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第I部 平成23年度の観光の状況

第3章 東日本大震災の影響と復興

第3節 国内外の観光分野に影響を与えた災害からの復旧・復興の事例

1 国内の事例



  (1) 阪神・淡路大震災

 平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災は、死者・行方不明者6,437名、住家被害は全壊が約10万5,000棟、半壊が約14万4,000棟という甚大な被害をもたらした。
 震災の爪痕は大きかったが、その中において、神戸市では、平成10年には観光客数が震災前の水準に回復している(図I-3-3-1)。これは、官民挙げてのキャンペーンの展開等様々な取組がもたらした結果と言えるが、特に大きな回復要因となったのは「神戸ルミナリエ」の開催である。「神戸ルミナリエ」は、犠牲者の鎮魂と都市の復興・再生を祈って平成7年12月から毎年開催され、現在では神戸市を代表する行事となっている。これは、行事そのものの魅力もさることながら、行事に“震災の記憶を語り継ぐこと"、“犠牲者を鎮魂すること"といったテーマが設定されていることが大きな意味を持っていると考えられる。「神戸ルミナリエ」は、観光という側面とともに、鎮魂という行事の意義と精神性について、訪れる人々の共感を得たことが大きな集客につながったのではないかと考えられる。

図I-3-3-1 神戸市、有馬温泉、ルミナリエの入込客数推移


 震災から7年後の平成14年に神戸市に開設された「人と防災未来センター」もまた、被災の記憶を新たな観光資源とした例である。震災から得た教訓を後世に継承することなどを目的に設立されたこの施設を訪れた人々は、語り部である被災者から体験談を聞き、震災の追体験をすることができる。年間50万人以上を数える入館者には、多くの修学旅行生も含まれる。

人と防災未来センター


 神戸市北部にあり、日本三古湯の一つにも数えられる有馬温泉は、幸い死者は出なかったものの、温泉街の建築物の1割程度が全壊、5割程度が半壊し、観光分野も大きな影響を受けた。震災後、観光客数は激減したが、一部の旅館が開始した「ランチス・クーポン」の販売が有馬温泉に転機をもたらした。
 この「ランチス・クーポン」は、旅館での入浴と食事のセット商品であり、平成7年の7月から11月まで販売された。特筆すべきは、クーポンの販売を通じて、旅館の経営者や地域住民の意識が変わっていったことである。クーポンの販売前は、宿泊客は旅館内で過ごしていることが多かったが、販売後は、入浴した人は食事場所を求め、また、食事をした人は入浴する旅館に行くため温泉街を回遊するようになり、その結果、観光客が温泉街を散策するようになった。このため、旅館や飲食店などの温泉街の関係者の間で、散策する観光客をもてなそうという機運が高まり、新たな企画が生み出されるようになった。その一例が、「有馬涼風川座敷」である。この川座敷は、夏休み期間中、観光客が涼をとりながら夏の情緒を楽しむことができるよう企画したものである。具体的には、川のほとりに川床風の座敷、芸妓の踊りなどを披露する舞台、ビアガーデンをはじめとする屋台を設けたもので、観光客から好評を得ている。

有馬涼風川座敷


 有馬温泉の観光客数が震災前の水準に回復するまでには、8年を要している(図I-3-3-1)。しかし、これら2つの取組などが、観光客の回遊性をいかすために、町全体を観光資源として捉えるようになるきっかけとなり、その後の有馬温泉の活性化に大きく寄与している。

  (2) 能登半島地震

 平成19年3月に発生した能登半島地震では、家屋が倒壊するなどの直接的な被害も大きかったが、それ以上に風評による観光客の減少が大きかった。そのため、石川県等は、被災後早い段階からプロモーション活動を開始したが、その際、東海北陸自動車道が全面開通し交通利便性が高まることをアピールするなど風評被害を払拭するための工夫をした。
 プロモーション活動をはじめ復興に向けた取組の内容は多岐にわたるが、ここで注目したいのは、被災市町等が連携して取り組んだ「能登ふるさと博」と「加賀四湯博」が、取組当初は想定していなかった効果をもたらしたことである。「能登ふるさと博」については能登地方の4市5町が、「加賀四湯博」については加賀市と小松市の4温泉(山中温泉、山代温泉、片山津温泉、粟津温泉)が連携して、平成20年から展開しているキャンペーンである。両取組による集客という直接的な効果もさることながら、これらの取組を通じて、復興という共通の目標の下、地域が連携して行動する動きが促進されたことが大きな財産になっている。
 例えば、「能登ふるさと博」では、“灯り"をテーマに4市5町を結ぶイベントとして「灯りでつなぐ能登半島」を実施している。稲刈り後の棚田の畔を3万本のろうそくで飾る「白米千枚田あぜの万燈(あかり)」(輪島市)など4市5町それぞれで開催される灯りのイベントが、幻想的な風景を生み出し、訪れた人々に震災被害への鎮魂の想いを伝え続けている。また、これまでは、能登地方の食の魅力が充実する1~3月は、各市町それぞれが食のイベントを開催し、結果として同一日に複数市町で開催されることもあった。しかし、平成23年からは、4市5町が連携してイベントの重複を避け、1~3月は毎週末いずれかの市町で食のイベントを開催することとしており、期間を通じて地域全体で集客力を高める取組を始めている。
 加賀独自のユニークな情報発信である「レディー・カガ」は、加賀四湯の関係者の連携の中から生まれたものである。この取組は、平成23年10月に石川県旅館ホテル生活衛生同業組合青年部加賀支部が立ち上げ、加賀四湯で働く女将をはじめとする女性達100人以上が「レディー・カガ」の名でグループを結成したものであり、ウェブやメディアを活用して加賀四湯の魅力を発信し続けている。
レディー・カガ(※)



(※) 
出典:レディー・カガ オフィシャルサイト

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