第4章 簡易システムの検討とパイロット実証実験


 第2章第3節に記述した「道路占用許可申請手続における新たなシステムの位置付け」と、第3章の「申請手続の簡素化・標準化」の検討結果を踏まえ、簡易システムの検討とパイロット実証実験を実施した。

第1節 簡易システムの適用範囲

 簡易システムによる電子化の適用範囲について以下のとおり整理した。

(1)業務の範囲
 簡易システムによる電子化の対象とすべき業務の対象範囲は、道路占用許可申請から工事完了までのうち、道路管理者内の審査手続及び占用料の納付に係る業務を除いた範囲とする。

(2)適用区域の範囲
 簡易システムによる申請手続を適用する区域の対象範囲は、政令指定都市域外とする。

(3)物件の範囲
 簡易システムが対象とする物件は、公益物件とする。

(4)工事の範囲と電子化の対象となる申請手続書類の範囲
 簡易システムが対象とする工事の範囲と、電子化の対象となる申請手続書類の範囲はすべての工事を対象とし、工事に必要な申請手続書類を電子化の対象とする。




第2節 簡易システムの機能・通信方式

 簡易システムが具備すべきシステム機能、システム方式、通信プロトコルについて以下のとおり整理した。

(1)道路占用許可申請手続を効率的・効果的に支援するシステム機能
 簡易システムは、道路占用許可申請手続を効率的・効果的に支援するシステムとして、以下のシステム機能を標準として具備することが必要である。

ア.占用事業者を支援する機能
 占用事業者が行う申請者業務を支援する機能として、申請書を作成する機能、申請受付サーバにアクセスし申請書の送信をする機能、道路管理者の審査の進捗状況を閲覧する機能等が必要である。
イ.道路管理者を支援する機能
 道路管理者の業務を支援する機能として、申請書等の受理・保管機能、許可処理機能、占用料計算機能、審査の進捗管理機能、申請書等を印刷出力をする機能等が必要である。
ウ.運用を支援する機能
運用を支援する機能として、申請データの受付・データ変換機能、ユーザID等による申請者の認証管理を行う機能、セキュリティ対策機能等が必要である。
エ.データ送信を支援する機能
申請者から道路管理者へ申請書等を送信する際、あるいは道路管理者から申請者へ道路使用許可書の写しを送信する際に、データ送信を支援する機能として、道路管理者の窓口以外あるいは申請者以外への情報の機密性保証の機能、数MByteを超える大量のデータについて何らかの通信障害が発生した際も再送信あるいは分割送信する機能、申請者の認証機能等が必要である。

(2)インターネットを活用したシステム方式
 行政情報化推進基本計画の基本的な方針を踏まえ、効率的・効果的・標準的な情報システムの観点から、オープンなコンピュータ・ネットワークであるインターネット(以下、単に「インターネット」という。)を活用したシステム方式とする。  この方式には、処理を道路管理者のサーバ側で一括処理する方式と、申請者側のクライアントPCで申請書作成等の処理を実施した上で申請書ファイルをサーバ側へ送信する方式の二つの方式が考えられる。これらの方式を下記のとおり比較した。

ア.サーバ側で一括処理する方式
 申請者側のクライアントPCのWWWブラウザを利用して、道路管理者のWWWサーバへインターネットを介して申請処理を行う方式。この方式は、道路管理者のサーバ側にのみ前述のシステム機能を実現するアプリケーションが搭載されていればよく、申請者側のクライアントPCにはWWWブラウザの他に特別なアプリケーションの搭載の必要がないため、システムの開発、維持管理が容易となる利点がある。
 しかし、申請者側のクライアントPCから道路管理者のWWWサーバへアクセスした状態で申請書を作成・送信する必要があり、申請書作成に時間を要する場合はインターネットの通信費用がかさむ欠点がある。また、申請者が作成した申請書については申請者側のクライアントPC端末に保存・管理・再利用できないという欠点もある。
イ.クライアント側処理を含む方式
 申請者側のクライアントPC端末で申請書作成等の処理を行う方式である。  この方式は、申請者側のクライアントPCに申請書作成等の特別なアプリケーションが必要であり、クライアントソフトの開発、維持管理が発生する。
 しかし、前記の方式に比べ、申請書作成と申請書の送信を分離して行うことができるため、申請のための通信費が低減できる利点、さらに申請者が作成した申請書を申請者側のクライアントPCに保存・管理・再利用できるという利点がある。

 二つの方式を比較した場合、サーバ側で一括処理する方式が申請者側に特別なアプリケーションが不要な方式であり、開発、維持管理が容易な利点はあるものの、申請者の通信費負担や申請書の保存・管理・再利用の操作性の観点から、簡易システムにはクライアント側処理を含む方式の方が優位性が高いと判断し、この方式を採用することとする。

(3)通信プロトコルの検討
 建設省のネットワーク・セキュリティポリシーでは、現在のところファイアウォールを通したデータ交換は基本的にSMTP(Simple Mail Transfer Protocol;インターネットの電子メール送信プロトコル)しか認められていない。したがって、道路占用許可申請を行おうとする申請者は、建設省内のネットワーク上にあるファイアウォールの外側に設置されたWWWサーバへのHTTP(HyperText Transfer Protocol;WWWで用いられる通信プロトコル)によるアクセスは可能であっても、セキュリティ面からファイル交換はできないこととなっている。当面、道路占用許可申請手続の電子化の対象とする直轄国道を管理する地方建設局においても、同様のネットワーク・セキュリティポリシーがある。そのため、申請者と道路管理者間のファイル交換は申請者がアクセスするインターネットに直結したWWWサーバを別途設け、これを介して道路管理者内の道路占用許可申請の受付窓口(サーバ)に対して、SMTPに変換してファイルを送信する手段を採用することとする。


第3節 簡易システムの構成と処理フロー

 道路占用許可申請手続の現状、簡易システムの位置付けと適用範囲の検討、機能・通信方式の検討を通じて得られた成果に基づき、簡易システムの構成と処理フローについて検討した。

(1)簡易システムの構成
 簡易システムが具備すべきシステム機能、システム方式、通信プロトコル等の検討結果から、簡易システムの構成を検討した。
 簡易システムは、その役割と機能に応じて、以下の4つのシステムで構成する。

  • 占用事業者(申請者)を支援する機能を具備する申請用クライアントPC
  • 道路管理者を支援する機能を具備する申請データ保管サ
  • 運用を支援する機能を具備する申請受付サーバ
  • 通信ネットワーク(道路管理者内LAN、インターネット)

 申請用PCは申請者内のLANあるいはモデム等を通してインターネットに接続され、申請データ保管サーバは道路管理者内のLANを通してインターネットに接続される。
 申請受付サーバは「通信プロトコルの検討結果」から、インターネットに直結したWWWサーバとしての役割を果すとともに、申請者が送信した電子文書(申請書・届出書・添付図書等)を電子メールの形式に変換した上で、道路管理者内の申請データ保管サーバに配信する。
 図4−1に簡易システムの構成を示す

図4−1 簡易システムの構成
簡易システムの構成



(2)システムの利用手順
 簡易システムの構成と処理フローに基づき、申請者と道路管理者の利用手順について検討した。

ア.事前手続
  1. 申請者登録
     申請者は書面による手続により、簡易システムへのアクセスのためのユーザID、パスワードを受領する。
     なお、この管理が各道路管理者で実施されるとすれば、申請者にとって申請先の道路管理者別のユーザIDを利用することとなる。このため、道路占用許可申請手続に関しては全国一元管理としていくことが望ましい。
  2. 申請書作成ソフトのダウンロード
     申請者は、発行を受けたユーザID及びパスワードにより申請書作成ソフトが保管されている申請受付サーバへアクセスし、申請書作成ソフトダウンロードのページを開き、ページに示される指示に従ってダウンロードを行う。ダウンロードされた申請書作成ソフトを所要の操作により、申請者のPCにインストールする。
     申請受付サーバの申請書作成ソフトが更新された際には、申請者は同様の手順によってPCの申請書作成ソフトの更新を行う必要がある。


イ.申請手続
 簡易システムを利用した道路占用許可申請手続の流れを図4−2に示す。

図4−2 簡易システムを利用した道路占用許可申請手続の流れ
簡易システムを利用した道路占用許可申請手続の流れ



  1. 申請書作成及び送付
     申請者は申請書作成ソフト(図4−3参照)を利用して申請書関連ファイル群を作成する。その際に添付図書として図面等が必要な場合には、あらかじめイメージスキャナや簡易CADソフトを利用して図面等をファイルとして電子化しておく必要がある(操作画面イメージについては図4−4及び図4−5参照)。申請書作成ソフトでは、申請書記入事項の入力及び添付図書のファイル指定を行う。申請書関連ファイル群の作成が終了したら、申請関連データベース(申請受付サーバ)にアクセスし、申請書送信のページを開き、ページに示される指示に従って申請書関連ファイル群の送信を行う(図4−6参照)。以上の手順で申請手続が完了する。

    図4−3 申請書作成ツール画面イメージ
    申請書作成ツール画面イメージ

    図4−4 位置図処理イメージ
    位置図処理イメージ
    図4−5 平面図処理画面イメージ
    平面図処理画面イメージ

    図4−6 申請書送信ページ画面イメージ
    申請書送信ページ画面イメージ



  2. 申請書受理
     申請者から申請書関連ファイル群が送信されると、それらは直ちに申請関連データベース(申請受付サーバまたは申請データ保管サーバ)により簡単なチェックを行い、申請関連データベース(占用申請DB)に格納される。これと同時に電子メールにより申請者に対して申請書受理の通知を行う。
  3. 審査・占用料計算
     道路管理者が申請書を受理すると審査が始まる。道路管理者はLANを通じて申請関連データベース(占用申請DB)にアクセスし、申請手続書類を表示できるものとする。審査の進捗状況に応じて適宜進捗管理簿ページのコンテンツをアップデートする。また、占用料計算を行う。
  4. 申請者による進捗状況閲覧
     申請者は、申請関連データベース(申請受付サーバ)にアクセスし、進捗管理簿のページを表示する(図4−7参照)ことによって、申請処理進捗状況の閲覧及び申請内容の確認をすることができる。ただし、閲覧できる内容は、アクセスした申請者のものに限るものとする。
  5. 占用許可書交付
     道路管理者内で審査が終了し、占用許可が決裁されると、正本一式を印刷出力し、適宜必要な措置をとる。申請者に対しては必要な電子データが電子メールを通じて送付される。また道路管理者内では、債権発生通知が作成され担当部署へ送信される。
  6. 工事着手届出
     申請者は、工事の着手の時点で、申請関連データベース(申請受付サーバ)にアクセスし、着手の情報を送付すると道路管理者が着手届を受理、確認することとなる。

    図4−7 進捗管理簿画面イメージ
    進捗管理簿画面イメージ



  7. 工事完了届出
     申請者は、工事の完了の時点で、申請関連データベース(申請受付サーバ)にアクセスし、復旧報告を含む完了の情報を送付すると道路管理者が完了届を受理、確認することとなる。
  8. 進捗管理
     道路管理者は、工事の着手及び完了の情報を受理することにより、占用工事の進捗管理が可能となる。
  9. 更新手続、軽微な工事等に係る届出手続
     占用許可の更新手続及び軽微な工事等に係る届出手続は、占用許可申請手続に準じて行われる。


第4節 パイロットシステムの開発と実証実験

 本研究会では、道路占用許可申請手続の電子化における事務簡素化の有用性、簡易システムの実用性や利便性、システム運用方法の実現性等の検証、実運用に当たっての問題点の抽出を目的にパイロットシステムを開発した。
 パイロットシステムの運用は、近畿地方建設局の奈良国道工事事務所(橿原維持出張所、奈良維持出張所を含む。)管内において、西日本電信電話株式会社、関西電力株式会社、大阪ガス株式会社の3占用事業者の協力を得て、平成11年10月5日から平成11年12月17日の期間で道路占用許可申請手続の電子化の実証実験を実施した。
 パイロットシステム運用の概要については、参考資料6に示す。

(1)パイロット実証実験における検証項目
パイロットシステムの開発・運用をとおして、下記項目について検証を行った。

ア.事務簡素化
 電子化を踏まえた事務手続の簡素化の検討結果について、パイロットシステムの運用をとおして実証を行い、さらなる事務手続の簡素化を図るための検討材料とする。

イ.システムの実用性
 パイロットシステムの適用範囲(区域、物件、業務)における簡易システムの実用性について検証するとともに、将来の適用範囲拡大における問題点、課題を抽出する。また、システムの利用者の視点から、システム機能、システム操作性、システム応答性、生産性について検証を行う。

ウ.システムの利便性
 占用事業者が申請手続を電子的に行うことによる利便性向上の検証を行う。また、図面の技術的な取り扱いについてシステムの利用者から意見を聴取し、実運用システムの設計・開発に反映させるものとする。

エ.システム運用方法の実現性
 実運用を想定した場合、占用事業者は複数の道路管理者に対して申請手続を行う必要が生じる。パイロットシステムの運用では、申請窓口(申請受付サーバ)を一元化する運用方法が占用事業者の利便性に対して有用であるかの検証を行い、実運用システムのシステム構成に反映させることとする。

オ.電子決裁
 パイロットシステムでは道路管理者内の決裁手続について、電子決裁を実験的に試行し、電子決裁の実現性・有用性についての検証を行う。この評価結果に基づき、実運用システムにおける電子決裁機能のあり方の検討材料とする。



(2)パイロットシステムの開発
 パイロットシステムの開発は、以下の手順により進めた。

ア.業務分析
 本研究会における検討と奈良国道工事事務所における業務内容を基に、システム仕様を作成した。また、他の工事事務所、地方建設局、地方自治体での業務内容についてはその相違点を調査し、システムの汎用化の検討に資した。

イ.要求分析、システム設計、システム開発
 システムに備えるべき機能をプロトタイピング方式により確定した。

  1. 第1段階(デモシステム)
     画面の遷移に基づき、利用者業務の流れを確認した。
  2. 第2段階(プロトタイプ・システム)
     画面遷移だけではなく、内部のデータに係る処理(データ検索方法、占用料計算方式、電子決裁等に係る各種パラメータ設定方法等)について確認した。
  3. 最終仕様による開発
     プロトタイプ・システムに対する意見を反映させた最終仕様によりシステムの変更・開発を行った。
  4. 運用要領作成
     運用の作業内容、運用体制について要領を作成した。


(3)パイロットシステムの構成
 パイロットシステムは、道路管理者側に設置される申請受付サーバ(近畿地方建設局内に設置)、申請データ保管サーバ(奈良国道工事事務所内に設置)及び審査用パソコン(奈良国道工事事務所内と出張所内に設置)と各占用事業者側に設置されるパソコンとから構成される。(図4−8)

図4−8 パイロットシステム構成
パイロットシステム構成



第5節 パイロット実証実験における評価

 パイロット実証実験における占用事業者及び道路管理者の評価について、アンケート調査及びヒアリング調査を実施した。

(1)評価方法

ア.定量的評価
 システムログからシステム処理時間等を求め、定性的評価の裏付けデータとして利用した。

イ.定性的評価
 システムの機能等に対する満足度についてはアンケート調査から評価し、問題点及び実運用に向けての課題については、ヒアリング調査等から評価した。

(2) 収集データ
 収集データを表4−1に示す。

表4−1 収集データ
アンケート調査占用事業者 4サンプル
道路管理者 7サンプル
ヒアリング調査占用事業者 4名
道路管理者 4名
問題点、改善要望占用事業者 30項目
道路管理者 52項目
システムログメール送受信記録
(申請受付サーバ、申請データ保管サーバ)
操作記録
(申請受付サーバ、申請データ保管サーバ)


(3)アンケート調査結果
 パイロットシステムに関して、「システム機能」「システム操作性」「システム応答性」「生産性」について、5段階評価をアンケート調査として行った。
 アンケート調査結果の概要を表4−2に示す。

表4−2 アンケート調査結果の概要
 占用事業者道路管理者
システム機能 総合的には概ね満足。特に「申請書提出」「許可書受取」において満足度が高い。ただし、「進捗状況閲覧」については若干不満がみられる。 総合的にはやや不満。主に「申請書類一覧表示」「書類審査」「添付図書参照」について不満度が高い。特に「添付図書参照」において著しく不満度が高い。
システム操作性 総合的には概ね使い易い。特に各種届の「作成」「提出」の操作性がよい。ただし、一部「申請書作成」「進捗状況閲覧」「許可書受取」でやや使いにくい面がある。 総合的にはやや使い難い。申請書類一覧表示において若干の使いにくさが認められ、申請書類審査及び添付図書参照においてはさらに使い難さの率が高くなる。
システム応答性 総合的には概ね使い易い。ただし、「申請書類作成」「進捗状況閲覧」「許可書受取」「着手届作成」で使い易い、やや不満との評価が別れている。 総合的には概ね満足。若干であるが「申請書類一覧表示」「申請書類審査」「添付図書参照」で不満がみられる。
生産性 総合的にはやや向上。添付図書準備を除く各作業において全般に向上したが、各種届の「作成」においては従来方式と変わらないとの意見が半数を占める。また、「添付図書準備」においては唯一低下がみられた。 総合的にはやや低下。主に審査・承認で低下し、中でも事務所受付審査における作業低下が著しい。


 占用事業者からは、機能、操作性、応答性に対して概ね満足であり、生産性はやや向上したという評価が得られた。道路管理者からは、機能、操作性に対してはやや不満であるが、応答性は概ね満足であり、生産性はやや低下したという評価が得られた。

(4)ヒアリング調査結果
 占用事業者、道路管理者へのヒアリング結果の主な意見は以下のとおりである。

【占用事業者の主な意見】

  • メリットとしては申請行為を実施するのに時間的制約がないことである。
  • 添付図書の準備については、従来の作業の加え、A0サイズからA4サイズに縮小する手間が増えた。
  • 添付図書の準備については、従来の作業の加え、A0サイズからA4サイズに縮小する手間が増えた。
  • 進捗状況の確認で、送付の操作を実施してから進捗状況一覧に表示されるまでに時間がかかった。
  • 審査の進捗状況をもう少し詳細に表示して欲しい。
  • 一旦受け取った許可書の再受け取りが可能なようにして欲しい。
  • 工事の種類によってメニュー上の占用物件が限定されるようにして欲しい。
  • 「事前協議」へ対応する機能を有していないため、必要となる場合にどのようにすればいいかが問題である。

【道路管理者の主な意見】

  • 書類による申請の場合、出張所と事務所間の書類の移動は1〜3日に1回程度であるが、パイロットシステムを使用することにより書類回議に要する人的労力、時間的制約が改善された。
  • 申請書類の受理行為、審査行為ともに案件内容によって程度の差があるが、主に図面を見る作業の比重が高いことから、パイロットシステム(ノートパソコンによる審査)ではその図面表示機能に改善されるべき点が多かった。
  • 受付簿、交付簿の作成機能を追加して欲しい。
  • 「事前協議」へ対応する機能を有していないため、必要となる場合にどのようにすればいいかが問題である。

 占用事業者としては、申請書提出のための移動時間や申請書受付時間の制約が軽減されたことのメリットが大きいという認識がうかがえる。不満な点としては、申請書受理までのタイムラグがあること(送付と同時に受理とならないこと)や審査の進捗状況が分かりにくいとの指摘があった。道路管理者としては、審査行為のほとんどが図面を見ることに終始するため、その図面表示に関する機能の不備が最大のマイナス要素であったことがうかがえる。

(5)システムログ

ア.ログデータ
 ログデータとしては、申請受付サーバ、申請データ保管サーバともに以下のものを保有している。
  • メール送受信記録
     申請受付サーバと申請データ保管サーバ間のメールの送受信を記録したもの
  • 操作記録
     申請受付サーバと申請データ保管サーバそれぞれのログイン者が操作した処理内容を記録したもの

イ.申請案件の進捗
 申請案件30件中、審査が完了した案件は16件、審査中の案件は14件であった。

ウ.システム処理時間等
  • 申請受理時間
     占用事業者が申請受付サーバにアクセスし、申請書類を送付した後、案件一覧に登録されるまでの時間を調査したところ、約60%の案件は10〜30分ほどであった。しかし、1時間かかったものが10%、1日かかったものが約13%、2日以上かかったものが10%存在していた。これらのサンプルはシステム障害による電子メール送受信の一時停止や、メンテナンスの際にシステムを停止したことにより発生したものと推測できる。
     ※日数のカウントはすべて土曜、日曜、祭日を除いている。
  • 出張所と事務所の時間間隔
     出張所長の承認後、事務所受付までの時間間隔は、事務所受付を完了した17件の内、1日以下のものが約53%、3日のものが約29%、4日以上のものが18%であった。
     ※日数のカウントはすべて土曜、日曜、祭日を除いている。
  • 時間外受付
     申請案件30件中、時間外に申請が行われた案件は3件であった。

エ.送付ファイルサイズ
 送付ファイルはすべてLZH形式で圧縮されており、申請書と添付図書が1ファイルにまとめられている。添付図書が多くなればファイルサイズは大きくなる。申請案件30件の送付ファイルのサイズは、最小で471Byte、最大で約1.6MByte、平均で約543KByteであった。ネットワークのトラフィックを考慮してパイロットでは送付ファイルのサイズの制限を2MByteとしたが、この制限内でも十分添付図書の作成は可能であったと考えられる。

(6)問題点、改善要望
【占用事業者】
 占用事業者からは問題点、改善要望として30項目が挙げられた。内訳は以下のとおりである。

申請書作成に関するもの9項目
座標取得に関するもの5項目
進捗表示に関するもの4項目
申請データ受付に関するもの3項目
添付図書設定に関するもの2項目
進捗情報受信に関するもの1項目
申請書印刷に関するもの1項目
その他5項目

 主な問題点、改善要望は以下のとおりである。

●申請書作成に関して
  • プルダウンメニューに前回情報の表示が欲しい
  • テキストの入力内容に改行を入れたい

●座標取得に関して
  • 位置図における指定場所探索をしやすくして欲しい

●進捗表示に関して
  • 申請情報(申請日時)等の表示が欲しい

●申請書印刷に関して
  • 申請書の印刷機能が欲しい

●申請書作成に関して
  • 申請後の修正、申請取消機能を追加して欲しい

【道路管理者】
 道路管理者からは問題点、改善点として53項目が挙げられた。内訳は以下のとおりである。

決裁に関するもの20項目
占用料計算に関するもの9項目
許可書作成送信に関するもの5項目
申請データ印刷に関するもの2項目
申請データ受信に関するもの2項目
申請データ検索に関するもの2項目
進捗管理簿作成に関するもの1項目
その他9項目
申請データ送信に関するもの2項目(占用事業者向け機能)
添付書類設定に関するもの1項目(占用事業者向け機能)

 主な問題点、改善要望は以下のとおりである。

●決裁(図面参照)に関して
  • 図面が見にくい
  • 物件位置が特定しにくい(工事場所の特定、詳細位置の特定)
  • 画像回転機能を追加して欲しい
  • 印刷すると複数枚にわたり、つながりが把握できないので、1枚に収まるようにして欲しい

●決裁(進捗管理・審査処理)に関して
  • 審査中書類の状況が関連者に分かるようにして欲しい
  • 後閲、代決が可能となるようにして欲しい
  • 補正要求は担当者から企業へ発信(審査・承認者の指示を担当者に)できるようにして欲しい
  • 申請書の取り下げ機能を追加して欲しい
  • 出張所決裁書類は出張所から返送可能となるようにして欲しい

●占用料計算に関して
  • 申請数量に小数点以下を表示して欲しい
  • 占用料の再計算機能を追加して欲しい
  • 占用料の計算式の表示をして欲しい
  • 占用料減免物件に対する減免規定の表示をして欲しい
  • 占用料計算における端数処理の誤りをなくして欲しい

 問題点、改善要望に関して、道路管理者から挙げられた項目が多い結果となった。特に「申請書類審査」「添付図書参照」に関する機能の追加に要望が多く、審査がスムーズにできるような図面参照機能の改善が必要と考えられる。また、「進捗管理」に関しては、審査中書類の状況確認や後閲、代決の機能追加、「占用料計算」に関しては、計算結果の過程の検証ができる機能の改善が求められた。
 占用事業者からは、進捗表示に関する機能改善が挙げられた。申請書の審査状況が占用事業者としては最も知りたい情報であることがうかがえる。

(7)パイロットシステムの総評
ア.システムに対する評価
 占用事業者からみた場合、機能的にはほぼ満足のいくシステムであるが、道路管理者からみた場合、機能的にやや不満足なシステムとなった。メリットとしては24時間受付により占用事業者の申請の自由度向上が挙げられる。実際、パイロット運用期間中の窓口受付時間外の申請が10%を占めた。問題点としては、占用事業者の進捗状況閲覧等で電子メールによる情報受渡し方式によるタイムラグの問題、道路管理者の図面参照における図面の見にくさ等の問題が指摘されている。
 作業効率の変化については、占用事業者では従来の書類申請と比較して向上がみられた。占用事業者における作業効率向上の要因としては書類提出のおける移動時間の短縮効果が大きい。道路管理者においては、機能不足による審査作業効率にやや低下がみられたものの、出張所と事務所間の書類運搬時間の短縮効果がみられる。


イ.未解決課題等について
 占用事業者からの指摘である申請受理までにかかる時間は、メールシステムの設定(メール取得の時間間隔を短くする等)を変更することにより短縮が可能であるが、メール及びネットワーク環境の制約や負荷の考慮が必要である。
 道路管理者からの指摘である添付図書の参照機能の改善要望については、ファイル形式の統一化(PDF形式にする等)によって改善が期待できる。



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