第九章 まとめ


最近における不動産の証券化の進展は、以下のような十分な理由があるものであり、それなりに好ましいものと考えられる。

(1)  個人、機関投資家にとって、新たな証券は他の資産とは異なる新たな特性をもった資産の出現を意味し、その投資対象資産の拡大を通じて、自らの保有する金融資産のパフォーマンスの向上やリスクの分散に資する。

(2)  不動産の保有者にとっては、証券化は、当該不動産を分離し、新たな資金調達手段を提供するものであり、結果的にROAやROEの向上をもたらす可能性があるほか、新たな低コストの資金調達を可能にするなど、その財務体質の改善等に資する。

(3)  不動産の証券化に伴う各分野での努力、特に、新しい金融資産創出への努力は、関連事業のイノヴェーションを促進し、新たな雇用機会を創出するほか、それらの活動を通じて、我が国の経済構造の改善に資する。

(4)  結果的に、我が国経済全体を見ると、貯蓄者がより高い利回りを享受し、資金の調達者がより低いコストで円滑に資金を調達し得ることになり、それだけ我が国全体の経済の効率化、国民の福祉の向上をもたらす。

(5) またそれは、1300兆円を超える世界最大の我が国の貯蓄が、我が国の国民のために国内でより有効に活用されることにもつながる。



 しかしながら、不動産の証券化については、その進展が進めば、なおその流れを促進させる効果を持つものがあるように思われる。それらのうち、特に目立つものを列挙すれば、次のとおりである。

(1)  年金基金等、機関投資家による運用資金の投資収益の極大化に向けた一層の努力が必要である。企業年金の運用制限が法令上撤廃されていることからも、運用責任者の選定、現実の運用ルールなどについて、さらに、利回りの極大化に一層努力することが望ましい。

(2)  我が国の証券市場の一層の整備が進めば、それだけ不動産証券化商品の需要も高まるものと思われる。その中でも、各種債券の中で最大のシェア(証券の発行残高の約56%)を持ち、今や発行残高約300兆円(99年末)となった国債発行や流通のあり方が証券市場に与える効果は大なるものがある。今後とも、その発行証券の多様化等による商品性のさらなる向上や各種制度の国際標準化など、発行・流通市場の整備が当局及び関係業界で進められれば、それは証券市場の一層の整備に有効であり、ひいては、不動産証券化商品の円滑な流通、消化にも資するものと考えられる。

(3)  不動産に関する各種情報の開示や公開は、一層進めるべきであろう。そのことは、証券化商品に対して投資する投資家の保護に役立つのみならず、不動産の証券化ビジネスへの参入の機会を増やし、我が国全体の効率的経済の実現にも資することになる。

(4)  不動産の証券化は、政府の不動産に関する政策、特に土地政策と深い関わりがある。土地は、一方では経済財として景気対策、産業振興、経済政策の対象とされ、公共財として環境整備、防災、都市計画、再開発等、外部経済をもたらすものとして扱われてきている。経済情勢、社会環境、国民の価値観が、海外の影響もあり、変動常ならない状況のもとで容易ではないが、それだけに中長期的視野に立った確固たる土地政策が遂行されることは、その証券化にも資することになると考えられる。



 他方、このような状況の下で、上記のような政策の進展があり、これを促進するための積極的施策が進められるにしても、この不動産証券化の進展の度合やそれの社会経済に与える影響を過大評価することは禁物であろう。それは、何よりも証券化の素材となる不動産やその関連資産は、その地代や賃料等コマーシャルベースになるための各種の要件を兼ね備えた一定のものに限られるはずだからである。ただ、それらの動きが、不動産に対する考え方を、所有重視から利用重視へ変えていく側面は軽視し得ないという見方もある。


 以上のような分析を踏まえ、当面、以下のような諸政策を提言したい。

(1)  不動産情報の開示と公開の促進
  • 不動産の取引価格や賃料について、個々のプライバシーという点にも配慮しつつ、その取引相手、所有目的等をも勘案しつつも、可能な限り情報の開示及び公開を進めること。
  • また、各種の不動産関係のインデックスの整備に官民ともに取り組むこと。

(2)  証券市場の一層の整備
  • 不動産を化体した証券が、投資家の最適ポートフォリオの組成に資することを確実ならしめるため、証券市場、さらには金融市場の一層の改善に努めること。
  • 特に、社債及びCPの流動性の改善に努めるとともに、証券市場の中核である国債について、商品性の向上等、発行・流通市場のさらなる整備に向けた方策の推進に努めること。

(3)  不動産鑑定評価手法の充実
  • 個々の不動産の有する収益力などを的確に価格に反映できるよう、不動産鑑定評価手法の充実及び不動産鑑定士の資質の向上を図ること。
  • 研修の充実や不動産鑑定士等の研修履歴情報等を閲覧できるようなシステムの整備など、様々の工夫がなされること。

(4)  投資家・商品提供者双方の積極性
  • 環境が十分整備されていないことも事実であるが、不動産の証券化の進展が現状程度にとどまっているのは、投資家、特に各種資金の運用者、不動産等原資産の保有者、商品の組成者、これを仲介する者など関係者に、現在提供されている機会を限度一杯活用し、これに積極的に取り組もうとする意気込みがなお不十分であることも一因であろう。関係者の新しい事業に対する進取の気性が期待される。




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