I 基本的な考え方
(1)航空運送の役割
 航空運送は、国民の時間価値の上昇に伴う高速交通ニーズの高まり等を背景として、高速性において特に利便性を有し、また、長距離輸送等に優位性を発揮するなどの特性を有しており、今日、国民生活において身近な移動手段として重要な役割を果たしている。
 また、来るべき21世紀においては、時間価値の一層の高まりの中で、経済、社会、文化等国民生活をとりまくあらゆる活動が国内各地域や諸外国との間の活発な交流を通じて更に展開していくことが予想される。このような時代において、航空運送は、人及び物の円滑な交流を支える最も有効な手段の一つとして、その重要性は今まで以上に増大していくものと考えられる。
 今後とも航空会社がこのような航空運送の役割を担っていくためには、規制緩和等の競争環境の整備により、航空会社間の競争を促進させ、もって「安全かつ低廉で利便性の高い航空輸送サービスの提供」を図ることが求められる。

(2)国内航空運送事業における規制緩和の経緯と需給調整規制の廃止
 国内航空運送事業の分野においては、これまで、利用者ニーズの多様化と航空産業の成長に合わせて、利用者利便の向上に資する競争環境の整備の観点に立った規制緩和が進められてきた。
 まず、参入規制については、昭和60年にいわゆる「45・47体制」が廃止された後、高需要路線の複数社化が「ダブル・トリプルトラック化基準」に基づいて進められてきたが、平成4年10月及び8年4月には同基準の緩和が行われ、一層の複数社化が推進されてきた。さらには、平成9年4月には、この基準が廃止され、弾力的な路線設定が可能となった。
 また、価格規制については、「営業政策的割引運賃設定の弾力化」の実施(平成7年5月)や、「幅運賃制度」の実施(平成8年5月)が行われてきた。
 これらの規制緩和により、例えば、利用者による航空会社の選択の幅が広がり、運賃の低廉化が進むなど、一定の成果が挙げられてきたと言える。
 しかしながら、来るべき21世紀に向けて、上記(1)で述べたような航空運送の役割を担っていくとともに、我が国航空会社の競争力を強化していくためには、国内航空運送事業における需給調整規制の廃止を通じた一層の規制緩和が求められる。

(3)需給調整規制の廃止後における国内航空運送の基本的な方向

(i) 市場原理と自己責任の原則の導入
 需給調整規制の廃止により、航空会社は可能な限り市場原理と自己責任の原則に従って事業の運営を行い、自由な競争を促進し、もって国内航空分野における経済活動の一層の効率化・活性化を図るとともに、サービスの向上・多様化、あるいは、より低廉な運賃・料金を実現して利用者利便の向上を図っていく必要がある。
 一方、競争原理に基づく市場においては、利用者の自由な選択の余地が増えると同時に、利用者の自己責任が求められることとなる。

(ii) 需給調整規制の廃止後における行政の役割
 需給調整規制の廃止後において、上記(i)で述べた市場原理と自己責任の原則の下で、行政は次に掲げるような役割を果たしていく必要がある。

(a)  競争市場のルール作り
 国内航空運送事業においては、公正かつ継続的な競争が行われるための環境を整備することが求められており、そのためのルール作りと適切な運用が必要である。
(b)  競争を可能とする基盤(インフラ)整備
 市場原理に基づき航空会社間でより一層の競争が行われるようにするためには、事業制度面における見直しの他、国内航空市場の大宗を占める大都市圏等における航空交通容量の制約の解消が必須である。そのため、これらの地域における空港整備及び航空保安システムの整備が必要である。
(c)  市場原理のみでは利用者利便が十分に確保できない航空輸送サービスについての配慮
 国内航空運送事業において市場原理に基づき競争を促進していく一方で、市場原理のみでは日常生活に不可欠な航空輸送サービスを確保できないことがある場合には、必要性とコストとを勘案した上で、一定の範囲内においてその確保に配慮することが必要である。

(iii) 安全な運航の確保
 航空運送は、いったん事故が起これば甚大な被害の発生の可能性があるため、需給調整規制の廃止後の競争状況の中でも、安全な運航の確保は、引き続き最も重要な課題である。
 そのため、航空会社においては、安全な運航の確保に必要な運航・整備の体制が確保されていること等が必要不可欠である。
 また、行政においても、引き続き航空会社による安全な運航が確保されるよう、あらゆる機会を通じて必要な措置を講じることが必要である。


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