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平成17年度観光の状況

第6章 観光産業の育成・高度化

第1節 旅行業

1 旅行業の状況


旅行業者等は、業務の範囲により、第一種旅行業者(海外を含むパック旅行及び乗車船券等の販売等)、第二種旅行業者(国内のみのパック旅行及び乗車船券等の販売等)、第三種旅行業者(乗車船券等の販売等)、旅行業者代理業者(特定の旅行業者を代理した旅行商品の販売)に区分される。平成17年4月現在の第一種旅行業者数は781社で、8年連続の減少となっており、この分野における競争の激しさをうかがうことができる。また、第二種旅行業者、第三種旅行業者は、ともに2年連続の減少でそれぞれ2,727社、6,179社となっている。減り続けていた第一種旅行業者数は、平成16年の前年比6.9%減を境に平成17年は同0.3%減と減少率は小さくなっている。一方、増え続けてきた第2種、第3種旅行業者は、平成15年をピークに減少に転じ、平成17年はさらに減少率を高めた。今後の動向に注目すべきであるが、国内旅行市場にも海外旅行市場の変化が浸透してきた可能性がある。そして旅行業者代理業者は現行の旅行会社の種別区分となった平成8年から一貫して減少を続けており、平成17年は1,015社となっている。旅行業者代理業の機能を代替するインターネット等の流通手段を通じた新たな取引の拡大を物語るものと言える。各年の旅行業者数は、表6‐1‐1のとおりである。

表6-1-1 旅行業者等数の推移



また、(財)日本交通公社の推計では、平成16年の旅行業総取扱額は、平成8年以降続いていた減少の傾向が止まり、前年比3.9%増の7兆3,710億円となった。これは、平成16年度における総旅行消費額(推計24.5兆円)のうち30%を占めている。各年の取扱実績は、図6‐1‐2のとおりである(注)

図6-1-2 旅行業取扱実績の推移



この額は、ピーク時の平成8年の実績と比べると26%の大幅減となっており、旅行業界の市場縮小の深刻さをうかがうことができる。
部門別では、国内旅行は4・5月を除いて全体的に低調で、4兆2,720億円(前年比7.8%減)と大きく減少した。一方、海外旅行は、日本人海外旅行者数が1,683万人(同26.6%増)と史上2番目の数字を記録したことを受けて、3兆482億円(同26.1%増)に上り、平成12年以来4年ぶりに増加に転じた。また外国人旅行は509億円(同16.6%増)と大幅な増加になった。これは、前年のSARSの影響からの反発増のほか、ビジット・ジャパン・キャンペーンの展開に合わせて各社が取組を強化し、訪日外国人旅行者数が614万人と過去最高を記録したことによる。
なお、平成17年の取扱実績については、現時点で既に明らかになっている主要第1種旅行業者50社の取扱実績でみると、国内旅行は前年同期比2.1%増、海外旅行は4.6%増、外国人旅行は21%増と、全部門で前年を上回り、年総計では、3.2%増の5兆7,363億円となったことから旅行業界全体でも増加傾向が続いているものと考えられる(表6‐1‐3)。

表6-1-3 主要旅行業者50社の総取扱高(平成17年)



旅行業は、運輸業、宿泊業と旅行者との間に立って契約の締結、媒介、取次ぎ等を行ういわゆる流通業である。しかも、旅行業者は、仕入れたサービスの買取りを行わないのが通例であるため、売れ残りのリスクを大きく背負うこともない。
また、小売業のように物を売るための商品店舗や在庫を置く必要がないことから、固定資産の負担が軽いため、長期借入金をほとんど必要としない。さらに、サービスを提供する前に顧客から旅行代金を受け取るという取引慣行から、運転資金の借入れも少なくて済む。国土交通省の調査に基づき、平成16年度の第1種旅行業者567社の貸借対照表を平均すると、自己資本比率は38.9%と、全産業の29.8%、非製造業の24.2%(財務省法人企業調査(2004年度版による。)と比較して、高い水準となっている(表6‐1‐4)。

表6-1-4 第1種旅行業者(全規模・1社平均)の損益・財務状況(平成16年度)



しかしながら、このような投下資本の少なさは、収益率の低さにも反映されている。旅行業部門について、営業利益の営業収入に対する割合は4.3%にとどまる。旅行業部門におけるこの収益率の低さは、一般的な旅行会社の営業収入構成が、運輸・宿泊機関の代売・送客手数料、渡航手続代行手数料、ホールセラーからの代売手数料、保険、旅行用品販売の手数料等の手数料収入に大きく依存しているためである。
もう少し詳しくみてみると、平成16年度の第1種旅行業者の損益計算書の平均で、旅行業部門の売上高は1社当たり109億9,349万円に上るにも関わらず、この88%が運輸・宿泊機関への支払いで消え、営業収入は12%に当たる13億3,642万円にとどまる。ここから営業費用を差し引くと、残る営業利益はわずかに5,786万円となる。これによれば、旅行業の売上高営業利益率は0.53%であり、全産業の2.8%、非製造業の2.3%(財務省法人企業調査(2004年度版による。)と比較して極めて低いことがわかる。
また、固定資産の負担が軽い反面、旅行業は、単なる旅行契約の締結、媒介、取次ぎ等にとどまらず、様々な活動を組み込んだ総合商品たる旅行商品の造成・販売、旅程の管理等に多大な労働力を投入する労働集約型ビジネスであり、営業費に占める人件費率が極めて高い。平成16年度においてその割合は45%に上り、一般的に労働集約的といわれる卸売業、小売業、ホテル業と比べても高い水準となっている。
従業員1人当たりの第1種旅行業者の経営状況を従業員の規模別にみたのが、表6‐1‐5であるが、旅行業者の従業員数の規模が大きいからといって必ずしもその指標が改善しているわけではない。従業員1人当たりの売上高が最も高いのは501~1,000人規模の企業であり、売上高営業収入比率では51~100人規模の企業が最も高くなっており、旅行業者の間では大規模であるといえる社員数1,001人以上の企業についてみると、売上高営業収入比率は12.6%、売上高営業利益率は0.55%と、旅行業全体の平均に比べて著しい差異は認められない。

表6-1-5 旅行業者(第1種)の平成16年度の経営状況(従業員1人あたり)



なお、業界最大手3社の売上高営業利益率を比較すると、JTBが0.63%(2005年期)、近畿日本ツーリストが0.04%(2004年期)、日本旅行が0.11%(2004年期)という状況である(表6‐1‐6)。

表6-1-6 旅行会社別経営状況の推移




(注) 
「平成16年の旅行業総取扱額」は、平成16年1月から12月の額で、「平成16年度における総旅行消費額」は、平成16年4月から平成17年3月の額であり、調査対象期間を異にするが、1つの目安として両者の金額を対比している。

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