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第I部 観光の状況

第2章 国際観光振興の回顧、総括と今後の展開

第4節 国際観光振興政策の今後の展開

5 オールジャパン体制の更なる強化


 観光立国を実現するためには、関係者が一丸となった取組が欠かせない。平成25年3月に設置した総理大臣が主宰する「観光立国推進閣僚会議」や平成25年1月に設置した「国土交通省観光立国推進本部」を通じた関係省庁間の連携等を進め、オールジャパン体制を確固たるものにしていく。

観光立国推進閣僚会議であいさつする安倍総理大臣(写真提供:内閣広報室)



  (1) JNTOを中心としたプロモーション体制の強化

 世界中の国々は、旅行者を惹きつけるために様々な工夫を凝らして自国の魅力を発信している。そのような中、我が国も、あらゆるチャンネル、あらゆるチャンスを生かしてプロモーションを展開していかなくては、競合国に勝つことはできない。
 したがって、観光庁、JNTOと在外公館をはじめとする関係省庁、インバウンドへの取組を加速する地方公共団体、日本ブランドの海外展開を進める経済界との連携、日本で開催される国際会議やオープンスカイによる新規路線の就航等、あらゆる関係者と機会を総動員したオールジャパン体制でプロモーションを展開していく。
 特に、JNTOについては、業務の質の向上と業務運営の効率化を一層進め、オールジャパン体制でのプロモーション展開の中核組織としての体制強化を進めていかなければならない。具体的には、これまでのインバウンドの「専門機関」としての役割のみならず、観光関連以外の業種も巻き込んでいく幅広い能力を蓄積したオールジャパンの「旗振り役」としての働きが期待される。
 そのためには、外国人旅行者誘致活動の基盤となる現地旅行会社、現地メディア、国際会議関係組織、日本側の官民現地組織等多くの関係者との海外現地ネットワークの形成・維持を的確に進めていくことがまず必要である。
 また、先に述べたとおり、多様で変化の激しい海外現地の市場動向の把握・分析を継続的に行うとともに、現地ネットワークを生かして、旅行会社等の観光産業の関係者だけではなく、現地の消費者の目線に立って観光庁の訪日プロモーション事業の企画に参画するとともに、事業の現地マネジメント、現地発のプロモーション活動の実施、国際会議案件の発掘等、訪日プロモーション活動の実施業務を、継続性をもって戦略的かつ機動的に市場の実態、変化に即して実施していく必要がある。
 こうした訪日旅行促進に係る業務を効率的に実施するため、自らの組織運営、業務運営の効率化を進めるとともに、日本側の事業者や地方公共団体、相手国側関係団体等の資金や人的資源等の外部資源の活用を積極的に進めていく。
 さらに、情報技術の進化など社会環境の変化に機敏に対応し、インバウンドの専門機関として、訪日旅行に関する情報の提供、インバウンドに積極的な事業者や地方公共団体への個別コンサルティングの実施などの業務を的確に遂行していく必要がある。
 海外現地においては、JNTO海外事務所が中心となって、在外公館や海外に進出している日系企業、さらにはJF(独立行政法人国際交流基金)、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)、CLAIR(財団法人自治体国際化協会)等の海外で活動する独立行政法人と連携・協力する体制を確固たるものにしていく必要がある。
 在外公館等との連携については、在外公館主催のイベントの機会を捉えたブース出展、セミナー併催等による共同訪日促進プロモーション、現地旅行博への出展の機会を活用した在外公館職員による訪日観光ビザ手続の説明等を実施し始めたところである。これらの連携事業について、今後一層強化するとともに、引き続きオールジャパン体制による訪日旅行促進を行うことにより、より効果的なPRに取り組んでいく。
 また、海外に進出している日系企業との連携については、その企業が現地で展開する商品、サービス等のファンに対して、総本山、聖地ともいうべき日本自体を、その企業のチャンネルを通じて直接に海外消費者へPRするといった新しい形態のプロモーションを平成24年度より行っている。企業との連携は、それまでとは異なる層への効率的なアプローチが可能となるとともに、プロモーションコンテンツの深掘りにつながることから、多様な業種の企業との連携をさらに拡大していくことが求められる。
 このように、様々な主体が連携しつつ、VJ、クールジャパン、日本食の海外展開等が一体となったオールジャパンの日本ブランドの発信を集中的に展開することにより、日本ブームをつくっていく。

マレーシア旅行博(MATTA)への日本ブース出展



タイ旅行博



海外の牛角の店舗(米国、台湾、香港、シンガポール30店舗)において、食に関連する日本の観光地も紹介した特別メニューを提供



コラム
愛すべきムスリムの友人達を日本へ
―東南アジアのムスリム市場開拓への挑戦―
JNTO(日本政府観光局)シンガポール事務所長 足立基成
 「いやいや、うちはとてもそこまでは考えていません。」年に2回開催されるJNTO各事務所長と日本の自治体や観光協会、ホテル、テーマパーク等との個別相談会。平成24年9月の個別相談会において、ムスリムの方の誘致を一緒にやりませんかという私からの問いかけに対するほとんどすべてのインバウンド関係者の回答である。
 世界に18億人、アジアに10億人とも言われるムスリム人口。シンガポールに加え、グローバル・ハラール・ハブを目指す(注1)マレーシア、世界最大のムスリム人口を有するインドネシアを担当する当事務所においては、2年以上前からムスリム市場の潜在力に注目していた。それは単なる富裕・中間人口の増加率など数値に現れるデータからだけではなく、彼らの日本への親しみや憧れ、日本人気質に合う慎みをもった生活スタイルなど彼らとの多くの接点において肌で感じていたところであり、ムスリム市場開拓の最前線にいるという気概を持って、マーケットの状況や旅行動向、他国のプロモーション活動の調査などを行っていた。
 にもかかわらず、平成24年の個別相談会での日本側の反応が低かったこともあり、MATTA(マレーシア旅行業者協会)のカリド会長にムスリムツアーの促進方策について相談。ご自身もムスリムである会長からは、ハラール食品を如何に提供するかなどの課題はあるが、日本側サプライヤーがムスリム取扱旅行会社からの信頼を得ることが最も肝要とのアドバイスを受け、その場で、マレーシアの旅行会社の日本視察、JNTOとMATTAとの覚書の締結を行ってはどうかと話は飛躍。4カ月後の25年1月には、ムスリム御膳の体験やモスクの視察、日本側との商談会、ムスリム訪日活性化も含む覚書の締結が成功裏に行われた。
 マレーシアの旅行会社が訪日する直前に在マレーシア日本大使公邸で行われた壮行会において、MATTA幹部より、3月のMATTAフェア(注2)において、日本を「FavoriteDestination(大好きな旅行地)」に指名し、特別な記者会見の設定や会場のあらゆる場所への日本のロゴや風景の掲載を行いたいがどうかとの提案があった。ただし、広告料として10万USドル。1年かけて作り上げた「ムスリム訪日ガイドブック」刊行を盛大にPRしたい当事務所にとっては願ってもない提案。私は東京サイドにこの提案を受けるべきことを説き、ローカルスタッフは価格交渉。粘り強い交渉の末10万USドルが約3分の1に。東京サイドからもゴーサインが出て、ガイドブックはマレーシアの新聞各紙で紹介された。
 落胆の個別相談会から半年後の相談会。インバウンド関係者から私への質問は、なんと半分以上がムスリム対応について。私が基調講演した観光庁/JNTO共催の「ジャパン・ムスリムツーリズム・セミナー」は立ち見客が出るほどの大盛況。
 観光立国推進基本計画が掲げる平成28年までの訪日外国人旅行者数1,800万人の達成は、伸びしろの大きいムスリム訪日客の飛躍的増加なくしては困難と考える。愛すべきムスリムの友人達に日本の素晴らしさを実体験してもらいたいとの強い想いとともに、ムスリム市場最前線から足で稼いだ生の情報を日本の関係者と共有し、現地の関係者との密な連携を通じて質の高いプロモーションを今後も続けたい。

「MATTAフェア」でのカリドMATTA会長(左)とエアアジアのトニーフェルナンデスCEO(左から2番目)



足立基成シンガポール事務所長


コラム
IMF・世界銀行総会~大規模国際会議を捉えた日本の魅力発信~
 観光庁では、2012年10月9日から10月14日まで開催された「IMF・世界銀行年次総会2012」の機会を捉え、総会参加者をはじめとする外国人旅行者に日本各地の観光の魅力を紹介するイベント「Japan All In」を東京の丸の内にて実施した。
 「Japan All In」の目玉である「Japan Parade」には、全国から祭りや郷土芸能を披露する22団体約600人が丸の内仲通りに集結した。
 夜間に丸の内仲通りをライトアップすることにより、会場全体が幻想的な雰囲気につつまれて、パレードの魅力がより一層引き立ち、特に京都の舞妓は会場の雰囲気に溶け込んで美しさを更に際立たせていた。
 また、夜間にイベントを実施することは、日本観光ではなじみの薄い分野であったナイトライフの開拓に一役買ったものと思われる。その他にも、「エイサー踊り」や「よさこい踊り」などのアクティブな演出、「なまはげ」や「福島わらじ祭り」などの郷土芸能、新潟県のレルヒさんといったご当地キャラの登場など、バラエティ豊かなパレードを展開し、日本各地をPRすることができた。
 外国人来場者に対して行ったアンケートからも、「Japan Parade」に対する評価は「大変満足」、「満足」等のポジティブな評価が全体の8割以上を占めており、衣装や装飾に対する評価が高かった。また、「Japan Parade」を見ることによって、約6割の方が日本国内観光への関心・興味が強くなったと回答している。
 自国内でも大きな発信力・影響力を有する世界各国からのIMF・世界銀行総会出席者に対し、日本開催の大規模国際会議を捉えた「おもてなし」の実例を作り上げることができた。

「Japan Parade」を観覧する外国人



京都市 舞妓



沖縄県 エイサー踊り



高知県 よさこい踊り



秋田県 なまはげ



福島県 わらじ祭り



新潟県 ご当地キャラ



  (2) 関係省庁の連携の強化

 オールジャパンでの取組が必要なのは、プロモーションだけではない。積極的にインバウンドに取り組むための制度的な環境整備を進めるために、関係省庁の連携は欠かせない。
 そのような意味では、ビザ緩和は重要な取組となる。これまでにもビザ緩和は順次進んできたものの、韓国をはじめとする競合国はさらに簡素化が進んでいる(図I-2-4-10)。競合国と競争条件において劣後しないためにも、関係省庁が連携し、ビザの一層の緩和を進める必要がある。特に、今後重点的に誘客に取り組んでいくこととしている東南アジアからの訪日旅行者に対するビザ緩和などに取り組んでいく必要がある。

図I-2-4-10 日本政府と韓国政府におけるビザ制度(観光目的)の比較


 また、今後、首都圏空港の機能強化やオープンスカイと連動した訪日プロモーションの展開にも重点的に取り組んでいく。オープンスカイやLCCの参入等に伴う訪日外国人旅行者の増加に対応するためには、出入国手続きの迅速化・円滑化を進めることが必要となる(図I-2-4-11)。また、今後大型クルーズ船を積極的に受け入れていくためにも、海外臨船、入国審査官の増員や機動的な配置等による入国手続きの迅速化・円滑化を図っていくことが必要である(図I-2-4-12)。

図I-2-4-11 空港での最長審査待ち時間



図I-2-4-12 外国船社クルーズ船の寄港回数推移


 オープンスカイを機に、各競合国間で航空路線の誘致競争が繰り広げられる。航空便の新規就航や増便はインバウンドを拡大するためのいわば特効薬と言えることに鑑みれば、他国の政府観光局がすでに取り組んでいるように、観光庁やJNTOといった観光関係の主体としても、関係者と連携しつつ、航空路線誘致に向けた取組を進める必要がある。
 平成23年の九州新幹線(鹿児島ルート)の全線開業は、開業に併せて実施された誘客促進策や情報発信の取組とあいまって、鹿児島県をはじめ九州各県の観光に大きな効果をもたらした。この例に見られるように、インフラプロジェクトは観光にも大きな影響を与えるものである。したがって、今後、関係者間で道路、鉄道、港湾等の各種インフラプロジェクトの進捗状況等の共有を進め、これらプロジェクトの進捗と歩調を合わせたまちづくりやプロモーション等の観光振興の取組を強化していく必要がある。

  (3) 各地域における連携の強化

 観光地域においても、多様な主体や施策の連携が不可欠である。上記1.(2)で述べたように、「日本の顔」となる観光地域の魅力を発信していくためには、中核となる組織と人材を中心として、地域が一体となってブランドを構築していかなければならない。
 一方、各都道府県や市町村単体の発信力には限界もあり、ややもすると世界の舞台では埋没しかねない。歴史的、文化的、地理的な共通項を持つ各地域が広域に連携し、さらには官民の主体が一体となって発信することで、世界に主張する力を持つことも少なくないだろう。現在、東北観光推進機構などに見られるように、そのような取組が始まり、根付きつつあるが、まだまだ始まったばかりである。一層の取組の深化を期待したい。

(※) 
ハローキティと連携したiPhone用観光情報アプリの提供 ©1976, 2013 SANRIO CO., LTD. APPROVAL No. G540179
(注1) 
ハラール商品に関する認証制度を構築し、巨大なイスラム圏市場への参入拡大を目指す。
(注2) 
マレーシア・クアラルンプールで行われる旅行フェア。25年3月は過去最大の10万188人が来場。

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