パネルディスカッション (ページ: 1/


パネルディスカッションの紹介

(敬称略)

コーディネーター

東京大学教授
太田 勝敏
太田
 本日は、3つのテーマに分け各先生にご意見を伺い、その後、皆様からいただきました質問項目等を含めて会場の皆さんと意見の交換をしたいと考えてございます。

 3つのテーマは、最初に中山間地域の交通の現状と課題に対してどういうようなご認識でいらっしゃるかをお話いただき、その後、それらの課題に対してどういった解決策があるのだろうか、新しい交通政策の必要性を第2巡目にお願いしたいといと思っております。3巡目では、小都市と周辺地域との交流をテーマに政策面で考えることは何だろうかということを議論させていただく、という形で進めたいと思います。

 具体的なテーマから伺った方がいいのではないかということで最初に古川町長の菅沼町長にお願いして、その後、各先生方からご意見をいただくという形で、日本の厳しい現実を踏まえながら議論させていただきたいと思っております。

 それでは、最初に菅沼町長の方から、古川町の交通の現状と課題についてお話をお願いしたいと思います。

■交通サービスの不便さ、積雪寒冷地域対策、環状道路

菅沼
 まず飛騨古川をちょっとご紹介させていただきたいと思います。飛騨といいますと、岐阜県の北部に位置し、岐阜県の面積の約40%を占めております。40%といいますと、隣の石川県、福井県に匹敵する面積ですが、人口は岐阜県の8%を占めるのみで、大変過疎化の進んでおる市町村でございます。高山市を中心に1市3郡20町村ありますが、1市2郡15町村は日本海水系にございますし、あとの1郡5町村は太平洋へ流れております。また15町村の中でも、5市町村は人口が微増しておりますが、あとの10町村は典型的な過疎町村でございます。

 そんな中で、高山市を中心に、先ほど地図で見ていただきましたように、南北に国道41号線が通っており、安房トンネルから白川郷へ行く158号線が通っておりまして、道路は高山市を中心に放射線状にあるわけです。古川町は、高山市から10キロほど北に行ったところの半商半農のまちで、人口は1万7,000弱でございます。

 スポーツの町としてありますが、昨年、Jリーグで優勝しました名古屋グランパスのキャンプ地にもなっており、今年の8月1日から開催されます全国高校総体のサッカーのメーン会場になっております。ラグビーでは長野県の志賀高原と古川町の数河高原しか認可がおりていない、いわゆる海抜400メートルから1,000メートルの地域に集落が点在しておるということでございます。


岐阜県古川町長
菅沼 武
 古川町におきましても、高齢化が進んでおりまして、現在23%の高齢者率ですが、公共交通機関は、本線の41号線にバスが走っておるだけで、あとの地域はないわけですので、町が福祉バスを走らせ高齢者対策をいたしております。そして、開業医は10医院ほどありますが、総合病院は全部高山市ですので、人工透析の方々、昼に人工透析に行かれる方、勤めておって夜に人工透析に行かれる方は、町が人工透析患者を輸送し、高齢者あるいは病院通院者に対応いたしております。

 そんな中で、公共交通機関がありませんので高齢者の運転者が多く、高齢者の交通事故の比率も岐阜県では約11%でございますが、飛騨地域は18%という状況にございます。

 もう一つ、私の方は積雪寒冷地帯で、雪が多い地域でございます。現在も雪があるというような状況ですから、冬は交通の確保が大変難しい。幹線道路は除雪しますが、除雪した雪で歩道は通れる状況ではないということです。また、圧雪されて電動三輪車に高齢者が乗るには非常に不便になりますし、オートバイ等では転倒して、けがの率も高いというのが現状でございます。

 飛騨地域の交通は、高山市という小都市を中心にした放射線状の道路となっておりますから、環状道路を整備していただきませんと広域的な交通計画を立てようと思いましてもなかなか難しい状況にあるというのが実態でございます。JRは、南北に高山線が走っておりますが、1時間半に1本程度の普通列車、あとは特急でございますので、地元の人が利用しにくいという状況にあります。

これからの飛騨地域の高齢者対策等で広域的なバス運行ということを検討していくためには、現状の放射線状の道路に環状道路を整備していかないと地域住民の対応ができないという大きな課題を抱えておるところでございます。岐阜県におきましては、福祉道路ということで平成8年から福祉施設に行く道路を優先的に整備していただいておるところでございますが、そのおかげで大分整備はされつつありますが、何といいましてもまだ道路の整備はおくれております。

 もう一点は、先ほど申し上げました積雪寒冷対策です。バリアフリーになっておりますが、そこが雪で危険な状況にあるということですから、消雪を湯でやるのか、電気でやるのか、水でやるのか、このようなことも大きな課題でございます。
 

太田
 ありがとうございました。飛騨地域の現状は、積雪寒冷地域ということで、その対策は非常に難しい問題があるというご指摘、また議論させていただきたいと思います。

 それでは、続きまして秋山先生よろしくお願いします。
 


東京都立大学助教授
秋山 哲男
■バス再興には、都市づくり交通手段の多様化、地域の人材づくりが重要

秋山
 皆さんのところにパンフレットがあるかと思いますが、『バスはよみがえる』という本を2日前にようやく出版することができました。なぜこの本を出したかというと、バスはよみがえらない、このまま野たれ死にするのではないかという心配がございまして、2年間でやっと書き上げました。

 なぜこの本を書いたか。特に中山間地域は、自動車に比べてバスでの移動が極端に悪い。この差をいかに縮められるかという努力をどれだけ払えるかということに尽きるだろうと思います。そのためには何をしたらよいのか、3点ほど私自身考えています。まず、長期的な集落づくり、あるいは都市づくりが1つです。2つ目は多様な交通手段をいかに使い尽くすか、3つ目は行政が集落における交通計画のプロを育てることができるか。この3点が重要だろうと思っています。

 第1点目の長期的都市づくり、集落づくりができるかというのは、事例を簡単に申し上げますと、谷筋でV字谷にある町があります。河川が流れていて、道路がそれに沿って通っているような町というのは、割とバス路線が走っていて、乗車数もあります。一方で、平坦に広がる町では、バス路線は大変長くなる。とにかく長い路線で、あっちにも、こっちにもバス路線をつくっているということが起こっている。これは、住民あるいは権力のある人が「うちの前にも通してくれ」といったことで決まっていくわけです。

 こういうのははなはだ不経済です。つい最近、埼玉県と東京の コミュニティバス 、80数路線を調査したのですが、その結論は、路線は短いほどいい、運行頻度は多いほどいい、というのが鉄則であることがわかりました。そういうことを考えると、路線延長を長くするということは運行間隔が長くなりますので、その変をいかに理解して集落計画をするのかということだと思います。

 そういう意味では、道路とバス路線とを一体的に計画するというのが重要なことで、都市施設と住宅の立地も、できるだけ短い距離ないしはバス路線の沿道に建てる、都市施設もできるだけ集めてつくる、という努力が必要だろうと思います。長期の都市づくりがないので自動車とのモビリティ格差が極めて大きくなっている、これが1点目です。

 2つ目の多様な交通手段を使い尽くすという点ですが、これについては、いろいろな交通手段があるのに、まだ頑張れていないのではないかという思いがあります。バスだって多様なバスがありますが、それについても頑張れていないのではないか。具体的な例を申し上げますと、バス路線を単に運行しているというだけではなくて、利用者によってサイズを変えたり、利用者によって デマンド型の運行 をしたり、さまざまなやり方があるはずです。単一のバス運行の仕方でやっていること自体がやや不思議ですね、というのが2点目の話です。

 3点目は、行政の担当者がバスに対して、この路線はこのくらいの赤字を見積もれるということを予測できる人材を育てるべきである、そのことがないために計画ができないのではないか。この路線は3割赤字、この路線は5割赤字ということがきちんと見込めるかどうか、そのことによって住民に対して「これだけ負担してください」ということがきちっと言える。そのことが今、欠けているのではないかと思いますので、バスないしは多様なバス以外の交通手段を計画できる人材を育てる。  以上の3点が重要だろうと思います。
 

太田
続きまして、鈴木先生お願いします。
 
■バス経営ではなく、地域の交通ニーズからの発想を

鈴木
私の方からはバス事業の状況について簡単にさらってみたいと思います。

 今日お見えになっている皆様方自身、今まで過疎地域の交通問題に直面してこられて、現状をかなり把握されていることと思いますが、事業サイドから見たときのバスというのは今、非常に厳しい状況にあります。運輸省が毎年出している統計等を見るまでもなく、大体9割ぐらいのバス事業者が赤字になっておりまして、少なくとも中山間地域と言われる地域を担当しているバス事業者で黒字の事業者はほとんどないと言っていい状況になっております。

 実際にバスの利用者数は非常に減っております。ピークだったのは昭和40年代の前半、昭和43年とか44年ころがピークです。この時期に比べますと、全国平均で見て、今は6割ぐらい減って40%ぐらいの数字が出ているはずです。ところが、これを中山間地域ということに限ってみますと、10ないし20%、つまり8割から9割のお客さんが逸走してしまったという状況になります。

 昭和40年代前半というのはバス事業にとって黄金時代という時期だったわけですけれども、これが多少減ったぐらいでしたらそのままの状況で経営していても恐らく何とか経営できたでしょう。しかし8割、9割減少するということになりますと、実際の経営という観点から見たときには不可能に近い。中山間地域のバスを従来の形でのバス事業という観点から見たときには、経営的にはほとんど不可能であるということが前提条件になってしまう。


交通ジャーナリスト
鈴木 文彦
 では、何がいけなかったのかということですが、1つには、バス事業サイドの問題ももちろんあります。黄金時代の経営感覚がなかなか抜け切らなかった、ごく最近までよかった時代の経営の仕方をずっと続けてきたという経営サイドの問題ももちろんありました。

 それから、バス事業者というのは、企業としても比較的大きな会社がある一定のエリアを占めていたということがありまして、企業の大きさから労働組合も非常に大きい。労働組合とのすり合わせをしなければならない中で、経営サイドが利用者よりも組合の方を向いていたという問題もありました。事業者サイドの複合的問題でバスの状況がだんだん悪くなってきたという面が1つあります。

 もう一つは、日本の場合、バス事業というのはほぼ民間の事業者が運営してきたわけですが、その地域にとってのバス路線でありながら、地域そのものがほとんどバスにかかわってこなかった、当事者になってこなかったというのが非常に大きな問題であろうと思います。

 つまり、バスの運行というものはすべてバス事業者任せ、バスはバス会社がやるものだというとらえ方、行政、住民を含め地域がそういう観点でしかバスを見てこなかったということも、バスが今のような状況になってきた大きな原因です。ですから、私が、最初にバス事業という立場から見てみましょうと申し上げたのですが、バス事業の経営という観点からしかバスに対応してこなかったところに非常に大きな問題があったと言わざるを得ないのではないかと思います。

 どういうことかといいますと、今までその地域の路線をどうやって維持しようかということを考えるときに一番重要だったのは、その路線がどのくらい赤字かという問題だったわけです。つまり、赤字が非常に大きくなってきているからバス事業者は廃止したい、廃止されては困る。それなら赤字分をどうやって埋めるか、そこの部分でのバス事業者対行政、ここで住民が出てこなかったのも問題ですけれども、バス事業者対自治体の攻防戦を繰り返してきている。それでしかバス路線を維持する、あるいはその後どうやっていくかという対応策をしてこなかったのが実態であろうと思います。

 そこに問題があるとするならば、はっきりとこれは視点を変えてしまわなければいけない、発想自体を変えていく必要があるのではないか。発想を変えることによって、バスはよみがえる可能性があるというふうに思うわけです。

 どういうことかといいますと、まずその地域のニーズは何なのか、これが最初の条件になるべきであるということです。その地域にとってどんな公共交通としてのニーズがあるのか。どのようなルートで、どういうダイヤ、運行頻度はどのくらいのものが必要であるのか、あるいはどういう車両で、しかも輸送力を含めた車両のボリュームはどのぐらいのものが必要なのか、どのくらいドア・ツー・ドアに近づけるべきなのか、その地域に応じたニーズが必ずそれぞれの地域にあるはずです。それを満たすためにはどういう形でのバス運営が必要なのか、それがまずあることによって、ではそれをどうやって運営していくかという問題になってくるわけです。

 今までですと、そこに至る前に「経営的に無理だ、とても採算がとれない」という話で終わってしまうのですが、それは、ニーズよりも先にもともとのバスの運営形態があって、それに従っていったら赤字でとても採算がとれないという議論にしかならない。ニーズを先につかんで、それを実現するためにはどういうことができるのか、できないのか、そういう議論に進んでいく、その段階で経営できる方法がないのかどうかを検討するべきなのではないか。

 そこで、先ほど秋山先生の方からお話があった、いろんなバスの形、あるいはバス以外の交通の方法、いろんなメニューの中でそのニーズを満たせるものがないのかどうかという検討をこの段階でできるわけです。

 さらに、それでもなおかつとても運営することができないということであれば、だれがお金を出すかという問題、あるいはどこまで条件をお互いにすり合わせることができるかという問題に移行していくことができるわけです。

 ですから、バスに限らず、公共交通を中山間地域でより地域に合わせた形で確保していこうと思ったら、最初から今までのバスを頭に置いて経営的に無理だという話をするのではなく、その地域のニーズに合わせた交通サービスは何なのかをまず検討する、本音の検討をしなくてはだめですね。住民の声がそのままニーズかというと、そういうことではなくて、その地域に応じて必ず本音の部分があるはずです。本音の必要なサービスとは何なのかということがあって、それに運営形態とか、経営の形、やり方、お金の出し方、そういったものを組み合わせていくという発想の仕方でこれからの公共交通を考えていく必要があるのではないかと考えております。
 

太田
 極めて本質的なところに入ってきましたけれども、バスそのもの、あるいは公共交通そのものの意義まで踏み込まないと従来の仕組みでは難しいのではないかというご指摘かと思います。この辺はまた後ほど具体的なテーマで振り返りたいと思います。

 それでは、ちょっと話を変えまして、今まで公共サービスということでバスについて指摘していただきましたが、今日のデータでもありましたように、高齢者だけではなく障害者の方も自動車を使って動いている。そういう中で、そういう人たちに対する対応策も非常に重要であるという課題が出ましたので、そのへんを溝端先生からお願いいたします。
 



溝端 光雄
(財)東京都老人総合研究所
生活環境部門室長
■高齢ドライバーの安全対策と受け皿としてのバス改善の必要性

溝端
 秋山先生がバスはよみがえるというお話をされたので、私はバスはよみがえらないという観点からお話を申し上げたいと思います。

 バスが80%ないし90%の乗客減となった原因というのは、明らかでございまして、自動車交通がものすごく伸びたということが原因だろうと思います。現在、第7次交通安全基本計画が策定中であります。その一つ前の第6次では、交通事故による死者数を1万人以下にしたい、2000年までには9,000人以下にとどめたいという目標で努力されてきて、その目標をほぼ達成可能となってきております。しかし、全体的には、死亡者の数は減っているのですが、ご承知のように件数あるいは負傷者の数、とりわけ交通事故によって後遺障害を持って障害者になられる方の数はどんどん増えてきているというのが現状であります。

 したがいまして、第7次交通安全基本計画のポイントの1つは、若者の暴走等に伴う事故の防止でありましょうが、もう一つは、激増する高齢ドライバーの事故の問題、安全確保の問題、これが大きなポイントになるだろうと思います。

 先ほどご紹介がありました中山間地域の高齢者等の移動特性の中で、運転をやめたい年齢がクロス集計されていたものがあったと思います。65歳から70歳の方は75歳から79歳まで運転したい、70歳から74歳の方はさらに10歳足して80歳から84歳まで運転したい、平たくいえば、いつまでも運転したいということなわけです。

 今その現状がどれぐらいの数になっているかということを申し上げますと、端的にいえば免許保有者が高齢化しているということですが、65歳以上の人口が現在、全国で2,100万人、そのうち免許を持たれている方はほぼ700万人という数字です。いかに伸びているかという話を申し上げますと、100歳以上の方が現在全国に1万人いらっしゃいます。2年ほど前のデータですが、その1万人の中で免許を持たれている100歳以上の方が6人、そのうち4人は何と現役のドライバーであるというお話がございます。つまり、幾つになっても運転をするということでございます。

 問題は、安全であればよろしいのですが、自動車の安全にかかわることをやっている人たちは事故率という指標を計算します。その場合、年齢階層別事故の件数を年齢階層別の人数と平均的な走行キロで割ります。つまり、1人が1キロ走ったときに何件交通事故を起こしたかという形の指標にします。高齢者になりますと、社会的引退と申しますか、通勤のトリップが落ちてまいりますので移動距離が減ります。したがいまして、単純に人数だけで割りますと、事故率は年齢とともに低下するということになりますので、走行キロで割らないと正しい事故率になりません。そうしますと事故率は40歳代が一番低くなり、年齢とともに上がっていきまして、75歳ぐらいになりますと約3倍ぐらいの事故率になります。

 そういう意味で安全の問題が出てきます。そのバックにあるのは、視覚とか、運動機能とか、あるいは認知判断機能の低下が問題になっているということだと思います。ですから、高齢者の運転をこれから認めていくとすれば、そういうところに配慮して道路を作っていく必要があります。先ほど町長がおっしゃった環状道路の整備はもちろんそうですが、その場合に高齢者に向いた環状道路、路線の設定まで変える必要はないと思いますが、例えば、認知が劣る人たちのことを考えて、交通安全の案内標識なら案内標識をもうちょっと高齢者にとって見やすい形のものにするとか、ちょっとした配慮がこれから要るだろうと思います。

 しかし、そうはいいましても、いつまでも運転できないということもあります。そこで、バスはよみがえるという話を少ししたいと思います。先ほど申し上げましたように、高齢になってきますと運転が困難になる、あるいは危なくなるというのは火を見るより明らかであります。高齢期特有の疾患に伴って運転中に動脈瘤破裂を起こされて即死、その状態で走って歩行者の方をはねたというような事例も23区内で1年間に20件ばかり起こっているというお話も聞いております。

 そういう意味で、社会全体として移動の安全といった問題を考えていく必要がある。その中で、かなり高齢になってきた場合、そしてご自身が安全運転にちょっと疑問符がつくなと思われたときにやめられるような移動手段が用意されている、そういう意味でバスは生き残れるのかなと考えます。そうなりますとかなり機能が低下した高齢者がバスの利用者にどんどん入ってくるということになりますので、通常のバスではだめで、高齢者の機能低下を考えたバス車両の改善、バス停の改善などをやる必要があると思います。
 


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