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第II部 平成21年度の観光の状況及び施策

第4章 国際観光の振興

第1節 外国人観光旅客の来訪の促進

4 外国人観光旅客の出入国に関する措置の改善、通訳案内サービスの向上その他の外国人観光旅客の受入れの環境の整備等



  (1) 査証発給手続の迅速化・円滑化

 我が国は、観光立国や規制改革の動きを踏まえ、外国人に対する訪日査証発給の便宜を図っている(申請から5労働日以内に発給、代理(旅行代理店)による申請受理等)。また、特定の国・地域においては観光のための査証を免除しており、現在、その対象となるのは63か国・地域に及び、訪日外国人数で上位を占める韓国、台湾、香港も含まれる。
 中国においては、ここ数年訪日旅行者が急増しているが、平成12年9月から団体観光客に対して査証を発給している。平成21年には、中国人の団体観光査証発給数は約37万8千件に達し、前年に比して約8%増加した。また、少人数で自由な観光との要望にこたえ、平成21年7月から、一定の経済力のある者が個人で観光する際にも査証を発給することとした。
 今後とも、より一層の査証発給の便宜を図っていく一方、不法滞在等を防ぐため査証官の増強や査証審査システムの更新に努めていく。

  (2) 出入国手続の迅速化・円滑化

 職員が常駐していない地方空海港への出入国審査を行う職員の派遣や、上陸審査の際、入国目的等に疑義が持たれる旅客を別室で審査し、他の旅客の審査を滞らせないようにする「セカンダリ審査(二次審査)」、「事前旅客情報システム(APIS)」等の効果的な活用を図ることにより、到着時の審査時間の短縮に取り組むとともに、概ね2,000人以上が乗船する外航大型客船について、入港前に船上で審査を行うことにより、到着港における上陸審査待ち時間を解消する取組等を実施し、出入国手続の迅速化・円滑化を図った。また、事前に利用のための登録を行った日本人及び一定の要件に該当する外国人が、専用ゲートを通過して出入国手続を行うことを可能とする「自動化ゲート」について、既に設置している成田国際空港のほか、中部国際空港、関西国際空港に設置し、運用を開始した。
 さらに、検疫所では、平成21年4月に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)発生時の対応として、日本入国時における機内検疫の実施や入国者からの質問票の徴収等の水際対策(検疫強化)を実施したが、現在はサーモグラフィ等を用いた発熱者のスクリーニングや検疫官による質問等により、対応を図っている。

  (3) 外国人旅行者に対する観光案内所

 (独)国際観光振興機構(JNTO)は、外国人向け総合観光案内所であるツーリスト・インフォメーション・センター(TIC)で観光情報を提供すると同時に、地方公共団体や観光関連施設が運営する外国人旅行者への対応が可能な観光案内所(V案内所:ビジット・ジャパン案内所)をネットワーク化し、TICと連携しながらニーズに応じた案内や情報の提供を行っている。ネットワーク参加案内所は、平成21年度より21箇所増加して、全国47都道府県、141都市・253箇所(平成22年3月末現在)に上る(図II-4-1-6)。

図II-4-1-6 全国「ビジット・ジャパン案内所」所在分布図



JNTOツーリスト・インフオメーション・センター



  (4) 訪日外国人旅行者対応レベルの向上

 訪日外国人旅行者の受入れに熱心な全国10箇所において、観光関係従事者を始めとする地域の関係者を対象に、訪日外国人旅行者の嗜好、生活習慣にあった接遇方法や受入れに関する先進的な取組事例を紹介するなど、地域のニーズに応じた研修を実施し、訪日外国人旅行者への対応レベルの向上を図った。

  (5) 通訳案内士制度の充実

 「観光立国推進基本計画」における、平成23年度までに「通訳案内士」の登録者数を15,000人(「地域限定通訳案内士」を含む)とする目標に対し、「通訳案内士」の登録者数は平成20年よりも約1,300人増加し、13,530人となった(表II-4-1-7)。

表II-4-1-7 通訳案内士制度の充実


 また、一つの都道府県の範囲に限って通訳案内業務を行うことができる「地域限定通訳案内士」制度については、北海道、岩手県、栃木県、静岡県、長崎県、沖縄県の合計6道県において導入されている。
 さらに、「通訳ガイド検索システム」の機能強化によりガイドサービスの需給のミスマッチの解消を図るほか、地方運輸局等毎に通訳ガイド制度周知強化月間を設定し、リーフレットの配布等により通訳ガイド制度の周知を集中的に実施するなど、通訳ガイドの活用の促進を図った。
 訪日外国人3,000万人時代に対応した受入環境整備の観点から、訪日外国人の旅行ニーズの多様化や近隣アジア圏からの旅行者の急増等の環境変化に対応した通訳案内士制度の在り方について検討を行うため、通訳ガイド団体、旅行業者、宿泊業者等幅広い関係者をメンバーとする「通訳案内士のあり方に関する検討会」を開催している。

  (6) グッドウィルガイドの普及・促進

 (独)国際観光振興機構(JNTO)では、街頭・車内等で困っている訪日外国人旅行者に通訳を行う「善意通訳(グッドウィルガイド)」について、年間を通じて募集を行っており、善意通訳登録者数は55,158人、同行ガイドや国際イベントの通訳補助等の活動を行うため、その有志が結成している「善意通訳組織(SGG)」は全国で84団体となっている(平成22年3月現在)。

  (7) 首都圏空港(羽田・成田)における国際航空機能の拡充

 平成22年に、羽田空港は昼間約3万回、深夜早朝約3万回の合計約6万回、成田国際空港は約2万回の合計約8万回の国際定期便の増枠を実現し、首都圏空港の国際線発着回数を大幅に増加させることとしている。
 これまでに、羽田空港については、昼間は韓国、香港及び台湾との間で、深夜早朝はアジアでは韓国、香港、タイ、マレーシア及びシンガポール、米州ではアメリカ及びカナダ、欧州ではドイツ、オランダ、フランス及び英国の計12箇国・地域との間で、それぞれ国際定期便の開設について合意している。
 成田国際空港については、アジアでは香港、マカオ、ベトナム、タイ、シンガポール、インド、スリランカ、カタール、アラブ首長国連邦及びトルコ、オセアニアではパプアニューギニア、アフリカではエジプト、米州ではカナダ及びメキシコ、欧州ではポーランド、オーストリア、ドイツ、スイス、イタリア、オランダ、スカンジナビア三国及びフィンランドの計22箇国・地域との間で、輸送力の拡大等について合意している。
 今後も、首都圏空港の国際航空機能の最大化を実現するため、羽田空港の24時間国際拠点空港化、成田国際空港の更なる容量拡大に取り組みつつ、両空港の一体的活用を推進していくこととしている。

  (8) 航空自由化の推進

 平成21年4月にカナダ、12月にアメリカ、平成22年3月にスリランカとの間で、航空企業が需要動向に的確に対応し、自由な経営判断により新規路線の開設や増便等を行うことができるよう、路線・便数等に係る制限を撤廃するオープンスカイに合意し、オープンスカイに合意した国・地域は計10箇国・地域となった。今後とも、可能な限り自由な枠組みを設定できるよう、各国・地域と着実に交渉を進めることとしている。

  (9) 博物館・美術館等における外国人への対応の促進

1) 国立文化財機構
 東京、京都、奈良、九州の各国立博物館を設置する(独)国立文化財機構では、施設やサービスについて周知を図るため、案内板の表示や展覧会における展示品の説明文等について英語表記としている。また、英語を始めとする多言語のパンフレットを用意しているほか、所蔵している国宝、重要文化財をインターネットで閲覧できるデジタル高精細画像システムを多言語(英語、中国語、韓国語、フランス語)で発信し、外国人への対応の促進を図っている。
2) 国立美術館
 国立美術館では、施設やサービスについて周知を図るため、施設案内パンフレットやホームページを英語等で作成するとともに、インフォメーションにおける英語案内を行っている。また、作品名等のキャプションの英語併記や英語による所蔵作品検索等、展示品等についての理解の促進に努めている。
3) 国立科学博物館
 国立科学博物館では、ITを効果的に活用した音声ガイドや展示情報端末等、多言語(英語、中国語、韓国語)による文字・音声情報による展示解説を行うなど、海外からの旅行者を始め、すべての人々が利用しやすい環境の充実に努めている。

  (10) 伝統芸能における外国人への対応の促進

 国立劇場(国立劇場、国立演芸場、国立能楽堂、国立文楽劇場、国立劇場おきなわ)では、劇場施設やサービスについて周知を図るため、英語等の劇場案内パンフレットを配布した。
 また、公演内容の理解を促進するため、歌舞伎・文楽公演における英語版のイヤホンガイドの提供、公演プログラムへの英文掲載、能楽公演における各座席での英語字幕の提供等に取り組むとともに、展示室の資料名の英語表記を行った。この取組は、今後も引き続き実施することとしている。

  (11) 国立公園等における外国人観光旅行者に向けた情報提供

 国立公園等における公園利用施設の整備に当たり、外国人に向けたインフォメーション機能の強化を図るため、ビジターセンターの展示や案内標識等の多言語表示を進めた。
 また、国立公園を紹介する英語、中国語、韓国語のパンフレットを作成し、美しい日本の自然や日本の国立公園等に関する情報を発信した。

  (12) 多言語自動音声翻訳システムの実現に向けた実証実験

 平成20年度から、自動音声翻訳システムの社会普及を目的とした「社会還元加速プロジェクト(言語の壁を乗り越える音声コミュニケーション技術の実現)」に取り組み、英語、中国語等 での直接会話による交流を可能とする自動音声翻訳システムの開発導入に関し、外国人向け観光・ショッピング、国際交流イベント等の分野のためのシステム開発・実証を企画・推進している。
 また、自動音声翻訳システムの早期実用化を加速するとともに、外国人観光客の誘致促進による観光産業振興、地域活性化に貢献するため、平成21年8月から平成22年3月まで、北海道、関東、中部、関西、九州5地区の観光地において自動音声翻訳技術を活用した開発・実証プロジェクトを実施した。
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