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Webニューズレター新時代Vol.80 〜一緒に考えましょう、国会等の移転〜

韓国 行政中心複合都市建設庁 訪問記

本記事は、平成29年1月に実施したインタビュー内容を取りまとめたものです。

行政中心複合都市の概要

 韓国では、新しく世宗特別自治市が発足し、そうした中で行政中心複合都市の開発及び建設が活発に行われています。中央行政機関移転などの中心になっている行政中心複合都市についてお聞かせください。

 

行政中心複合都市の位置
行政中心複合都市の位置
(出典:韓国 行政中心複合都市建設庁の説明資料より)

 

 行政中心複合都市は、韓国のバランスの取れた国土開発、国の競争力向上を目指し、世宗特別自治市の中に、行政中心複合都市建設庁(政府)が建設・管理する地域です。

韓国の中心に世宗市が立地し、その中に行政中心複合都市が立地しています。国土の中心に立地している地理的なメリットに加え、様々な広域交通網の拡充を通じて、国の主要都市へ2時間以内にアクセスできるよう整備しています。

現在、行政中心複合都市は面積が72km²、人口は146,653人です。行政中心複合都市の特徴は、都市の中心に緑を残して、22の地区をその緑地に沿って円型に配置し、交通渋滞などの様々な都市混雑を減らすように設計されたことです。また、内側と外側の二重円の交通網を持っています。内側の円は都市内部循環、即ち、公共交通網です。外側の円は都市外部の交通網とつなぐ広域交通網です。

都市の完成は2030年を目指し、目標人口は50万人で、自立的な都市になれるよう造成しています。2030年まで3段階に分けて造成中であり、現在は都市自立性・経済成長の拡充に集中する第2段階に入っています。

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行政中心複合都市の開発現況

 現在の行政中心複合都市の開発状況についてお聞かせください。

 

政府世宗庁舎の全景
政府世宗庁舎の全景
(出典:『行政中心複合都市白書(2012-2015)』より)

 

 行政中心複合都市の最も大きな機能である中央行政機能において、現在40の中央行政機関が移転を完了し、約15,000人の公務員が勤めています。

2011年に800人台に過ぎなかった人口が2016年末には146,000人を超えました。行政中心複合都市住民の平均年齢は32歳という全国で最も若い都市であるだけではなく、出生率も1.9で全国第1位です。目標人口の50万人を収容するため、2030年まで20万戸の住宅供給が予定されています。学校は特別目的学校を含み63校が運営されています。これに加え、住民の生活の質を高めるため、商業施設、文化施設、福祉施設の整備、緑豊かな空間、公園の様々な複合的機能が造成されています。

中央行政機能と文化・国際交流機能などが入っている第1・2生活圏は造成を完了しました。現在は、第3・4生活圏が造成中です。

 

行政中心複合都市の建設状況
行政中心複合都市の建設状況
(出典:韓国 行政中心複合都市建設庁の説明資料より)

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行政中心複合都市建設事業の予算

 行政中心複合都市を建設するための予算と予算執行についてお聞かせください。

 行政中心複合都市建設事業の予算は、22.5兆ウォンで、その内中央政府から8.5兆ウォン、公企業であるLH(韓国土地住宅公社)が14兆ウォンを投資することになっています。それに加え、まだ、集計は出ていませんが、2016年末時点で民間から84.3兆ウォンの投資がなされたと予測しています。政府予算では約58%、全体予算では約28%が執行されました。

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都市特化事業

 行政中心複合都市の建設において、他のニュータウン建設に比べ、特徴的な点がありましたらお聞かせください。

 行政中心複合都市内においては、公共及び民間により様々な新しい建築物が建てられています。他のニュータウンと比べると、行政中心複合都市内の建築物は、ユニークなデザインや新しい建築技術などを取り入れたものが多いところが特徴的といえるかもしれません。

例えば、公共の建築物では世宗国立図書館、政府庁舎、大統領記録館などがありますがどれもユニークな形をしています。政府庁舎は、昨年(2016年)に最長の屋上庭園としてギネスブックに掲載されました。民間の建築物では特に集合住宅において、従来は価格だけに重点を置いていたのに対し、現在はデザインや住民の住みやすさなどの様々な分野に重点をおいています。

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自立的な都市のための機能拡充

 中央行政機関などは移転を完了していますが、その他に行政中心複合都市が自立するために行っていることがありましたらお聞かせください。

 中央行政機能の移転だけでは都市成長の動力として十分ではないと考えられるので、公共機関の追加移転、総合病院及び大学病院、大型小売販売店、研究施設などを誘致するため努力しています。第4生活圏にはBT(Bio Technology)-IT(Information Technology)先端分野の企業と研究所が一ヶ所に集まれる産学研クラスターを造成しています。それ以外にも未来志向的で、かつ先端IT技術を活用したスマートシティ建設のため、様々な活動をしています。このような努力を通じて、未来の第4次産業革命や地球温暖化に備えています。また、行政中心複合都市の中で、エネルギー収支がゼロになる町であるゼロエネルギー・タウンの造成も推進しています。

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中央行政機関などの移転

 韓国では決定から10年余りで、途中李明博(イミョンバク)(第17代大統領)時代の中断もありましたが、現在行政機能の移転を完了されています。素晴らしい実行力だと思いますが、その進め方や実行する際の問題点・反省点についてお聞かせください。

 首都機能移転は一つの都市又は一部地域の問題ではありませんので、国民の共感が非常に重要です。また、国民の共感があるとしても、既得権などの反発で長々と議論だけが続く状況になりやすく、実際に世界で首都機能移転が実施できた事例を見ると政治的リーダーシップを持っている人の決断が触媒になって進んだ場合が多いと考えます。韓国の行政中心複合都市の場合は前々大統領(第16代盧武鉉(ノムヒョン)大統領)の選挙公約により触発されたことが首都機能移転の決定的な推進力だったと思います。

ただし、当初は行政「首都」として始まりましたが、途中で違憲判決により、当初案のとおりは進みませんでした。そこで首都機能に関する問題を排除できるよう、各政党が大統領官邸と一部の部処(省庁)を除いた行政中心複合都市として合意し、現在に至りました。それによって、行政府は計画や予算などについて立法府と緊密に議論すべきことも多いのですが、このような構造のため、行政非効率に関する問題が続いています。現在、韓国では憲法改正に関する議論が起きています。そうした中で、このような非効率を解消するため、「行政首都」を憲法に明文化することに関する議論も出ています。ただ、行政中心複合都市は国家均衡発展のための政策から始まりました。その政策には、行政中心複合都市だけではなく、地方分権のための10の革新都市を共に進めることを心がけるべきだと思います。

現在、行政中心複合都市に本格的に住民の入居が始まり5年ぐらい経過し、定住環境面では非常に高い評価を得ています。国家均衡発展にどのぐらい貢献できたかに関する評価においては、首都圏人口増加率が減少傾向に転換するなど肯定的指標が見られますが、国家均衡発展のため、まだまだすべきことが多く残っており、都市の造成も初期段階なので、適切な評価をするにはまだ早いのではないかと思います。

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行政中心複合都市の建設現況

 現在、行政中心複合都市の整備状況(計画に対して進んでいるものと遅れているもの)についてお聞かせください。

 予算面では公共部分において60%くらい執行済みです。建設は50%ぐらい完了しています。概要で民間部分を含み28%と申し上げましたが、これは民間から予想される投資を含んでいますので、公共部分だけを考慮した方が理解しやすいと思います。李明博大統領時代に当初の計画通り進めるかの議論があり、2年ほど停滞しました。そのため住宅供給などはまだ少し遅れていますが、それを除けば当初の計画どおりに進んでいると評価できます。

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中央行政機関などの移転によるメリットとデメリット

 立法府と行政府の一部がソウルにあり、行政府の残りが世宗市に移転していますが、距離が離れていることによるメリットとデメリットをお聞かせください。

 立法府との緊密な協議に関わる局長以上及び長官(大臣)・次官にとっては、さすがに距離による不便さと非効率な部分はあります。しかし、一方で、世宗市に政府機関があることにより、地方との協力関係はむしろ望ましくなった面もあります。そうしたわけで、全体的には状況が悪化したとは言えません。

政府機関の職員の場合、最初は機関移転によって個人の意思とは関係なく移転しなければならないということで、不満が非常に高い傾向にありました。しかし、ソウルでは住宅の購入も難しく、通勤時間も平均1時間以上かかります。また、残業も多い文化の下で働いていました。一方、世宗市では仕事をさらに効率的に行う新しい文化が定着しました。それに加え、仕事だけではなく家族との関係など個人の暮らしに時間を使えるようになり、ワークライフバランスを取れるようになったという肯定的な面があります。このような部分も生活満足度が高くなっている理由の一つではないかと思っています。

もちろん、職位・役割によって立場と評価は異なると思います。移動時間だけでもここから国会まで、五松駅とソウル駅を通じて1時間半ぐらいかかります。それをどのように評価するかは個人によると思います。ドイツのベルリンでは飛行機で移動しなければならないと伺っていますが、そのようにどこまでを非効率として扱うかの問題だと思います。国家均衡発展のための政策という大枠から見ると個人的には国会での協議のため往復することは大きな問題ではないと思います。

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行政中心複合都市の将来計画

 行政機関の移転は完了していますが、これから計画変更・新たな計画の立案などがありましたらお聞かせください。

 行政非効率に関する問題提議が続いており、政治的なことで計画が変更になる可能性を常に秘めた都市です。そのような側面で、先ほどお話しした憲法改正について、次期大統領選挙の候補者の中には、行政首都を明文化しようと主張している候補者もいます。もしそのとおりに進めば、国会の移転が何より議論されると思います。それに加え、大統領官邸まで移転されるようになると既存の都市計画の修正が必要になる場合もあります。そのような状況を弾力的に受け入れるため、行政中心複合都市内には、計画が変更になった場合でも対応できるような保留地が多く残っています。

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行政中心複合都市のあり方

 行政中心複合都市のあり方についてお聞かせください。

 行政中心複合都市は2030年までに、国の成長・発展のリーダーになることを目指しています。行政中心複合都市の建設は、行政中心複合都市をはじめ、世宗市、周辺地域ひいては国全体まで、この都市の建設を通じて多くの経済波及効果が起こることを期待されています。また、行政中心複合都市の建設が一つのモデルとして、世界に輸出できて広く伝えられる都市になることを期待しています。

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問い合わせ先

国土交通省 国土政策局 総合計画課
Tel:03-5253-8365 Fax:03-5253-1570 E-mail:itenka@mlit.go.jp