構想段階における市民参画型道路計画プロセスのガイドライン
上位計画等で提案された当該道路計画について、構想段階の検討に着手することを発議する。 また、構想段階の成果として得ようとする概略計画案に定めるべき内容、構想段階の進め方(予定する計画検討プロセスと市民参画プロセスの進め方、実施主体、概ねのスケジュール等)及び構想段階終了後の計画・事業の進め方を明確化する。 |
最初に、市民参画のもとで計画検討を開始することを公表し(発議)、計画検討プロセスと市民参画プロセスの進め方を広く公表することで、市民等と共有された透明性の高いプロセスの中で検討が進められることになります。このことは、市民参画プロセスの手続妥当性を確保するために非常に重要なステップとなります。
また、プロセスの共有により、市民等の側からみて当該道路計画の検討がどのような手順で進められるのか、また、いつ、何についての意見を言うべきか等が明確になります。
効率よく計画検討プロセスを進める上で、必要と考えられる情報収集やデータ分析等の技術的な作業については、道路管理者が予め準備を整えておくことも重要です。ただし、この作業においては、「○○案が優位である」といった予断はせず、客観的な情報の準備に止めておくことが肝要です。
(1) 解決すべき課題の具体化と道路計画の目的の設定 当該道路計画が対象とする地域において、解決が必要とされる現在あるいは将来の交通に関係する課題を具体的に示し、当該課題の解決を当該道路計画の目的として設定する。 (2) 道路計画の必要性の確認 以下の2点を確認することにより、道路計画の必要性を確認する。
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交通渋滞や交通事故をはじめ、経済の停滞、市街地の衰退、生活環境の悪化等、交通問題に起因する広域及び地域の諸問題の中で、地域の生活への影響が大きく、解決を求める市民等のニーズが高く、当該道路整備によって解決を目指すべき問題が「課題」となります。
また、当該道路整備の目的とは、道路整備を行うことによって、どのように課題を解決し、どのような成果を実現しようとするのか、ということです。
課題と目的を設定する際には、道路利用者等、提供されるサービスを受ける顧客(カスタマー)の視点を取り入れるとともに、沿道市民等、様々な影響を受ける可能性がある関係者の多様な視点を踏まえることが必要です。また、目的の表現に際しては、市民等にわかりやすいものとするよう努める必要があります。
道路計画の必要性は、道路計画では設定した目的を実現し得るが、TDM等の道路整備以外の方策のみでは目的を実現し得ないことを示すことにより確認するものとします。
TDM等の方策によって目的が十分に達成できると考えられる場合には、当該方策について、その実現可能性や効果について十分検討した上で、道路計画の必要性はないものと判断します。
なお、ここで目的を十分に達成するか否かという判断は、当該方策の効果推計や市民参画プロセスの結果等を踏まえ、道路管理者が責任をもって行うべきものです。
(1) 評価項目の設定(ステップ3a) 目的の達成度や影響の観点から、ステップ4の比較評価で用いる比較案の評価項目を設定する。評価する分野は次の@〜Dを標準とし、地域の現状や計画の目的に応じて分野を追加し(Eその他)、適切な評価項目を設定するものとする。
(2) 比較案の選定(ステップ3b) ステップ2で明確化した目的に照らして、現実的で合理的な比較案を原則として複数選定する。加えて、「道路整備をしない案」を比較評価のベースラインとして設定するものとする。 |
@〜Dを標準的な評価分野として設定するということは、道路の整備において、単に交通環境を改善するだけでなく、環境に配慮すること、土地利用や市街地整備を支援すること、社会・地域経済の発展に貢献すること、コストを抑制することも視野に入れた総合的に優れた計画を目指すということです。
同様に、評価項目は、どのような視点に立って道路を計画するか、ということを示しています。したがって、当該道路計画の目的に対応して評価項目を設定することが必要です。また、地域や地元にもたらす効果や影響を測るため、想定される市民等の価値観、ニーズ、懸念・心配等を反映することが重要です。
当然のことながら、@に該当しない比較的小規模な道路の計画に対して本ガイドラインに示す計画プロセスの全部または一部を適用することを妨げるものではありません。計画の早い段階から市民参画プロセスを導入して計画の検討を進めることが、より円滑で、より良い計画づくりに資すると考えられる場合には、小規模事業の計画にも本ガイドラインを積極的に適用していくことが推奨されます。
なお、@〜Dの評価項目は、次のような例が考えられます。
分野 | 評価項目の例 |
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@交通 | 時間短縮、渋滞解消、交通事故減少、歩行者自転車の移動性・安全性、道路の走行性、当該道路の災害時における機能・安全性、広域ネットワーク形成(既存のネットワークとの連携)、交通発生集中源からのアクセス性、都市の道路ネットワーク形成 等 |
A環境 | 大気汚染、地球温暖化防止に関する効果、騒音、景観、生態系や動植物への影響、集落や公共公益施設等への影響 等 |
B土地利用・市街地整備 | 地域交流への効果、農業的土地利用への影響、市街地の防災性、市街地整備への貢献度(アクセス性等)、沿道商業施設への影響 等 |
C社会経済 | 地域活性化や都市再生への効果 等 |
D事業性 | 事業や維持管理に関わる費用、事業に要する期間、施工時の影響、用地取得に関するリスク、制度的な問題が生じるリスク、不測の事態に対する計画の柔軟性 等 |
構想段階評価では、評価の一貫性に鑑み、次の計画段階における環境影響評価で評価することになると考えられる項目も踏まえて、評価を行うことが重要です。
現実的で合理的な比較案は、1)常識的に明らかな非効率がない、2)法的な基準を満たしている、3)目的に適合しているという3条件を満たすことが必要です。また、こうした条件を満たすということは、基本的には、検討の結果、どの比較案が概略計画になったとしても、その実現に対して,その時点で明らかにされた問題はなく、どの案を選ぶかは以降のステップの検討にゆだねる、ということを意味します。
なお、地形等の条件によっては、比較案の設定時点でほぼ単一のルートや道路構造の案しか選定できない場合もあり得ます。このような場合には、無理に複数案を選定する必要はありませんが、道路整備をしない案は比較評価のベースラインとして比較案に含めることが必要です。
また、現実的で合理的であれば、道路整備とTDM等の施策を組み合わせたセット案も比較案として設定することができます。
道路整備をしない案は、道路整備をしない場合に評価項目がどのようになるかを示すもので、これをベースラインとして、他の比較案による道路整備の効果や影響等を評価するものとします。
(1) 比較案の比較評価 ステップ3aで設定した評価項目について、ステップ3bで選定した比較案の評価を行う。評価結果は、比較案の優位性比較のための資料とする。 なお、比較案が多数である場合や、比較が複雑である場合等には、状況に応じてステップ3〜4を繰り返すことによって、段階的に選択肢を絞り込むこともできる。 (2) 評価の精度 各項目の評価の精度は、調査結果(原則として、文献調査の結果等)に基づき、比較優位性が検討可能な程度であればよく、計画の状況に応じて定量的または定性的に評価する。 |
複数の比較案を様々な角度から比較評価した比較評価表は、複雑な条件下で論理的に意思決定を行うための手助けとなるほか、意思決定の根拠を説明するための有用なツールとなります。
ステップ4「比較案の比較評価(構想段階評価)」においては、ステップ3aで設定した各評価項目を用い、ステップ3b選定した各比較案を評価し、結果を比較評価表としてとりまとめます。この比較評価表は、ステップ5「概略計画案の選定」で、合理的に最も優位な案を選定する際の重要な判断材料となります。
なお記入にあたっては、正確な情報に基づき、できるだけ客観的事実を示すことが必要です。また、表現には一貫性を持たせ、相対的な違いが明確になるようにすることが重要です。
分野 | 評価項目 | 道路整備 | 道路整備をしない案(ベースライン) | ||
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比較案A | 比較案B | 比較案C | |||
@交通 | |||||
A環境※ | |||||
B土地利用・市街地整備 | |||||
C社会経済 | |||||
D事業性 | |||||
Eその他 | |||||
:標準的に評価する分野
※:環境分野については、環境影響評価の評価項目を踏まえて、項目を設定することが必要です。
なお、評価ができない評価項目がある場合には、その旨が分かるように「−」等で表現します。
比較評価表への記入表現としては、次のような例が考えられます。
分野 | 評価結果の表現例 |
---|---|
@交通 | 「主要地点間(○○〜○○)の所要時間を○分短縮」 「○○交差点の渋滞を解消」 「重大事故の発生件数を○%減」 等 |
A環境 | 「市内の大型車交通を○%減じ、沿道の騒音を大幅に低減」 「国立公園区域を通過するまたはその近傍を通過し、その影響について要検討」 「静穏を要する○○病院との離隔距離は○○m程度」 「地域の身近な自然である里山を○箇所(計○km)にわたって通過」 等 |
B土地利用・市街地整備 | 「既成住宅市街地をおよそ○kmにわたって分断するため、再編が必要なコミュニティが生じ得る」 「都心部に30分以内にアクセスできる人口が○%広がり、商圏が拡大」 「区画整理済み農地を○kmにわたり斜行」 等 |
C社会経済 | 「工業団地開発プロジェクト予定地近傍を通過するため、プロジェクトの支援効果が大きい」 等 |
D事業性 | 「概算事業費は○○億円」 「供用後40年間の概算維持管理費は約○億円」 「軟弱地盤上の盛土延長が○km」 「○月〜○月までの漁期は施工不可」 等 |
多くの比較案が選定された場合、全比較案を同時に詳細に検証することは非効率となる場合があることから、簡易な比較で比較案を絞り込み、その後に時間や費用のかかる比較を絞り込まれた比較案を対象に行う等、ステップ3と4を繰り返し、効率性に配慮した手順となるよう工夫することも考えられます。
例えば、事業規模が大きい場合には、幾つかの区間に分割したり、小さな縮尺(粗い精度)での比較の後に大きな縮尺(細かい精度)で比較したりする等の工夫も考えられます。
比較案の評価では、各案の比較優位性を検証でき、ルートの選定等にあたって決定的な問題の有無が確認できる程度の精度が必要です。
例えば環境に関しては、主に文献調査や既存の調査結果を利用することが一般的と想定されますが、環境への配慮が特に求められる場合等においては、現地調査を実施することも考えられます。その場合、構想段階で行った環境調査等の結果は、計画段階の環境影響評価に活用可能な場合もあります。
なお、構想段階において環境影響評価で行われるような高い精度の評価を行うことは、プロセス効率化の趣旨を勘案すれば、必ずしも適当でなく、むしろ次の計画段階において十分な精度の環境影響評価を行うことが重要です。
一方で、環境影響評価等計画段階に入ってから構想段階では知り得なかった重大な環境影響等が明らかになった場合や、構想段階の評価結果が覆ることになった場合には、構想段階に戻ることが必要です。構想段階のどのステップまで戻るかは、効率性、合理性を踏まえて判断することになります。
ステップ4の評価結果を踏まえて、最も優位な比較案を概略計画案として選定する。なお、ここで選定された概略計画案及び選定理由は、第3章2.に示す概略計画の決定における判断材料とする。 |
ステップ4の比較評価の結果を踏まえて概略計画案を選定する際、評価項目に単純な重みづけをして点数化することや、特定の項目に偏った判断で選定を行うことは、判断を誤る危険性があり、好ましくありません。
各比較案の目的達成の確実性はどうか、効果発現の早さはどうか、各比較案に現実には対処不可能なことが含まれていないか、予測不可能なことが起こった場合のリスクの大きさはどうか等、様々な観点から思考し、その過程を通じて総合的に判断することが必要です。
ステップ4の比較評価とステップ5の概略計画案の選定を区分することには、先に評価を確定し、その後に評価結果の比較を踏まえて選定の議論をすることによって、どう評価するかという議論と、どれが好ましい案かという議論の混在を避け、議論の非効率な後戻りを防ぐ効果があります。
また、各比較案の評価は広く市民等と共有することになりますが、概略計画案を選定するにあたっては、例えば少人数の代表者が集まって冷静に判断した上で、その理由や選定過程については後に広く公開する等、多様なプロセスが想定されます。
構想段階における検討の結果、「道路整備をしない案」(TDM等の実施で十分とされ、道路整備をしないとする場合を含む)が選択された場合には、事実上、当該計画は中止することとなります。
この場合、道路管理者は「道路整備をしない案」が選択された場合に生じ得る課題と取り得る対策についても市民等に明らかにすることが必要です。