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第I部 観光の状況

第3章 観光産業の強化

第2節 観光産業の強化のための方策

6 観光産業における優秀な人材の確保・育成



  (1) 労働環境の改善とイメージの向上

 観光産業の強化のためには、優秀な人材の確保と育成を図ることが不可欠である。しかしながら、観光産業の実際の労働環境においては、長時間労働や賃金水準等の課題があり、いわゆる「3年の壁」と言われるように観光産業に従事する者の定着率の低さが指摘されている。このような現状を改善するため、適切な労務管理、マルチタスク化等による労働時間の削減や処遇改善、モチベーション向上のための取組等を進めていく必要がある。

  (2) マネジメント層及び実務者層の育成

 観光産業の強化のためには、マネジメント層と実務者層の双方について優秀な人材の確保と育成を図ることが重要である。

  1) マネジメント層の育成

 観光産業の企業戦略や事業展開など企業やグループの経営そのものを担うマネジメント層の育成については、我が国では教育システムが必ずしも十分に確立しておらず、今後、大学の教育システムのあり方についての議論や情報共有、普及啓発等を進めるとともに、インターンシップの普及や既に観光産業に従事している社会人に対するマネジメント教育等を通じて積極的に取り組んでいく必要がある。

  2) 実務者層の更なるレベルアップ

 我が国の観光産業において、意欲ある実務者層が提供するサービス水準の高さには定評があるが、産業界のニーズと教育機関との連携を深めること等により、実務者層のより一層のレベルアップや優秀な人材の育成につなげていくことが必要である。
 また、マネジメント層の育成と同様、実務者層についてもインターンシップを引き続き積極的に実施するとともに、今後のインバウンド市場の拡大等を踏まえ、語学や国際的なコミュニケーションの能力の向上についても更に啓発を進めていく必要がある。
コラム
 今後の観光教育とマネジメント人材の育成
 全国の大学における観光関係の教育は、従来、人文科学を中心としたもの、地域づくりに関するもの、現場でのサービス提供を行う実務者層の育成を念頭に置いたもの等が多かったが、これからはそれに留まらず、観光に関わる企業や地域の経営を担うことのできる、いわゆるマネジメント人材の育成に注力していく必要がある。
 海外では、産業界や自治体のニーズを受けて、ホテル経営や内外の観光客の誘客について体系的にスキルや知識を修得させる大学があるが、我が国でも一部の大学でそのような試みがなされつつある。
 例えば、一橋大学大学院商学研究科では、平成21年度より経営学修士コース(HMBA(注))内に、将来の観光産業を担う経営幹部や地域のリーダーの育成を目的とした「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」を開設している。HMBAは、学部を卒業して進学した学生のほか、外国人留学生や企業・行政機関・NPO等での勤務経験のある者を対象として、経営戦略、経営組織、財務会計、管理会計、金融、マーケティング等、経営に必要な基礎的な知識に加え、長期的な視点で事業を展開するための構想力・洞察力の涵養を目標としている。株式会社ジェイティービー及び東日本旅客鉄道株式会社との産学連携による寄附講座として設置された「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」では、1)サービスイノベーションを生む次世代のビジネスモデルを考察する「サービス・マネジメント」、2)将来のホスピタリティビジネスの具体的なビジネスモデルの創出や次世代の産業モデルの構想を試みる「ホスピタリティ・マネジメント」という2つの講義科目と、3)ホスピタリティ産業に関する特定の課題について徹底した調査・研究等を行う「ワークショップ(ゼミ)」から構成されている。また、併せて、近隣アジア諸国への海外研修プログラムも組み入れられており、海外旅行市場の動向等について理解を深めるとともに、観光産業の国際化・グローバル化、新しいビジネスモデルの構築にも対応可能な人材を育成することを目指している。
 他の一部の大学においても、同様の問題意識に基づく取組が行われつつあり、我が国においても、観光産業の企業戦略や長期的な事業展開など経営そのものを担い、世界の同業他社の経営者と遜色ない知識とスキルを有するマネジメント層の育成を目指した大学教育が定着、普及していくことが期待される。

  (3) 観光産業への若年層の理解増進と興味喚起

 将来の需要喚起や人材確保の観点からも、観光産業について、若い世代の興味を喚起し、十分に理解してもらうことは極めて重要である。若年層の段階から観光に親しむことができるよう、産学官が連携して、観光資源にもなる地域の自然や伝統文化等を学ぶ機会の提供や普及啓発等を進めるとともに、若年層の旅行機会を増加させるための検討を行っていく必要がある。

公益社団法人日本観光振興協会による児童に対する出前講義の様子


 公益社団法人日本観光振興協会は、観光の魅力・職業観・国際理解についての授業の支援や、観光立国日本の将来を担う児童への観光教育を目的として、児童を対象とした出前講義「旅育」を、平成19年度に試行し、翌平成20年度から本格的に実施しており、平成24年度においては、小学校において10回、平成20年度からの累計では50回開催し、観光の意義、観光産業についての児童の理解度向上に取り組んでいる。

(注) 
HMBA・・・Hitotsubashi Master of Business Administration の略

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