
国土交通白書 2024
第3節 産業の活性化
(1)建設産業を取り巻く現状と課題
建設産業は、社会資本の整備を支える不可欠の存在であり、都市再生や地方創生など、我が国の活力ある未来を築く上で大きな役割を果たすとともに、震災復興、防災・減災、老朽化対策など「地域の守り手」としても極めて重要な役割を担っている。一方、建設業の現場では担い手の高齢化が進んでおり、将来的な担い手の確保が課題となっており、処遇改善、働き方改革の推進、生産性向上等を推進するための取組みを進めていく必要がある。また、平成28年12月に成立した「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」及び同法に基づく基本計画に基づき、安全衛生経費が下請まで適切に支払われるような施策の検討を進めてきた検討会の提言注12を踏まえ、安全衛生対策項目の確認表及び安全衛生経費を内訳として明示するための標準見積書の作成・普及等の取組みを進める。
(2)建設産業の担い手確保・育成
建設産業は、多くの「人」で成り立つ産業である。建設業就業者数は近年、横ばいで推移しているが、今後、高齢者の大量離職が見込まれており、建設産業が地域の守り手として持続的に役割を果たしていくためには、令和6年度からの時間外労働規制の適用も踏まえた働き方改革を含め、引き続き、将来の担い手の確保・育成に取り組んでいくことが重要である。
このため、長時間労働の是正を図るとともに、賃金引き上げに向けた取組みや社会保険への加入徹底、建設キャリアアップシステムの活用等による処遇改善に加え、教育訓練の着実な実施による円滑な技能承継に取り組む。また、将来の労働力人口の減少を踏まえ、建設プロセス全体におけるICT活用、インフラ分野全体のDX、技術者制度の合理化、重層下請構造の改善、書類作成等の現場管理の効率化等による生産性の向上も図っていく。
また、現下の建設資材の高騰等を反映した請負代金や工期の設定が図られるよう、取組みを進めていく。
これらに加えて、令和5年9月には中央建設業審議会・社会資本整備審議会の基本問題小委員会において、請負契約の透明化による適切なリスク分担、賃金引き上げ、働き方改革の3つの観点から、持続可能な建設業に向けた制度のあり方について、中間とりまとめが策定された。これを受け、第213回通常国会に「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を提出した。さらに、令和6年4月からの建設業の時間外労働規制適用を踏まえ、規制の遵守を図るべく、同年3月に「工期に関する基準」を改定した。
こうした取組みを官民一体となって推進し、建設業への入職を促進し、誇りを持って仕事に打ち込めるような環境整備に取り組んでいく。
また、将来的に生産性向上や国内人材確保の取組みを行ってもなお不足すると考えられる労働力を、外国人材の受入れによって中長期的に確保する必要がある。現在、平成31年度より開始された在留資格「特定技能」(建設分野)による外国人材24,463人(令和5年12月末時点)が在留しており、その数は着実に増加している。引き続き外国人材の適正な受入れ環境の確保に取り組んでいくとともに、我が国が外国人材から「選ばれる国」であり続けるための施策の実施、円滑な受入れを促進することで建設業の担い手の確保を図る。
(3)建設キャリアアップシステムの推進
建設産業における中長期的な担い手の確保・育成を図るためには、技能労働者がキャリアパスや処遇について将来の見通しを持ちながら、働きがいや希望をもって働くことができる環境を構築するとともに、ダンピング受注が起こりにくい市場構造を構築し、業界全体として人材への投資や賃金設定が適切に行われる好循環を生み出すことが重要である。
このため、担い手の技能・経験の見える化や適正な能力評価を業界横断的に進めるための建設キャリアアップシステム(CCUS)について、建設産業の持続的な発展のための業界共通の制度インフラとして普及を促進するとともに、更なる処遇改善などのメリットを技能労働者が実感できる環境づくりを目指す。また、公共工事において率先してCCUSの活用を促す見地から、国や地方公共団体等が発注する工事において、CCUSの活用状況を評価するモデル工事の実施や総合評価落札方式における加点等の取組みの促進を図る。
加えて、技能労働者の処遇改善に資する観点から、技能労働者の技能と経験に応じた能力評価制度の活用を更に進めるとともに、能力評価制度と連動した専門工事業者の施工能力の見える化を推進する。
技能労働者の処遇改善を着実に進めるため、公共工事設計労務単価を基にCCUSレベル別の年収を試算・発表することでキャリアパスを見える化し、能力に応じた処遇を目指すとともに、能力評価を技能労働者の手当につなげるなどの個々の元請建設企業の取組みについて水平展開を行う。また、CCUSは、施工体制台帳の作成機能の活用等により、事務の効率化や書類削減などにも資するものであり、その普及を通じて、建設産業の生産性向上への寄与を図る。
(4)公正な競争基盤の確立
技術力・施工力・経営力に優れた建設業者が成長していく環境を整備する上で、建設業者の法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。
そのため、従前より下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル等の相談窓口である「建設業取引適正化センター」の設置、「建設業取引適正化推進期間」の取組み、また請負代金や工期などの契約内容に関する実地調査の実施等により、発注者・元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。
(5)建設企業の支援施策
①地域建設業経営強化融資制度
地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が工事請負代金債権を担保に融資事業者(事業協同組合等)から工事の出来高に応じて融資を受けることを可能とするものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化を推進している。本制度では、融資事業者が融資を行うにあたって金融機関から借り入れる転貸融資資金に対して債務保証を付すことにより、融資資金の確保と調達金利等の軽減を図っている。
②下請債権保全支援事業
下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社注13が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払保証又は買取を行う場合に、保証、買取時における下請建設企業等の保証料、買取料負担を軽減するとともに、保証債務履行時等のファクタリング会社の損失の一部を補償することにより、下請建設企業等の資金繰りの改善、連鎖倒産の防止を図る事業である。なお、本事業は令和5年度末を期限としていたが、6年度においても引き続き実施することとした。
③建設産業の担い手確保に向けた女性・若者の入職・定着の促進事業
他産業を上回る高齢化が進行する建設業にとって将来の担い手確保が喫緊の課題であり、多様な人材が入職し、かつ、働き続けられる業界とする取組みが必要である。官民で策定した令和6年度までの5か年計画である「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」の最終年を迎えるに当たり、計画を総括するとともに、次期5か年に向けて新たな行動計画策定に向けた検討を実施する。
(6)建設関連業の振興
社会資本整備・管理を行う上で、工事の上流に当たる測量や調査設計の品質確保が重要であることから、令和元年6月の改正で新たに、広く公共工事品確法の対象として位置付けられたところであり、建設業だけでなく、建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)も重要な役割が求められている。
国土交通省では、建設関連業全体の登録業者情報を毎月、その情報を基にした業種ごとの経営状況の分析を翌年度末に公表しており、また関連団体と協力し就職前の学生を対象に建設関連業の説明会を開催するなど、建設関連業の健全な発展と登録制度の有効な活用に努めている。
(7)建設機械の現状と建設生産技術の発展
我が国における主要建設機械の保有台数は、令和元年度で約103万台であり、建設機械の購入台数における業種別シェアは、建設機械器具賃貸業が約49%、建設業が約27%となっており、建設業とともに、建設機械器具賃貸業が欠かせないものとなっている。i-Constructionの取組みの一環として、ICT施工の普及促進を推進しており、3次元データを活用した建設機械の自動制御等により高精度かつ効率的な施工を実現するマシンコントロール/マシンガイダンス技術等の積極的な活用を図っている。ICT施工の普及促進のためには、ICT建設機械等の普及が必要である。
(8)建設工事における紛争処理
建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。令和4年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では30件(仲裁5件、調停22件、あっせん3件)、都道府県建設工事紛争審査会では71件(仲裁19件、調停41件、あっせん11件)である。
- 注12 建設工事における安全衛生経費の適切な支払いに向けて(提言)、令和4年6月27日第7回建設工事における安全衛生経費の確保に関する実務者検討会。
- 注13 他人が有する売掛債権の保証や債権の買取りを行い、その債権の回収を行う金融事業会社のこと。現在、銀行子会社系、前払保証会社系、リース会社系等8社のファクタリング会社が、当事業を運営している。