前(節)へ   次(節)へ
第I部 観光の状況

第2章 国際観光振興の回顧、総括と今後の展開

第1節 我が国50年の国際観光振興の回顧

3 観光立国の実現に向けた本格的な取組の開始(平成15年(2003年)~)


 バブル経済の崩壊後、長引く経済低迷を打開するため、我が国では、新たな成長産業の創造、発展が求められ、その中にあって、幅広い経済波及効果を有する観光への関心が高まってきていた。
 そのような背景のもと、平成14年2月の小泉総理大臣(当時)の施政方針演説において、海外からの旅行者の増大と、それを通じた地域の活性化を図るとの方針が示され、観光は国の重要政策課題となった。それを受け、平成14年に、国土交通省が関係省庁の協力を得て「グローバル観光戦略」を定めた。同戦略は、政府が関係省庁を含む官民の外国人旅行者の訪日促進策を初めて総合的にとりまとめたものであった。
 平成15年1月の小泉総理大臣(当時)の施政方針演説においては、観光の振興に国を挙げて取り組み、2010年までに訪日外国人旅行者数を1,000万人にすることを目標とすることとされた。その後、更に幅広い視点から我が国の観光立国としての基本的なあり方を検討するため、平成15年1月に総理大臣が主催する「観光立国懇談会」が開催され、4月に報告書がとりまとめられた。観光立国の実現に向けた本格的な取組の開始である。
 平成18年には、社会経済情勢の変化に的確に対応するとともに、観光立国の実現に向けた取組を一層明確かつ確実なものとする必要があったことから、「観光基本法」を全面改正した「観光立国推進基本法」が成立した。同法の制定により、観光を21世紀の国の重要な政策の柱に位置づけることが法律上も明確化され、同法に基づいて定められた「観光立国推進基本計画」をマスタープランとして施策が推進され始めた。
 また、観光立国を実現するための施策を総合的かつ計画的に推進すべく、国全体として官民を挙げて取り組む体制の整備が必要であった。そのため、平成20年、観光行政の責任を有する組織を明確化するとともに、機能的かつ効率的な施策の実施を可能とする体制を整備するため、観光庁が発足した。
 海外事務所等を通じて日本の魅力の広報やマーケティング活動による訪日外国人旅行者の誘致を行ってきた国際観光振興会は、平成15年に、新たに独立行政法人国際観光振興機構(JNTO、通称:日本政府観光局)として発足している。
 外国人旅行者の訪日を促進するための重要な施策として位置づけられたのがビジット・ジャパン・キャンペーン(平成22年よりビジット・ジャパン事業。以下「VJ」という。)である。VJは、国、地方公共団体及び民間事業者が共同して行う国を挙げての戦略的な訪日促進の取組であり、訪日旅行商品の造成支援や日本の魅力の海外への発信を中心に、平成15年度から本格的に実施され今日に至っている。平成22年度からは、「Japan. Endless Discovery.」のキャッチフレーズのもと展開している。
 VJの大きな特色は、訪日促進の主要市場を絞り込み、各国・地域ごとに市場規模、ニーズ等の特性を十分に把握することを重視しており、各市場の訴求対象に応じたプロモーション方針を策定している点にある。主要市場は、韓国、中国、台湾、米国、香港の5つの国・地域からスタートしたが、段階的に増加し、現在では、韓国、中国、香港、台湾、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、英国、ドイツ、フランス、ロシア、米国、カナダ、豪州の18の国・地域となっている。
 VJ初期においては、小泉総理大臣(当時)や安倍総理大臣(当時)等が訪日を直接呼びかけるメッセージビデオを作成し、国際的な旅行博等で放映するなど、トップセールスも積極的に実施してきている。
 海外旅行会社向けの取組としては、海外旅行会社の招請やツアー共同広告等の実施により、訪日旅行商品の造成、販売の支援を継続的に行ってきた。また、主要市場で開催される大規模な旅行博等に出展することにより、日本の観光の魅力をアピールし、訪日旅行商品の販売につなげるとともに、来場者へのアンケート調査により、訪日旅行商品造成の課題やニーズについての情報収集を行ってきた。さらに、平成17年度からは、毎年国内で大規模な商談会「YOKOSO!JAPANトラベルマート」(平成22年度より「VISIT JAPANトラベルマート」)を開催することにより、海外の多くの旅行会社やメディアと意見交換や商談をする場を提供している。
 海外消費者向けの取組としては、海外での広告宣伝や海外メディアを招請して日本の観光資源等を紹介する記事や番組制作につなげることにより、日本の魅力発信を行ってきた。情報発信については、インターネットやSNSを積極的に活用してきている。
 また、国内のインバウンド関係者がインバウンドの重要性について理解を深めるためのセミナー・シンポジウムを開催するとともに、訪日外国人旅行者を歓迎する機運を醸成するための国内集中キャンペーンを実施してきた。特に、平成17年度から平成20年度までは、中華圏・韓国の春節・旧正月に合わせた集中キャンペーンとして「YOKOSO!JAPAN WEEKS」を開催し、イベントの開催等を通じて外国人旅行者を歓迎する「おもてなし」の機運を醸成した。また、東日本大震災から1年を契機に、関係省庁、地方公共団体、民間事業者等と連携し、世界へあらためて感謝を伝え、訪日需要の回復へとつなげる「Japan. Thank You.」キャンペーンを行った。
 観光立国を実現するためには、地方公共団体等との連携も重要である。そのため、都道府県の枠を越えて地方公共団体間で広域に取り組むプロモーションを、国と地方が連携して実施してきた。平成15年度は100件であった地方連携事業の取組は、平成24年度には200件と大きく増加している。
 VJでは、国内外の有名人を親善大使に任命し、様々な機会を活用して日本の魅力をPRする取組を行ってきていたが、平成19年度からは、受入体制の構築や日本の魅力の発信といった努力に公的な評価を付与することにより、訪日促進のための諸活動の裾野を更に広げるため、他の関係者の手本となる優れた取組を行っている人々を「YOKOSO!JAPAN大使」(平成22年度より「VISIT JAPAN大使」)として任命している(これまでに計62名を任命)。
 このような国の動きに連動して、日本各地でも地方公共団体や地域の観光関連団体が訪日プロモーションを展開する等、インバウンドの拡大に向けたプロモーションは、まさに国を挙げたオールジャパン体制での取組となっていった。
 以上のように、VJは、その時々の情勢に合わせて主要市場を拡大するとともに事業手法を進化させてきている。また、VJのみならず、訪日外国人旅行者の受入環境の整備、ビザの緩和や出入国手続の迅速化・円滑化等にも取り組んできている。今後、これらの施策をさらに強化・改善することにより、訪日外国人旅行者を一層増加させていく必要がある。
 VJ開始後の訪日外国人旅行者数の推移を見ると、初年の平成15年は、イラク戦争やSARSの影響を受け、前年を下回るという厳しいスタートとなったものの、日韓ワールドカップサッカー大会が開催されたことも追い風となり、過去最高(当時)を記録した平成14年に匹敵する水準となった。その後、平成17年の中国における対日感情の悪化、平成20年の世界的な金融危機による景気後退や円高の急進の影響などを受けつつも、毎年過去最高を更新し続け、順調に増加していった。しかし、平成21年には、前年から続く世界的な景気後退や円高の継続に加え、新型インフルエンザの感染拡大の影響もあり、VJ開始後初めて前年を大きく下回る結果となった。平成22年は、その反動により大きく回復し、これまでで最高となる861万人を記録したものの、平成23年は、東日本大震災の影響から、再び前年を大きく下回る結果となった。平成24年は全体としてほぼ震災前の水準に回復したものの、直近5年の間は、自然災害や世界的な経済情勢等の外的要因の影響を受けて増減の振幅が大きい状況である。




(※) 
東京スカイツリー©TOKYO-SKYTREE

前(節)へ   次(節)へ
All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport