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■世代に応じた交通手段の選択肢の必要性
太田 去年の12月でしょうか、全国レベルで65歳以上の高齢者の運転免許率が30%を超えたというのが非常に気になっていまして、千葉市で計算したところ、2007年には50%を超えるというのが大都市周辺の話です。ところが、今回の調査で非常にびっくりしましたのは、もう既に50%を超えて、車でしか動けない状況になっているということです。 それから、きょう発表の調査データでおもしろかったのは、75歳以上でも21%の方がふだん自分で運転しているという話、バスの乗降が困難な身体障害者の方の21%が自分で車を運転して動いておられるということです。ということは、これからの高齢化社会の中で、特に地方部では、車が一番頼りになっているのが現状ですが、それでは車だけでいいのかという選択肢の問題だろうと思います。 これは溝端先生が今おっしゃいましたけれども、私も、ライフサイクル・モビリティと言っていますが、生まれてから自立して、小学校・中学校で自分で動ける範囲、免許を持って動ける範囲、高齢化して今度は免許を手放さなければならなくなったとき、それぞれの段階で選択肢があるかどうかということが大変重要だと思います。社会的な選択が各世代に用意されている、そういう意味でバスのような公共交通が非常に大きな役割を持ってくるのではないか。特に車になれた方が、ある日突然、危険だからということで家族の人に運転をやめるよう言われた場合にやめられるのか、ではやめた後だれに運転してもらうのか、どうやって動いたらいいのかという点、これが一番大きな課題だろうと思います。 各地の高齢者の皆様からお聞きしますと、「家族がやってくれるのはいいが、気兼ねして本当に必要なときしかできない。遊びに行くのに運転してくれとは言えない」、「買い物も家族と一緒に行くときはいいけれども、もう少し長くいたいとは言えない」遠慮するということですね。それによって運動機能の低下とか社会参加が遠慮がちになりますから、今度は介護関係の費用がふえてしまうという、また違う因果関係が指摘されております。そういう意味では、車社会といえどもそれに代わるものを常に用意しておくということが大変重要になってくるだろうと思います。 バス事業が非常に難しくなっている時代に、代替手段をどこまで準備したらいいのか、あるいは別の言葉でいいますとミニマムのバス交通サービスとは何なのか。先ほど地域のニーズを探すということがございましたが、それをどこにするかというのが大きな課題ではないかと思います。
2巡目では、それぞれの課題に対しまして新たな交通施策あるいは対応策でどんなことをお感じになっているのか、菅沼町長からお願いします。
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菅沼 先ほど秋山先生から採算性という話が出ました。飛騨地域にとってみますと、先ほど申し上げましたように、石川県ほどの面積の中に人口は15万ほどしかいないわけですから、そんな中でバスの採算は全部赤字になる、どんなに計算しても黒字になりそうな状況にはないわけです。ですから、広域行政のバス運行あるいは民間委託して行政が支援する方法、あるいは、スクールバス、福祉バスを含めて民間へ委託し、補填する方法を検討しております。 もう一つ、今、それぞれの市町村でスクールバスは運行しなさい、隣の町へは乗せていけない、こういう規制があるわけです。こうした規制緩和も今後大事なことになりますが、規制緩和されれば福祉バスもスクールバスも一体になって地域の公共交通機関的な役割を果たすようになるのではなかろうかと思っております。
問題は、規制と財政負担です。広域的な運行をするものについては国が支援する。過疎化になっているところは財政事情も非常に悪いですから、広域的なものに対する国の支援をこれから考えていただきたいと思っております。
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太田 採算性という考え方が成り立つかという話がございましたが、秋山先生、どうでしょうか。 |
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■障害者・高齢者のモビリティ確保の3つのステップ−まずは部品育てから
秋山 障害者、高齢者のモビリティを具体的なレベルでどのように考えるかというお話をさせていただきたいと思いますが、3つのステップがありそうだと思っています。 さまざまな交通手段を部品として考えますと、部品をいかに育てるかというのが第1ステップ、その部品をどのように組み立てるかというのが2つ目のステップ、3つ目は、その部品を組み立てただけで赤字になる可能性があると思いますので、節約効果をいかに果たすか、そういうステップがあるだろうと思います。 必ずしもそのステップどおり進まないかもしれませんが、日本は現在の段階では部品を育てる時代だろう。というのは、米国ではバスとか公共交通的なものを考えると7種類ありますが、日本は3つぐらいしかない、こんな貧弱な国でいいのかということが言えます。 具体的に何を育てるかというと、 スペシャル・トランスポート・サービス (STS、STサービス)、高齢者、障害者専用の交通手段を育てないといけない。世の中でユニバーサルデザインと言われて、いくら鉄道やバスにリフトやエレベーターがついてもどうにもならない。そこまで行けない人が大量にいますので、こういう人たちに対してスペシャル・トランスポートをとにかく育てる。 2つ目は、 ショップ・モビリティ。 日本で今、ショップ・モビリティを導入していますが、スペシャル・トランスポートとセットメニューでない限りほとんど意味をなさないのではないかと私は理解しています。あるいは、ノンステップバスで高齢者がそこまで行ける状態にならない限り難しいだろう。 なぜこんなことを申し上げるかというと、重度ではなくて中程度の高齢者が外に出るためにスペシャル・トランスポートないしはノンステップバスで都心部まで行って、歩くのをバックアップするという意味でショップ・モビリティがあります。そういう組み立ての上でショップ・モビリティがありますので、ショップ・モビリティだけやっても、先ほどの映像でもございましたように、1台しかなくて、借り手がないという現象に陥りますので、この辺は組み立てだろうと思います。 3つ目は、溝端先生のおっしゃる自動車をどう使うかというお話です。マイカーからアワーカーにしていくというプロセスがあるだろう。これはイギリスでいうソーシャルカー・スキームというもので、乗用車の相乗りをして、病院だとか、さまざまな施設に行く、そのときのガソリン代を料金として徴収してもよろしいという法律をつくっています。日本では道路運送法違反になりますが、このあたりを突破していくというのが3つ目の話です。 4つ目は、電気自動車の実験を東大の鎌田先生の努力で鷹巣町でやりましたが、数年間我々はそこに張りついていろいろ実験をやってきました。地方は自動車からいきなりバスというのは余りにも落差がひど過ぎて、無理です。だったら、もうちょっとトリップが短い人のために、安全に、簡単なジョイスティックのレバー一つで運転できる電気自動車などを導入してもよろしいのではないかと思います。アメリカのパームデールだとか、10ヵ所ぐらいにこのような電気自動車が既に運行しております。ロサンゼルスから200キロぐらいあるところですが、私も見に行きました。アメリカは別格かもしれませんが、日本でもこういう実験がそろそろあってもよろしいのではないかというのが4点目です。 5点目は、多様なバスとタクシーのサービスを提供するということがあると思います。 以上のように部品を育てる時代なので、組み立てる段階になかなか行かない、組み立てるのはもうちょっと先に考えてもよろしいんじゃないか。 3つ目の節約効果をねらう点ですけれども、これはスクールバスで既に節約効果をねらっていますね。節約効果というより、赤字でどうしようもなく運行できないところをスクールバスと重ねて何とか運行できる、そういう状況があります。
もう一つ重要なことは、高齢者あるいは障害を持つ人の生活を見ますと、自宅に閉じこもっていたり、あるいは施設に入所している人が、ノンステップバスやスペシャル・トランスポートを運行すると、それを使うことによって施設に入らなくて済む、あるいは食事を宅配されていた人の37%が食事をつくることができたという事実があります。送迎するといいますか、バスを導入することによって、この人たちは外出できます、自分で買い物ができます。こういう自立促進と福祉予算を軽減する効果が交通にはあるのだという認識を持っていただきたい。ですから、バスは赤字かもしれないけれども、福祉予算から差し引きを考えると黒字になっているかもしれない、そういうことをご理解いただきたいというのが3点目の節約効果です。
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太田 多面的な発言がございましたが、採算ということで扱うべき現象ではないというのが大きなメッセージかと思います。もう一つは、工夫の余地がいろいろあって、まだ日本では十分試されていないのではないか。それは地元のニーズ、あるいは地元でどういう人たちがどういう形でやるか、今まで使われていない自分たちの車をみんなで使うとか、そういうことを含めてやるか、その辺の仕組みなり参加は十分可能性があるというご発言かと思います。
それでは鈴木さん、よろしくお願いします。
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■規制緩和を活用した地域の主体性向上とサービスの多様化
鈴木 先ほども申し上げましたが、公共交通の形を従来の枠の中だけで考えていると、どうしてもそういう問題が壁になってしまう。バスならばバス、タクシーならタクシーといった固定概念をまず変えていく必要がある、そこには秋山先生がおっしゃったいろんな形のサービスの展開の仕方があるはずです。 今、平成13年からの乗合バスの規制緩和を間近に控えている中で、ともするとその規制緩和によってバス事業者が赤字だから退出してもいい、自由に廃止ができるというイメージの部分だけがクローズアップされがちです。けれども、事業採算的に見たときに赤字の部分を切り捨てざるを得ないという中で退出の自由という一面はあるものの、規制緩和というのは、既存の事業者にとっても、地域の行政や住民にとっても、見方を変えればチャンスなんです。 それは、今までだったらできなかったサービスの形態をとれる可能性が出てくるということと、それから、それぞれの地域が地域に合わせて、主体的な交通網のつくり方ができる可能性がある。そういうことからして、規制緩和という今ちょうど直面していることを、逆にチャンスとして活用するような動きに変えていくことが必要ではないかと思います。 では、そういうチャンスをつかむのはどういう形でだれがやるのか、特にバスのような公共交通をだれがやっていくのかということですが、1つには、地域そのものが交通に対して当事者になる必要があると思います。先ほど申し上げましたことに重なりますが、事業者任せの形の中での維持ということになりますと、赤字になったら廃止という話にしかなっていかない、その地域の住民、自治体それぞれが交通に対して当事者になって考えていく必要があるだろうということが1つあります。 それから、福祉の問題あるいは教育の問題とあわせて交通をその地域の一つのアイテムとして位置づけていく必要があるだろう。位置づけることによって、この部分は福祉から手当てをする、あるいは教育から手当てしていくというような役割分担や、お金の出し方といったものも見えてくる可能性がある。そういう意味で、交通をきちんとその地域の中で位置づけていく必要があるだろうと思います。 そして、もちろんお金が潤沢に幾らでも出てくるわけではありませんから、いかにそれを効率的に維持運営していくのかというやり方を考えていく。そういう中で一つのやり方として、先ほどの事例紹介などにも出てきましたように、さまざまな機能の統合をしていくこと、あるいは路線バスの場合、朝と夕方動いて、日中、車両は車庫で遊んでいるケースが結構あるわけです。例えば、遊んでいる時間のバスを福祉バスとして活用するといった事例については、『バスはよみがえる』の中にも出させていただいています。 これも一概に運用すればいいという話ではなくて、その地域、地域が今どういう状況にあるのかを見ていく中で、これは活用できるというものが出てくるだろうと思います。それをいかに効率的に維持していくか、ということを工夫していくことが必要だと思います。
もう一つ、交通ニーズのボリュームをどのぐらいで考えていくのかということです。今まで法的に10人を超えるものはバス、9人以下はタクシー、乗用車の分野だったわけですが、実際にバスというのは定員20人を超えるぐらいの大きさからのもので運用されていたわけです。そうしますと、これから中山間地域の交通あるいはもう少しSTSに近い輸送で一番ニーズが高くなると思われる10人台、11人から19人ぐらいまでの間のボリュームをだれが、どういう組織で、どういう運営形態で確保していくのか、その辺を考えていく必要があると思います。
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太田 最後の方の話は、これからの規制緩和の中で、道路運送法の関係のものがどこまで改まっていくか、逆に地域の知恵の中からニーズやアイデアが出てきたときに対応する法律の方も直していく力になっていくかと思います。 続きまして溝端先生のお話を伺って、また議論させていただきたいと思います。 |
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■高齢者の交通安全教育の必要性
溝端 |