前(節)へ   次(節)へ
はじめに


 観光白書は、昭和38年に制定された観光基本法に基づき、翌39年4月に初めて作成され、平成25年版は第50号となる。昭和39年は、東海道新幹線が開通し、東京オリンピックが開催された戦後日本の大きな節目の年であり、日本の観光が本格的に飛躍を始めた時期でもある。当時の日本人にとって泊まりがけの観光旅行と言えば、国内団体旅行であり、観光目的の海外渡航は、昭和39年4月1日、制限付きながら自由化されたばかりであった。一般国民にとり、海外旅行はまだまだ遠い夢であった。訪日外国人旅行者についても年30万人程度であった。
 それから、50年。日本の観光を取り巻く状況は、大きく変化した。海外旅行者こそ、平成24年には、1,800万を超え、2,000万人を窺うまでになったが、国内宿泊旅行者の規模は、近年、頭打ちとなっている。一方、訪日外国人旅行者について見れば、着実に増加しているものの、800万人台半ば程度であり、東北地方の観光の回復も、道半ばである。世界に目を転じれば、観光やビジネスのための旅行は増加の一途を辿っており、2012年には10億人を超えた。こうした世界の人の流れをどれだけ自国に惹きつけ、更に活性化させていくかが国の将来に大きな意味を持ちうると言っても過言ではない。
 こうした中、平成25年は、観光立国の実現に向けた取組を本格化して10周年、観光庁が設立され5周年の節目の年となる。日本自身が「失われた20年」から脱却し、世界に飛躍しようとしている今こそ、この10年の成果と経験を踏まえ、観光立国の実現に向けた取組をさらに強化していかなければならない。その際、成長戦略の推進や良好な国際関係の維持・発展、さらにはワーク・ライフ・バランス、子どもの教育といった日本が直面する様々な課題への取組において、観光や旅行の持つ力を活用していくとの視点も重要である。
 白書では、まず、世界で拡がっている新たな成長センターの需要を観光を通じて取り込むための外国人旅行者の訪日誘致を第一のテーマとした。「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が開始され、本年は、10周年の節目となる。この間、旅行者数は、約521万(平成15年)から約837万人(平成24年・暫定値)まで増加した。しかしながら、世界の中ではまだ30番台に留まっており、“観光後進国”から漸く“観光新興国”になったと言える程度である。観光先進国を目指して、確固たる訪日ブランドが確立されるよう取組を強化していかなければならない。その第一歩として、訪日プロモーションの抜本的転換や訪日の障害要因の解決を図り、平成25年内に訪日外国人旅行者数を1,000万人の大台を達成することを目標とする。同時に、観光立国推進基本計画に定められている平成28年までに1,800万人という中期目標、さらには平成32年初めまでに2,500万人という長期目標を念頭に、自然災害や国際関係等の外的な要因に左右されにくい訪日外客構造への転換、受け入れ環境の整備を進めていく。これまでスローガンに終わっていた感のある国際的な会議やイベントの戦略的な開催と誘致は、世界の人々を日本に惹きつけることにより、日本を世界の成長センターとするための土台を成すものである。また、オリンピックの東京開催も、外国人旅行者を訪日誘致する上で、大きな意味を有している。将来的には、観光収入でアジアでトップクラスになり、外国人が日本各地至るところに訪問している、かつ、スポーツ・文化発信の中心国になっている、さらに、人と投資が集中しアジアでナンバーワンの国際会議開催国となっている、そのような日本の将来像の実現を目指していく。
 第二のテーマは、観光産業の強化である。日本のGDPに占める観光産業の割合は約6%にもなるが、これまでの観光政策では、そのあり方や強化策を議論する視点が十分意識されていなかった。はじめに観光産業が多様化する観光の需要や形態に対応するだけではなく、新たな観光需要を喚起することにより、今後の我が国の経済成長・再生を牽引し、また、世界の観光産業界をリードする存在へと飛躍するよう、新たな観光産業政策を構築する必要がある。その際、海外の優れたビジネス・モデルに学ぶことはもちろん、グローバルに進展する経済連携や経済統合を積極的に活用すべきである。同時に、日本のサービスの質の高さの現れである「おもてなし」を最大限に生かしつつ、人材育成にも取り組む必要がある。
 もちろん、こうした取組が実を結ぶためには、地域において、国内外の観光客に魅力を提供できるよう不断の努力が求められる。特に、東北地方では、東日本大震災からの復興と相俟って、観光の振興は急務の課題である。こうした観点から、この白書では、各地方の観光の状況について個別に記述した。国内における観光の重要性に対する認識が深まり、観光振興を通じた地域活性化のための様々な取組がなされるようになったことは歓迎すべきことである。しかしながら、中核となる人材や関係者間の連携を欠くため、十分な成果を挙げられていない事例も多い。地域における創意工夫を生かした主体的な取組が具体的なビジネスに結びつくよう支援を行っていく必要がある。
 観光を振興していくに当たり、忘れてはならないのは旅行の安全の確保である。平成24年度中にも、関越自動車道における高速ツアーバスの事故、万里の長城付近における遭難事故など、痛ましい事故が相次いで発生した。こうした悲惨な事故が繰り返されることのないよう、国、地方公共団体及び事業者は、緊張感をもって安全対策に取り組んでいかなければならない。
 最後に、この白書では、観光立国推進基本法を受けて決定された観光立国推進基本計画に基づく施策を中心に取り上げている。しかしながら、観光立国の実現に向けて取り組むべき課題や施策の範囲は極めて広範であり、そのすべてをこの白書で取り上げることはもとより不可能である。宇宙旅行まで現実のものとなりつつある現在、観光の広がりと発展の可能性は無限である。
 また、経済的・社会的な環境も変化する中、観光の意義についても常に見直していかなければならない。観光立国を実現するために我々に今求められるのは、地域の現場の視点、グローバルな視点、長期的な視点から、観光について国民的な議論を行い、想像力、創意工夫、行動力、連携で観光の新しいフロンティアを拓いていくことである。観光白書が、その出発点となれば幸いである。
前(節)へ   次(節)へ
All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport