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平成17年度観光の状況

第6章 観光産業の育成・高度化

第1節 旅行業

3 旅行需要の多様化への対応と改正旅行業法等の施行


流通構造の変革は、消費者に対して自宅で瞬時に比較可能な商品情報の提供をもたらし、その結果、特定の旅行業者のブランドに頼らず、自分のニーズに適合した内容・料金の旅行商品を自らが責任を持って選択する「自立した旅行者」の誕生を促した。海外旅行・国内旅行のリピーター率が高まり、いわゆる眼の肥えた、旅慣れた旅行者が増加したことも、この傾向を加速させることとなった。
近年の旅行商品の低価格化は、国内経済の不況やデフレ傾向を背景として、時間やお金の浪費を徹底的に省き、その中で最大限の満足を得ようとする旅行者が増加したことが一因となっていると考えられる。このような「自立した旅行者」の需要への対応に適した販売戦略は、流通コストの極小化であり、その代表的な態様がインターネット販売であることは、先に述べたとおりである。
他方、いわゆる眼の肥えた旅行者の増加は、通り一辺の旅行では飽きたらず、旅行者本人の「ライフスタイル」を体現する手段として旅行をとらえ、本物の価値を追求し、感動や快適さを得るために時間やお金を贅沢に消費する旅行者層を生んだ。今後、いわゆる「団塊の世代」が平成19年以降に大量退職期を迎えるのに伴い、「時間」・「金」・「知的好奇心」・「旅行経験」が豊かなこの旅行者層は、今後大きく増加すると見込まれる。
このように、現在の旅行市場においては、「効率志向の旅行」と「体験志向の旅行」の間で、消費者行動の二極化が進行していると考えられる(図6‐1‐8)。

図6-1-8 消費者行動の二極化



旅行業者が、高収益体質に脱皮して行くに当たっては、この旅行市場の二極化に適切に対応すること、とりわけ「体験志向」の旅行者層のニーズをとらえるような旅行商品を投入し、販売体制を構築することが課題となっている。
旅行商品開発に関して、近年、以下のような取組((財)日本交通公社調べ)が行われており、今後とも付加価値の高い旅行商品の企画・開発が強く求められることとなる。

  (1) 海外商品

1)熟年向け等のターゲット商品
旅行需要の牽引役となっている熟年層を取り込もうと、各社とも、熟年向けの旅行商品開発に力を注いでいる。世界遺産を巡るツアーや、旅先の歴史や文化等を体験学習する要素を拡充したツアー等、知的好奇心を満足させることを意識した商品が数多く用意されている。旅行前に渡航先の文化を事前に学ぶツアーも登場した。
それ以外のターゲット商品としては、OLを対象としたツアーや、小さな子供連れ専用のツアー等がある。
2)ブームをとらえた商品
平成16年の「冬のソナタ」に代表される「韓流ブーム」は、韓国旅行に対する需要を喚起した。各旅行業者は、ドラマの撮影ポイントを巡るツアーや俳優に会えるツアー等様々な内容を企画して対応を図った。ドラマから始まった韓流ブームは文化や食をはじめとする幅広い分野に広がっており、平成17年も韓国旅行の可能性を広げる各種ツアーが用意された。

  (2) 国内商品

1)カテゴリー、テーマ重視
「一人でも泊まれる宿」等、宿泊施設のカテゴリーに着目した商品だけでなく、「女性限定の旅」や「一人参加の旅」等の新たなコンセプトを掲げる商品が増えつつある。また、熊野古道をはじめとする世界遺産を巡るツアーや、従来商品化は難しいとされてきたエコツアー商品についても増加がみられる。
2)地域(ブランド)の魅力づくり支援商品
近年、受入地域側において、宿泊業・土産物業者等の狭義の観光関係者のみならず、行政や地域住民、農林商工業者等の幅広い関係者が一丸となって観光を通じた地域振興に取り組もうとの機運が高まっていることを受けて、旅行業者の側も、受入地域側と一緒になって地域の魅力を掘り起こし、その商品化に取り組む事例が増えている。
「体験志向」の層に対するこれらの特色ある商品の提供に当たっては、顧客との信頼性に基づくコンサルティングセールスが優位性を発揮することから、営業所におけるカウンター販売が再び脚光を浴びている。しかしながら、従来型の営業所は、必ずしもターゲット層を明確に意識せず、多種多様な旅行商品のパンフレットを置いて客の来店を待つものがいまだに多いとの指摘がある。
そのような中、カウンターもデスティネーション別に区分けして専門性を高めた上、受付窓口を細分化し、手配旅行、パッケージ旅行、ビジネス・ファーストクラス旅行毎に受付階を分けるといった取組を行うなど戦略的な店舗展開を図っている旅行業者も現れており、このような業者ではこうした取組等が奏功し、業界の平均を大きく上回る経営実績を残している。
他の旅行業者においても様々な戦略的な取組が広がってきており、こうした傾向は、個々の店舗のターゲット顧客層を明確に意識した上で、取扱旅行商品を戦略的に絞り込み、販売員のコンサルティング機能を強化することで、「攻めの販売体制」を確立していく動きとしてとらえることができる。
以上に述べたような旅行業界の自己変革を促すため、国においても、平成17年4月に旅行業法を改正し、旅行契約の基幹的形態として「企画旅行」を明確に位置付け、それに伴う契約ルールの整備を行う等の取組を行ってきているところであるが、今後とも、業界と連携して、必要な施策を講じて行くこととしている。
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