第1章 道路占用許可申請手続の電子化への動きとその意義


第1節 行政情報化の動向と申請・届出手続の電子化の要請

(1)行政の情報化をめぐる動向
 平成6年12月25日に閣議決定された「行政情報化推進基本計画」の推進により、各省庁における情報通信基盤の整備は目覚しく進展した。しかし、この間、インターネットの急速な普及や、申請・届出手続の電子化等による国民負担軽減への要請など、社会的な状況が大きく変化してきたことを背景に、この状況変化に的確に対応し、新たな情報化の潮流に沿った行政情報化施策の展開を図ることが必要との認識のもと、計画の見直しが行われ、「行政情報化推進基本計画の改定について」(平成9年12月20日 閣議決定)として新たな計画が決定された。
 建設省においても、この改定計画を受け、平成10年5月28日、建設省の情報政策推進委員会(委員長 事務次官)において、建設省の全機関(本省、地方建設局等)を対象とする「建設省行政情報化推進計画」(平成10年度を初年度とする5か年計画)を改定した。この新計画では、今後の建設行政の各分野における行政の情報化を総合的・計画的に推進し、公共事業をはじめとする建設行政の効率化・透明性を確保するとともに、国民負担の軽減等を図ることを目的とし、行政サービスの質的向上等、行政の簡素化・効率化及び行政運営の高度化、行政の情報化を推進するための基盤整備の3点を建設行政の情報化の推進に関する基本方針とした。(図1−1)

図1−1 建設省行政情報化推進計画
図1−1 建設省行政情報化推進計画



(2)申請・届出等手続の電子化・オンライン化の推進
 行政が国民・企業等に課している申請や届出等の手続は、本人出頭の義務づけや書類の提出を前提としたものが多くみられ、情報化が進んだ企業等にとっては大きな負担となっている。行政と国民・企業等との間を電子化・オンライン化することは、国民・企業等にとって時間的・場所的な制約を受けることが少なく行政手続が行え、また行政にとっても業務の情報システム化を並行して進めることにより、業務の効率化・迅速化が実現でき、計り知れない社会的・経済的なメリットが期待できる。
 このような状況を踏まえ、政府では、「行政情報化推進基本計画」(平成6年12月25日 閣議決定)において、国民・企業等との間の様々な行政手続等について、事案審査等行政機関内部の事務処理を合理化・迅速化する情報システムの整備に合わせ、申請、届出、報告、相談等の電子化・オンライン化を業務内容に即して推進すること等を定めている。
 一方、高度情報通信社会推進本部においては、「高度情報通信社会に向けた基本方針」(平成7年2月21日 同本部決定)を受け、申告・申請手続の電子化・ペーパーレス化について制度の見直し作業が開始され、平成8年8月にそれらを積極的に推進する旨の決定が行われた。
 これらを受けて、各省庁が電子化に対応した申請・届出等手続の見直しを行うに当たり基本的な方向を定めるものとして、「電子化に対応した申請・届出等手続の見直し指針」(平成8年9月2日 行政情報システム各省庁連絡会議)が策定された。
 その後、「行政改革プログラム」(平成8年12月25日 閣議決定)において、行政事務手続の簡素化・統一化・共通化、電子化・ペーパーレス化などを進め、申請等に伴う国民の負担を軽減することとされ、これに基づく「申請負担軽減対策」(平成9年2月10日閣議決定)が策定された。さらに、同決定を受け、「電子化に対応した申請・届出等手続の見直し指針」が改定された。(平成9年7月18日)
 また、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」(平成10年11月9日高度情報通信社会推進本部決定)のアクションプラン(平成11年4月16日同本部決定)においても、「申告、申請手続きの電子化・ぺーパレス化」を中心的な施策の一つとして位置付けている。
 さらに、内閣総理大臣により決定されたミレニアム・プロジェクト(平成11年12月19日)では、「電子政府の実現」に向けて、「2003年度までに、民間から政府、政府から民間への行政手続をインターネットを利用しペーパーレスで行える電子政府の基盤を構築する」ことをテーマとし、民間から政府、政府から民間への行政手続の完全電子化実現のための共通基盤(政府認証基盤、標準的システム、セキュリティーなど)の構築、インターネット等のネットワークを利用した政府へのペーパーレス申請の先導的システムの実施、国の施策との関連において必要な実証実験を行い、地方自治体の取り組みを先導することとしている。(図1−2)

図1−2 道路占用許可申請手続の電子化の背景
図1−2 道路占用許可申請手続の電子化の背景



(3)電子署名・認証に関する法制度の整備
 電子署名・認証については、高度情報通信社会推進に向けた基本方針のアクションプラン(平成11年4月16日)において「我が国における認証業務の健全な発展を促し、また電子署名が少なくとも手書き署名や押印と同等に通用する法的基盤を確立するため、国際的な整合性に配慮しつつ、平成11年度中に認証業務に関する制度整備に着手する(郵政省、通商産業省、法務省)」とされており、国会への法案提出の作業が進められている。



第2節 行政情報化の要請事項請

 政府における申請・届出手続の電子化の実現への取り組みは、「行政情報化推進基本計画」(平成6年12月25日 閣議決定)以降、順次具体的な作業指針が示されている。本研究会ではこれらの政府の作業指針について、道路占用許可申請手続の電子化に当たっての検討事項と考え、行政情報化の要請事項として整理した。

(1)行政情報化推進基本計画
 「行政情報化推進基本計画」は、平成6年12月25日に閣議決定されたものであり、平成7年度を初年度とする5か年の政府全体としての情報化推進計画である。本計画は「国の行政機関」を対象として、「情報システムの利用を行政の組織活動に不可欠なものとして定着」させることにより、行政を従来の「紙による情報の処理」から「通信ネットワークを駆使した電子化された情報の処理」へ移行することとし、これにより行政内部のコミュニケーションの円滑化、情報の共有化による政策決定の迅速化・高度化等行政運営の質的向上と、国民への情報提供の高度化、行政手続の効率化等の行政サービスの質的向上を図ることを計画目標としている。
 その後、インターネットの急速な普及、申請・届出等手続の電子化等による国民負担軽減への要請など、社会的な状況が大きく変化したため、本計画は最終年度を待たずに見直し改定が行われ、平成10年度を初年度とする新たな5か年計画「行政情報化推進基本計画の改定について」として、平成9年12月20日に閣議決定された。当初計画の計画目標は「紙による情報の処理」から「通信ネットワークを駆使した電子化された情報の処理」へ移行であり、改定計画ではその延長線上にあるべきものとして、「21世紀初頭に高度に情報化された行政、すなわち『電子政府』の実現」を目標として設定している。
 以下のとおり、「行政情報化推進基本計画」における行政情報化の要請事項を整理した。

ア.利便性の向上
  • 自動受付等による受付処理時間の延長
  • 行政サービスの24時間化の推進
  • システムのネットワーク化等による申請地制限の緩和
  • アクセスポイントの拡大の推進

イ.オンライン化、ワンストップサービスの実施
  • 関連するシステムとの連携
  • 事務処理手順等の見直し
  • 業務のシステム化
  • 既存システムの機能の高度化
  • 事務所内LANを活用した事務・事業の簡素化・効率化
  • 運営管理を一括して民間に委託するアウトソーシングの積極的な推進

ウ.効率的・効果的・標準的な情報システムの構築
  • 汎用機システムからクライアント・サーバシステムへの転換
  • インターネット・プロトコル(TCP/IP)の採用
  • 文書構造形式に係る国際的な標準(SGML等)の採用
  • グループウェアの各種機能の活用

エ.行政情報化の共通課題
  • 地理情報システム(GIS)のデータ様式等の標準化推進
  • 電子文書の原本性の確立
  • 申請者等の認証
  • 手数料等の納付

(2)申請負担軽減対策
 「申請負担軽減対策」は、平成9年2月10日に閣議決定されている。本対策は、規制緩和を推進するに当たって、行政庁に対する申請等に伴う手続の簡素化、電子化、ペーパーレス化、ネットワーク化などを迅速かつ強力に推し進め、今世紀中に申請等に伴う国民の負担感を半減することを目標として対策を実施するものである。
 本対策においては、「各種証明の交付など申請・届出手続の電子化・ペーパーレス化を行政情報化推進計画の最終年度である平成11年度(1999年度)を待たずに、原則として平成10年度(1998年度)末までに可能なものから早期に実施に移す。」とされている。
 以下のとおり、「申請負担軽減対策」における行政情報化の要請事項を整理した。

  • 申請書等の記載事項等の簡素化
  • 変更申請等の簡素化
  • 同種申請の簡素化
  • 押印・手数料納付の合理化
  • 処理期間の短縮及び有効期間の倍化
  • 申請・届出の電子化・ペーパーレス化

(3)電子化に対応した申請・届出等手続の見直し指針
 「電子化に対応した申請・届出等手続の見直し指針」は、平成8年9月2日に行政情報システム各省庁連絡会議にて了承され、さらに平成9年7月18日に改定されたものである。本指針では、申請・届出等手続の電子化を推進し、そのための事務処理手続等の見直しを行うとともに、必要に応じて関係法令の改正等所要の措置を講ずることとしている。
 以下のとおり、「電子化に対応した申請・届出等手続の見直し指針」における行政情報化の要請事項を整理した。
ア.申請・届出内容の見直し

  • 申請書等の記載事項等の簡素化
  • 押印・手数料納付の合理化

イ.電子化の推進

  • 複雑な図面等の取り扱い
  • 既存システムの活用や既存システムの更新等による推進
  • 可能なものから実施

ウ.共通課題に対する方策

  • 本人確認、データの保護・漏洩防止、データの改ざん・変質の検知及び発信・受信証明の機能を有した暗号技術、これを利用したデジタル署名の活用
  • 不特定の個人が行う申請・届出等手続であって申請者等の本人確認が必要なものにおける個人識別番号の利用等本人確認システムの確立
  • 手数料納付について、特許申請手続のペーパーレスシステムにおける手数料の予納制度や通関情報処理システムにおける関税等の自動納付システムのような方法の導入

エ.フォローアップ

  • 推進体制の整備・充実
  • 関係部局の連携強化



第3節 各省庁における事例から参考とすべき事項

 「電子化に対応した申請・届出手続の見直し指針」(平成8年9月2日行政情報システム各省庁連絡会議)に沿って、あるいはそれ以前から各省庁が申請・届出等の手続の電子化を実施または計画している。各省庁における申請・届出等手続の電子化状況は、参考資料1に示すとおりである。
 ここでは、大蔵省、特許庁、法務省の電子化事例から、道路占用許可申請手続の電子化に参考とすべき事項を下記のとおり整理した。
(1)法令面の対応
 認可法人や指定法人の創設、手数料の取り扱い等の諸要素が関係しているが、大蔵省、特許庁、法務省いずれの事例においても、電子化された文書を従来の書面と同等に扱うに当たって法令上の措置がとられている。
 道路占用許可申請手続の電子化においても、書面による申請を電子的手続に置きかえることに伴って必要となる法令面の対応を講じることを検討する必要がある。

(2)セキュリティ対策
 大蔵省や特許庁の事例においては、専用線あるいは公衆回線を通じたオンライン接続を通信手段としているが、本人確認のための識別番号の付与、事前の暗証番号や回線番号の登録、データの改ざん防止のための暗号化等、複数のセキュリティ対策によって強固なセキュリティ確保が図られている。
 道路占用許可申請手続の電子化においても、道路占用許可申請物件の重要性を踏まえ、これらの事例に劣らぬ強固なセキュリティ対策が必要である。

(3)図面の取り扱い
 事例のうち、特許庁の事例においてのみ図面の取り扱いを行っている。申請書類の中に図面や化学式等を表現する際は、定められたフォーマットに基づき電子化されたイメージデータとして挿入することができる。
 道路占用許可申請手続の電子化においても図面が添付されるため、特許庁の事例で定められたフォーマット等を参考として、イメージデータあるいはベクトルデータのフォーマットを規定していく必要がある。

(4)アウトソーシングの推進
 大蔵省の事例では、政府と民間が出資した通関情報処理センターが通関情報処理システムの運営・管理を行い、税関と関連民間業界をオンラインで結ぶ官民共同利用システムを実現している。
 法務省のオンライン登記情報提供の事例では、一般利用者がインターネット回線を利用して指定法人に対し登記情報の提供の請求を行い、指定法人は利用者の請求に基づき、専用回線を利用して登記所のコンピュータ・システムに対し登記情報の請求を行うといった、指定法人を媒介とした情報提供を実現する予定である。
 道路占用許可申請手続の電子化においても、運営・管理費用の削減、事務手続等の簡素化・効率化・高度化の観点から、民間資源の利用について検討する必要がある。

(5)システム利用料の負担
 大蔵省の税関手続の電子化の事例では、唯一、電子化におけるシステム利用料を徴収している。このシステムを運営・管理している通関情報処理センターのシステム本体の構築及び運用に係る費用の大半がシステム利用料により賄われている。
 道路占用許可申請手続の電子化においても、通関情報処理センターのような仕組みを活用する場合には、システム開発費や必要整備費用、システムの運用・保守等の負担について、システム利用料として関係者により共同負担する等の方策について検討する必要がある。



第4節 関係者からの道路占用許可申請手続の電子化の検討要求事項

 行政情報化の要請事項を踏まえた上で道路占用許可申請手続の電子化を推進していくために、占用事業者や道路管理者をはじめとする関係者から要求された検討事項を以下に示す。

(1)既存システムと新たなシステムとの関係
 将来展望も踏まえた上で、道路管理システム等の既存システムと新たなシステム双方の位置付けと整合性を検討する必要がある。

(2)システムの適用範囲
 新たなシステムが対象とする業務の範囲、区域の範囲、占用物件の範囲、工事規模の範囲等を検討する必要がある。

(3)図書の簡素化等
 道路占用許可申請手続に必要な図書の簡素化、道路管理者内の業務の高度化、関連する法制度の見直し等を検討する必要がある。

(4)ワンストップサービス
 道路占用許可申請手続と道路使用許可申請手続との連携を検討する必要がある。

(5)図面の取り扱い
 事務簡素化及び情報技術的な観点からの道路占用許可申請のための平面図等の図面の取り扱いを検討する必要がある。

(6)地図データの取り扱い
 新たなシステムで取り扱うべき地図データの精度、データ形式(イメージ、次元)、データ管理体制、利用者の範囲等を検討する必要がある。

(7)システムの方式
 建設省行政情報化推進計画」による情報インフラ整備の進捗に合わせたシステムのオープン化、OS・システム・データ間の互換性、通信方式、情報の安全性確保等を検討する必要がある。

(8)システムの運用
 新たなシステムと従来の紙媒体による申請の共存方法、サーバの設置場所、データの管理体制、費用負担の仕組み等を検討する必要がある。

「行政情報化推進基本計画」等が要請する申請・届出等の電子化推進のための要請事項と、占用事業者、道路管理者等からの道路占用許可申請手続の電子化の検討事項を、表1−1のとおり分類・整理した。

表1−1 行政情報化の要請事項と占用事業者、道路管理者等からの検討要求事項
行政情報化の要請事項占用事業者、道路管理者等からの要求事項








・申請書記載事項等簡素化
・変更申請等簡素化
・ワンストップサービス
・同種申請簡素化
・図書の簡素化等
・ワンストップサービス
・制度慣行、事務処理手順等見直し
・処理期間短縮
・有効期間倍化
・押印・手数料納付合理化
・関係法令改正等の措置











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・既存システム活用・既存システムと新たなシステムとの関係
・関連システムとの連携・ワンストップサービス
・複雑な図面等の取り扱い・図面の取り扱い
・可能なものから電子化・システムの適用範囲
・効率的・効果的・標準的な情報システムの構築
・C/Sへの転換
・TCP/IP採用
・グループウェア機能活用
・SGML等の採用
・電子文書の原本性
・申請者等の認証
・システムの方式
・GISデータ標準化推進・地図データの取り扱い
・利便性向上
・アウトソーシング推進
・手数料等納付
・システムの運用
・推進体制の整備・充実
・関係部局連携強化
・推進状況フォローアップ
・国民等への推進状況公表
・パイロットシステム運用
 




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