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第I部 平成23年度の観光の状況

第3章 東日本大震災の影響と復興

第3節 国内外の観光分野に影響を与えた災害からの復旧・復興の事例

2 海外の事例



  (1) スマトラ島沖地震(タイ)


  1) 災害の概要

 平成16年12月、インド洋のインドネシアスマトラ島沖においてマグニチュード9.1の地震が発生し、大規模な津波が、観光地として有名なタイのプーケット島やマレーシアのペナン島をはじめ、インド、スリランカ、モルディブなどの広範な地域を襲い、甚大な被害をもたらした。死者・行方不明者は約23万人、そのうちタイ国内の死者は8,212人と言われている。

  2) 被災後の観光動向

 タイのプーケット島では、津波直後に外国人訪問者が激減し、平成17年1月には前年同月比4.7%、同年2月は13.5%にとどまった。その後、インフラの復旧やホテルの再開が進んだが、平成17年のプーケット島への外国人訪問者は前年比38%の132万人にとどまった。

  3) 被災後とられた対策とその特徴

 スマトラ島沖地震については、甚大な被害状況については大きく報道されたものの、過剰な報道も散見され、また、その後の復興の様子については十分な報道がなされなかったこともあり、旅行先としての安全性等を世界に発信することが難しかった。そのようなこともあり、タイの観光は、風評被害により大きな影響を受けた。
 そこで、過去の被災時の経験を踏まえて、タイ国政府は、平成19年に、我が国の日本政府観光局に当たるTAT(Tourism Authority of thailand)内に、災害等の発生時に観光産業が大きな影響を受けることを未然に防ぐため、国内外の情報を収集・分析することを使命とするTIC(Tourism Intelligence Unit and Crisis Management Centre)を設立した。
 TICは、災害等が発生した場合、まず、災害等発生直後に、現地情報(災害の状況、道路、空港等のインフラの状況等)を収集するとともに、海外での報道の様子や反応を確認し、収集した情報を基に講じるべき対策を検討する。そして、TAT内の情報発信担当部門に、収集した情報及び現状分析の結果を伝達する。民間事業者やメディア等の外部への情報発信は、情報の混乱や誤りを防ぐために、TAT内では、同部門が一元的に行っている。
 このように、タイでは、災害等の発生時に観光が風評被害により大きな打撃を受けたという教訓をいかし、被災後に風評被害を未然に防ぐ又は最小限にとどめることなどを目的とした体制の整備を行っている。
 また、被災後は、観光客等の安全確保対策に意を注いでいる。被災前は、災害発生時の対応についてほとんど準備がなされていなかったが、被災後は、災害発生時に迅速に災害情報をホテル、飲食店、小売店などに伝達するネットワークを構築するとともに、各地で津波を想定した避難訓練が実施されている。また、災害時に外国人観光客の安全を確保するために、今後、通訳ボランティアの養成を実施することとしている。

  (2) ハリケーン・カトリーナ(アメリカ・ニューオリンズ)


  1) 災害の概要

 平成17年8月、大型ハリケーンがアメリカ南東部を襲い、ミシシッピ州のガルフポートやルイジアナ州のニューオリンズが壊滅的な被害を受けた。特に被害の大きかったニューオリンズでは、湖の堤防等が決壊し、市内の陸上面積の8割が水没した。この災害による死者・行方不明者は2,500人を超えた。

  2) 被災後の観光動向

 被災直後の平成18年にニューオリンズを訪れた観光客数は370万人に減少し、過去最高であった平成16年の1,010万人と比較すると36.6%にとどまった。被災前は年間平均約800万人の観光客が訪れていたが、 被災前の水準に回復したのは5年後の平成22年(830万人)であった。

  3) 被災後とられた対策とその特徴

 災害時には、必要な情報を伝達し、住民の安全を確保することはもとより、観光客についても安全を十分に確保することが重要である。そのため、ニューオリンズ市では、災害時における観光客の安全確保策について定めている「観光危機管理計画」を被災後に大幅に見直し、災害時における住民や観光客とのコミュニケーション手段を確保することにより、観光客の安全確保にも万全を期すこととしている。
 具体的には、市内のホテルは、毎週、2週間先までの予約状況を市政府の警察部局と観光部局のみならず、州政府等に報告することとされており、情報を関係機関で共有することにより、災害時には計画的に観光客を避難させるなど安全を迅速に確保するための体制を整えている。
 被災時には、観光関連の企業により組織されている民間団体であるCVB(Conventions & Visitors Bureau)が、災害に関する情報を観光関連事業者や観光客、各国大使館、メディア等に随時伝達するとともに、市内で開催されているコンベンション等の主催者と直ちに連絡を取る。
 災害の状況が深刻になってくると、CVBのホームページにその状況を掲載するとともに、災害が収束するまでの間、市内各ホテルに直接、電子メールで情報提供することとしており、観光客は、災害の状況についての正確な情報を入手することができるようになっている。
 観光客が市外に避難することが必要となった場合は、観光危機管理計画に定められた手順に従って計画的に避難させることとしている。
 このように、ニューオリンズ市は、平時から観光客の安全を確保する体制を構築している。この他にも、毎年ニューオリンズ市民を対象とした避難訓練を実施するとともに、観光危機管理計画を毎年改訂し、常に最適な状態で観光客や住民の安全を確保するようにしている。
 また、被災をきっかけにニューオリンズに根付いたボランティアツーリズムについても注目したい。被災後、住宅再建などのためにニューオリンズではボランティア団体が複数設立されたが、活動初期に必ずしも効率的に行われなかったこれらの団体の活動をCVBが支援したことが、その後のニューオリンズにボランティアツーリズムが定着することにつながった。
 ニューオリンズを訪れるボランティアにはリピーターも多く、その多くは、観光とボランティアを組み合わせている。ニューオリンズでは、被災時の経験を経て、地域住民とボランティア団体との間に密接な連携が生まれていることや、例えばCVB内にボランティアの受入組織が設置されているように、地元での受入体制が整備されていることなどが、多くのリピーターを確保している要因となっている。
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