第六章 不動産鑑定評価のあり方

 不動産の鑑定評価は、適正な価格による取引、公共事業に関する用地補償費や課税などに係る公的な土地評価、企業会計における時価評価など、幅広い事項に関わるものであり、その質の充実は常に求められているところである。
 特に近年、不動産をとにかく保有することが有利と考えられた、地価の右肩上がりの時代が終焉するとともに、商業地において不動産を源泉とするキャッシュフローが重視されてきたこと等に伴い、より適正な不動産の経済価値の評価の重要性が増してきている。このような中で不動産の証券化という不動産の収益力を反映した金融資産を組成するプロセスにおいても、適正な不動産の経済価値の評価は必須のものとなっている。

 こうした流れを踏まえて、不動産証券化の過程においても、例えば、SPC法においてはSPCが証券を発行するに当たり不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえた価格調査が義務づけられており、今後、創設が見込まれる不動産投資信託(不動産ファンド)等においても同様の規定が設けられることが予定されている。

(不動産鑑定評価の改善と不動産鑑定士の資質の向上)

 こうした状況の下、不動産の鑑定評価については、次の二つのことが求められよう。
 その第一は、不動産鑑定評価手法の充実である。不動産に化体した証券が、他の金融資産、特に他の債券に伍していくためには、金融資産として既存の金融資産に比肩し得る広がりと確度をもった特性(スペック)を備えていなければならない。そのためには、例えば、個々の不動産の有する収益力の適正な評価、経済外的な要素を的確に反映した当該資産の適正な評価額の算定が求められる。このためには、事例の集積に基づいた地域別・用途別等ごとのキャップレート()の設定が精緻化されることも必要であろう。
 第二は、不動産鑑定士の資質の向上である。例え第一の条件を満たす手法が完成したとしても、それが個々の不動産鑑定士の鑑定評価を通じて、現実に実施されなければ十分とはいえない。対象とすべき不動産の件数は多く、かつ、その内容は様々であり、不動産鑑定士の数も7,979名(平成12年1月現在:不動産鑑定士補を含む)と少なくないが、その役割の重要性にも鑑み、不動産鑑定士の資質の向上のためには、研修の充実や一般の依頼者がオンラインで不動産鑑定士や不動産鑑定業者の研修履歴情報等を閲覧できるようなシステムの整備など、様々の工夫がなされるべきであろう。




(*) Capitalization Rateの略。不動産の生み出す純収益を還元してその不動産の経済価値を求める場合に採用される利回りのことで、「還元利回り」と訳される。

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