パネルディスカッション (ページ: 3)


■コミュニティベースでの送迎やボランティア活用の可能性

太田
 1つは、工夫の余地によって、バスはよみがえるということだったのですが、一方でバスはよみがえるべきかという議論もありそうです。というのは、バス以外にいろいろな対応策もあるので、今までと同じバスが出てきてもしょうがない、魅力的なバスにならないとしようがないという意味を含めて、具体的なご提案がございましたらお聞きしたいというのが1点です。

 それから、乗合的なものをここでバスと言ったとしても、先生方がおっしゃっているのは、乗合的な公共サービスを与える車両というふうに理解していただいた方がいいのかなという感じもしております。

 それとは別に、ソーシャルカー的なものですが、車を共同利用するという動きは、岐阜のこの辺の地域は30年前、日本で最初にソーシャルカーを実験しようと思って失敗したところです。この地域は相乗りをやるべきだということで1970年代に試みています。ソーシャルカーをご存知でない方がいらっしゃるかもしれないのですが、イギリスで、かなり過疎化が進んでいますから、その中でミニマムの公共交通を確保するにはどうしたらいいか。いろいろ工夫した中で、教会ベースのボランティアが車で送迎をお互いにする。そのときに気兼ねがないように、ある種の仲介的な組織があって実費を払っていただくという形で送迎をする。そんな例を日本の飛騨地域でも非常に苦労されて試みたんですが、当時は皆さんにそういう意識がなく、タクシー業界の強い反対があった等の事情から、結局実験すらできずに途中でおしまいになったということが30年前の話としてあります。

 このデータを見ていますと、既にそれがコミュニティレベル、隣近所レベルで、相乗りや送迎が始まっているということですね。これは住んでいる側としてはほかに何の手段もないから仕方なくやっているということでしょうが、こういうことを気兼ねなくやっていくことは、コミュニティをもう一度活性化するベースにもなるでしょう。また、先ほど家族に送っていただくと気兼ねがあってなかなか使えない、かといってバスとか乗合タクシーではサービスがとてもできないというところでは十分可能性があるように思います。その辺を含めて代替的な交通手段について先生方の方でさらにご意見がございましたらお願いします。
 

秋山
 乗用車の相乗りの調査を鷹巣町と神奈川県の城山町と2ヵ所でやりましたが、8割の人が家族に依存しているということがわかりました。鷹巣町の方はもうちょっと依存度が低いです。残りの2割はどういう人かというと、老人クラブで一緒の人とか、人間関係がつくられたところでやっている例がほとんどということです。したがって、全く赤の他人についてはいない。

 しかし、スペシャル・トランスポート・サービス、通称移送サービスと呼んでいますけれども、ここの領域では乗用車を使って送迎をやっている例もあちこちであります。実は道路運送法違反ですが、今は目こぼしの型になっていますけれども、この辺は運輸の方が折れるのか、それとも新しい法律がつくられるのか、そういう時期にもう差しかかっているはずではないかと見ています。道路運送法の80条は過去の話だった。

 もう一つの問題として、タクシー業界がそれをにらんで、タクシー業界対ボランティア、そういう構図を持っていますが、この構図がタクシー会社に正しい選択であるかどうかというのは少々疑問を感じています。意外にタクシーの市場を狭めていくのではないか。実は大量の需要があるのに、ボランティアでカバーする領域とタクシー会社がやる領域をうまく運輸省が采配できてない現実がそこにはあるだろう。したがって、ソーシャルカー・スキームの日本での発展は、これから運輸省がどういう判断をするかという部分と、タクシー会社などの労働組合の反応がどうなるのか、バス会社はどうかということにかなり規定されるかもしれませんが、両方がもう少し太っ腹で頑張れるとモビリティのレベルがぐんと上がるんじゃないかと感じております。
 

太田
そのほかに今のことに関連して何かございましたら、お願いします。
 
菅沼
私の方も、スポーツに行くとき、あるいは買い物に行くとき隣近所で乗り合わせてというのはあるのですが、事故の問題が出てくるわけです。私の方には、昔から結いと申しまして、10軒ほどでお互いに助け合う地域組織があります。  もう一つは、離れたところの独居老人あるいは身障者、特に私の方は先ほど申し上げました雪の問題があるものですから、冬、保健婦が回るのも大変でございますし、万が一の火災の問題もありますし、高齢者を冬だけ1ヵ所にまとめて共同生活をしてもらうという仕組みも検討しました。しかし、田舎は持ち家が多いものですから、企画はしましたが、「おれはおれの家に住む。共同生活するほどぼけておらない」ということで崩れてしまいました。  町村でもいろいろ検討して苦労はしておりますが、特に冬の問題です。相乗りもいいんですが、追突事故は冬が抜群に多いので、冬の対策が飛騨地域の一番の課題です。
 
太田
 それぞれの土地柄によって対応が違うということと思いました。私ももともとは長野県で、雪の多いところは、冬だけ山からおりてきて下で住まう、まさにマルチハビテーションをやっておりますね。

 特にこれからは単身世帯がどんどんふえて、それが単身高齢者世帯ということになると、地域全体の問題として取り組む必要性が出てくる。そうなると、交通の問題だけではなくて、生活全体を考えたコミュニティをいかにサポートしていくかという中で交通も入ってくるし、助け合いの中で、ソーシャルカーという気取ったことを言わなくても、自然とお互いに助け合っている中にうまく組み入れていかれる可能性もあります。そのときの注意事項についてはガイドライン的に公共が出すということが大切かもしれませんね。

 時間もせまってまいりました。今までのことを踏まえて、特に小都市と周辺地域を結ぶという視点で、交通の必要性を含めて、全体的な中山間地域の交通についてご意見がございましたらお願いします。
 

菅沼
 飛騨は中心都市へ行くための幹線は一本しかありませんので、複線の必要があると思います。ですから、農林道であろうとも複線化が必要です。災害が起きたときにその一本で孤立化するということでございますので、ネットワーク化とあわせて複線道路が重要になってくると思います。

 もう一つ言わせていただきますと、飛騨地域は観光地ですから、4、5月あるいは7、8月は人口が100倍も150倍にも増え、高山市へ行くのに3時間も4時間もかかる。複線道路がないので舗装のない農道を走るというような状況の中でございますから、「公共投資は地方には要らない、地方には道路が要らない」というのは大きな間違いでございます。高山を中心とした周辺市町村は観光客で迷惑をしておるところがありますから「地方の道路は要らない」と東京で言ってもらったのでは困る。これからおくれている観光地の道路整備が重要であると思っております。
 

太田
 交流の時代ということでありますけれども、そうはいっても道路をやたらにつくるわけにもいきませんので、ミニマムのものは必要ですが、むしろその使い方が問題です。要するに、情報案内とか、ITSといったナヒゲーションシステムが検討されていますが、同じような問題でしまなみ海道で話を聞いてみますと、観光用の道路と生活道路は区別する。交通規制と組み合わせてやることになりますが、案内なり誘導の中で生活道路としてのミニマムを確保する、それと主要な観光の流れとを区別するような工夫ですね。交通静穏化ということで今のところスピードダウンさせるようなことを都市の住宅地でやっていますが、新しい工夫が海外の集落レベルでは始まっているわけです。それと情報をうまく組み合わせるというやり方はまだまだ工夫の余地があるのではないかと思っております。
 
菅沼
 観光地は自家用車を規制する必要があると思います。もっと公共交通機関を利用する、バスがよみがえることもできると思います。観光地には複線道路、飛騨もいよいよ東海北陸、中部縦貫と高速時代を迎えておりますが、高速道路だけ整備できましてもだめで、それに通ずるアクセスもよく考えて企画していただくことが私どもの希望です。
 
太田
 白川地区は外部からのアクセスの問題と内部の移動の問題で大変なようですが、 パーク・アンド・ライド という仕組みなども必要でしょう。
 
■住民参加の土台づくりと人材育成

秋山
 小都市とその周辺ということで、住民参加のことだけお話しさせていただきたいと思います。そろそろ住民参加の土台をつくったらどうかというご提案です。

 鷹巣町では、月曜日から金曜日までばらばらに通院していた人を、全部住民が組み立てて1台に9人乗れるようにして、木曜日に町中心地まで行って病院に降ろしていく、それによって赤字になった場合には町が負担するということを提案しています。

 これができた理由は、90年から町長が福祉のまちづくりを提案し続けて、ワークショップをずっと重ねてきており、住民の土台をつくることの重要性を鷹巣町では示唆してくれています。

 米国では、生き生きしたコミュニティをつくることを交通を軸にしてやり始めています。その中ではさまざまなことをやっていますが、短期的な戦略と長期的な戦略を立てて、長期的な戦略に合うように短期的に交通広場をつくったり、あるいはバスをホップ・ステップ・ジャンプという幹線的バス、フィーダーサービス型バス、都市間レベルのバスをつくったりしています。

 ハワイではラピッド・トランジットという高速バスをつくりましたが、そこでは自動車とバスの時間比をどれだけ縮めるかという努力をしました。そのことによって毎週1回ずつバス事業者の人たちは住民と話し合って、どのルートをどのように運行したらよろしいかということを絶えず情報収集して、次々に変えていくような方向を模索しています。

 こういうことで、アメリカでは交通コミュニティをベースにかなり物を変えてきていまして、住民参加の小手先な技術だけではちょっと難しいと思いますので、できればワークショップのファシリテーターをぜひ育てていただきたい。ファシリテーターは1年では育たないと思いますので、1年ぐらい修業を積んで、住民参加とはこういうふうにやるんだという方法論を1年間ぐらいどこかで学んでほしいと私は思います。
 

太田
 ファシリテーターということが出ましたが、もう少し説明してください。
 
秋山
 ファシリテーターというのは、住民参加が起こり、話し合う場でリーダーシップをとって皆さんの意見を黒板に書いたり、次はこういう議論をしましょうということを計画立案していく、ある意味でコーディネートする人です。単なるコーディネーターとは違います。
 
太田
 まとめ役としてのノウハウがあるので、どこかで研修をしなければいけないですね。
 
秋山
 そう思います。
 
太田
 鈴木先生お願いします。
 
■広域連携の必要性と問題点負担も考慮した住民参加の必要性

鈴木
 小都市と周辺地域は、今、一番バス交通、公共交通の行方が問題になっている地域ですけれども、当然のことながら交通というのは、ほとんどの場合、一つの行政の中だけで完結するものではなく、どうしても中心になる都市と周辺地域という関係で一つの交通圏ができてくるわけです。これからは公共交通の維持、それをさらに発展する、またいろんな形の交通形態を導入して行くというような場合、人が動く圏域のレベルでものを考えていかないとうまい解決策は見つかっていかないだろうと思われます。

 そういう意味で広域連携が必要になってくるわけですが、単純に広域連携といっても非常に難しい面があります。先ほど規制緩和に際して期待されている地域協議会に近い形での広域連携の事例として、群馬県の多野・藤岡地域が発表されておりました。この場合、谷筋の交通圏にどういう公共交通体系をとるのがいいのかということを一生懸命話し合われた。結果として、今の急行バスと普通バスを組み合わせた輸送形態ができているわけです。しかしそれにしても温度差があるということが課題として出ておりました。

 それは当然のことであって、しかも温度差が出たときの一番の問題は、小都市と周辺地域で小都市の方の側がどうしても温度が低いというところに問題がある。財政力もあり、人口も多い小都市の部分の温度がどうしても低くなるのは、小都市にとっては交通手段の必要性が周辺地域に比べれば小さい、そのあたりに解決しなければならない問題があり、交通圏の中で協議していく必要があるだろうと思います。

 それから、住民自身がこれから何らかの形でかかわっていくという住民参加が必要なわけですが、今までとかく住民の声を聞くということになりますと、なかなか本音が出てこない。つまり、バスはあればあるにこしたことはない、本数は多いにこしたことはないわけで、本音と建前とをごっちゃにして聞いていますと、本当に必要な交通のサービスは多分出てこない。そこで本音の議論をする、本音の議論をした結果として、バスが必要である、あるいは必要でないという判断を住民がする場合もあると思います。青森県あたりでは住民自身が本音で議論して、この地域にはバスとしてのサービスは要らないということで廃止したケースもあります。

 いずれにしても、住民が本音で要るのか要らないのか、要るとしたらどのぐらいのサービスをどういう形で提供されるのが望ましいのか。必要であるならば、それに対して自分たちも何らかの責任を持つ覚悟がいるのではないか。青森県の例ですと、バスの必要性というのは、電話だとか、水道だとか、そういう生活の中で必要なものと同じであるとして、集落の中で基本料金というものを設定している例もあります。水道だとか電話は、使う使わないにかかわらず、それがインフラであることに対して基本料金を払っているわけで、それと同じ考え方でバスを維持できないかという視点から、基本料金を月幾らという形で設定して、集落ごとに対応しているわけです。

 そんなことも含めながら、住民自身も自分たちの問題として考え、そして責任を持つというような形へ誘導していく必要もあるだろうと思います。
 

太田
 今の話は後でいろいろとご意見を伺いたいと思います。それでは、溝端先生、お願いします。
 
■IT技術活用の可能性

溝端
 交通の問題というのは、必要とするデマンドと供給のマッチングの問題だと思います。まさにIT革命と申しますか、情報技術をうまく使って、公共交通をきめ細かく運用してあげる、それができる時代になってきたと思います。そういう意味で、限りなく自動車に近い公共交通の形がやれるのではないかと思いますが、そこは事業者さんのそれぞれの工夫だと思います。

 先ほど菅沼町長がおっしゃったように観光地に東京の人が来て、道路が混雑して困るという話もありますが、それが土・日に集中しているとすると、平日にお客さんが来るようにセッティングしてやればいいですね。高齢者の方は余暇時間を持っていますし、平日はほとんど休みですから、そこに来ていただければかなり混雑は解消します。「平日なら土・日に比べて安い」という情報さえ流せば変わる部分もあるのではないか。そのあたりの操作が簡単にできる時代を迎えているのではないか。電車の発車時刻もインターネットをみればすべてわかる時代になってきた。逆に言うと、情報技術をきちんと使える我々世代が高齢者になれば事情もまた変わってくるのではないか。そういう意味で、先ほど太田先生から交通の面でのITS(Intelligent Transport System)の話がありましたけれども、道路だけではなくて、生活のレベルまでIT技術(Information Technology)が入ってくる時代になったのかなということを申し上げて、私の意見とします。
 

■国・県の役割

太田
 これも重要なテーマですね。秋山先生もどこかで書かれていたと思いますが、STサービス、その他のコスト合理化の一つのポイントが、ITS的なものをいかに使うか。今まではかなり高度で高い技術だと思っていたのが、ほんとに身近になってきているわけです。そういうのはいろいろ工夫の余地があるし、改善の余地があろうかと思います。

 今までの議論で余り出てこなかったのは、小都市と周辺町村の温度差という問題です。それを支えようとするニーズ、熱意、あるいは資源も違う、財力も違うということに対してどうしたらいいのかという話です。

 この辺で県とか国の役割が一つあるかと思います。先ほどの財源との関係があると思いますが、各国で努力されているのは、ミニマムの交通サービスレベルのうち、国民一人一人に確保すべき最低限のレベルについては国で保障しましょう、それを上回るものについては個別の地域でサポートしましょう、それはそれぞれのところで負担してくださいという議論が進んでいるわけです。

 ただ、日本の場合、私の理解ではまだそういう議論になっておりませんし、今回国会に出るとされております交通バリアフリー法案も財源関係は余り入っていないかと思います。ですから、財源を事業者の内部補助だけでやれという議論で済む話かどうか。少なくとも海外の経験を見る限り不可能だということで、公共交通のミニマムのレベルにつきましては全体で負担する方向にあるようです。先ほど基本料金ということがございましたが、それは地域の基本料金という考え方もありますし、もう少し広域に国民の基本料金という形でやっていこうという考え方もあります。

 その前提は、それらのサービスをやるためには採算とは全然違う次元だということがまず一点です。けれども、そのためのサービスは一番効率的なものをすべきだということから、事業者に対して効率的な、そして魅力的なサービスをする努力義務をいかに負わせるかという事業契約の内容、仕方についてさまざまな工夫をした上で入札制、その他をやっているわけです。そういう種類のことを含めた激動期に日本はこれから入るのかなということかと思います。
 

秋山
 今、太田先生から交通バリアフリー法の話が出ましたが、交通バリアフリー法というのは、ターミナルとターミナルプラスその周辺、3つ目は車両というその3つの規定で、残念ながらスペシャル・トランスポート・サービスが対象から外れていると私は見ています。

 交通バリアフリー法はできたけれども、モビリティは上がらない。中山間地域には交通バリアフリー法はほとんど役に立たない。鉄道駅ですと5,000人以上、5メーター以上といったところを対象に2,500ヵ所ですか。そういう意味では交通モビリティ法ぐらいは地方に網をかぶせてもよろしいんじゃないか。交通バリアフリー法にSTサービスが入った場合、10年先は全然違ってくるはずです。アメリカでは ADA 、障害を持つアメリカ国民法の中に パラトランジット 、STサービスですが、ちゃんと位置づけられております。

 そういうことで、今回の交通バリアフリー法は、残念ながら地方のモビリティには逆風というふうに私は見ています。したがって、地方のモビリティの財源の大きなポイントになったはずなんだけれども、残念ながら消えてしまった、これをどう見るかというのは次の段階だろうと思います。
 

太田
 インフラは施設・車両、設備だけということですか。
 
秋山
 はい。行政あるいは政府の人たちの、バリアフリーをすれば人は動きやすくなるだろうという安直な考えがそのまま法律に出たのではないか。バリアフリーを幾らやってもモビリティは確保できない。したがって、アクセスの問題とモビリティという問題は一体として考えなければいけないのをアクセスしか考えていない、人が動き回るということをもうちょっと考えていただきたかったというところです。
 
太田
 過去形ではないので、ぜひご検討いただきたいですね。関連してございましたらお願いします。
 
菅沼
 私の方も今、広域連合を設立したところです。介護保険とか、ごみ問題を中心にいたしまして、これから中山間地の道路あるいはバスということにも出てくるわけでございます。介護保険一つ見ましても、中山間地は介護に行くのに時間がかかるのですが、全国一律ですからそういうものは見ていないわけです。全国一律でなしに、その地域の実態に合った規制緩和をしていただく、また広域連合だから国が支援する、そういう方法をとっていただきませんと中山間地の生き残りが難しいと思っています。
 
太田

 国の立場で今、進められている施策についても、考えることがあるのではないかというご指摘だったかと思います。時間が来ましたので、これから質疑応答に入りたいと思います。
 


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