第四章 流通市場の整備及び活性化

 不動産の証券化を研究する本研究会において、我が国の望ましい証券市場のあり方を検討することは、その直接の任務ではない。しかしながら、議論の過程において、ここにいう「証券」が単に不動産を「動かす」ための手段ではなく、新たな証券という金融資産を提供することにあるとすれば、不動産を化体した証券は、流動性を保持すべきであり、そのためには現在の我が国の証券市場そのものが流動性が高く、かつ、マーケットとして相応の深さと広さとを持ったものであることが望ましいものと考えられる。

 いいかえれば、不動産の証券化商品が幅広く投資家に受け入れられるためには、いつでも当該商品が高い流動性を有すること、つまり、常に合理的な価格における現金化が可能であることが重要であるということである。例えば、成熟度の高い年金基金においても、不動産証券化商品の流動性が高くなれば、それへの投資が容易になるものと思われる。また、家計においても、程度の差はあるとしても、同様のことがいえるであろう。

(デット型証券とその市場)

 不動産の証券化の典型的なケースとしては、当該不動産をベースとして、出資分に相当する証券(いわゆるエクイティ型証券)と、債務分に相当する証券(いわゆるデット型証券)とが併せて発行されるものがある。この場合、当該証券の流通市場との関係は、両者を区分して考えることが適当であるように思われる。

 まず、デット型証券については、その債務履行が優先的に行われることやその性格が社債や国債などといった通常の債券と類似していることもあり、投資家にとってはそれなりの需要が現に存在するように思われるし、また、その潜在的需要も多いものと思われる。このデット型証券の流動性は、その商品が多く発行され、残高が積み上がるにつれて高まることが期待される

 また、我が国における債券市場が充実することによっても、不動産証券化商品の流動性が高まることが期待される。諸外国においても、不動産の証券化商品、特にデット型証券は、当該債券市場におけるベンチマーク()商品(その代表的な例は、その国の国債である)との比較において、その利回りやリスクが判断されることが多いことから、我が国における債券投資のベンチマーク商品たる国債市場の活性化や一層の整備は、我が国の債券市場の一層の活性化を促し、デット型証券も含めた不動産証券化商品の魅力をも高めることになろう。

(エクイティ型証券とその市場)

 エクイティ型証券に対しては、機関投資家も関心は高いものの、なお慎重であるように思われ、デット型証券に比べて、総じて需要はそれほど強くないのではないかと見られている。それは何よりも、エクイティ型証券は、不動産の価格変動リスクを被りやすいものであることに由来するものとされている。しかしながら、これらはいずれにしろ、配当、利回りの設定水準等のマーケットメカニズムを通じて、商品設計の段階で何らかの工夫を加え得る余地があるという見方もあり得よう。

 諸外国の例を見ると、例えば、年金基金の場合であっても、例えその割合が低くとも不動産そのものが運用対象とされていることから見ても、エクイティ型証券なるがゆえに需要が少ないという説明には説得力がなく、むしろ、運用資産全体のパフォーマンスを各種資産への合理的なポートフォリオを組むことによって、極限まで上げようとする努力の欠如にもよるものではないかとも思われる。

 いずれにしても、例えば、会社型投信の投資証券(*2)の証券取引所への上場等といった最近の努力は、ベンチマークの確立や情報開示にも資する動きであり、エクイティ型及びデット型双方の証券の需要の増大につながるものと思われる。

(社債、CP、国債と債券市場)

 広く我が国の証券市場そのものが高い流動性を持つものとなり、マーケットとして相応の深さと広さを持つものとなること、さらには金融市場がより成熟することは、証券に化体させた不動産証券化商品への需要を高めるものと思われる。その関係では、社債、CP等といった既存の証券の流動性の向上に向けた関係者の努力が期待されるところである。

 また、国債は多くの国で債券市場の中核をなすものであるが、我が国の場合、従来、ベンチマーク商品の少なさ、発行年限の偏り、商品の多様化の遅さ等が指摘されてきたところである。近年、発行年限の多様化(平成12年度には新たに15年変動利付債及び3年割引債が発行される)、入札スケジュールの事前公表、リオープン方式の導入等、市場の整備に向けた施策が講じられている。これらの国債市場の整備は、我が国の債券市場の活性化や進化を通じ、我が国債券市場全体の成熟をもたらすことになろう。

(一般投資家への配慮)

 従来、不動産証券化商品の組成者が機関投資家に重点を置いて、証券化商品を組成し販売してきたことから、高額な商品が中心となっていたが、今後、一般投資家の潜在的需要に十分応えるためには、商品に関する情報をより広く知らせたり、一般投資家をより意識した販売方法についての十分な配慮が必要となろう。




(*) Bench Mark。この場合、投資判断をする際の指標となるものを指す。
(*2) 会社型投資信託(特別法人である証券投資法人が有価証券を発行して資金を集め、これを主として有価証券に対する投資で運用し出資者に収益を分配する仕組み)において、証券投資法人が発行する有価証券のこと。

| 国土庁ホームページへ | 土地総合情報ライブラリへ | 目次へ | 次ページへ |