。
Q.国会が移転して20年ほどが経ちましたが、この20年で移転はどのような評価を受けていますか。
A.移転当初からずっと、相反する2つの評価がありました。まず、移転に価値を認める意見として、バルパライソの文化的なアイデンティティーが強化されたという声があります。文化活動が盛んになり、2003年に歴史ある港湾都市の街並がユネスコの世界文化遺産に登録されました。観光都市としての魅力も増しており、広さ6万平方メートルという堂々たる建物の国会議事堂は、たくさんの観光客を集めています。
この一方で、移転する価値はなかったという意見もあり、議員としての仕事はサンティアゴで事足りるのに、バルパライソに出向くのは、時間と費用の無駄だと言われています。サンティアゴにあった旧国会議事堂は、2006年まで外務省が使用していましたが、再び国会の帰属になり、議員がオフィスとして使うようになりました。ですから、議員たちにはサンティアゴで仕事をする場所が確保されています。しかし、議決権を行使する場所はバルパライソです。
Q.バルパライソへの議員の移動費用について教えてください。
A.移動の費用は国から支給されています。サンティアゴからバルパライソまで、車で1時間ちょっとくらいの距離です。通常国会は5月21日から独立記念日の9月18日までで、大統領の召集により9月19日から5月20日までの期間に特別国会を開催することがあります。国会議員は、ひと月のうち最初の3週間はバルパライソに行き、残りの週は各々の選挙区の州や都市に戻って、地方のニーズや問題の把握に努めなけれななりません。このほか、国会会期の冒頭で大統領が所信表明演説を行うのもバルパライソで、両院総会が開かれます。
Q.国会会期中は議員だけでなく、省庁職員もバルパライソに移動するのでしょうか。
A.チリは大統領制のため、日本とは事情が違います。議会が専属の行政スタッフを抱えているのです。議会が特定の案件について大臣を呼んで説明を求めることがあり、その場合は閣僚自らがバルパライソに出向かなくてはなりません。
Q.移動経費がかかるため、サンティアゴに国会を戻そうという動きにはならないのでしょうか。
A.議員と同様に国民の中にも、移転当初から意見の相違がありましたが、今のところバルパライソに国会があることに対して大きな反対運動は起きていません。省庁の職員は行政事務を行うために常にバルパライソにいるのですから、議員がサンティアゴにいる時にバルパライソが機能していないわけではありません。
Q.日本は今年3月11日、東日本大震災で大きな被害を受けました。貴国も地震が多く、2010年2月には大地震に見舞われましたが、港町に位置する国会への影響や地震への対応をお聞かせください。
A.チリでは2010年2月27日に大地震がありました。しかし、国会にはそれほど影響がなかったと思います。地震直後の3月11日に新政権が発足し、新大統領の就任式が国会であったのですが、外国からの来賓も迎え予定通りに行われました。実は、大統領が宣誓をしているとき数回大きな余震があったのですが、就任式は滞りなく続けられました。
地震への対応についてですが、チリは大統領制を敷いていますので、国会ではなく大統領が自ら指揮を執り対応しました。日本と同様にチリもまた津波による深刻な被害を受けたのです。そして、国会を含め社会の各方面の人々が、地震や津波の被害が最も大きかった地域を支援するため、全員で力を合わせてきました。
Q.今後、行政や司法機関もバルパライソ、あるいはほかの場所に移転するような計画はありますか。
A.いいえ、今のところその予定はありません。