「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第3章 第2節


第2節 多自然居住地域の創造に向けた農山漁村等の整備


1 基本的考え方

 多自然居住地域は、農林水産業を通じ、食料や木材の安定供給等の役割を担う地域であるとともに、価値観や生活様式の変化に応じ、都市的なサービスとゆとりある居住環境や豊かな自然を併せて享受できる生活を実現する圏域として創造される。

 この地域は、中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等によって構成され、地域内の交通、情報通信ネットワークを通じた活発な交流と連携による創造的な相互補完関係を持つとともに、相互の機能分担、連携を図りながら地域の自立の基礎を形成する。

 中小都市等は、多自然居住地域の形成の一翼を担うために、生活圏の拠点として、圏域全体のニーズを踏まえながら基礎的な保健・医療・福祉、教育、文化、消費等のサービスや身近な就業機会を提供するとともに、地域の個性を生かした都市的魅力を創出していくことが必要である。

 農山漁村においては、都市部への追随でなく、自然環境、文化、農地、森林、河川、海等地域の有する資源を再発見し、あるいは自然環境の保全と回復をも含む農山漁村環境を積極的に創造し、これを活用した独創的な魅力ある地域づくりが求められる。その地域経営に当たっては、起業家が企業を興し、これを運営していく場合と同様の積極的姿勢と能力が重要である。

 以上のように、多自然居住地域において、地域内外の機能分担と連携を図り、同時に、中小都市、農山漁村等を通じて国土基盤整備を行うことにより、安全で個性と魅力あふれる地域づくりを進め、地域全体としての活力の向上を図る。


2 体制づくり

 多自然居住地域の創造に当たっては、市町村を中心に、国、都道府県、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合、土地改良区、商工会、観光協会、ボランティア団体等が一致して取り組む体制が必要である。加えて、これら主体が起業家的な積極性と能力を持って地域づくりに取り組むためには、自己能力の客観的評価、弱点の発見、これを是正するための組織の改編、人材開発、人材補強等が重要であり、そのための仕組みづくりを推進する。

 また、前述の各組合が合併により広域化しつつあり、一方で、限られた社会資本の効率的な投資も要請されることから、この体制づくりは、一市町村の範囲ではなく、複数の市町村が連携して広域的な圏域を形成して行うことを推進する。

 この圏域形成は基本的に市町村が自由意思で決定するが、既存の広域市町村圏、地方生活圏、あるいは都道府県の支分部局ごとの圏域等のほかに、森林、農地、河川等の国土管理、沿岸域や地域文化に着目した圏域も選択肢の1つであるため、これらの圏域形成を推進する。

 なお、地域によっては、民間企業と連携し、民間企業の経営手法、人材、資金等を地域づくりに活用することも有効と考えられるので、体制づくりの一形態として、積極的な取組を行うべきである。


3 美しく、アメニティに満ちた地域づくり

 多自然居住地域において「美しさ」とは、そこにある森林、農地、河川、海岸、集落、市街地等が良好な状態に維持管理され、健全に機能することにより実現される価値であり、「アメニティ」とは、そこに住み、そこを訪れる人々に適切に管理された地域空間が与える心地良さを指す。多自然居住地域に暮らす人々が誇りを持ってそこに住むためには、周囲の自然環境を享受し、活用し得る魅力ある生活空間を形成していくことが必要であり、特に、多自然居住地域の「美しさ」「アメニティ」の確保と実現を図ることが重要である。また、起業家的な姿勢を持って地域資源を活用した独創的な地域づくりを目指す場合や農山漁村の大宗を占める森林や農地を整備する場合、さらに、河川や海岸を整備する場合にも、農山漁村環境の保全と創造による「美しさ」「アメニティ」の存在は重要な基本的条件である。このような地域創造の意欲と能力を備えた先進的な農山漁村空間の整備に対して積極的に支援していく。

 この「美しさ」「アメニティ」の確保のために、地域の独自性尊重の立場から住民の自発的活動が重要であり、個々の住民及び集落、旧村等という小規模共同体の主導的な活動が求められる。この場合、日本の伝統的な最小共同体単位は集落であるが、社会構造の面からも地域づくりを一層推進する観点から、地域の実情等に応じ、旧村を単位とした活動をも視野に入れる。あわせて、住民の自発的行動の助長や共同体の意思決定が迅速かつ円滑に行われるよう施策面で配慮する。

 地域住民の自発的活動により取り組むべき事柄は、地域全体の自然環境と景観の保全や向上を念頭に置きつつ、森林、農地、農業用用排水路、農道、林道、漁業用施設等の管理の実施、集落内の道路や水路の清掃等、廃棄物処理、排水処理等について地域取決めの確立、地域の土地利用、花の植栽、家並み、街並みの管理等に関する住民協定の締結等を推進することである。

 市町村の自主的な取組として期待されることは、農業用用排水路、集落内の道路や水路等生産環境と生活環境に係る社会資本整備を効率的に実施するため、農山漁村環境の保全と創造や地域特性に配慮しながら、これらの整備を一体的に進めるとともに、地域住民の自発的活動を基本とした取組を支援するため、活動の支援、環境デザイナ−等専門家の派遣、公共施設の整備、住民協定の条例化や景観条例や地域の歴史的環境を保全する文化財保護条例化の検討、国土利用計画の作成等を通じたまちづくりの推進、森林整備や農作業受委託等を行う公社等の活用等が挙げられる。特に、中山間地域等のある市町村は、大都市、中枢・中核都市等との姉妹提携や交流等を推進し、地域づくりの充実を図ることが重要と考えられる。

 このような個人、共同体及び市町村の活動を支援する。また、農山漁村において居住地域等と生産地域を一体的に扱う観点から、国土利用計画を始めとする地域計画の一層の活用、運用改善について検討する。


4 地域づくりを支える農山漁村の生活環境の整備

 農山漁村の居住者の視点からみると、就業、教育、買物等の局面に応じて生活の拡がりの範囲が異なり、これを踏まえた整備が必要となる。

 まず、汚水処理施設、上水道、生活道路等は、生活上の必需施設であり、ナショナルミニマム達成の観点からの整備を推進する必要がある。

 また、公民館等社会教育施設、文化施設、スポーツ施設、消防団施設等は、地域づくり、防災等のための共同体活動の拠点であるので、これらの整備を推進することとし、あわせて既存施設の高質化、施設の利用内容の充実等にも取り組む。さらに、地域住民のうるおいの場としての良好な水辺空間の整備等を推進する。

 市町村は、基礎的自治体として、地域社会基盤の整備主体となり、一方で、教育、福祉、消防、一般廃棄物処理等の行政サービスの提供主体であるので、効率的で質の高い住民サービスを確保するため自己能力の評価、改善、人材補強等を行いつつ、その役割の十全な発揮に努めるべきである。

 また、恵まれた自然環境等の特色を積極的に生かした学校教育、社会教育を推進するとともに、高度情報通信手段の活用等の多様な学習指導の研究開発を進め、地域の特色にあった教育環境の充実に努める。地域医療については、プライマリ・ケアの確保を目指した医療機関の整備を図るとともに、高度情報通信手段の活用と地域連携を行いつつ、健康増進から疾病の予防、治療、リハビリテーションに至る包括的な医療の供給体制の充実を目指す。

 多機能・高質なスポーツ施設、音楽会場等の施設については、中心都市と周辺市町村がそれぞれの特性をいかした連携を図り、都道府県とも調整を図りながら整備を進める。一般的な公共施設やサービスについても連携により高質化と機能分担を行い、高質のサービス提供を目指すべきである。この場合、機能ごとにまちまちな連携が行われるよりも、一定の圏域内でまとまって連携、機能分担を行うことを推進する。

 さらに、この圏域を基礎としつつも、水質保全対策等の実施、高次のサービス機能の分担、新たな交流環境の形成、山岳地の自然環境管理等の観点から、この圏域を越えた広域の連携等を進めることも重要である。

 このために必要な圏域内及び広域を連絡する交通基盤、高度な情報通信基盤、その他の基盤の整備及びソフト対策の充実を図る。


5 地域づくりに不可欠な経済的条件の整備

 多自然居住地域の住民に所得機会を確保するためには、地域の資源状況を十分に認識し、起業家的な視点と意欲を持って企画に当たる必要がある。農林水産業については、自らの置かれた、地形、気象等の条件を活用し、従来型の生産、流通、加工にとらわれず、事業展開を図る必要がある。例えば、付加価値の高い作目の導入、既存の市場流通を超えた流通販売経路の開拓、間伐材利用の商品開発等である。これらに加えて、地域の自然環境、文化等の資源を総合的に活用した「新ふるさと産業システム」とも呼べる産業展開やグリーン・ツーリズム、ブルー・ツーリズム等の進展を踏まえた自由時間対応型の産業への展開を進めることも必要である。

 また、第2次、第3次産業についても、多自然居住地域自体の魅力を高めることにより、例えば立地自由度の高い産業の誘致を推進するなど積極的な展開を図り、所得機会の確保を図る必要がある。

 このような活動を支援するための基盤の整備、ソフト対策の強化等を積極的に推進する。


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