前(節)へ   次(節)へ
第I部 観光の状況

第2章 国際観光振興の回顧、総括と今後の展開

第1節 我が国50年の国際観光振興の回顧

2 バブル経済とその崩壊(昭和61年(1986年)~平成14年(2002年))



  (1) 貿易摩擦を背景としたアウトバウンドの促進への転換

 石油危機の影響は受けたものの、国際観光は総じて順調に拡大し、昭和60年には、日本人の海外旅行者数は495万人、訪日外国人旅行者数は233万人と、それぞれ過去最高を記録した。こうした中、日本の大幅な貿易黒字に起因する欧米との間の貿易摩擦を背景として、従来の訪日外国人旅行者を誘致する政策に加え、日本人の海外旅行を促進するための政策が新たに展開されるようになった。
 海外旅行を促進するためには、海外旅行促進キャンペーン、海外における日本人観光客の受入環境の改善等の施策を官民が密接に連携をとりつつ、総合的・計画的に推進していくことが必要不可欠である。このため、昭和62年に「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」が作成され、平成3年までに日本人の海外旅行者数を1,000万人の水準に乗せることが目標とされた。昭和60年のプラザ合意以降の急激な円高も追い風となり、海外旅行者数は加速度的に増加し、この目標は、平成2年には達成された。他方、訪日外国人旅行者数は、円高による負の影響を受けながらも、総じて見れば増加傾向を維持したが、日本人の海外旅行者数との差はますます拡大した。

  (2) ツーウェイツーリズムの推進

 こうした状況を受け、訪日外国人旅行者の誘致に政策の軸足を戻していく動きが見られ、平成3年、双方向の観光交流の一層の拡大を目的とした「観光交流拡大計画(Two Way Tourism 21)」が策定された。この計画では、日本人の海外旅行は有名地の駆け足観光やショッピングなど画一的なものが多く、モラルやマナーにも依然問題があることを踏まえ、国民が海外旅行の本来持つ多様な価値を理解し、その個性に合ったより豊かな海外旅行を楽しむことができるようその質的向上を図ることも目的のひとつに掲げられた。

  (3) インバウンドの拡大に向けた施策の推進

 しかしながら、日本人の海外旅行者数と訪日外国人旅行者数の乖離は拡大し続け、平成7年には、日本人の海外旅行者数は1,530万人に達したのに対し、訪日外国人旅行者数は335万にとどまった。そのため、訪日外国人旅行者の誘致に政策の軸足が更に移され、平成8年、訪日外国人旅行者数を平成17年時点で700万人に倍増させることを目指した「ウェルカムプラン21」がとりまとめられた。翌9年には、同プランの目的のひとつとされた地方圏への誘客を促進するため、「外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律(外客誘致法)」が制定された。さらに、こうした取組を更に強化すべく、平成19年を目途に訪日外国人旅行者数を800万人とすることを目標とした「新ウェルカムプラン21」がとりまとめられた。
 この間、アジアからの訪日旅行者数が訪日外国人旅行者数全体の6割を越えるようになり、アジアを重点として戦略的な訪日外国人旅行者の誘致活動が行われるようになった。特に、平成12年には、日中両政府間の調整を経て、中国からの団体旅行が開始され、その後の我が国の外客構造に大きな変化をもたらすようになった。平成14年には、日韓ワールドカップサッカー大会が日本で初めて開催(日韓共催)され、訪日外国人旅行者の増加に追い風となった。しかしながら、IT社会の到来により、国内では、インターネットを利用して手軽に旅行契約取引が可能となったことや、地方空港からの直行便の利用などにより、少人数による週末を利用した「安・近・短」旅行が人気となり、アジアへの海外旅行者が増加するなど、訪日外国人旅行者数と海外旅行者数の乖離は拡大する一方であった。

日韓ワールドカップサッカー大会(平成14年)(写真提供:J. LEAGUE PHOTOS)


前(節)へ   次(節)へ
All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport