本記事は、大韓民国国土研究院 朴・セフン研究委員からの韓国語による寄稿(平成26年2月)を和訳したものです。
韓国では、2005年に「行政中心複合都市建設特別法」を制定し、ソウル首都圏の集中の解消、国家の均衡ある発展及び国家競争力の強化に資することを目的に世宗市への首都機能移転が行われています。
去る2012年7月には、世宗特別自治市が正式に発足し、9月には国務総理室が政府機関として初めて世宗特別自治市に移転しました。2014年までに主要9部、2処2庁など36個の政府部庁が移転する予定です(なお、韓国の首都機能移転では、移転対象機関には、青瓦台(大統領執務室)と、国会、憲法裁判所は含まれていません)。
韓国の首都機能移転について韓国国土研究院研究委員のパク・セフンさんにお話を伺いました。国土研究院は行政中心複合都市の位置の選定、都市デザイン、移転対象機関の選定などを担当した国策研究機関(政府出捐の研究機関)です。
答:行政中心複合都市の移転対象機関は首都圏に所在する37の中央行政機関(16の本部、20の所属機関)と16の国策研究機関です。現在まで2段階の移転が完了し、今年中にすべての移転対象機関の移転を完了する計画です。移転対象機関の名称と移転時期は次のとおりです。
移転時期 | 中央行政機関 | 中央行政機関所属機関 | 国策研究機関 |
---|---|---|---|
2012年 (1段階) |
国務総理室、 企画財政部、 公正取引委員会、 国土交通部、 環境部、 農林畜産食品部 |
租税審判院、 中央土地収用委員会、 航空鉄道事故調査委員会、 中央海洋安全審判院、 復権委員会、 中央環境紛争調停委員会 |
|
2013年 (2段階) |
教育部、 文化体育観光部、 産業通商資源部、 保健福祉部、 雇用労働部、 国家報勲処 |
教員請願審査委員会、 地域特化発展特区企画団、 海外文化広報院、 経済自由区域企画団、 貿易委員会、 電気委員会、 鉱業登録事業所、 中央労働委員会、 最低賃金委員会、 報勲審査委員会、 産業災害補償保険再審査委員会 |
韓国開発研究院 |
2014年 (3段階) |
法制処、 国民権益委員会、 国税庁、 消防防災庁 |
韓国政策放送院、 郵政事業本部 |
経済人文社会研究会、 国土研究院、 韓国法制研究院、 韓国租税研究院、 科学技術政策研究院、 韓国職業能力開発院、 韓国労働研究院、 対外経済政策研究院、 産業研究院、 韓国交通研究院、 韓国青少年政策研究院、 韓国保健社会研究院、 韓国環境政策評価研究院、 基礎技術研究会、 産業技術研究会 |
答:移転対象機関は国民の合意に基づき決定されました。2004年に新行政首都造成が推進された当時は政府部署、大統領府、国会、大法院を全て移転する計画でしたが、2004年10月、首都の移転に関する違憲判決を受け、中央行政機能と一部国策研究機関だけが移転することに決定されました。政府部署のうち国防、外交、統一など首都の機能と直結する部署はソウルと首都圏に残留し、その他の機能を行政中心複合都市へ移転することになりました。一方、16の国策研究機関を共に移転し、移転による波及効果が高められるようにしました。
移転時期は政府庁舎および研究機関庁舎の完工時期と連係し、2012年から順次移転することとされました。政府庁舎の建設の動向などを考慮し、個別行政機関の移転時期を別に定め、移転の効率性を期するために類似機能を遂行する機関別に移転の日程を分散、調整し、段階別に移転を推進しています。また、政府機能の早期、安定的定着のために2014年まで移転を終える計画です。
答:行政中心複合都市は首都圏集中の緩和と国家均衡発展のために推進され、それに適合した地域を候補地域として選定しました。行政中心複合都市は2003年に「参与政府」(盧武鉉政権が進めた国民参加の政治)の核心的な国政課題として推進され、当時は忠清圏の4つの地域を候補地に選定し、そのうちの最適な地域である燕岐郡、公州市周辺(現在の世宗特別自治市)を最終候補地域に選定しました。
当時、燕岐-公州の候補地は忠南燕岐郡の南面、錦南面、東面1と公州市の長岐面周辺で面積は約2,160万坪で、国家均衡発展の効果、国内外でのアクセシビリティ、自然環境に及ぼす影響、生活の基盤としての自然条件などの項目でまんべんなく高い点数を取りました。特に京釜高速鉄道五松駅および清州空港に隣接し、唐津-尚州間の高速道路、京釜高速道路および京釜線に近くアクセシビリティに優れていると評価され、大田市、忠清北道、忠清南道の中心地域に位置し、均衡発展効果だけでなく国民統合効果も高いと評価されました。
1 | 「面」は韓国の行政区分の一つで、郡−市の下に位置づけられる(独立した自治体ではない) |
---|
答:行政中心複合都市建設の基本理念は国民統合、国家均衡発展そして東北アジア経済中心を包括する共生と跳躍です。共生は地域間、世代間、階層間の葛藤が解消され、人と自然が共存し、全国が等しく良い暮らしができる‘調和がとれた韓国’を意味し、跳躍は世界一流国家として進取的気性で東北アジア経済発展に核心的な役割をする‘躍動的な韓国’を意味します。したがって行政中心複合都市は共生と跳躍を土台とする大韓民国を象徴する未来地域的であり持続可能な都市に建設される予定です。
このような目標を達成するために2008年建設基本計画を策定しました。建設基本計画では2030年に最終的に人口50万の都市づくりを目標にしています。人口規模は首都圏人口分散効果、移転機能の受容、自足機能の確保、忠清圏内の都市体系化の調和などを考慮し決定されました。都市構造を環状型で構成し、中央部にオープンスペースを作り、市民が共有し休息できる空間を計画しました。生活圏単位の特性とレベルにより基礎、地域、都市生活圏で区分し、導入機能および施設を配置しました。また、開発地域面積の50%以上を公園緑地および水と調和空間として環境に優しく開発が持続可能なように計画しました。
答:まだ移転の初期段階にあるため、移転効果の評価は時期尚早な状況ですが、初期に入居した移転機関の従事者はいくつかの困難に面しています。公共交通が完備されておらず移動が不便な点、周辺に利便施設(食堂、病院など)が不足し生活が不便な点、ソウルへの頻繁な出張により業務空白が発生するなどの困難が報告されています。このような問題点の多くは都市造成中による短期的な問題であり、長期的には都市造成が完了し安定化されれば解消されると予想しています。
しかし、一方では周辺地域から行政中心複合都市へ移住しようとする人々が多く、候補地域の住宅価格が上昇するなど都市活性化に肯定的な徴候も現れています。予想より多い小学生が入居して小学校が足りない現象も現れています。これは行政中心複合都市の良好な住居条件・教育環境のため周辺の人口が流入した結果と評価されています。
答:行政中心複合都市建設の波及効果は、中央行政機関および関連産業の移転による首都圏人口分散効果、都市建設投資による生産誘発および雇用創出効果に分けて見ることができます。新行政首都推進当時(2004)推定された波及効果によれば首都圏人口51万人が減少し、年間1.1兆ウォンの交通費用および1,060億ウォンの環境改善費用が節減されると予測されました。また、建設投資によりGDPは2010-2011年に最大0.39%増加、2030年まで建設産業の分野で延べ37万人の新規雇用が創出されると予想されました。
しかし行政中心複合都市建設の真の波及効果はこのような統計的数値にはありません。 行政中心複合都市は首都圏人口集中の緩和と国家均衡発展を通じて究極的に国家競争力を強化することにあります。行政中心複合都市はソウルと首都圏を中心に形成されている経済力と政治権力の集中を緩和し、全国等しく良い暮らしが出来る国を作る基礎になると期待しています。
答:大きく4つの行政中心複合都市の未来像が提示されています。最初は国家均衡発展を先導する行政機能中心の複合型自足都市です。政府庁舎など中央行政施設は、都市の景観とイメージを決める重要な核心施設における業務遂行の効率性、市民アクセス性および庁舎セキュリティーなどを総合的に考慮して配置されています。また、行政中心複合都市は全国主要都市どこへも2時間以内に簡単にアクセスでき、すべての国民が質の高い公共サービスを選択・享受することになります。また、都市が雇用、教育、文化、社会福祉などの多彩な自足機能を確保し国際的水準のサービス供給を維持する計画です。二番目は自然と人間が交わる、快適で自然に優しい都市づくりです。行政中心複合都市は山、河川など自然環境が相互連係する生態ネットワークを通じて生態系の多様性と循環性が確保され、自然と都市環境が相互調和をつくり出す都市になるでしょう。また、環境汚染を最小化しつつ、エネルギーと資源の節約型の都市空間構造と交通体系により、次世代にも快適な環境を共有する都市になるでしょう。三番目は利便性と安全性を備えた、人間を中心とした都市です。行政中心複合都市はすべての住民が公共施設と便益施設を便利に利用でき市民に優しい生活サービスが提供される都市です。住民は徒歩と自転車で都市のどこでも行くことができ、活気に満ちた多彩な都市生活を享受するでしょう。その一方で国家安保が考慮され各種災害・災難に備えた防護防災体系が完備しており、住民が安全な生活を営める都市になるでしょう。最後に文化と先端技術が調和する文化情報都市です。行政中心複合都市には地域文化と世界文化が共存し、地域の特性と美しい景観を生かした個性ある都市文化が演出されるでしょう。多種多様な階層の住民たちが共同体意識を向上していきながら文化活動に直接参加するなど住民間の交流が活発になるでしょう。併せて国内外どことでも望む情報をリアルタイムに交流できる知識情報社会を先導する先端都市運営システムが構築されたデジタル都市になるでしょう。
問い合わせ先
国土交通省 国土政策局 総合計画課
Tel:03-5253-8365 Fax:03-5253-1570 E-mail:itenka@mlit.go.jp