III 政策的に維持すべき路線の維持の在り方 III 政策的に維持すべき路線の維持の在り方

  1 新たな支援による維持の必要性
 需給調整規制の廃止により、航空会社の路線への参入は原則自由となるが、一方、航空会社間の競争の激化の結果、航空会社内の内部補助の余地は狭くなるため、今後、様々な企業努力によっても採算性を確保できない路線については、航空会社は撤退を余儀なくされる可能性がある。しかしながら、これらの路線のうち、不採算ではあっても当該地域住民の日常生活に不可欠な路線については、引き続き維持を図る必要がある。
 一方、国による航空路線に対する公的支援としては、現在、離島路線に対する支援措置(航空機購入費補助(資本費補助)、空港使用料の軽減、固定資産税の軽減)があり、これら離島路線の維持に一定の役割を果たしてきたと言える。
 しかしながら、これらの路線については、現状においても厳しい事業運営を余儀なくされているものもあることから、需給調整規制の廃止後の状況を考慮すると、現行の支援措置のみでは、地域住民の日常生活に不可欠な路線の維持には必ずしも十分ではない可能性がある。したがって、その場合には、現行の支援措置に加え、新たな支援を行う必要があり、具体的には運航費補助を行うことが適当である。
 なお、航空運送の特性として、船舶のような代替交通機関が存在すること等を考慮すると、日常生活圏に必要な交通機関としての役割については、航空運送は、他の交通機関と比較して差異があると考えられる。このことを念頭に置いて支援制度を検討する必要がある。
  2 新たな支援を行う場合の役割分担及び実施主体
(1)国と地方公共団体の役割分担
 新たな支援を行う場合の国と地方公共団体の役割分担については、新たな支援の対象となる路線が地域住民にとって不可欠なものであること、及び地方分権が推進されている中で地方公共団体の主体性を尊重する観点に立つと、支援制度の設計は国が、具体的な路線の選定や維持等は地方公共団体が主体的に行うことが適当である。

(2)新たな支援の実施主体
 新たな支援を行う場合の実施主体としては、国及び地方公共団体の双方が行うことが適当である。すなわち、国はナショナルミニマムの確保の観点から、また、地方公共団体は地域住民の日常生活を確保する観点や地域振興等の観点から、連携して運航費補助を行うことが適当である。

  3 新たな支援を行う場合の対象となる路線の範囲
 国がナショナルミニマムの確保の観点から運航費補助を行う場合は、上記1に述べたような航空運送の特性を考慮すると、真に地域住民の日常生活に必要不可欠な路線のみを支援対象とすることが適当である。このことを前提に考えると、地理的・気象的制約の高い離島地域に係る路線のうち、一定の要件に該当するものに限定することが適当である。
 この場合、支援対象路線の選定に係る具体的な要件については、例えば、代替交通機関がないか、又はあっても一定時間以上の所要時間がかかることや、日常生活に必要不可欠な機能を有する都市までの路線であること等が考えられるが、これらの点については、制度設計の際に更に検討することが必要である。
 なお、「一定の要件に該当する離島路線に加え、離島と類似の条件を有する地域に係る路線も対象路線とすべき。」との意見については、離島以外の地域では、日常生活圏の交通網は航空以外の交通機関により概ね確保されていると考えられることから、制度設計の際に、政策的に維持すべき路線としての具体的な必要性や離島との条件の同一性について、厳密な検討が必要である。
  4 制度設計に当たって留意すべき事項
(1)新たな支援を行う場合の実施主体と運航主体との関係
 地方公共団体及び航空会社の主体性を確保する見地に立つと、新たな支援の対象となる路線の維持の主体となる地方公共団体と運航主体である航空会社が一定期間の運航について契約を結ぶなど、事前に運航条件等の内容が明確になるような方法をとることが適当である。

(2)新たな支援を行う場合の効率性の確保策

(i) 運航費補助は、資本費補助とは異なり、一般的に航空会社の経営効率化インセンティブを阻害するおそれがあると考えられるため、例えば、欠損額にかかわらず定額の補助金を交付するなどの航空会社の経営効率化インセンティブが働くような措置や、運航主体を決定するに当たり、複数の航空会社がその路線の運航を希望する場合には、地方公共団体が予定する水準の運送サービス等について最も低い補助金額で提供する意思を表明した航空会社を運航主体とするなどの効率的な航空会社を選定できるような措置を導入することが適当である。同時に、それらの路線を運航する航空会社によるコスト削減努力等に係る情報の公開等を行うことも必要である。

(ii) なお、新たな支援の対象となる路線について、運航を希望する航空会社が現れない場合もあり得ると考えられるため、例えば、地方公共団体による運航主体の設立や、外部資源の活用による運航も可能とするなど、それらの路線の維持を行うことができるようにすることが必要である。

(3)新たな支援の対象となる路線に係る参入・撤退及び運賃に係る制度についての方向性
 新たな支援を受ける路線については、路線の維持の観点から、他の航空会社による クリーム・スキミング の防止が必要ではないかなどの問題点があるが、これらについては、基本的には航空会社の路線設定の自由の原則を尊重しつつ、仮に、公的な支援により路線が維持されているという見地から、参入・撤退及び運賃について何らかの制約を設けざるを得ない場合であっても、最小限とする方向で検討することが必要である。

(4)現行の支援措置に係る取扱い等
 国と地方公共団体が連携して行う運航費補助の支援対象とはならない離島路線については、地域振興等の観点から必要とされる場合には、現行の支援措置の拡充等について検討することが適当ではないかと考えられる。
 また、地方公共団体が、地域振興等の観点に立ち、国と連携して行う運航費補助の対象とならない路線の中から、独自に路線を選定して単独の負担により維持することについては、もとよりこれを妨げるものではない。

  5 財源について
 国が運航費補助を行う場合の財源については、現在の国の財政状況にかんがみ、適切な負担の在り方を検討し、その確保に努めることが必要である。
 なお、地方公共団体が運航費補助等を行う場合の負担に当たっては、地方における財政状況等も考慮し、適切な地方財政措置が望まれる。



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