前(節)へ   次(節)へ
第I部 観光の状況

第2章 国際観光振興の回顧、総括と今後の展開

第4節 国際観光振興政策の今後の展開

4 訪日外国人旅行者の受入環境の整備・充実



  (1) 訪日外国人旅行者が快適に旅をするための受入環境の整備

 外国人旅行者に目的地として日本を選んでもらい、さらには、ストレスなく旅行を楽しむことで満足度を向上させ再来訪を促進するために、旅行者にとってのバリアを可能な限り低減させ、外国人旅行者が日本の魅力を満喫できる旅行環境を整備していくことを目指す。その際、上記2.で述べたような今後重点的にプロモーションをしていく市場や分野に関連する受入環境の整備を優先的に実施していくといった戦略性が必要である。
 言語バリアについては、「外国人観光旅客の旅行の容易化等の促進による国際観光の振興に関する法律」の枠組みを活用した公共交通機関における多言語表記、ナンバリング等を推進するとともに、関係省庁、観光関連事業者、地方公共団体等との連携による観光施設、飲食店などにおける多言語対応を促進すること等により、旅行者が言語面で不自由を感じることのない環境を整備していく。その際、地域を訪れている旅行者の国籍別の割合や将来的に旅行者の増加を図っていきたい市場を踏まえて整備を進めていく。
 外国人旅行者への情報提供体制の中核となる外国人観光案内所については、案内所の認定制度を活用してネットワーク化を進めることにより、外国人旅行者の快適な旅行をサポートする体制を構築する。そのため、外国人旅行者の動線を考慮しつつ、交通結節点では日本全国の情報を、各観光地ではその地域の詳細な情報を提供するなど各案内所の役割に応じてカテゴリーを分け、各カテゴリー別の観光案内所のネットワークを構築していく。さらに、観光案内所において、各地域における観光施設の予約・決済機能の充実、ボランティアとの連携、観光施設における外国人対応の指導などの取組を行うことで、旅行者の利便の向上を図っていく必要がある。さらに、こうしたネットワークが存在することを、訪日前と訪日中の外国人旅行者に対して周知していく努力も欠かせない。
 情報通信環境については、宿泊施設や外国人旅行者が集中するエリアでの無線LAN環境を整備し、世界の主要国と比較しても遜色ない通信環境を整備するとともに、きめ細かな観光情報を提供できる環境を整備していく必要がある。
 決済環境については、クレジットカードの利用店舗の拡大や、海外クレジットカードからキャッシングが可能なATM網を整備する必要がある。
 訪日外国人旅行者の新たな需要を掘り起こすためには、国内移動者向け企画商品の造成をはじめ訪日外国人旅行者の移動を円滑・快適にする環境整備に向けた取組を推進することも必要である。そのため、関係者が連携しつつ、外国人向けに、航空事業者による航空券割引商品の提供、鉄道の企画乗車券等の開発、レンタカーやバス・タクシー等の利用促進などを進めていく。
 これらの取組は、行政の努力によってのみ達成されるものではない。むしろ、観光産業をはじめとする観光に関連する様々な民間主体の取組があってはじめて達成されるものである。受入環境整備について、その必要性や整備の方向性を各主体が共有し、まさにオールジャパン体制で推進していく必要がある。
 加えて、より本質的に重要となるのは、日本人一人一人の心の持ちようではないだろうか。街中で道案内をする、朝市で野菜を買ってもらうなど、日常生活での旅行者との接点において、我々一人一人が、外国人旅行者を快く受け入れ、温かく迎える「おもてなし」の心で接する。このことこそが、外国人旅行者の心に忘れがたい旅の思い出を植え付け、最大の満足を与える重要な要素になるのではないだろうか。今後、我が国の「普遍的な魅力」として世界に向けて発信しようとしている「日本人」そのもののあり様が問われるのかもしれない。
 特に、観光の直接の担い手である観光産業については、実務者層、マネジメント層ともに、外国人旅行者を想定した良質なサービスの提供、いわゆる「おもてなし」という言葉だけで終わらないレベルの高い人材育成に努めていくことが重要である。

高知県四万十川流域の多言語観光案内看板



外国人目線で地域資源の情報を提供する多言語ガイドブックの例(石川県金沢市)(英語版)



外国人観光案内所(JNTOツーリスト・インフォメーション・センター)


コラム
外国人旅行者へのおもてなし
 JNTOでは、外国人対応が可能な案内所をビジット・ジャパン案内所(V案内所)として認定する制度を運用している。全国のV案内所の中には、スタッフの創意工夫によりサービスの質の向上に取り組んでいるところが多くある。
 スタッフお手製の多言語表記ご当地グルメマップや多言語表記のバス乗り場・行き先・料金案内メモの配布による正確かつスピーディーな観光案内だけでなく、名刺の裏に個人のSNSのアカウント名などを記載し、外国人旅行者が帰国した後でもつながりを持ち日本のファンを増やす活動など、スタッフが工夫を凝らしてサービスを提供している。
 また、観光地までの交通案内をする際には、旅行者の空き時間などを聞き取った上で、あえて目的地に最寄りの駅ではなく、ひとつ手前の駅で降りるよう勧め、目的地まで散策しながら景色を楽しむことができるルートを案内するケースもある。
 このように、観光案内にマニュアルはない。千差万別である旅行者のニーズに対応するサービスもまた、千差万別であると言える。国際観光の最前線で奮闘するスタッフの一助となるよう、JNTOも、V案内所向けメールマガジンによる各案内所での取組事例の紹介や、研修会における意見交換等により情報共有を進め、案内所間のネットワークの強化を図っている。
 今後、訪日外国人旅行者数が増加することで、日本全国の多様な地域に、世界中から多数の外国人が足を運ぶことが予想される。スタッフだけではなく、外国語が話せなくても、困っている外国人旅行者を見かけた際には気軽にコミュニケーションを図るなど、国民一人ひとりができる“おもてなし”をこころがけたいものである。


「V案内所」についての具体的な情報は、JNTOのホームページに掲載している。
日本語HP http://www.jnto.go.jp/jpn/reference/visitor_support/tic/list.html
英語HP http://www.jnto.go.jp/eng/arrange/travel/guide/voffice.html

  (2) 訪日外国人旅行者の安全確保

 災害時においては、訪日外国人旅行者の言語面でのバリアを解消し、正確な情報源にたどり着けるようにすることが必要である。
 そのため、安全確保の方法、災害の状況と今後の見通し、交通情報、大使館の連絡先等災害時に外国人旅行者が必要とする情報を外国語で提供する情報源を集約したポータルサイトを設定することが有効である。
 このポータルサイトは、平常時から活用できるようにし、災害発生時に役立つ情報(防災知識、外国語での情報提供を行う各関係機関サイトへのリンク等)を提供するサイトとして開設しておくことで、訪日旅行に対する安心感の向上にもつながるのではないか。
 また、外国人旅行者が直接情報収集する際のみならず、宿泊施設や交通機関の窓口、大使館などが外国人旅行者に対し対面で情報提供する際にも有効に活用しうると考えられる。
 情報提供のみならず、災害発生の初動時において、訪日外国人旅行者に対しても、地方公共団体や観光関連事業者が連携しつつ、日本人に対するものと同水準の迅速性と正確性をもって避難誘導や避難場所での対応等が実施されるよう体制を整備することも大切である。
前(節)へ   次(節)へ
All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport